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本編
80話 儚い日常 その23
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「これはまた面白いものを作ったな」
ニヤニヤとボニファースがタロウに微笑む、
「はい、ですがここまで仕上げたのは職人達です、お褒め頂くとすればあちらの二人」
「そのようだな、若いのに大したものだ」
嬉しそうにブラスとリノルトを見つめるボニファース、二人は二人で貴人達に囲まれ顔面を蒼白にし、脂汗をかきながら寝台の説明に忙しく、クロノスとイフナースもこれは面白いとからかい半分で囃し立てている、エレインは若干距離を置いて畏まっており、バーレントは何故かトーラーの隣りで兵士然と直立不動であった、
「ですねー、まぁ、何事もね、若人の活力が重要ですよ」
「確かにな・・・で、これはもう販売しているのか?」
「そのつもりです、というか先程お話した通り、あくまで試作品なのですが、これと同一のもので良いとなれば生産は可能かと思います」
冷静に答えるタロウ、並居る貴人達を前にタロウは懐から寝台を取り出してズデンと部屋の片隅に置くと、何だそれはと寝台よりもその行為に驚く貴人達、クロノスがこういう魔法だ慌てるなとその場を諫め、ロキュスが聞いておらんぞとタロウに詰め寄るも、私の得意技なのですよと適当に答えるタロウ、それで納得できるかと興奮するロキュス、ボニファースが後でやれと一喝し、ようやっと寝台の説明を始めるタロウ、しかしその説明は大雑把なもので、取り合えず一度寝てみて下さいとボニファースに勧め、そう言う事ならとボニファースが試すとこれはいいなとあっさりと受け入れたようで、となればと順番に試す貴人達、タロウがブラスとリノルトを強引に引っ張りこんで説明役を代わり、二人は泣きそうな顔で何とか対応している、
「あれか、これも下のように販売するのか?」
二人の下にアンドリースが近寄り似たような質問をタロウに投げた、
「恐らく・・・エレインさんどうする感じ?」
ニコリと微笑みエレインに水を向けるタロウ、エレインはエッと顔を上げるも動けず、しかしトーラーがジロリと睨みつければ、アッと三人へ歩み寄るしかない、
「・・・その・・・申し訳ありません、現状ではなんとも・・・私も本日こちらを目にしたばかりでして、なので、もう少し商品を増やしてからとも考えております、ですが、こちらそのままで良ければご注文は受けられるものと思います」
考えながらゆっくりと答えるエレイン、寮での結論をそのまま口にした形になる、なにせ女性達が集まってこうしたいああしたい、こうなればより便利と盛り上がっており、ブラスも確かに出来るかもと前向きであった、となれば商品として店に並べるとなると、それらを実際に作ってからと考えるのは当然の判断である、
「商品を増やす?」
ボニファースとアンドリースが同時に首を傾げる、
「はい、まずは・・・すいません、言葉を選ばず申し上げるのですが、まずは、貴族向けの装飾が必要かと思います、このままですとあまりにも簡素でございます、皆様の寝室の主役となる寝台となればそれ相応の装飾が望まれるかと思います・・・それと機能の面では・・・弾力?ですかね、柔らかさというのでしょうか?」
不安そうにタロウをうかがうエレイン、そだねーとタロウが軽く返す、
「はい、その・・・あのバネの部分の柔らかさですね、これも三種類程度取り揃えて選んで頂くのが宜しいかなと考えております、子供や女性用にはもう少し柔らかいものを、硬い方がお好みの方もいらっしゃるかも・・・とのタロウさんの意見もありまして、それらを実際に体感頂いて、比べられるようにと考えておりました・・・」
さらに棚やら引き出しやら、ガラス鏡を取り付けるだの、机も併設したいだのと記憶にある事をそのまま続けるエレイン、それを静かに聞き取るボニファースとアンドリース、いつのまにやらロキュスやイフナースも近寄って耳を傾けており、
「そこまで考えておるのか・・・」
呆れたように感心するボニファース、
「下の鏡もそうだが、一気にやり過ぎなのだ」
イフナースが眉を顰める、どう答えるべきかとエレインが困惑してしまうと、
「面白いからいいんですよ」
タロウがニコリと微笑む、
「確かにそうだがさ」
ムスッと返すイフナース、
「いや、その通りかもしれん」
ボニファースがガッハッハと笑い、うんうんと頷くアンドリースとロキュス、ボニファースと会議中であったのは他にメインデルトとビュルシンク、リンド、ブレフトのようで、応接テーブルには荒野の地図が置かれていた、あっ、街道かなにかの打合せかなとタロウは察する、
「しかし、貴様の入れ知恵なのだろう?」
ボニファースがジロリとタロウを見上げる、
「入れ知恵ってほどではないですよ、少しだけね、バネの使い方を教えただけです、棚やら何やらも、こういうのもあるぞって提案したに過ぎません、あとはね、若い女性達の案ですよ」
そうなのか?と視線でエレインに確認するボニファース、
「はい、確かに・・・ですが、タロウさんの発案と言うか提案があったればこそと思います」
少しばかり混乱するエレイン、この場合、タロウを持ち上げるべきか先程の打合せに同席していたユーリらの名前を出すべきか、取り合えず謙遜し、ここはこの場にいるタロウに感謝するべきだろうと悩みながら答えてしまう、すっかり顔馴染みで慣れてしまったクロノスやイフナースであればまだしも、相手は国王陛下である、失礼が無いようにとの思いが先に立ち、挙句トーラーの先程の一言も脳裏を駆け巡る、本当に一言多いんだからこの男はと軽くイラつくがここは我慢である、
「そうか・・・いや、そうだな、エレイン嬢の周りには優秀な者が集まっていると聞く・・・そうか、ゾーイやユーリの助手らもいたのかな?」
「はい、ユーリ先生も同席しておりました」
どうやらエレインの配慮は無駄であったらしい、ボニファースにはこっちの事情は筒抜けのようで、それもそうかと肩の力が抜けるエレイン、王妃達が事ある毎に遊びに来るのだ、世間話のように聞かされているのかもしれない、
「そうか・・・まぁいい、となれば、店に並んだところを見てみたいな」
「ですな、おうそうだ、先日王都の屋敷にもな、やっとガラス鏡が届いてな」
嬉しそうに微笑むアンドリース、
「まぁ・・・申し訳ありません、お待たせしたものと思います」
ゆっくりと頭を下げるエレイン、
「いやいや、それは聞いておったからな、しかし、お陰でな、妻も娘も機嫌が良くてな、友人達を招いては自慢しておる、でだ、その友人達も購入したいらしいのだが、王都に店を出す気はないのかな?」
「申し訳ありません、そこまではまだなんとも・・・王妃様にも勧められてはいるのですが、まずもって生産数が難しく・・・」
しどろもどろで答えるエレイン、この如何にも軍団長様らしい人はどこのどなたなのかなと思いつつ、恐らくその名を聞けば奥様の顔は思い出せると思うが、王妃の友人としてガラス鏡店に訪れた貴人達は数十人になる、あー、こういう時にオリビアかテラさんがいてくれればと不安を感じてしまった、
「それは残念だ・・・」
ムフーと鼻息を荒くするアンドリース、
「おう、また連れてきたいとアンネリーンがぼやいておったぞ、友人が友人を連れてきたいとな、もうすっかり王都では話題じゃな」
ボニファースがニヤリと口を挟む、
「まぁ、それは嬉しいです」
と返すしかないエレイン、
「あれ?今月いっぱいは無理って言ってなかった?」
タロウがノホホンと問いかける、エッと振り向くボニファースとアンドリース、
「・・・はい、その・・・確かに今月は御注文頂いた分を納品するだけで手いっぱいでして・・・」
アセアセと答えるエレイン、
「そりゃそうだろ、あんだけゾロゾロと連れてくればな・・・」
やれやれとイフナースが呆れ顔である、
「そんなに連れて来たの?あっ、でもそうだよね、今月いっぱい時間をかけるって事はそう言う事か・・・何だ大儲けじゃない」
タロウがニコリと微笑む、どうやら本心からそう思っているらしい、そりゃそうだけど、大儲けと陛下や実際に購入してくれたお客様の前で言うのはどうなのかと眉を顰めてしまうエレイン、
「だろ?挙句にあれだ、王妃の前だとなれば見栄を張らざるを得ないさ、おばさん達の社交とはそういうもんだ」
訳知り顔のイフナース、それもそうだと苦笑するしかないボニファースとアンドリース、そこへ、
「おう、この寝台はどうするんだ?」
クロノスがズカズカとタロウへ近寄った、
「ん?あぁ、そこまでは考えてないな・・・どうする?」
ヒョイと首を伸ばすタロウ、その先ではブラスとリノルトがヘトヘトになっており、リンドとブレフト、メインデルトにビュルシンクが革を捲り上げてその構造を確認していた、
「えっ」
とブラスが気付き、アッと背筋を正す、見ればボニファースもイフナースもこちらを見つめていた、
「失礼しました・・・ですが・・・すいません、正直あれです、タロウさんに確認頂いて、その後のことはまるで考えていなかった・・・と言えばあれなのですが、はい、そのまま使って頂こうかと考えてました」
若干慣れたのか流麗に答えるブラス、リノルトも同意であったらしく大きく頷いている、
「そっか、じゃ、どうしようか?」
ウーンと首を傾げるタロウ、
「なら寄越せ、使ってみたい」
クロノスがズイッとタロウに圧をかける、
「えっ・・・」
「なんだそれは、俺も欲しいぞ」
イフナースがムッとクロノスを睨みつけた、
「待て、となれば儂でもいいのだな?」
ボニファースが一歩進み出る、アッとクロノスは口元を歪め、イフナースは何だよと睨みつける、あー、親子だなーと微笑むタロウ、アンドリースにメインデルトは陛下が出てきては無理だなと早々に諦めたらしい、つまらなそうに口をへの字に曲げてしまう、
「・・・まぁ、確かに、では、どうします、誰ぞ呼びます?」
やれやれとさっさと負けを認めたクロノスである、
「そうだな・・・従者を呼ぶか・・・ブレフト」
と嬉しそうに揉み手になるボニファース、すると、
「あっ・・・ここはほら、大事な人がいるじゃない」
タロウはニヤリとエレインに微笑む、エッと首を傾げるエレイン、クロノスとイフナース、ボニファースも何だとタロウを見つめる、
「ほら、姫様にさ、そろそろ出産だろ?」
クロノスを見上げるタロウ、
「あぁ・・・まぁ・・・確かにそうだが・・・」
「なら、ほれ、前祝いだよ、折角だしね、陛下も初孫でしょ、今の内に御機嫌を取っておかないと抱かせてもくれませんよ」
ニヤリとボニファースに微笑むタロウ、ナッと目を剥くボニファース、姫様とはどうやらパトリシアの事らしい、あれはもう姫ではないがと言いかけ、まぁいいかと飲み込んだ、
「そう言う事でさ、ここは・・・うん、いいんじゃない?あっ、どうせだからほら、陛下とイフナース殿下とエレインさんからの贈り物って事にして、第一、暇して腐ってるって聞いたぞ?姫様」
「そうだが・・・いや・・・そうだな、確かにこれなら少しは機嫌も良くなるか・・・」
やれやれと寝台を見つめるクロノス、
「・・・あれの機嫌取りか・・・」
ボニファースがボソリと呟く、
「えぇ、大事ですよー、お爺さんになるんですよ、陛下は、だから今の内にね、どうせあれでしょ、娘の機嫌を取るなんてやったことないんでしょ?」
なんとも軽く続けるタロウ、エレインはそんな口調でいいのかしらと首を傾げるも、ボニファースは受け入れているようで、まったくどうしたもんだかと困惑してしまう、
「・・・その必要は無い」
ムスッと言い返すボニファースである、しかし若干力が籠っていないように感じられ、
「いや、陛下、大事ですぞ」
ロキュスが静かに窘めた、
「どういう意味だ?」
ギリッとロキュスを睨みつけるボニファース、
「そのままです、儂もですな、長男と折り合いが悪くてですな、孫の顔を初めてみたのが家門迎えの祭事の折で、それまで何を言っても何をしても会わせてくれませなんだ、よいですか、孫は子供夫婦のものであって、儂らのものでは無いのです、となればですな、今の内からなんぼでも優しい言葉なり、気を使うなりしておきませんと・・・寂しい思いをするものですぞ、後から聞けば妻とは頻繁に会っていたとか、妻にはあなたは嫌われているのよとハッキリ言われる始末です、あれは・・・寂しいですぞ・・・そして厄介な事にですな、それは曾孫にまで影響します、そこまで家庭を蔑ろにしたつもりは無いのですが・・・こればかりはまったく・・・困ったものです・・・」
ムフーっと深刻そうに俯くロキュス、そんな事があったのかとタロウは顔を顰め、アンドリースとメインデルトもさもありなんと頷いている、二人もまた孫を持つ身である、そしてその職業上、性格上でも家族には迷惑を掛けた上に辛く当たる事もあった、それが国を守る為であり、家族は理解していると思っていたのであるが、そういう訳にはいかないのが、世の常であったりする、
「・・・それほどか・・・」
強く口元を引き締めるボニファース、
「ですねー、じゃ、そう言う事で、エレインさんね、一緒にお願いできる?」
タロウがさてと寝台に向かう、取り合えずイフナースとクロノスへの約束はこれで果たした、寝台を見せろのクエストは終了で、後はさっさと逃げようとの魂胆である、
「あっ、お前、丁度いい、少し知恵を貸せ」
クロノスがタロウの背を睨む、
「なんで?」
「荒野の開発だ、お前もなにやらゴチャゴチャ言っていただろ?」
「そうだけど、こっちが先だろ?持って行ったらすぐに戻るさ、それでいいだろ?ブラスさん達も帰したいしな」
「あぁ・・・それでいい」
「はいはい、じゃ、以上かな、なんかある?」
とブラスとリノルトに確認するタロウ、ブンブンと大きく首を振る二人、
「ん、じゃ、そう言う事で、あっ、そうだ、これでいいなら今の内に注文受け付けるけど、金額がまだ決まってなくてね、取り合えず・・・数だけまとめてくれれば対応できる?」
どうかなとエレインに確認するタロウ、
「あっ、はい、えっと、先程もありました通り、このままの品で良ければ対応致します」
そう答えるしかないエレインである、
「そうか、ブレフト、黒板を」
ボニファースがブレフトを呼びつけ、ハッと壁際に走るブレフト、
「俺も欲しいな」
「儂の分も良いですかな?」
そうとなればおっさん達が集まりだし、
「ん、じゃ、今の内に逃げちゃお、エレインさんもう少し付き合ってもらうよー」
と寝台をあっさりと懐に仕舞いこむタロウ、これだからとリンドは目を細め、
「では、私が先触れを」
サッと先に立つリンドである、
「忙しい所申し訳ない」
笑顔となるタロウであった。
ニヤニヤとボニファースがタロウに微笑む、
「はい、ですがここまで仕上げたのは職人達です、お褒め頂くとすればあちらの二人」
「そのようだな、若いのに大したものだ」
嬉しそうにブラスとリノルトを見つめるボニファース、二人は二人で貴人達に囲まれ顔面を蒼白にし、脂汗をかきながら寝台の説明に忙しく、クロノスとイフナースもこれは面白いとからかい半分で囃し立てている、エレインは若干距離を置いて畏まっており、バーレントは何故かトーラーの隣りで兵士然と直立不動であった、
「ですねー、まぁ、何事もね、若人の活力が重要ですよ」
「確かにな・・・で、これはもう販売しているのか?」
「そのつもりです、というか先程お話した通り、あくまで試作品なのですが、これと同一のもので良いとなれば生産は可能かと思います」
冷静に答えるタロウ、並居る貴人達を前にタロウは懐から寝台を取り出してズデンと部屋の片隅に置くと、何だそれはと寝台よりもその行為に驚く貴人達、クロノスがこういう魔法だ慌てるなとその場を諫め、ロキュスが聞いておらんぞとタロウに詰め寄るも、私の得意技なのですよと適当に答えるタロウ、それで納得できるかと興奮するロキュス、ボニファースが後でやれと一喝し、ようやっと寝台の説明を始めるタロウ、しかしその説明は大雑把なもので、取り合えず一度寝てみて下さいとボニファースに勧め、そう言う事ならとボニファースが試すとこれはいいなとあっさりと受け入れたようで、となればと順番に試す貴人達、タロウがブラスとリノルトを強引に引っ張りこんで説明役を代わり、二人は泣きそうな顔で何とか対応している、
「あれか、これも下のように販売するのか?」
二人の下にアンドリースが近寄り似たような質問をタロウに投げた、
「恐らく・・・エレインさんどうする感じ?」
ニコリと微笑みエレインに水を向けるタロウ、エレインはエッと顔を上げるも動けず、しかしトーラーがジロリと睨みつければ、アッと三人へ歩み寄るしかない、
「・・・その・・・申し訳ありません、現状ではなんとも・・・私も本日こちらを目にしたばかりでして、なので、もう少し商品を増やしてからとも考えております、ですが、こちらそのままで良ければご注文は受けられるものと思います」
考えながらゆっくりと答えるエレイン、寮での結論をそのまま口にした形になる、なにせ女性達が集まってこうしたいああしたい、こうなればより便利と盛り上がっており、ブラスも確かに出来るかもと前向きであった、となれば商品として店に並べるとなると、それらを実際に作ってからと考えるのは当然の判断である、
「商品を増やす?」
ボニファースとアンドリースが同時に首を傾げる、
「はい、まずは・・・すいません、言葉を選ばず申し上げるのですが、まずは、貴族向けの装飾が必要かと思います、このままですとあまりにも簡素でございます、皆様の寝室の主役となる寝台となればそれ相応の装飾が望まれるかと思います・・・それと機能の面では・・・弾力?ですかね、柔らかさというのでしょうか?」
不安そうにタロウをうかがうエレイン、そだねーとタロウが軽く返す、
「はい、その・・・あのバネの部分の柔らかさですね、これも三種類程度取り揃えて選んで頂くのが宜しいかなと考えております、子供や女性用にはもう少し柔らかいものを、硬い方がお好みの方もいらっしゃるかも・・・とのタロウさんの意見もありまして、それらを実際に体感頂いて、比べられるようにと考えておりました・・・」
さらに棚やら引き出しやら、ガラス鏡を取り付けるだの、机も併設したいだのと記憶にある事をそのまま続けるエレイン、それを静かに聞き取るボニファースとアンドリース、いつのまにやらロキュスやイフナースも近寄って耳を傾けており、
「そこまで考えておるのか・・・」
呆れたように感心するボニファース、
「下の鏡もそうだが、一気にやり過ぎなのだ」
イフナースが眉を顰める、どう答えるべきかとエレインが困惑してしまうと、
「面白いからいいんですよ」
タロウがニコリと微笑む、
「確かにそうだがさ」
ムスッと返すイフナース、
「いや、その通りかもしれん」
ボニファースがガッハッハと笑い、うんうんと頷くアンドリースとロキュス、ボニファースと会議中であったのは他にメインデルトとビュルシンク、リンド、ブレフトのようで、応接テーブルには荒野の地図が置かれていた、あっ、街道かなにかの打合せかなとタロウは察する、
「しかし、貴様の入れ知恵なのだろう?」
ボニファースがジロリとタロウを見上げる、
「入れ知恵ってほどではないですよ、少しだけね、バネの使い方を教えただけです、棚やら何やらも、こういうのもあるぞって提案したに過ぎません、あとはね、若い女性達の案ですよ」
そうなのか?と視線でエレインに確認するボニファース、
「はい、確かに・・・ですが、タロウさんの発案と言うか提案があったればこそと思います」
少しばかり混乱するエレイン、この場合、タロウを持ち上げるべきか先程の打合せに同席していたユーリらの名前を出すべきか、取り合えず謙遜し、ここはこの場にいるタロウに感謝するべきだろうと悩みながら答えてしまう、すっかり顔馴染みで慣れてしまったクロノスやイフナースであればまだしも、相手は国王陛下である、失礼が無いようにとの思いが先に立ち、挙句トーラーの先程の一言も脳裏を駆け巡る、本当に一言多いんだからこの男はと軽くイラつくがここは我慢である、
「そうか・・・いや、そうだな、エレイン嬢の周りには優秀な者が集まっていると聞く・・・そうか、ゾーイやユーリの助手らもいたのかな?」
「はい、ユーリ先生も同席しておりました」
どうやらエレインの配慮は無駄であったらしい、ボニファースにはこっちの事情は筒抜けのようで、それもそうかと肩の力が抜けるエレイン、王妃達が事ある毎に遊びに来るのだ、世間話のように聞かされているのかもしれない、
「そうか・・・まぁいい、となれば、店に並んだところを見てみたいな」
「ですな、おうそうだ、先日王都の屋敷にもな、やっとガラス鏡が届いてな」
嬉しそうに微笑むアンドリース、
「まぁ・・・申し訳ありません、お待たせしたものと思います」
ゆっくりと頭を下げるエレイン、
「いやいや、それは聞いておったからな、しかし、お陰でな、妻も娘も機嫌が良くてな、友人達を招いては自慢しておる、でだ、その友人達も購入したいらしいのだが、王都に店を出す気はないのかな?」
「申し訳ありません、そこまではまだなんとも・・・王妃様にも勧められてはいるのですが、まずもって生産数が難しく・・・」
しどろもどろで答えるエレイン、この如何にも軍団長様らしい人はどこのどなたなのかなと思いつつ、恐らくその名を聞けば奥様の顔は思い出せると思うが、王妃の友人としてガラス鏡店に訪れた貴人達は数十人になる、あー、こういう時にオリビアかテラさんがいてくれればと不安を感じてしまった、
「それは残念だ・・・」
ムフーと鼻息を荒くするアンドリース、
「おう、また連れてきたいとアンネリーンがぼやいておったぞ、友人が友人を連れてきたいとな、もうすっかり王都では話題じゃな」
ボニファースがニヤリと口を挟む、
「まぁ、それは嬉しいです」
と返すしかないエレイン、
「あれ?今月いっぱいは無理って言ってなかった?」
タロウがノホホンと問いかける、エッと振り向くボニファースとアンドリース、
「・・・はい、その・・・確かに今月は御注文頂いた分を納品するだけで手いっぱいでして・・・」
アセアセと答えるエレイン、
「そりゃそうだろ、あんだけゾロゾロと連れてくればな・・・」
やれやれとイフナースが呆れ顔である、
「そんなに連れて来たの?あっ、でもそうだよね、今月いっぱい時間をかけるって事はそう言う事か・・・何だ大儲けじゃない」
タロウがニコリと微笑む、どうやら本心からそう思っているらしい、そりゃそうだけど、大儲けと陛下や実際に購入してくれたお客様の前で言うのはどうなのかと眉を顰めてしまうエレイン、
「だろ?挙句にあれだ、王妃の前だとなれば見栄を張らざるを得ないさ、おばさん達の社交とはそういうもんだ」
訳知り顔のイフナース、それもそうだと苦笑するしかないボニファースとアンドリース、そこへ、
「おう、この寝台はどうするんだ?」
クロノスがズカズカとタロウへ近寄った、
「ん?あぁ、そこまでは考えてないな・・・どうする?」
ヒョイと首を伸ばすタロウ、その先ではブラスとリノルトがヘトヘトになっており、リンドとブレフト、メインデルトにビュルシンクが革を捲り上げてその構造を確認していた、
「えっ」
とブラスが気付き、アッと背筋を正す、見ればボニファースもイフナースもこちらを見つめていた、
「失礼しました・・・ですが・・・すいません、正直あれです、タロウさんに確認頂いて、その後のことはまるで考えていなかった・・・と言えばあれなのですが、はい、そのまま使って頂こうかと考えてました」
若干慣れたのか流麗に答えるブラス、リノルトも同意であったらしく大きく頷いている、
「そっか、じゃ、どうしようか?」
ウーンと首を傾げるタロウ、
「なら寄越せ、使ってみたい」
クロノスがズイッとタロウに圧をかける、
「えっ・・・」
「なんだそれは、俺も欲しいぞ」
イフナースがムッとクロノスを睨みつけた、
「待て、となれば儂でもいいのだな?」
ボニファースが一歩進み出る、アッとクロノスは口元を歪め、イフナースは何だよと睨みつける、あー、親子だなーと微笑むタロウ、アンドリースにメインデルトは陛下が出てきては無理だなと早々に諦めたらしい、つまらなそうに口をへの字に曲げてしまう、
「・・・まぁ、確かに、では、どうします、誰ぞ呼びます?」
やれやれとさっさと負けを認めたクロノスである、
「そうだな・・・従者を呼ぶか・・・ブレフト」
と嬉しそうに揉み手になるボニファース、すると、
「あっ・・・ここはほら、大事な人がいるじゃない」
タロウはニヤリとエレインに微笑む、エッと首を傾げるエレイン、クロノスとイフナース、ボニファースも何だとタロウを見つめる、
「ほら、姫様にさ、そろそろ出産だろ?」
クロノスを見上げるタロウ、
「あぁ・・・まぁ・・・確かにそうだが・・・」
「なら、ほれ、前祝いだよ、折角だしね、陛下も初孫でしょ、今の内に御機嫌を取っておかないと抱かせてもくれませんよ」
ニヤリとボニファースに微笑むタロウ、ナッと目を剥くボニファース、姫様とはどうやらパトリシアの事らしい、あれはもう姫ではないがと言いかけ、まぁいいかと飲み込んだ、
「そう言う事でさ、ここは・・・うん、いいんじゃない?あっ、どうせだからほら、陛下とイフナース殿下とエレインさんからの贈り物って事にして、第一、暇して腐ってるって聞いたぞ?姫様」
「そうだが・・・いや・・・そうだな、確かにこれなら少しは機嫌も良くなるか・・・」
やれやれと寝台を見つめるクロノス、
「・・・あれの機嫌取りか・・・」
ボニファースがボソリと呟く、
「えぇ、大事ですよー、お爺さんになるんですよ、陛下は、だから今の内にね、どうせあれでしょ、娘の機嫌を取るなんてやったことないんでしょ?」
なんとも軽く続けるタロウ、エレインはそんな口調でいいのかしらと首を傾げるも、ボニファースは受け入れているようで、まったくどうしたもんだかと困惑してしまう、
「・・・その必要は無い」
ムスッと言い返すボニファースである、しかし若干力が籠っていないように感じられ、
「いや、陛下、大事ですぞ」
ロキュスが静かに窘めた、
「どういう意味だ?」
ギリッとロキュスを睨みつけるボニファース、
「そのままです、儂もですな、長男と折り合いが悪くてですな、孫の顔を初めてみたのが家門迎えの祭事の折で、それまで何を言っても何をしても会わせてくれませなんだ、よいですか、孫は子供夫婦のものであって、儂らのものでは無いのです、となればですな、今の内からなんぼでも優しい言葉なり、気を使うなりしておきませんと・・・寂しい思いをするものですぞ、後から聞けば妻とは頻繁に会っていたとか、妻にはあなたは嫌われているのよとハッキリ言われる始末です、あれは・・・寂しいですぞ・・・そして厄介な事にですな、それは曾孫にまで影響します、そこまで家庭を蔑ろにしたつもりは無いのですが・・・こればかりはまったく・・・困ったものです・・・」
ムフーっと深刻そうに俯くロキュス、そんな事があったのかとタロウは顔を顰め、アンドリースとメインデルトもさもありなんと頷いている、二人もまた孫を持つ身である、そしてその職業上、性格上でも家族には迷惑を掛けた上に辛く当たる事もあった、それが国を守る為であり、家族は理解していると思っていたのであるが、そういう訳にはいかないのが、世の常であったりする、
「・・・それほどか・・・」
強く口元を引き締めるボニファース、
「ですねー、じゃ、そう言う事で、エレインさんね、一緒にお願いできる?」
タロウがさてと寝台に向かう、取り合えずイフナースとクロノスへの約束はこれで果たした、寝台を見せろのクエストは終了で、後はさっさと逃げようとの魂胆である、
「あっ、お前、丁度いい、少し知恵を貸せ」
クロノスがタロウの背を睨む、
「なんで?」
「荒野の開発だ、お前もなにやらゴチャゴチャ言っていただろ?」
「そうだけど、こっちが先だろ?持って行ったらすぐに戻るさ、それでいいだろ?ブラスさん達も帰したいしな」
「あぁ・・・それでいい」
「はいはい、じゃ、以上かな、なんかある?」
とブラスとリノルトに確認するタロウ、ブンブンと大きく首を振る二人、
「ん、じゃ、そう言う事で、あっ、そうだ、これでいいなら今の内に注文受け付けるけど、金額がまだ決まってなくてね、取り合えず・・・数だけまとめてくれれば対応できる?」
どうかなとエレインに確認するタロウ、
「あっ、はい、えっと、先程もありました通り、このままの品で良ければ対応致します」
そう答えるしかないエレインである、
「そうか、ブレフト、黒板を」
ボニファースがブレフトを呼びつけ、ハッと壁際に走るブレフト、
「俺も欲しいな」
「儂の分も良いですかな?」
そうとなればおっさん達が集まりだし、
「ん、じゃ、今の内に逃げちゃお、エレインさんもう少し付き合ってもらうよー」
と寝台をあっさりと懐に仕舞いこむタロウ、これだからとリンドは目を細め、
「では、私が先触れを」
サッと先に立つリンドである、
「忙しい所申し訳ない」
笑顔となるタロウであった。
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中学三年のある朝、突然教室が光だし、光が収まるとそこには女神様が!
「貴方達は異世界へと勇者召喚されましたが、そのままでは忍びないのでなんとか召喚に割り込みをかけあちらの世界にあった身体へ変換させると共にスキルを与えます。更に何か願いを叶えてあげましょう。これも召喚を止められなかった詫びとします」
「それでは女神様、どんなスキルかわからないまま行くのは不安なので検証期間を30年頂いてもよろしいですか?」
これはスキルを使いこなせないまま召喚された者と、使いこなし過ぎた者の異世界物語である。
<前作ラストで書いた(本当に描きたかったこと)をやってみようと思ったセルフスピンオフです!うまく行くかどうかはホント不安でしかありませんが、表現方法とか教えて頂けると幸いです>
注)本作品は横書きで書いており、顔文字も所々で顔を出してきますので、横読み?推奨です。
(読者様から縦書きだと顔文字が!という指摘を頂きましたので、注意書をと。ただ、表現たとして顔文字を出しているで、顔を出してた時には一通り読み終わった後で横書きで見て頂けると嬉しいです)
聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
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「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
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アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
『追放令嬢は薬草(ハーブ)に夢中 ~前世の知識でポーションを作っていたら、聖女様より崇められ、私を捨てた王太子が泣きついてきました~』
とびぃ
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追放悪役令嬢の薬学スローライフ ~断罪されたら、そこは未知の薬草宝庫(ランクS)でした。知識チートでポーション作ってたら、王都のパンデミックを救う羽目に~
-第二部(11章~20章)追加しました-
【あらすじ】
「貴様を追放する! 魔物の巣窟『霧深き森』で、朽ち果てるがいい!」
王太子の婚約者ソフィアは、卒業パーティーで断罪された。 しかし、その顔に絶望はなかった。なぜなら、その「断罪劇」こそが、彼女の完璧な計画だったからだ。
彼女の魂は、前世で薬学研究に没頭し過労死した、日本の研究者。 王妃の座も権力闘争も、彼女には退屈な枷でしかない。 彼女が求めたのはただ一つ——誰にも邪魔されず、未知の植物を研究できる「アトリエ」だった。
追放先『霧深き森』は「死の土地」。 だが、チート能力【植物図鑑インターフェイス】を持つソフィアにとって、そこは未知の薬草が群生する、最高の「研究フィールド(ランクS)」だった!
石造りの廃屋を「アトリエ」に改造し、ガラクタから蒸留器を自作。村人を救い、薬師様と慕われ、理想のスローライフ(研究生活)が始まる。 だが、その平穏は長く続かない。 王都では、王宮薬師長の陰謀により、聖女の奇跡すら効かないパンデミック『紫死病』が発生していた。 ソフィアが開発した『特製回復ポーション』の噂が王都に届くとき、彼女の「研究成果」を巡る、新たな戦いが幕を開ける——。
【主な登場人物】
ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。
ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。
アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。
リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。
ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。
【読みどころ】
「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
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子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
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※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
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