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本編
80話 儚い日常 その25
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「じゃ、こんなもんで」
タロウが一応と確認し対面する一同を見渡す、ボニファースがあぁと微笑み、軍団長らもゆっくりと頷いた、
「では、私らは北ヘルデルに、あっ、姫様に何かあります?」
ニコリと微笑むタロウ、どうやらこの状況は終わるらしいとホッと安堵する職人達とエレイン、
「特には無いな、エフェリーンが毎日のように顔を出している、それで十分だ」
フンッと鼻で笑うボニファース、
「あぁ、そうだったんですね、まぁ、そりゃ気になりますよねー」
タロウは微笑みつつ腰を上げ、職人達もそれに続いた、
「まずな、そういうもんだ、こと出産に関しては男が出来ることなぞ大して無いもんだ・・・」
若干寂しそうに答えるボニファース、うんうんと頷く男達、そうでもないんだけどなーと思うタロウ、しかしそのタロウも出産に立ち会った経験は無い、精々話しで聞くだけで、しかしどう考えてもいないよりはマシ程度の扱いのように思う、邪魔だと言われるよりかは遥かにマシではあるし、母体の精神的な面では少しは助けになるのだろうなとも思う、そうしてタロウらは一礼し執務室を出た、廊下に出て扉を閉めた途端にブハーッと吐息を吐き出す職人達、エレインもフーッと大きく溜息を吐く始末、まぁ気持ちは分かると微笑むタロウとリンド、
「すいません、少しお時間を下さい」
エレインがパトリシアの下に向かうのであれば手土産がありますとの事で五人は一度寮に戻った、エレインがパタパタと階段へ走り、リンドは先触れらしく北ヘルデルに向かった、寮の研究室ではカトカとゾーイ、リーニーとコッキーが蒸留器を前にして何やらやっており、あっどうだったのーとコッキーが明るくバーレントに微笑むもバーレントは疲れた顔を向けて言葉を発する事は無く、ブラスもリノルトも似たような顔である、どうした事かとタロウを見れば、
「大丈夫、大丈夫、少し気疲れしただけだよー」
タロウはニコニコと微笑み、
「あっ、そっか、君らはここで退散してもいいのかな?」
と三人に微笑む、それがいいですと力なく答える三人、しかしコッキーがもう少し付き合いたいと言い出し、まぁ、もう少しならとバーレントは頷き、取り合えず食堂に下りる事とした四人である、そして炬燵に足を入れると、
「しかし・・・やっぱりあれですね、そのちゃんと考えてくれてたんですね・・・」
ポツリと呟くブラス、うんうんと頷くリノルトとバーレント、
「なにが?」
ん?と顔を上げるタロウ、厨房からは夕食の香りが微かに漂っており、あっそういえば生徒さん達まだ戻ってないのかなと思う、ハナコがエレインを追いかけたのであろう、玄関先から尻尾を振りながら戻って来た、あっ、ミナも戻って無いな、まぁいいかあっちはと背を丸めるタロウである、
「だって・・・まさか・・・ほら、陛下が街の事まで気にしていたとは思いませんでした」
リノルトがブラスに代わって答える、
「だよなー、ちょっと意外・・・かも・・・」
バーレントもフーと一息ついた、
「そういうもんだよ、あの人達は」
ニコリと微笑むタロウ、しかしタロウも大して詳しくは無い、前の世界でも為政者である所の政治家と直接関わる事は無く、関わったとしてもそれは彼等の就職活動中の事であり、となれば愛想も良ければ耳障りの良い事しか言わないもので、さてこの程度の接触でこのおっさんやおばさんを政治に関わらせて良いものなのだろうかと悩んだ事もあった、しかし考えれば考える程、であればまず自ら政治家になるかその活動に関わる事でしか、自身の思う理想的な政治家を生み出す方法は無く、なるほど、民主主義的な政治家の選択とは何とも難しいものだと思ったものである、つまりはそういうもんだと達観して見せたタロウであるが、為政者との関わりだけを見ればブラスらとそう大差は無かった、少なくともボニファースらとの付き合いもここ三年四年の事であり、今回のこの騒動、これが起こるまでは精々クロノスの手下か仲間としてしか扱われていなかったりする、恐らくであるが、クロノスから消えた英雄とされる五人の詳細を聞き出し、またルーツの暗躍もあってこれは使えるとボニファースは判断したのではないだろうか、さらにはユーリの研究や、ソフィアがこの地に来てから随分と好き放題やったようで、それらも好意的に受け取られたのであろう、タロウもこの街に来て高々一月である、その間にボニファースに捕まって話し込んでいる、扱いが変わったのかもなとも感じていた、
「そうなんですか?」
「そりゃだって、陛下・・・はそうだし、ここの領主様もさ、他の貴族様もだけど、結局ね、人を束ねて組織としてまとめるのがあの人らの仕事でね、街とか領地とか言っているけど、それはそういう単位ってだけの話でさ、国も一緒だね、大きさの問題だよ」
「また、そんな事言いだして・・・」
時折こういう斜に構えた事を言うんだよこのおっさんはと目を細めるブラス、
「そんなもんだよ、俺が思うにさ・・・為政者ってやつは外敵もそうなんだけど、なにより内部の混乱を恐れるものさ、君らを例にとればさ、簡単でね、家庭を考えればいいんだな、例えば夜中にさ・・・何だろ、押し込み強盗とか来たら叩き出すしか対処法は無かろう?で、それはある意味で一過性のもので、それが謂わば外的な事由による紛争で、前のほら魔族大戦か?あれがそんな感じでね・・・これが・・・うん、隣りに住む家族がさ、敷地の境界線がどうだとか犬がうるさいとか、家庭菜園の野菜を分けてくれだとかって強引に迫って来てね、そんな事は認められんとなれば、これが正にさ国家と国家の戦争の火種と同じ状況になるんだよ」
ハナコを抱き上げつつ続けるタロウ、エッと顔を上げる三人、
「・・・でも、だって、そういうのはほら、衛兵とか呼ぶしかないじゃないですか」
「ですよ、押し込み強盗はあれですけど、御近所の問題はだって、法律がありますもの・・・御近所付き合いもありますけど・・・」
リノルトとバーレントが当然の反論を口にする、
「それが無かったら?」
ニコリと微笑むタロウ、エッと首を傾げるリノルトとバーレント、ブラスはあーそう言う事なんだろうなと難しい顔となる、
「だって、衛兵も法律も無ければさ、どう解決する?」
アッと眉を顰めるリノルトとバーレント、
「そっ、最終的にはね、行くところまで行けば・・・話し合いで解決できないとなればだけど、そうなると、殴り合いで解決するしかないんだよ、現状ね、家とか村とかの単位で考えれば所属する上の集団、街とか国とかがあって、法律もあるし衛兵もいるけど、じゃ、国の上・・・国よりも大きな組織が無い以上、国同士が守るべき法律も国を助けてくれる衛兵もいないんだ、となると国同士の問題は取り合えず話し合う、で妥協できない、となれば・・・」
「戦争ですか?」
ブラスがゆっくりと顔を上げた、
「そうなるんだよ、最終的に暴力で片を付けるしかないってのが・・・うん、生物の本質的な部分だね、犬もそうだし、猫もそう、鹿とか熊も同種同士で喧嘩するんだよ、で、逃げ出した方の負けってね、人も同じさ・・・だろ?」
確かにとブラスは頷き、そうかもなと納得するしかないリノルトとバーレント、タロウの足に座りチョコンと炬燵に顔を乗せるハナコを見つめ、猫もよく喧嘩してるよなーとか、行儀の良い犬だなーとかと考えてしまう三人であった、
「でもね、そのなんていうか仲裁機能が利かない部分もあって、それが内乱なんだよね、家庭に置き換えればなんだろな、夫婦喧嘩?親子喧嘩はね、親が絶対的に強いからまぁ、大したもんじゃないんだけど、夫婦喧嘩だけはね、なんともしようがない」
「それは流石に・・・」
と顔を顰める三人、内乱と夫婦喧嘩を同列に扱うのは無理があるように思う、
「そう?まぁ、あくまで感覚的なもんなんだけど、ほら、夫婦喧嘩となると仲裁出来る者がいなくて、挙句拗らせると延々と続くだろ、で、その間、割を食うのは子供達とか、同居している他の家族でね、なんともギクシャクして困ってしまうもんだ、で、内乱も似たようなものでさ、一度勃発してしまうと収拾しようが無い、精々首謀者を捕まえて牢に入れるくらいで、それで収まればいいけど・・・収まらないもんで、まぁ、その原因がね、分かっていれば対処のしようもあるんだろうけど、今回のようにね、外的な問題による内乱となると、戦争そのものを終わらせなければ内乱は続くかもしれなくて、じゃ、内乱に加担した人達を根こそぎ追放するとなるとこれも難しい、夫婦喧嘩で言えば喧嘩中の夫婦を叩きだすようなものでね、それはだってその家庭としては生計の中心人物だろうし、街として見た場合だと普段であれば真面目な労働者って事になる、その人達を追放したら生活そのものが出来なくなっちゃうし、街としては機能低下が否めない」
言っている意味は分かるがハテ正しいのかなと顔を見合わせてしまう三人、
「それにね、まずすぐそこに迫った敵をなんとかしなければならないって状況なのに、すぐ側の街が混乱しているとなると余計手間だしさ、暴動が起こって駐屯地を襲われたりしたら、たまったものじゃないよ、守るべき相手に攻撃されるんだ、明確な敵を相手にするより質が悪い・・・下手したら兵士達もそちらになびいてしまう事もある、なんにしろ混乱の元にしかならないもんだ、人ってやつは不安になると何するか分からんからね」
それは理解できるなと頷く三人、
「・・・でも、そんな騒ぎを起こすのって、大体ほら、爪弾きっぽい人達じゃないですか?」
ウーンとブラスが首を捻る、それもそうかもとブラスを見つめるリノルトとバーレント、
「そうだねー、でも、そういう人達だってこの街の構成員だし、家族で考えれば出来の悪い兄ちゃん姉ちゃん?的な人達?」
アー・・・そうかもなーとブラスは天井を見上げる、
「そっ、家族である事はそうだし、街の住人である事もそう、そんなね、人達もひっくるめて家族だし、村だし、街だし、国なんだと思う、ようは人の集団なんだな・・・」
タロウはふと先日のレイナウトとの会談を思い出す、王弟で、スタール公爵であるペペインの聞いた限りの人となりを考えるに、ボニファースはそれもまたそういうものと受け入れているのかもしれない、さらには反王国を掲げる集団をレイナウトにまとめさせようとしているとなれば、なるほど、どうやらボニファースは清濁併せ吞みつつ、制御する事を思考しているのであろう、大したものだと思うタロウである、
「だから・・・まぁ、陛下がね、まず街の事を考えるのは当然でね、領主様も気にしているし、衛兵さん達も頑張っているんじゃないかな?で、実はねそう考えると、日常をね、壊すのって実は簡単でね」
今度は何を言い出すと目細める三人、
「これも家庭を例にとればさ、あくまでたとえばよ、ブラスさんがブノワトさんを意味不明に殴りつけるだけで簡単に崩壊するだろ?」
どうだとブラスをうかがうタロウ、エッと嫌そうに顔を顰めるブラス、しかし、
「・・・まぁ、そうですね・・・」
と頷かざるを得ない、
「想像するのも嫌だけどさ、仲良さそうだしね君ら」
ニヤリと微笑むタロウ、いや、そんな事はないですよと口を尖らせるブラス、
「で、となればだよ、この街を混乱させるのも実は簡単で・・・そうだな、君ら三人が結託してさ、夜中、暗くなってから街のあちこちに火をつけながら、敵が来たーって叫んで走り回るだけでいいんだよ、特に今の状況だとね」
ムッと実に嫌そうな三人である、
「勿論、そんな事はしないだろうけど、でも、それだけで、街は混乱して、最悪、暴動にまで発展するだろうね、で、やろうと思えばできる、何気にね、日常を壊すのって簡単なんだな、家庭にしても街にしても、国となるとちょっとね大きいから準備も人手も必要だけどさ・・・まぁ、だからこそ・・・今の大事な日常ってやつは死守しなきゃならない、努力は必要としないけど注意は必要、日常ってやつはね、そういうもんで・・・陛下もそれを分かっているから、君らに様子を聞いたんだと思うよ、特にやっぱりほら、戦争となると特殊な状況ではあるし、街の外れとはいえ軍団が来てるし、それだけでも日常とは異なるからさ、見えない・・・ストレス・・・通じないな、重圧っていうのかな?そういうのが街の人達にあるかもしれないし、そこはね、やっぱり街の人でないと分らないし、その街の人でもわかってないかもしれないし、難しいよね・・・」
どんなもんかなと微笑むタロウ、ムーと俯き考え込む三人、
「・・・その、すいません、そんな事、考えた事なかったです」
バーレントが素直に口を開く、
「謝る事じゃないよ、いずれにしても俺もそうだし、君達もだし、みんなそうなんだけど、今のね生活に多少の不満はあれど、安定していて過不足無いなってなれば、その価値を認めて守ることを考えるべきでね、じゃ、どうやって守るかって言うと、日々の仕事を真面目にこなして、家庭内を円満に保って、陛下もそうだけど、ここの領主様もね、大変に聡明な人だから、あの人達を盛り立てて・・・って感じか、ようは普通にやろう普通に、難しい事じゃない、決してね、どうしても、日常ってやつは壊すとなると簡単でね、壊れた後に気付くんだ、貴重だったとか大事だっとか、あの頃が良かったとか・・・何ともね・・・儚いものさ・・・」
フーとハナコの頭をグリグリとなでるタロウ、ハナコがん?とタロウを見つめ、ヘッヘッと赤く小さな舌をペロリと覗かせた。
タロウが一応と確認し対面する一同を見渡す、ボニファースがあぁと微笑み、軍団長らもゆっくりと頷いた、
「では、私らは北ヘルデルに、あっ、姫様に何かあります?」
ニコリと微笑むタロウ、どうやらこの状況は終わるらしいとホッと安堵する職人達とエレイン、
「特には無いな、エフェリーンが毎日のように顔を出している、それで十分だ」
フンッと鼻で笑うボニファース、
「あぁ、そうだったんですね、まぁ、そりゃ気になりますよねー」
タロウは微笑みつつ腰を上げ、職人達もそれに続いた、
「まずな、そういうもんだ、こと出産に関しては男が出来ることなぞ大して無いもんだ・・・」
若干寂しそうに答えるボニファース、うんうんと頷く男達、そうでもないんだけどなーと思うタロウ、しかしそのタロウも出産に立ち会った経験は無い、精々話しで聞くだけで、しかしどう考えてもいないよりはマシ程度の扱いのように思う、邪魔だと言われるよりかは遥かにマシではあるし、母体の精神的な面では少しは助けになるのだろうなとも思う、そうしてタロウらは一礼し執務室を出た、廊下に出て扉を閉めた途端にブハーッと吐息を吐き出す職人達、エレインもフーッと大きく溜息を吐く始末、まぁ気持ちは分かると微笑むタロウとリンド、
「すいません、少しお時間を下さい」
エレインがパトリシアの下に向かうのであれば手土産がありますとの事で五人は一度寮に戻った、エレインがパタパタと階段へ走り、リンドは先触れらしく北ヘルデルに向かった、寮の研究室ではカトカとゾーイ、リーニーとコッキーが蒸留器を前にして何やらやっており、あっどうだったのーとコッキーが明るくバーレントに微笑むもバーレントは疲れた顔を向けて言葉を発する事は無く、ブラスもリノルトも似たような顔である、どうした事かとタロウを見れば、
「大丈夫、大丈夫、少し気疲れしただけだよー」
タロウはニコニコと微笑み、
「あっ、そっか、君らはここで退散してもいいのかな?」
と三人に微笑む、それがいいですと力なく答える三人、しかしコッキーがもう少し付き合いたいと言い出し、まぁ、もう少しならとバーレントは頷き、取り合えず食堂に下りる事とした四人である、そして炬燵に足を入れると、
「しかし・・・やっぱりあれですね、そのちゃんと考えてくれてたんですね・・・」
ポツリと呟くブラス、うんうんと頷くリノルトとバーレント、
「なにが?」
ん?と顔を上げるタロウ、厨房からは夕食の香りが微かに漂っており、あっそういえば生徒さん達まだ戻ってないのかなと思う、ハナコがエレインを追いかけたのであろう、玄関先から尻尾を振りながら戻って来た、あっ、ミナも戻って無いな、まぁいいかあっちはと背を丸めるタロウである、
「だって・・・まさか・・・ほら、陛下が街の事まで気にしていたとは思いませんでした」
リノルトがブラスに代わって答える、
「だよなー、ちょっと意外・・・かも・・・」
バーレントもフーと一息ついた、
「そういうもんだよ、あの人達は」
ニコリと微笑むタロウ、しかしタロウも大して詳しくは無い、前の世界でも為政者である所の政治家と直接関わる事は無く、関わったとしてもそれは彼等の就職活動中の事であり、となれば愛想も良ければ耳障りの良い事しか言わないもので、さてこの程度の接触でこのおっさんやおばさんを政治に関わらせて良いものなのだろうかと悩んだ事もあった、しかし考えれば考える程、であればまず自ら政治家になるかその活動に関わる事でしか、自身の思う理想的な政治家を生み出す方法は無く、なるほど、民主主義的な政治家の選択とは何とも難しいものだと思ったものである、つまりはそういうもんだと達観して見せたタロウであるが、為政者との関わりだけを見ればブラスらとそう大差は無かった、少なくともボニファースらとの付き合いもここ三年四年の事であり、今回のこの騒動、これが起こるまでは精々クロノスの手下か仲間としてしか扱われていなかったりする、恐らくであるが、クロノスから消えた英雄とされる五人の詳細を聞き出し、またルーツの暗躍もあってこれは使えるとボニファースは判断したのではないだろうか、さらにはユーリの研究や、ソフィアがこの地に来てから随分と好き放題やったようで、それらも好意的に受け取られたのであろう、タロウもこの街に来て高々一月である、その間にボニファースに捕まって話し込んでいる、扱いが変わったのかもなとも感じていた、
「そうなんですか?」
「そりゃだって、陛下・・・はそうだし、ここの領主様もさ、他の貴族様もだけど、結局ね、人を束ねて組織としてまとめるのがあの人らの仕事でね、街とか領地とか言っているけど、それはそういう単位ってだけの話でさ、国も一緒だね、大きさの問題だよ」
「また、そんな事言いだして・・・」
時折こういう斜に構えた事を言うんだよこのおっさんはと目を細めるブラス、
「そんなもんだよ、俺が思うにさ・・・為政者ってやつは外敵もそうなんだけど、なにより内部の混乱を恐れるものさ、君らを例にとればさ、簡単でね、家庭を考えればいいんだな、例えば夜中にさ・・・何だろ、押し込み強盗とか来たら叩き出すしか対処法は無かろう?で、それはある意味で一過性のもので、それが謂わば外的な事由による紛争で、前のほら魔族大戦か?あれがそんな感じでね・・・これが・・・うん、隣りに住む家族がさ、敷地の境界線がどうだとか犬がうるさいとか、家庭菜園の野菜を分けてくれだとかって強引に迫って来てね、そんな事は認められんとなれば、これが正にさ国家と国家の戦争の火種と同じ状況になるんだよ」
ハナコを抱き上げつつ続けるタロウ、エッと顔を上げる三人、
「・・・でも、だって、そういうのはほら、衛兵とか呼ぶしかないじゃないですか」
「ですよ、押し込み強盗はあれですけど、御近所の問題はだって、法律がありますもの・・・御近所付き合いもありますけど・・・」
リノルトとバーレントが当然の反論を口にする、
「それが無かったら?」
ニコリと微笑むタロウ、エッと首を傾げるリノルトとバーレント、ブラスはあーそう言う事なんだろうなと難しい顔となる、
「だって、衛兵も法律も無ければさ、どう解決する?」
アッと眉を顰めるリノルトとバーレント、
「そっ、最終的にはね、行くところまで行けば・・・話し合いで解決できないとなればだけど、そうなると、殴り合いで解決するしかないんだよ、現状ね、家とか村とかの単位で考えれば所属する上の集団、街とか国とかがあって、法律もあるし衛兵もいるけど、じゃ、国の上・・・国よりも大きな組織が無い以上、国同士が守るべき法律も国を助けてくれる衛兵もいないんだ、となると国同士の問題は取り合えず話し合う、で妥協できない、となれば・・・」
「戦争ですか?」
ブラスがゆっくりと顔を上げた、
「そうなるんだよ、最終的に暴力で片を付けるしかないってのが・・・うん、生物の本質的な部分だね、犬もそうだし、猫もそう、鹿とか熊も同種同士で喧嘩するんだよ、で、逃げ出した方の負けってね、人も同じさ・・・だろ?」
確かにとブラスは頷き、そうかもなと納得するしかないリノルトとバーレント、タロウの足に座りチョコンと炬燵に顔を乗せるハナコを見つめ、猫もよく喧嘩してるよなーとか、行儀の良い犬だなーとかと考えてしまう三人であった、
「でもね、そのなんていうか仲裁機能が利かない部分もあって、それが内乱なんだよね、家庭に置き換えればなんだろな、夫婦喧嘩?親子喧嘩はね、親が絶対的に強いからまぁ、大したもんじゃないんだけど、夫婦喧嘩だけはね、なんともしようがない」
「それは流石に・・・」
と顔を顰める三人、内乱と夫婦喧嘩を同列に扱うのは無理があるように思う、
「そう?まぁ、あくまで感覚的なもんなんだけど、ほら、夫婦喧嘩となると仲裁出来る者がいなくて、挙句拗らせると延々と続くだろ、で、その間、割を食うのは子供達とか、同居している他の家族でね、なんともギクシャクして困ってしまうもんだ、で、内乱も似たようなものでさ、一度勃発してしまうと収拾しようが無い、精々首謀者を捕まえて牢に入れるくらいで、それで収まればいいけど・・・収まらないもんで、まぁ、その原因がね、分かっていれば対処のしようもあるんだろうけど、今回のようにね、外的な問題による内乱となると、戦争そのものを終わらせなければ内乱は続くかもしれなくて、じゃ、内乱に加担した人達を根こそぎ追放するとなるとこれも難しい、夫婦喧嘩で言えば喧嘩中の夫婦を叩きだすようなものでね、それはだってその家庭としては生計の中心人物だろうし、街として見た場合だと普段であれば真面目な労働者って事になる、その人達を追放したら生活そのものが出来なくなっちゃうし、街としては機能低下が否めない」
言っている意味は分かるがハテ正しいのかなと顔を見合わせてしまう三人、
「それにね、まずすぐそこに迫った敵をなんとかしなければならないって状況なのに、すぐ側の街が混乱しているとなると余計手間だしさ、暴動が起こって駐屯地を襲われたりしたら、たまったものじゃないよ、守るべき相手に攻撃されるんだ、明確な敵を相手にするより質が悪い・・・下手したら兵士達もそちらになびいてしまう事もある、なんにしろ混乱の元にしかならないもんだ、人ってやつは不安になると何するか分からんからね」
それは理解できるなと頷く三人、
「・・・でも、そんな騒ぎを起こすのって、大体ほら、爪弾きっぽい人達じゃないですか?」
ウーンとブラスが首を捻る、それもそうかもとブラスを見つめるリノルトとバーレント、
「そうだねー、でも、そういう人達だってこの街の構成員だし、家族で考えれば出来の悪い兄ちゃん姉ちゃん?的な人達?」
アー・・・そうかもなーとブラスは天井を見上げる、
「そっ、家族である事はそうだし、街の住人である事もそう、そんなね、人達もひっくるめて家族だし、村だし、街だし、国なんだと思う、ようは人の集団なんだな・・・」
タロウはふと先日のレイナウトとの会談を思い出す、王弟で、スタール公爵であるペペインの聞いた限りの人となりを考えるに、ボニファースはそれもまたそういうものと受け入れているのかもしれない、さらには反王国を掲げる集団をレイナウトにまとめさせようとしているとなれば、なるほど、どうやらボニファースは清濁併せ吞みつつ、制御する事を思考しているのであろう、大したものだと思うタロウである、
「だから・・・まぁ、陛下がね、まず街の事を考えるのは当然でね、領主様も気にしているし、衛兵さん達も頑張っているんじゃないかな?で、実はねそう考えると、日常をね、壊すのって実は簡単でね」
今度は何を言い出すと目細める三人、
「これも家庭を例にとればさ、あくまでたとえばよ、ブラスさんがブノワトさんを意味不明に殴りつけるだけで簡単に崩壊するだろ?」
どうだとブラスをうかがうタロウ、エッと嫌そうに顔を顰めるブラス、しかし、
「・・・まぁ、そうですね・・・」
と頷かざるを得ない、
「想像するのも嫌だけどさ、仲良さそうだしね君ら」
ニヤリと微笑むタロウ、いや、そんな事はないですよと口を尖らせるブラス、
「で、となればだよ、この街を混乱させるのも実は簡単で・・・そうだな、君ら三人が結託してさ、夜中、暗くなってから街のあちこちに火をつけながら、敵が来たーって叫んで走り回るだけでいいんだよ、特に今の状況だとね」
ムッと実に嫌そうな三人である、
「勿論、そんな事はしないだろうけど、でも、それだけで、街は混乱して、最悪、暴動にまで発展するだろうね、で、やろうと思えばできる、何気にね、日常を壊すのって簡単なんだな、家庭にしても街にしても、国となるとちょっとね大きいから準備も人手も必要だけどさ・・・まぁ、だからこそ・・・今の大事な日常ってやつは死守しなきゃならない、努力は必要としないけど注意は必要、日常ってやつはね、そういうもんで・・・陛下もそれを分かっているから、君らに様子を聞いたんだと思うよ、特にやっぱりほら、戦争となると特殊な状況ではあるし、街の外れとはいえ軍団が来てるし、それだけでも日常とは異なるからさ、見えない・・・ストレス・・・通じないな、重圧っていうのかな?そういうのが街の人達にあるかもしれないし、そこはね、やっぱり街の人でないと分らないし、その街の人でもわかってないかもしれないし、難しいよね・・・」
どんなもんかなと微笑むタロウ、ムーと俯き考え込む三人、
「・・・その、すいません、そんな事、考えた事なかったです」
バーレントが素直に口を開く、
「謝る事じゃないよ、いずれにしても俺もそうだし、君達もだし、みんなそうなんだけど、今のね生活に多少の不満はあれど、安定していて過不足無いなってなれば、その価値を認めて守ることを考えるべきでね、じゃ、どうやって守るかって言うと、日々の仕事を真面目にこなして、家庭内を円満に保って、陛下もそうだけど、ここの領主様もね、大変に聡明な人だから、あの人達を盛り立てて・・・って感じか、ようは普通にやろう普通に、難しい事じゃない、決してね、どうしても、日常ってやつは壊すとなると簡単でね、壊れた後に気付くんだ、貴重だったとか大事だっとか、あの頃が良かったとか・・・何ともね・・・儚いものさ・・・」
フーとハナコの頭をグリグリとなでるタロウ、ハナコがん?とタロウを見つめ、ヘッヘッと赤く小さな舌をペロリと覗かせた。
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彼女の魂は、前世で薬学研究に没頭し過労死した、日本の研究者。 王妃の座も権力闘争も、彼女には退屈な枷でしかない。 彼女が求めたのはただ一つ——誰にも邪魔されず、未知の植物を研究できる「アトリエ」だった。
追放先『霧深き森』は「死の土地」。 だが、チート能力【植物図鑑インターフェイス】を持つソフィアにとって、そこは未知の薬草が群生する、最高の「研究フィールド(ランクS)」だった!
石造りの廃屋を「アトリエ」に改造し、ガラクタから蒸留器を自作。村人を救い、薬師様と慕われ、理想のスローライフ(研究生活)が始まる。 だが、その平穏は長く続かない。 王都では、王宮薬師長の陰謀により、聖女の奇跡すら効かないパンデミック『紫死病』が発生していた。 ソフィアが開発した『特製回復ポーション』の噂が王都に届くとき、彼女の「研究成果」を巡る、新たな戦いが幕を開ける——。
【主な登場人物】
ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。
ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。
アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。
リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。
ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。
【読みどころ】
「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
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子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
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※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
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