華麗なる婚約破棄!悪役令嬢と呼ばれた心境は…?

パリパリかぷちーの

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辺境の空が、燃えるような茜色に染まっていく。


今日も『定食屋 悪役令嬢』の一日が、無事に終わろうとしていた。


「……ふぅ。今日もよく働きましたわ」


私は店じまいをした店内の椅子に腰掛け、新しい眼鏡を外して、目元を軽く押さえた。


魔石の眼鏡は快適だが、やはり一日中、世界を鮮明に見続けるというのはそれなりに疲れるものだ。


「お疲れ様、ミール。……ほら、レオンとリアはもう寝たぞ」


ジークが、奥の部屋からそっと戻ってきた。


彼は私の隣に座ると、大きな手で私の肩を優しく揉みほぐしてくれる。


「ありがとうございます、ジークさん。……子供たちの寝顔、見ました?」


「ああ。……二人とも、お前に似て寝相が悪くて助かるよ」


「失礼ね。私は淑女教育の賜物で、寝ている間も微動だにしませんわよ(多分)」


私は眼鏡をかけ直し、ジークの顔をまじまじと見つめた。


眼鏡越しに見る夫の顔は、出会った頃よりも少し目尻のシワが増えたけれど、その分、深みのある良い顔になっている。


「……なんだよ、そんなに見つめて」


「いえ。……改めて、いい男を捕まえたなと思って」


「……お前なぁ」


ジークは照れくさそうに鼻をこすり、私の肩を抱き寄せた。


窓の外には、静かな辺境の森が広がっている。


かつては「魔境」と恐れられ、私も「呪われた令嬢」として追放されたこの場所。


「ジークさん。……あの日、殿下に婚約破棄されて、本当に良かったですわ」


「……物騒な言い方をするな。だが、そうだな。……あの日、お前が俺を『玄関マット』扱いしてくれなかったら、今の俺はいない」


「ふふ。……すべては、私の目が悪かったおかげね」


私は立ち上がり、テラスへと出た。


夕闇が迫る中、遠くの山並みがうっすらと紫に霞んでいる。


私はふと、眼鏡を外してみた。


途端に、世界は輪郭を失い、柔らかな光の塊へと変わる。


私は目を細め、眉間にシワを寄せ、極限まで視神経を集中させて、その「ボヤけた幸福」を凝視した。


「……おい、ミール。またやってるぞ」


ジークが後ろから苦笑いしながら声をかけてくる。


「なにがです?」


「その顔だ。……知らない奴が見たら、今から魔王軍に単身殴り込みに行く決戦直前の勇者にしか見えないぞ。殺気が溢れ出てる」


「失礼ね。私はただ、夕日が綺麗だな……としみじみ思っていただけですわよ」


「その『しみじみ』が、周囲には『地獄の宣告』に見えるんだ。……ほら、眼鏡をかけろ」


ジークが私の手から眼鏡を取り、優しく私の顔に戻した。


カチャリ。


再び、世界が鮮明になる。


「……ああ、やっぱり。ジークさんの言う通り、夕日は本当に綺麗でしたわ」


「だろう?」


ジークは私の横に並び、同じ空を見上げた。


「……悪役令嬢、なんて呼ばれて。……家も、身分も、婚約者も失って。……それでも、お前は自分の力で、この景色を手に入れたんだ」


「ええ。……これからは、この景色をずっと守っていきますわ。……定食屋の利益と、フライパンの重みにかけて」


「……お前らしいよ、本当に」


私たちは、どちらからともなく手を繋いだ。


ぼやけていた未来も、今はこの眼鏡のように、はっきりと見えている。


明日も、明後日も。


私は厨房で鍋を振り、ジークは皿を洗い、子供たちは元気に森を駆け回るだろう。


「……あ、ジークさん」


「なんだ?」


「あそこの茂み。……明日の朝食用のキノコが自生しているのを見つけましたわ」


「…………お前、あんな遠くのキノコまで見えるのか?」


「ええ。……私の眼鏡は、幸せと食材を見逃さないんですもの」


私は眼鏡をクイッと押し上げ、満足げに微笑んだ。


悪役令嬢ミールの物語は、ここで一旦おしまい。


けれど、彼女の「美味しい逆転劇」は、これからもずっと、お腹がいっぱいになるまで続いていく。


辺境の森に、平和な笑い声が響き渡る。


今日も視界良好。……そして、商売繁盛。
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