略奪ヒロインが「王子の顔以外無理」と言ったので、絶対に破棄されません!

パリパリかぷちーの

文字の大きさ
5 / 28

5

しおりを挟む
「……さて、今日から私は『普通の令嬢』として生きていくわ」

断罪パーティーから一夜明け、私は公爵邸の自室で鏡に向かって宣言した。

これまでの私は、殿下の関心を引くために派手なドレスを選び、釣り上がるほどキツいメイクを施していた。
だが、そんな努力はもうおしまい。

私は侍女に命じて、極めて地味――もとい、落ち着いた色合いのドレスを用意させた。
髪も巻かずにストレート。メイクも「血色が良く見える程度」に抑える。

「お嬢様……本当に、あのギラギラした黄金の刺繍ドレスは捨ててもよろしいのですか?」

「ええ、捨ててちょうだい。あれは私の暗黒時代の遺物よ。これからは『背景に溶け込む女』を目指すの」

そう。殿下のようなナルシストは、自分と同じくらいキラキラしているか、あるいは自分を全力で否定する「強い敵」にしか興味を示さない。

ならば、私はそのどちらでもない、ただの「無害な空気」になればいいのだ。

そうすれば、殿下も自然と私に飽き、平和に婚約関係だけが維持される(実家のために)。

そう意気揚々と学園へ向かった私だったが、校門をくぐった瞬間に、目の前に巨大な「壁」が立ちはだかった。

「……おはよう、リリン。昨夜は一睡もできなかったようじゃないか」

そこにいたのは、今日も今日とて後光が射しているリュカ殿下だった。
彼は私の顔をまじまじと見つめ、なぜか満足そうに頷く。

「殿下……おはようございます。一睡もできなかったどころか、昨夜は枕を高くして熟睡いたしましたわ。あまりに安眠できたので、少し顔がむくんでいるかもしれませんわね」

「ふっ、嘘をつかなくてもいい。その薄いメイク……僕を失う恐怖で、化粧をする手も震えていたんだろう? そしてその地味な装い。僕という太陽を失った世界が、君にはモノクロに見えているという抗議だね。分かっているよ」

「……は?」

私は思わず、公爵令嬢にあるまじき素っ頓狂な声を上げてしまった。

何をどう解釈したら、この「手抜きメイク」が「悲しみのモノクローム」になるというのか。
この男の脳内変換フィルター、そろそろ修理に出した方がいいのではないだろうか。

「いえ、殿下。これは単に、最近の流行りを取り入れた『ナチュラルスタイル』というものでして……」

「隠さなくていい。君の沈黙は、雄弁に僕への未練を語っている。昨夜の断罪があまりに完璧すぎて、君は自分を見失ってしまったんだね。いいだろう、少しだけ僕の隣を歩く権利を許可しよう。リリン、君の心の傷を癒せるのは、世界で僕だけだからね」

「いえ、結構です。私、これから図書館で『土壌の改良について』という極めて地味な本を読む予定ですので」

「土壌の改良……。僕との愛を育むための、新しいステージの暗喩だね! 素晴らしいよ、リリン!」

ダメだ。話が通じない。
私が「普通」になればなるほど、彼はそれを「高度な愛の表現」だと勘違いし始めている。

助けを求めて周囲を見渡すと、遠くの校舎の影から、マリエル様が半泣きでこちらを見ていた。

(リリン様! 殿下を回収してください! 朝から私の寮の窓下で『愛のセレナーデ』を歌われて、近所迷惑なんです!)

彼女の必死なジェスチャーを読み取り、私は深く溜息をついた。
どうやら、私の「普通」作戦は、開始数分で暗礁に乗り上げたらしい。

「殿下、マリエル様がお呼びですよ。ほら、あちらであなたの『輝き』を求めて震えていらっしゃいます」

「おや、マリエル。彼女も僕の不在に耐えられなかったんだね。困ったな、僕は一人しかいないのに」

殿下がマリエル様の方へ向かおうとした時、横からガシッと彼の肩を掴む手があった。

「殿下、そろそろ講義の時間です。……リリン、お前も。いつまで殿下を足止めしている」

エリオットだった。
彼は殿下を物理的に引き剥がし、私に呆れたような視線を送る。

「エリオット! 私は足止めなんてしていませんわ。むしろ、全力で背中を押していたところよ」

「そうか。お前のその『ナチュラル』とやらは、どう見ても『やる気ゼロ』にしか見えんがな。……まあ、そっちの方がマシだが」

エリオットは小声で付け加え、殿下をずるずると引きずっていく。

「待て、エリオット! 僕という芸術を講義室という檻に閉じ込めるつもりか! リリン、また後で会おう。僕の残像を胸に焼き付けておくんだよ!」

嵐のような男たちが去っていき、現場には私と、へなへなと座り込んだマリエル様だけが残された。

「……リリン様。私、もう転校したいです」

「しっかりなさい、マリエル様。戦いはまだ始まったばかりよ。……次は、もっと『つまらない女』を演出する必要がありそうね」

私は拳を握りしめた。
悪役令嬢を廃業した私の、次なる肩書きは「世界一退屈な女」だ。

これなら、流石の殿下も鏡の中の自分を見ている方がマシだと気づくはず。……だといいのだけれど。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

悪役令嬢まさかの『家出』

にとこん。
恋愛
王国の侯爵令嬢ルゥナ=フェリシェは、些細なすれ違いから突発的に家出をする。本人にとっては軽いお散歩のつもりだったが、方向音痴の彼女はそのまま隣国の帝国に迷い込み、なぜか牢獄に収監される羽目に。しかし無自覚な怪力と天然ぶりで脱獄してしまい、道に迷うたびに騒動を巻き起こす。 一方、婚約破棄を告げようとした王子レオニスは、当日にルゥナが失踪したことで騒然。王宮も侯爵家も大混乱となり、レオニス自身が捜索に出るが、恐らく最後まで彼女とは一度も出会えない。 ルゥナは道に迷っただけなのに、なぜか人助けを繰り返し、帝国の各地で英雄視されていく。そして気づけば彼女を慕う男たちが集まり始め、逆ハーレムの中心に。だが本人は一切自覚がなく、むしろ全員の好意に対して煙たがっている。 帰るつもりもなく、目的もなく、ただ好奇心のままに彷徨う“無害で最強な天然令嬢”による、帝国大騒動ギャグ恋愛コメディ、ここに開幕!

謹んで、婚約破棄をお受けいたします。

パリパリかぷちーの
恋愛
きつい目つきと素直でない性格から『悪役令嬢』と噂される公爵令嬢マーブル。彼女は、王太子ジュリアンの婚約者であったが、王子の新たな恋人である男爵令嬢クララの策略により、夜会の場で大勢の貴族たちの前で婚約を破棄されてしまう。

「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚

ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。 ※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。

完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。 王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。 貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。 だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

牢で死ぬはずだった公爵令嬢

鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。 表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。 小説家になろうさんにも投稿しています。

ループ7回目の公爵令嬢は、もう恋愛も復讐も面倒なので、前世の知識で「魔導カフェ」を開き、異世界初のバリスタになります

希羽
恋愛
公爵令嬢アリスは、婚約破棄されて処刑される人生を6回繰り返してきた。7回目の人生が始まった瞬間、彼女は悟る。「もう何もかも面倒くさい」。 復讐も、破滅回避のための奔走も、王子への媚びもすべて放棄。彼女は早々に家を出奔し、市井の片隅で、前世(現代日本)の知識を活かした「魔導カフェ」を開店する。彼女が淹れる「魔力を込めたコーヒー」と、現代風の軽食(ふわふわパンケーキ、サンドイッチ)は、疲れた王都の人々の心を掴み、店は繁盛する。 すると、本来なら敵対するはずの王子や、ゲームの隠しキャラである暗殺者、堅物の騎士団長などが、「癒やし」を求めてカフェに入り浸るように。「君の淹れるコーヒーだけが私の安らぎだ」と勝手に好感度を上げてくる彼らを、アリスは「ただの客」としてドライにあしらうが、その媚びない態度と居心地の良さが、逆に彼らの執着を煽ってしまう。恋愛を捨てたはずが、過去最高のモテ期が到来していた。 ※本作は「小説家になろう」でも投稿しています。

処理中です...