塩対応の悪役令嬢ですが、婚約破棄?わかりましたわ。

パリパリかぷちーの

文字の大きさ
27 / 32

27

しおりを挟む
『聖女』の皮を被った売国奴、アイラ・ミモザは、全ての罪が白日の下に晒され、別邸の一室に拘束された。
そして、彼女の甘言に踊らされ続けた愚かな王太子、ユリウス殿下は、あまりの衝撃に、完全に魂が抜け落ちた抜け殻のようになってしまっていた。

辺境の地はひとまずの勝利。そして、あまりにもおぞましい裏切りの発覚に静かな混乱が渦巻いていた。
しかし、感傷に浸っている時間はない。
ガルニア帝国の脅威が完全に去ったわけではないのだ。

アレクシス様は、すぐさま、最も信頼の置ける腹心の騎士に、アイラ嬢の身柄と鷲ノ巣砦での一部始終を記した詳細極まる報告書を持たせ王都へと急行させた。
わたくしもまた、父であるヴェルナー公爵に宛てて、これまでの経緯と今後の国の行く末を案ずる切々とした思いを綴った手紙をその騎士に託した。



辺境からの、あまりにも衝撃的な知らせは、まるで静かな水面に投げ込まれた巨大な岩のように王都に大きな大きな波紋を広げた。

アレクシスの報告書と、生きた『売国奴』という動かぬ証拠。
それらが王宮に届けられると、これまでユリウス殿下とアイラ嬢の顔色ばかりを窺っていた貴族たちは一転して蜂の巣をつついたような大騒ぎとなった。

「馬鹿な!あの清らかで、心優しいアイラ様が売国奴などと!」
「しかし、シュライバー卿の報告書だぞ。あの、謹厳実直な氷の騎士が嘘偽りを書くはずがない……」
「砦の裏切り者の自白もあるというではないか……!」

最初は、誰もが信じようとしなかった。
あの、誰もが愛し、誰もが守ってあげたいと願った聖女のような少女が隣国と通じ、この国を破滅の淵へと追いやろうとしていたなどと。
しかし、押収されたアイラ嬢の自室から見つかった、ガルニア帝国の密偵との通信記録と思わしき暗号化された手紙の数々。
それらの、動かぬ物的証拠を前に、誰もが沈黙せざるを得なかった。

事態を何よりも重く見たのは、国王陛下だった。
これまで、体調不良を理由に政務から遠ざかっていた陛下だったが、父、ヴェルナー公爵からの魂の説得と、今回の国家を揺るがすあまりにもおぞましい裏切りの発覚についに、重い重い腰を上げたのだ。

国王陛下の名において、正式な公式な審問会が開かれることが決定された。
その場には、この国の全ての有力貴族たちが召集された。
もちろんその中には、もはや、その権威も威光も完全に失墜した王太子ユリウスの姿もあった。



王城の、最も格式高い玉座の間。
そこが、断罪の舞台となった。

罪人として、その中央に引き据えられたアイラ嬢は、もはや、あの日の可憐な少女の面影はどこにもなかった。
ただ、血の気の失せた顔で小刻みに震えているだけだった。

アレクシス様の報告書が、侍従長によって朗々と読み上げられる。
一つ、また一つと、彼女の醜悪な罪状が暴かれていくたびに広間に集った貴族たちから驚きと、怒りのどよめきが起こった。

「そ、そんな……! 嘘ですわ! 全て、全て、わたくしを陥れるための、リリアンヌ様の、罠ですのよ!」

アイラ嬢は、最後の悪あがきとばかりに、見苦しくそう喚き立てた。
しかし、その虚しい悲鳴に、もはや耳を貸す者は誰一人としていなかった。

そして、次に糾弾の鋭い矛先は、玉座の脇に力なく立ち尽くすユリウス殿下へと向けられた。
その糾弾の役を買って出たのは、わたくしの父ヴェルナー公爵だった。

「ユリウス王太子殿下」

その声は静かだったが、鋼のように冷たくそして強かった。

「貴方は、この国の次期国王となるべきお方。しかし、貴方がこれまで行ってきた所業の数々……!」

父は、一つ一つその罪を列挙していく。
国の危機を知らせる重要な報告を、己の個人的な感情によって握り潰した罪。
稀代の売国奴である、一人の少女の甘言を鵜呑みにし国政を取り返しのつかないほど混乱させた罪。
王太子としての、最も、重要な責務を、完全に放棄し、民の血税を、己の、快楽のために、浪費し続けた罪。
そして。

「真に、この国を思う、忠臣の言葉に、耳を貸さず、この国の、未来の、宝となるべき、有能な妃候補を、何の、確たる証拠も、ないまま、私情によって、断罪し、追放した、その、大罪!」

ユリウス殿下は、顔面蒼白のまま、何も、言い返すことが、できなかった。
彼は、ようやく、この国の、全ての、貴族たちの、その、軽蔑に満ちた、視線の中で、自分が、どれほどまでに、愚かであったかを、その、骨の髄まで、思い知らされたのだ。

やがて。
玉座に座る、国王陛下が、苦渋に満ちた、しかし、どこまでも、厳かな声で、その、判決を、下した。

「―――アイラ・ミモザ、及び、その、売国行為に、加担した、全ての者たちを、国家反逆罪により、終生、北の果ての、黒の塔に、幽閉するものとする!」

そして。

「王太子、ユリウス・アーク・レオンハルト!」

国王は、自らの、息子の名を、呼んだ。

「そなたは、もはや、この国の、次期国王たる、資格なし! よって、本日、この時をもって、そなたを、王太子の位から、廃嫡する! 今後は、一王子として、西の離宮にて、生涯、己の罪を、悔い改めるがよい!」

『廃嫡』。
その、あまりにも重い、重い、一言が玉座の間に響き渡った。
断罪の鐘の音が、鳴り響いたのだ。

その知らせが辺境の地にいるわたくしたちの元に届いたのは、それから、数日後のことだった。
わたくしは、元婚約者のその哀れな末路に喜びも悲しみも感じなかった。
ただ、この国がようやく正しい道へと戻るであろうことに安堵のため息を一つついただけだった。

隣に立つアレクシス様が、そんなわたくしの横顔をただ静かに、静かに見守っていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

婚約破棄ありがとう!と笑ったら、元婚約者が泣きながら復縁を迫ってきました

ほーみ
恋愛
「――婚約を破棄する!」  大広間に響いたその宣告は、きっと誰もが予想していたことだったのだろう。  けれど、当事者である私――エリス・ローレンツの胸の内には、不思議なほどの安堵しかなかった。  王太子殿下であるレオンハルト様に、婚約を破棄される。  婚約者として彼に尽くした八年間の努力は、彼のたった一言で終わった。  だが、私の唇からこぼれたのは悲鳴でも涙でもなく――。

「身分が違う」って言ったのはそっちでしょ?今さら泣いても遅いです

ほーみ
恋愛
 「お前のような平民と、未来を共にできるわけがない」  その言葉を最後に、彼は私を冷たく突き放した。  ──王都の学園で、私は彼と出会った。  彼の名はレオン・ハイゼル。王国の名門貴族家の嫡男であり、次期宰相候補とまで呼ばれる才子。  貧しい出自ながら奨学生として入学した私・リリアは、最初こそ彼に軽んじられていた。けれど成績で彼を追い抜き、共に課題をこなすうちに、いつしか惹かれ合うようになったのだ。

当て馬令嬢は自由を謳歌したい〜冷酷王子への愛をゴミ箱に捨てて隣国へ脱走したら、なぜか奈落の底まで追いかけられそうです〜

平山和人
恋愛
公爵令嬢エルナは、熱烈に追いかけていた第一王子シオンに冷たくあしらわれ、挙句の果てに「婚約者候補の中で、お前が一番あり得ない」と吐き捨てられた衝撃で前世の記憶を取り戻す。 そこは乙女ゲームの世界で、エルナは婚約者選別会でヒロインに嫌がらせをした末に処刑される悪役令嬢だった。 「死ぬのも王子も、もう真っ平ご免です!」 エルナは即座に婚約者候補を辞退。目立たぬよう、地味な領地でひっそり暮らす準備を始める。しかし、今までエルナを蔑んでいたはずのシオンが、なぜか彼女を執拗に追い回し始め……? 「逃げられると思うなよ。お前を俺の隣以外に置くつもりはない」 「いや、記憶にあるキャラ変が激しすぎませんか!?」

婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。

桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。 「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」 「はい、喜んで!」  ……えっ? 喜んじゃうの? ※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。 ※1ページの文字数は少な目です。 ☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」  セルビオとミュリアの出会いの物語。 ※10/1から連載し、10/7に完結します。 ※1日おきの更新です。 ※1ページの文字数は少な目です。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年12月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!

みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。 幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、 いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。 そして――年末の舞踏会の夜。 「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」 エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、 王国の均衡は揺らぎ始める。 誇りを捨てず、誠実を貫く娘。 政の闇に挑む父。 陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。 そして――再び立ち上がる若き王女。 ――沈黙は逃げではなく、力の証。 公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。 ――荘厳で静謐な政略ロマンス。 (本作品は小説家になろうにも掲載中です)

【完結】私が誰だか、分かってますか?

美麗
恋愛
アスターテ皇国 時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった 出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。 皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。 そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。 以降の子は妾妃との娘のみであった。 表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。 ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。 残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。 また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。 そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか… 17話完結予定です。 完結まで書き終わっております。 よろしくお願いいたします。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

処理中です...