華麗なる婚約破棄!悪役令嬢と呼ばれた心境は…?

パリパリかぷちーの

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「……ちょっと、レオン! そんなに眉間にシワを寄せないの。お客様が石になってしまいますわよ」


辺境の森にそびえ立つ、今や王国最大級の敷地を誇る『定食屋 悪役令嬢・本店』。


私は、戦場のように忙しい厨房の中で、足元をうろつく小さな人影に声をかけた。


「……だって、かあさま。あそこの、かんばん……なんて、かいてあるのか、よめないんだ」


レオン、四歳。


銀色の髪は父親似だが、その鋭すぎる眼光……もとい、重度のド近眼は完全なる母親譲りだ。


彼は小さな眉間に深い溝を作り、目を極限まで細めてメニュー表を凝視していた。


その姿は、通りがかった冒険者が「ひっ、幼子の姿をした魔王……!」と腰を抜かすほどの迫力だった。


「見えないなら、これをかけなさい。パパが特注で作ってくれたでしょう?」


私は、レオンの鼻先に小さな眼鏡を乗せてあげた。


カチャリ、と音がして世界が拓けた瞬間、レオンの表情がぱぁっと明るくなる。


「わぁ……! おにく、三枚って、かいてある! おいしそう!」


「ふふ、そうでしょう。さあ、そこのお皿をパパのところまで運んでちょうだい」


「はーい!」


眼鏡をかけた天使のような美少年(ただし服はボアの毛皮)が、トコトコとホールへ走っていく。


「……おいおい、レオン。また眼鏡を外してたのか? 客が三人ほど『呪われる!』って叫んで逃げていったぞ」


ホールから戻ってきたジークが、苦笑いしながら私の肩を抱いた。


数年前より少しだけ渋みを増した彼は、今や「辺境一の良きパパ」として、そして「最強の用心棒」として、不動の地位を築いている。


「仕方ありませんわ、遺伝ですもの。……それよりジークさん、あっちのテラス席にいるお嬢ちゃん、お水のおかわりだそうですわよ」


「了解だ。……おっと、リア。お前も手伝いか?」


ジークの足元には、もう一人の人影。


娘のリア、二歳。


彼女は眼鏡こそかけていないが、父親譲りの怪力の持ち主で、自分より大きな水桶を片手で軽々と持ち上げていた。


「ぱぱ、おみじゅ! のむ!」


「ああ、偉いな。だがなリア、水桶を片手で振り回すのはやめろ。床が抜ける」


「あはは、すまーん!」


豪快に笑う娘は、将来間違いなくこの辺境を拳一つで支配することだろう。


「……平和ねぇ」


私は、黄金色に揚がった唐揚げの山を眺めながら、独り言を漏らした。


王都を追放されたあの日、私は視界も未来もボヤけたまま、ただお腹を満たすことだけを考えていた。


それが今や、愛する夫と、個性豊かな子供たち。


そして毎日「姉御、肉だ! 肉をくれ!」と騒ぎ立てる元騎士団員や冒険者たちに囲まれている。


「そういえばミール。今日、王都から手紙が届いてたぞ」


ジークが、カウンターの上に一通の封書を置いた。


差出人は、現国王代理・オズワルドとその妃リリア。


「あら、また殿下から? 今度は何の相談かしら」


「『王宮の皿洗いの水流を自動化しようとしたら、厨房が水没した。助けてくれ』だとさ」


「……あの人、本当に進歩しませんわね」


私は溜息をつきながら、手紙を脇に置いた。


「リリアさんも大変ね。まあ、今度うちの『特製・激辛麻婆豆腐』でも送ってあげましょう。少しは目が覚めるかもしれないわ」


「……それ、ただの嫌がらせだろ」


ジークが笑いながら、私の腰を引き寄せた。


「なあ、ミール。……幸せか?」


「ええ、もちろん。……でも、もう少し視界がクリアなら、もっと幸せかもしれませんわ」


「まだ言うか。魔石の眼鏡をかけてるだろ」


「いいえ。……ジークさんの格好いい顔が、あまりにも鮮明に見えすぎて、毎日心臓に悪いんですもの。もう少しボヤけてくれていた方が、平穏に料理ができるわ」


私は眼鏡をクイッと押し上げ、茶目っ気たっぷりに微笑んだ。


「……お前って奴は、本当に最後まで……」


ジークが顔を赤くして視線を逸らす。


そんな彼の反応が楽しくて、私は再び厨房の火を強めた。


「さあ、お喋りは終わり! 次のお客様が来ましたわよ!」


「へいへい。……いらっしゃいませ!『定食屋 悪役令嬢』へようこそ!」


ジークの野太い声と、私の鍋を振る音が調和する。


辺境の森に、今日も幸せな「美味しい匂い」が満ちていく。
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