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本編
79話 兄貴達 その1
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翌朝、
「んー・・・美味しー!!」
ミナの明るい声が食堂を揺るがし、確かにと目を剥くオリビア、レインもこれはいいなとスプーンを咥えて笑顔を浮かべており、
「だろ?」
ニヤーと微笑むタロウである、
「うん、甘くてしょっぱくて良い感じー」
「だろー」
「もっとー、もっとかけたいー」
ミナが壺に手を伸ばすも、
「こらっ、少しずつだ、他のも試してみろ」
タロウがメッと視線で叱りつける、
「えー、だってー、タロウが言ったー、これが甘くて美味しいってー」
ブーと叫ぶミナ、
「まぁ、そうだがさ、他のも食ってみろ、大人の味だぞ?」
「大人の味?」
キョトンと首を傾げるミナである、
「うむ、確かにな、大人の味だ」
「ですね、カブの皮もお魚の粉末も美味しいです」
レインがニヤリと微笑み、オリビアが大きく頷く、全くもってタロウの言う通り、ミナが試した玉子のそれよりも味が深くそして大変に美味であった、
「・・・なら・・・これー」
ミナはムッとレインを睨みつつ別の壺に手を伸ばす、
「ん、ちょっとあれだ、味付けが濃いからな、少しでいいぞ」
「分かったー」
タロウの忠告に渋々と頷きつつ壺に刺さったスプーンを手にするミナ、擦りきり一杯程度が丁度良いぞとのタロウの助言に従い、慣れないながらも器用にスプーンを動かして適量を麦粥に降りかける、
「あっ、使ってみた?」
そこへヒョイとソフィアも厨房から出てくる、
「はい、これ大変に美味しいです」
サッと顔を上げるオリビア、
「そうなの?」
「そうなのだよー」
ニマーと微笑むタロウ、壺の中身はふりかけである、昨日作ったそれをしっかり乾燥させた壺に入れ、明日の朝食で食べようと今にも手を出したそうに見つめる生徒達を宥め何とか死守して一晩越している、そしてようやく試してみれば、これが思った以上に上出来であった、ミナがもっとと叫ぶ程に干し果物を入れた玉子のそれは甘く香りも良い、カブの皮を使ったそれは魚醤の旨味を上手い事引き出しており、焼き魚の粉末を素にしたそれは魚の旨味が感じられ、かつ海塩と唐辛子のお陰かすっきりした後味となっている、そして何より麦粥に合っている、特にソフィアのそれは薄味である為ふりかけの風味と塩っけが絶妙な塩梅で麦本来の旨味まで引き出しているように感じられた、
「そっ、それは良かったわね」
しかし未だ懐疑的なソフィアは素っ気なかった、スッと腰を下ろし、さてサッサと済ませようかとスプーンを手にする、
「ほれ、試してみ?」
「ためしてみー」
タロウがニヤリと微笑む、ミナもウフフとソフィアを見上げ、
「あのねー、タマゴー、タマゴのが美味しー、甘くてしょっぱいのー、お魚のは今一つー」
正直な感想を叫ぶミナ、
「ありゃ、駄目だったか?」
「ダメじゃないけどー、今一つー」
「そっか・・・まぁ、甘くないしな」
「そなのー、甘くないのー、甘いの好きー」
どこまでも正直で素直なミナに、そりゃそうかとタロウは微笑み、ソフィアもこれは試してみないとかしらと首を傾げ、
「えっと、どれがどれ?」
「これー、これがミナのおすすめー」
ミナがズイッと壺の一つを押し出す、
「ん、じゃ、それからね」
ソフィアは一度壺の中を確認してから、スプーンに半分ほど掬って湯気の立つ麦粥に降りかける、ミナがジーっとその様子を見つめ、タロウとオリビア、レインもさてどうなるかとソフィアの反応を待つ、そして、
「あら・・・ホントだ・・・美味しい・・・」
思わず呟くソフィア、
「だろー」
「だろー」
タロウがニヤリと微笑み、それを真似るミナである、
「うん・・・これは悔しいけど美味しいわ・・・へー・・・あっ、そっか・・・こんな簡単なんでいいんだ・・・」
ソフィアは目から鱗と関心してしまう、オリビアもうんうんと大きく頷き、レインも確かにと難しい顔で頷かざるを得ないようで、
「えっ、じゃ、そっちは?」
と別の壺に手を伸ばすソフィア、どうぞどうぞとタロウが押しやるも、
「ブー、そっちは今一つー」
ミナがギャーと叫びだす、
「そりゃ君ね、こっちは大人の味だからさ」
「それは聞いたー」
「だろ?だから、大人が好きな味なの」
「えー・・・甘いのがいいー、甘いのー」
「何でも甘くすればいいってもんじゃないんだよ」
「えー、でもー、これちょっとしょっぱいよー」
「だから、その塩梅が大事」
「ブー、なんでもいいー」
ガガッと麦粥を頬張るミナ、すると、
「あら・・・こっちも良いわね」
ソフィアが再び素直に褒めた、
「ですね、大人の味というのは言いえて妙かと思います」
オリビアも美味しそうに麦粥をパクつく、
「まったくだわ・・・なんだろ、魚醤の味?」
「はい、それとカブの皮の食感が良いですよね食が進みます」
「確かに・・・へー・・・もう、なによ、さっさと作りなさいよ」
ムッとタロウを睨むソフィア、まったくだとオリビアもレインもこれには同意のようである、
「えっ・・・だってさ、なんとなく思い出しただけ?」
キョトンと返すタロウ、実の所タロウはふりかけをあまり好まなかった、子供の頃にはよく食べた記憶があるが、大人になり一人暮らしをするようになってからはまるで興味が無かったりした、しかし餅をつき、あんこを楽しみ、パンを焼くに至り、子供の頃の味の記憶が呼び覚まされ、そこで浮かんできたのがこのふりかけである、そしてその要点は難しくない、ようは材料を細切れにして濃いめの味付けをする、それらをある程度乾燥させれば立派なふりかけなのである、問題はその味であったり保存性であった、味に関してはどうやら満足できるレベルであり、保存性も悪くないと思う、しかし、恐らくであるが今日明日中には食べ尽くされるであろう、寮の人数を考えればもう少し作ってもよかったかなと思うが、それはまた別に考えるべき事で、ただ一つだけ、惜しむらくはふりかけの定番とも言える海苔や海藻類、鰹節が入っていない事であった、海の魚にしろ湖の魚にしろ干し魚は手に入るが、海藻類を食す習慣の無い王国にあって、それらを手に入れるのは難しい、しかしつい先日漬物としてクロノスが持ち込んだ海藻の茎の酢漬けはあっという間に食べ尽くされていた、寒天の事もある、北ヘルデルの漁村であれば海藻食の文化もありそうで、鰹節に至っては望むべくも無い、あれは実に複雑な工程を経る芸術作品とさえ思える食材で、まずもって鰹が獲れるのかどうかも分らなかった、そう簡単には再現できないであろうなと少しばかり残念に思うタロウである、
「・・・まぁ、いいけど・・・」
ムスッとタロウを睨みつつヒョイヒョイとスプーンを動かすソフィア、目玉焼きにも焼いた干し肉にも漬物にも手を伸ばさなくても大変に美味しいと感じる、つまりおかずに頼らなくても麦粥だけで満足できそうで、もしかしたら麦粥とこれがあれば朝食はそれでいいかもと思うも、それはそれで寂しいのかなと思い直した、手抜きと言われても嫌であるし、折角王家の援助を受けて途轍もない贅沢が出来る環境となっている、サボりは駄目かしらと自分に言い聞かせてみた、
「でも・・・」
しかしオリビアがウーンと首を捻る、
「どうかした?」
タロウが問いかける、
「はい、胡麻・・・ですね、ユスティーナ様にはちょっと・・・」
「あっ、そうね」
「はい、それ以外はもう最高だと思います、売れます、うん」
どうしても商売に繋げてしまうオリビアである、逞しいなーとタロウは微笑みつつ、
「それもあったねー」
と首を傾げた、三つのふりかけ、その全てに炒った胡麻やら磨り潰した胡麻やらを入れている、やはりそれは栄養価の面でも味の面でも重要で、ユスティーナの件はすっかり失念していた、第一あくまで寮内で消費する目的で調理している、それと9割方趣味のつもりであった、不評であったら責任を持って始末しないといけないなと覚悟していたりもする、
「確かに・・・でも、あれじゃない?無くても・・・いいといえば良さそうよね」
「ですか?」
「うん、ほら、味を決めてるのは魚醤と塩でしょ、海塩か・・・それと焼き魚に、こっちはほら甘さは干し果物のだし、まぁ、ほら、そこはね、ユスティーナ様であれば調理方法を教えて料理人さんが対応すればいいのだし、だからそれほど考え込む必要は無いわよ、取り合えず美味しいものを作らないとでしょ、商売的には」
ソフィアは実にあっさりとしたものである、ユスティーナの胡麻アレルギーを見抜き、さらには領主邸から胡麻を駆逐した張本人で、その本人があっけらかんと言うものだからオリビアとしてはそれもそうかと頷かざるを得ない、
「そう・・・ですね、はい、ユスティーナ様もレアン様もちゃんとお話すれば分かって頂けますし、胡麻もモニケンダムの大事な名物ですし」
「そうよ、あの人達はしっかりしてるから」
「はい、では、その点はそのように」
ニコリと微笑むオリビア、やっぱりオリビアさんも大人だなーとタロウは思う、エレインが頼りにする筈で、テラからの信頼も厚いように見えた、他の生徒達も一目置いている、この若さでこれだと将来どうなるんだろうかと考えてしまい、逆に怖いなと思うタロウ、厳しい教育ママさんになるのかなー等とボヘーっと考えていると、
「お代わりー」
ミナが麦粥を食べ尽くして大声を上げた、
「あら・・・珍しいわね」
「うん、これ美味しい、タロウがねー、入れ過ぎたら駄目って言ったー、だから、もっと食べたい」
「あー・・・大丈夫か?」
タロウは苦笑してしまう、どうやら玉子のふりかけを食べる為のお代わりであるらしい、そこまでするかと目を細めるも、
「大丈夫、全然平気ー、もっとー」
「はいはい、朝ならね、いっぱい食べていいからね」
ヤレヤレと腰を上げるソフィア、しかしそこでふと、ミナがこれなのである、他の生徒達もより食が進むのではないかと不安感を覚えた、まぁ、そうなったらそうなったで早い者勝ちでいいかしらとミナのトレーを受け取って厨房へ向かうソフィア、ムフフーと嬉しそうに鼻息を荒くするミナである、
「まったく・・・がめつい奴め」
「えーだってー、美味しいからいいのー」
「確かに美味しいですね・・・私も貰おうかな・・・」
残り少なくなった麦粥を見つめオリビアも呟いてしまう、
「ありゃ・・・そんなに美味しかった?」
「はい、ただの麦粥が御馳走になりました、素晴らしいと思います、このフリカケ?ですか?」
「御馳走は言い過ぎだけど・・・でも、うん、まぁ、ほら、これもね、色んな食材で作れるから、それこそ干し肉とか、カブの葉っぱとかでも作れるよ」
「あっ・・・ですよね、細かくして味を付けるだけですもんね・・・」
「そっ、基本はそれだけ、ただ焼いた玉子を細かくするのは少しコツがいるかな」
「はい、それは分かります、濾したりなんだりやってましたよね」
「そっ、他には・・・あれだ、岩塩とかもね、結構味が違うでしょ、これは海塩を使っているけど、その辺のね調味料に拘る事も出来るし、まぁ、これも色々やってみるといいよ、どうせ商会で作るんでしょ?美味しいのが出来たら食べさせてよ」
ニコニコと微笑み麦粥を口に運ぶタロウ、ありがとうございますとしか言えないオリビアである、どうにもこの夫婦は商売っ気が無いというか、自分達の技術や知識を明け透けにして放り投げてしまう、本来であれば商売にしたら幾らか寄越せというのが当然で、それはエレインもテラもオリビア自身もそういうものだと認識している、それが夫婦揃ってこれなのだ、逆にこっちが困ってしまう、いつか恩返しをしなければとその重圧が感じられ、その恩返しがどれだけのものになるのかまるで想像できず困惑するしかない、
「甘いのー、甘いの作ってー」
ミナがギャーと叫び、
「干し肉が良さそうだ、食べてみたい」
レインもニヤリと口を出す、
「あっ、それもいいー」
「じゃろー」
キャーキャーと盛り上がる二人、オリビアも確かに美味しそうだと微笑んでしまう、そこへ、
「ハイハイ、少なめにしたからね、残さないようにね」
ソフィアがトレーを手にして戻って来た、ハーイと素直に受け取るミナ、
「あっ、ソフィアさん、まだありますか?」
オリビアが思わず腰を上げてしまう、
「あら・・・オリビアさんも?」
「はい、なんか・・・なんかです・・・」
恥ずかしそうに微笑むオリビア、
「もう・・・あれね、明日から少し大目に用意しようかしら・・・」
ソフィアが手を差し出すも、
「あっ、自分でやります、ソフィアさんはゆっくり朝食を」
トレーを手にして厨房に入るオリビア、ソフィアはそうねと腰を下ろす、そして、
「あっ、昨日のあれどうするの?あれでいいの?」
とタロウに確認する、
「ん?あぁどんなもん?」
「しっかり固まってるけど・・・まぁいっか、生徒達が揃ってから?」
「それでいいよ、俺はほら、会議だからだけど、喧嘩しないようにね」
ムフッと微笑むタロウ、喧嘩?とソフィアは眉を顰め、確かにあの量だと少し足りないかもなと首を傾げつつ食事を再開するのであった。
「んー・・・美味しー!!」
ミナの明るい声が食堂を揺るがし、確かにと目を剥くオリビア、レインもこれはいいなとスプーンを咥えて笑顔を浮かべており、
「だろ?」
ニヤーと微笑むタロウである、
「うん、甘くてしょっぱくて良い感じー」
「だろー」
「もっとー、もっとかけたいー」
ミナが壺に手を伸ばすも、
「こらっ、少しずつだ、他のも試してみろ」
タロウがメッと視線で叱りつける、
「えー、だってー、タロウが言ったー、これが甘くて美味しいってー」
ブーと叫ぶミナ、
「まぁ、そうだがさ、他のも食ってみろ、大人の味だぞ?」
「大人の味?」
キョトンと首を傾げるミナである、
「うむ、確かにな、大人の味だ」
「ですね、カブの皮もお魚の粉末も美味しいです」
レインがニヤリと微笑み、オリビアが大きく頷く、全くもってタロウの言う通り、ミナが試した玉子のそれよりも味が深くそして大変に美味であった、
「・・・なら・・・これー」
ミナはムッとレインを睨みつつ別の壺に手を伸ばす、
「ん、ちょっとあれだ、味付けが濃いからな、少しでいいぞ」
「分かったー」
タロウの忠告に渋々と頷きつつ壺に刺さったスプーンを手にするミナ、擦りきり一杯程度が丁度良いぞとのタロウの助言に従い、慣れないながらも器用にスプーンを動かして適量を麦粥に降りかける、
「あっ、使ってみた?」
そこへヒョイとソフィアも厨房から出てくる、
「はい、これ大変に美味しいです」
サッと顔を上げるオリビア、
「そうなの?」
「そうなのだよー」
ニマーと微笑むタロウ、壺の中身はふりかけである、昨日作ったそれをしっかり乾燥させた壺に入れ、明日の朝食で食べようと今にも手を出したそうに見つめる生徒達を宥め何とか死守して一晩越している、そしてようやく試してみれば、これが思った以上に上出来であった、ミナがもっとと叫ぶ程に干し果物を入れた玉子のそれは甘く香りも良い、カブの皮を使ったそれは魚醤の旨味を上手い事引き出しており、焼き魚の粉末を素にしたそれは魚の旨味が感じられ、かつ海塩と唐辛子のお陰かすっきりした後味となっている、そして何より麦粥に合っている、特にソフィアのそれは薄味である為ふりかけの風味と塩っけが絶妙な塩梅で麦本来の旨味まで引き出しているように感じられた、
「そっ、それは良かったわね」
しかし未だ懐疑的なソフィアは素っ気なかった、スッと腰を下ろし、さてサッサと済ませようかとスプーンを手にする、
「ほれ、試してみ?」
「ためしてみー」
タロウがニヤリと微笑む、ミナもウフフとソフィアを見上げ、
「あのねー、タマゴー、タマゴのが美味しー、甘くてしょっぱいのー、お魚のは今一つー」
正直な感想を叫ぶミナ、
「ありゃ、駄目だったか?」
「ダメじゃないけどー、今一つー」
「そっか・・・まぁ、甘くないしな」
「そなのー、甘くないのー、甘いの好きー」
どこまでも正直で素直なミナに、そりゃそうかとタロウは微笑み、ソフィアもこれは試してみないとかしらと首を傾げ、
「えっと、どれがどれ?」
「これー、これがミナのおすすめー」
ミナがズイッと壺の一つを押し出す、
「ん、じゃ、それからね」
ソフィアは一度壺の中を確認してから、スプーンに半分ほど掬って湯気の立つ麦粥に降りかける、ミナがジーっとその様子を見つめ、タロウとオリビア、レインもさてどうなるかとソフィアの反応を待つ、そして、
「あら・・・ホントだ・・・美味しい・・・」
思わず呟くソフィア、
「だろー」
「だろー」
タロウがニヤリと微笑み、それを真似るミナである、
「うん・・・これは悔しいけど美味しいわ・・・へー・・・あっ、そっか・・・こんな簡単なんでいいんだ・・・」
ソフィアは目から鱗と関心してしまう、オリビアもうんうんと大きく頷き、レインも確かにと難しい顔で頷かざるを得ないようで、
「えっ、じゃ、そっちは?」
と別の壺に手を伸ばすソフィア、どうぞどうぞとタロウが押しやるも、
「ブー、そっちは今一つー」
ミナがギャーと叫びだす、
「そりゃ君ね、こっちは大人の味だからさ」
「それは聞いたー」
「だろ?だから、大人が好きな味なの」
「えー・・・甘いのがいいー、甘いのー」
「何でも甘くすればいいってもんじゃないんだよ」
「えー、でもー、これちょっとしょっぱいよー」
「だから、その塩梅が大事」
「ブー、なんでもいいー」
ガガッと麦粥を頬張るミナ、すると、
「あら・・・こっちも良いわね」
ソフィアが再び素直に褒めた、
「ですね、大人の味というのは言いえて妙かと思います」
オリビアも美味しそうに麦粥をパクつく、
「まったくだわ・・・なんだろ、魚醤の味?」
「はい、それとカブの皮の食感が良いですよね食が進みます」
「確かに・・・へー・・・もう、なによ、さっさと作りなさいよ」
ムッとタロウを睨むソフィア、まったくだとオリビアもレインもこれには同意のようである、
「えっ・・・だってさ、なんとなく思い出しただけ?」
キョトンと返すタロウ、実の所タロウはふりかけをあまり好まなかった、子供の頃にはよく食べた記憶があるが、大人になり一人暮らしをするようになってからはまるで興味が無かったりした、しかし餅をつき、あんこを楽しみ、パンを焼くに至り、子供の頃の味の記憶が呼び覚まされ、そこで浮かんできたのがこのふりかけである、そしてその要点は難しくない、ようは材料を細切れにして濃いめの味付けをする、それらをある程度乾燥させれば立派なふりかけなのである、問題はその味であったり保存性であった、味に関してはどうやら満足できるレベルであり、保存性も悪くないと思う、しかし、恐らくであるが今日明日中には食べ尽くされるであろう、寮の人数を考えればもう少し作ってもよかったかなと思うが、それはまた別に考えるべき事で、ただ一つだけ、惜しむらくはふりかけの定番とも言える海苔や海藻類、鰹節が入っていない事であった、海の魚にしろ湖の魚にしろ干し魚は手に入るが、海藻類を食す習慣の無い王国にあって、それらを手に入れるのは難しい、しかしつい先日漬物としてクロノスが持ち込んだ海藻の茎の酢漬けはあっという間に食べ尽くされていた、寒天の事もある、北ヘルデルの漁村であれば海藻食の文化もありそうで、鰹節に至っては望むべくも無い、あれは実に複雑な工程を経る芸術作品とさえ思える食材で、まずもって鰹が獲れるのかどうかも分らなかった、そう簡単には再現できないであろうなと少しばかり残念に思うタロウである、
「・・・まぁ、いいけど・・・」
ムスッとタロウを睨みつつヒョイヒョイとスプーンを動かすソフィア、目玉焼きにも焼いた干し肉にも漬物にも手を伸ばさなくても大変に美味しいと感じる、つまりおかずに頼らなくても麦粥だけで満足できそうで、もしかしたら麦粥とこれがあれば朝食はそれでいいかもと思うも、それはそれで寂しいのかなと思い直した、手抜きと言われても嫌であるし、折角王家の援助を受けて途轍もない贅沢が出来る環境となっている、サボりは駄目かしらと自分に言い聞かせてみた、
「でも・・・」
しかしオリビアがウーンと首を捻る、
「どうかした?」
タロウが問いかける、
「はい、胡麻・・・ですね、ユスティーナ様にはちょっと・・・」
「あっ、そうね」
「はい、それ以外はもう最高だと思います、売れます、うん」
どうしても商売に繋げてしまうオリビアである、逞しいなーとタロウは微笑みつつ、
「それもあったねー」
と首を傾げた、三つのふりかけ、その全てに炒った胡麻やら磨り潰した胡麻やらを入れている、やはりそれは栄養価の面でも味の面でも重要で、ユスティーナの件はすっかり失念していた、第一あくまで寮内で消費する目的で調理している、それと9割方趣味のつもりであった、不評であったら責任を持って始末しないといけないなと覚悟していたりもする、
「確かに・・・でも、あれじゃない?無くても・・・いいといえば良さそうよね」
「ですか?」
「うん、ほら、味を決めてるのは魚醤と塩でしょ、海塩か・・・それと焼き魚に、こっちはほら甘さは干し果物のだし、まぁ、ほら、そこはね、ユスティーナ様であれば調理方法を教えて料理人さんが対応すればいいのだし、だからそれほど考え込む必要は無いわよ、取り合えず美味しいものを作らないとでしょ、商売的には」
ソフィアは実にあっさりとしたものである、ユスティーナの胡麻アレルギーを見抜き、さらには領主邸から胡麻を駆逐した張本人で、その本人があっけらかんと言うものだからオリビアとしてはそれもそうかと頷かざるを得ない、
「そう・・・ですね、はい、ユスティーナ様もレアン様もちゃんとお話すれば分かって頂けますし、胡麻もモニケンダムの大事な名物ですし」
「そうよ、あの人達はしっかりしてるから」
「はい、では、その点はそのように」
ニコリと微笑むオリビア、やっぱりオリビアさんも大人だなーとタロウは思う、エレインが頼りにする筈で、テラからの信頼も厚いように見えた、他の生徒達も一目置いている、この若さでこれだと将来どうなるんだろうかと考えてしまい、逆に怖いなと思うタロウ、厳しい教育ママさんになるのかなー等とボヘーっと考えていると、
「お代わりー」
ミナが麦粥を食べ尽くして大声を上げた、
「あら・・・珍しいわね」
「うん、これ美味しい、タロウがねー、入れ過ぎたら駄目って言ったー、だから、もっと食べたい」
「あー・・・大丈夫か?」
タロウは苦笑してしまう、どうやら玉子のふりかけを食べる為のお代わりであるらしい、そこまでするかと目を細めるも、
「大丈夫、全然平気ー、もっとー」
「はいはい、朝ならね、いっぱい食べていいからね」
ヤレヤレと腰を上げるソフィア、しかしそこでふと、ミナがこれなのである、他の生徒達もより食が進むのではないかと不安感を覚えた、まぁ、そうなったらそうなったで早い者勝ちでいいかしらとミナのトレーを受け取って厨房へ向かうソフィア、ムフフーと嬉しそうに鼻息を荒くするミナである、
「まったく・・・がめつい奴め」
「えーだってー、美味しいからいいのー」
「確かに美味しいですね・・・私も貰おうかな・・・」
残り少なくなった麦粥を見つめオリビアも呟いてしまう、
「ありゃ・・・そんなに美味しかった?」
「はい、ただの麦粥が御馳走になりました、素晴らしいと思います、このフリカケ?ですか?」
「御馳走は言い過ぎだけど・・・でも、うん、まぁ、ほら、これもね、色んな食材で作れるから、それこそ干し肉とか、カブの葉っぱとかでも作れるよ」
「あっ・・・ですよね、細かくして味を付けるだけですもんね・・・」
「そっ、基本はそれだけ、ただ焼いた玉子を細かくするのは少しコツがいるかな」
「はい、それは分かります、濾したりなんだりやってましたよね」
「そっ、他には・・・あれだ、岩塩とかもね、結構味が違うでしょ、これは海塩を使っているけど、その辺のね調味料に拘る事も出来るし、まぁ、これも色々やってみるといいよ、どうせ商会で作るんでしょ?美味しいのが出来たら食べさせてよ」
ニコニコと微笑み麦粥を口に運ぶタロウ、ありがとうございますとしか言えないオリビアである、どうにもこの夫婦は商売っ気が無いというか、自分達の技術や知識を明け透けにして放り投げてしまう、本来であれば商売にしたら幾らか寄越せというのが当然で、それはエレインもテラもオリビア自身もそういうものだと認識している、それが夫婦揃ってこれなのだ、逆にこっちが困ってしまう、いつか恩返しをしなければとその重圧が感じられ、その恩返しがどれだけのものになるのかまるで想像できず困惑するしかない、
「甘いのー、甘いの作ってー」
ミナがギャーと叫び、
「干し肉が良さそうだ、食べてみたい」
レインもニヤリと口を出す、
「あっ、それもいいー」
「じゃろー」
キャーキャーと盛り上がる二人、オリビアも確かに美味しそうだと微笑んでしまう、そこへ、
「ハイハイ、少なめにしたからね、残さないようにね」
ソフィアがトレーを手にして戻って来た、ハーイと素直に受け取るミナ、
「あっ、ソフィアさん、まだありますか?」
オリビアが思わず腰を上げてしまう、
「あら・・・オリビアさんも?」
「はい、なんか・・・なんかです・・・」
恥ずかしそうに微笑むオリビア、
「もう・・・あれね、明日から少し大目に用意しようかしら・・・」
ソフィアが手を差し出すも、
「あっ、自分でやります、ソフィアさんはゆっくり朝食を」
トレーを手にして厨房に入るオリビア、ソフィアはそうねと腰を下ろす、そして、
「あっ、昨日のあれどうするの?あれでいいの?」
とタロウに確認する、
「ん?あぁどんなもん?」
「しっかり固まってるけど・・・まぁいっか、生徒達が揃ってから?」
「それでいいよ、俺はほら、会議だからだけど、喧嘩しないようにね」
ムフッと微笑むタロウ、喧嘩?とソフィアは眉を顰め、確かにあの量だと少し足りないかもなと首を傾げつつ食事を再開するのであった。
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「貴様を追放する! 魔物の巣窟『霧深き森』で、朽ち果てるがいい!」
王太子の婚約者ソフィアは、卒業パーティーで断罪された。 しかし、その顔に絶望はなかった。なぜなら、その「断罪劇」こそが、彼女の完璧な計画だったからだ。
彼女の魂は、前世で薬学研究に没頭し過労死した、日本の研究者。 王妃の座も権力闘争も、彼女には退屈な枷でしかない。 彼女が求めたのはただ一つ——誰にも邪魔されず、未知の植物を研究できる「アトリエ」だった。
追放先『霧深き森』は「死の土地」。 だが、チート能力【植物図鑑インターフェイス】を持つソフィアにとって、そこは未知の薬草が群生する、最高の「研究フィールド(ランクS)」だった!
石造りの廃屋を「アトリエ」に改造し、ガラクタから蒸留器を自作。村人を救い、薬師様と慕われ、理想のスローライフ(研究生活)が始まる。 だが、その平穏は長く続かない。 王都では、王宮薬師長の陰謀により、聖女の奇跡すら効かないパンデミック『紫死病』が発生していた。 ソフィアが開発した『特製回復ポーション』の噂が王都に届くとき、彼女の「研究成果」を巡る、新たな戦いが幕を開ける——。
【主な登場人物】
ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。
ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。
アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。
リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。
ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。
【読みどころ】
「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
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子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
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※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
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