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「ぜーんぶ、あんたが、この『バカ王子』だったせいでしょうが!」
リリア・ベルの本性から放たれた、最後の、決定的な一撃。
アラン・クライネルトは、床に崩れ落ちたまま、虚ろな瞳で虚空を見つめ、完全に沈黙した。
『真紅の会議室』は、地獄のような静寂に包まれた。
リリアの、荒い息遣いだけが、響いている。
彼女もまた、すべてを暴露し尽くし、怒りと恐怖で、肩を震わせていた。
重臣たちは、顔面蒼白で、声も出ない。
(王太子が、ここまで愚かだったとは)
(そして、あの可憐なリリア嬢が、ここまで悪辣だったとは)
(いや、それより、あのシュバルツ公爵令嬢(ルーメ)は、すべてお見通しだった……?)
全員の視線が、上座の国王に集まる。
国王は、玉座に深く沈み込んだまま、微動だにしなかった。
その顔は、怒りを通り越し、深い、深い疲労と、王としての苦悩に満ちていた。
やがて、国王は、ゆっくりと、その重い口を開いた。
その声は、乾いていて、何の感情も含まれていなかった。
「……リリア・ベル」
「ひっ……!」
リリアの肩が、ビクンと跳ねた。
彼女は、そこでようやく、自分が、取り返しのつかないことをしたと、本能で悟った。
国王の目が、もはや、自分を「か弱い少女」としてではなく、「裁くべき罪人」として見ていることに。
「へ、陛下……! ち、違いますの! 今のは……!」
リリアは、慌てて、再び「か弱いヒロイン」の仮面を被ろうとした。
「わ、わたくし、混乱して……! きっと、この女(ルーメ)に、何か、恐ろしい魔法でも、かけられたに違いありませんわ!」
「……」
その、あまりにも見苦しい、最後の悪あがき。
それに、静かに(しかし、はっきりと)ツッコミを入れたのは、やはり、ルーメだった。
「まあ、リリア様」
ルーメは、徹夜明けのあくびを、優雅に手で隠しながら、言った。
「わたくし、魔法使いではございませんのよ。わたくしが使えますのは、せいぜい、シュバルツ公爵家式の『予算管理術』くらいですわ」
「(……それが、もはや、魔法より恐ろしいわ)」
重臣たちの、心の声が、一つになった。
「わたくしに、罪をなすりつけようとなさるのは、もう、おやめになったら?」
ルーメは、心底、面倒くさそうに言った。
「貴女様のご趣味(賄賂)と、ご特技(捏造)のせいで、わたくし、睡眠時間を削られて、非常に迷惑しておりますの」
「ぐ……っ!」
リリアは、もはや、返す言葉もない。
国王は、その、これ以上ないほど醜悪なやり取りを、冷たく見下ろしていた。
そして、彼は、まず、床に崩れ落ちたままの、自分の息子に、視線を向けた。
「……アラン」
「……」
虚ろな瞳のアランが、父の声に、ゆっくりと顔を上げる。
その顔には、もはや、何の光もなかった。
「……父上」
「これ以上、聞くことはない」
国王の声は、非情だった。
「お前は、王太子の器ではない。いや、それ以前に、王族としての、最低限の『責務』と『誇り』を、理解していなかった」
「……」
「お前は、己の感情のままに、一人の女の、浅はかな『嘘』に踊らされ」
国王は、ルーメのほうを一瞥した。
「……王家にとって、最も必要であった『真実』を、自らの手で、公衆の面前で、切り捨てた」
「……あ」
アランは、ようやく、自分が、本当に、何をしてしまったのかを、理解し始めた。
国王は、厳かに、その裁定を、宣言した。
「アラン・フォン・クライネルト」
「……」
「お前を、本日付をもち、王太子より『廃嫡』する」
「……!」
アランの肩が、大きく震えた。
わかってはいた。わかってはいたが、いざ、父の口から、その決定的な言葉を突きつけられると、現実の重みが、アランの全身を打ちのめした。
「お前の言う『王子様ごっこ』に、これ以上、この国を、民を、付き合わせるわけにはいかん」
「……」
「王位継承権は、第二王子(アランの弟)に移譲する。お前は、北の修道院へ行け」
「……しゅう、どういん……」
「そうだ。そこで、己の愚かさとは何か。そして、お前が踏みにじった『責務』とは、何だったのかを」
国王は、そこで、言葉を切った。
「……一生かけて、学び直すがよい」
アランは、もはや、反論する気力も、泣き叫ぶ資格もなかった。
ただ、その場で、深く、深く、うなだれた。
「……はい」
それが、アランが、王子として発した、最後の言葉だった。
「さて」
国王は、次に、その冷徹な視線を、真っ白になって震える、リリア・ベルに向けた。
「リリア・ベル」
「ひっ! あ、あ、あ……!」
「王家の権威を私的に利用し、不正に蓄財を行った、賄賂の罪」
「……」
「王太子を唆し、国家の秩序を、著しく乱した罪」
「……」
「そして、シュバルツ公爵家に対し、虚偽の罪(横領)を捏造し、王家と司法を、愚弄した大罪」
国王は、静かに、宣告した。
「……万死に、値するな」
「い、いやあああああああ!!!」
その言葉を聞いた瞬間、リリアは、ついに、完全に理性を失った。
淑女の仮面も、美貌も、何もかもかなぐり捨て、床に四つん這いになり、国王の足元へ、這い寄ろうとした。
「死にたくない! 死にたくないですわ! 陛下! お慈悲を! お慈悲をぉ!」
見苦しい命乞いだった。
「衛兵! こやつを、地下牢へ!」
国王が、そう命じようとした、その時。
「……陛下」
またしても、あの、涼やかな声が、響いた。
ルーメだった。
「……なんだ、ルーメ嬢」
ルーメは、心底、眠そうに、目をこすりながら、言った。
「その方を、断頭台にお送りあそばすと、後片付けが、面倒ではございませんか?」
「(……そこか!? やはり、そこなのか!?)」
重臣たちの、心が、また一つになった。
「血の匂いは、後々まで、王宮の威厳に関わりますわ。それより」
ルーメは、カイトが提出した『賄賂の証拠』を、トン、と指差した。
「彼女が不正に蓄財した、あのお金。きっちり、全額、没収しませんと」
「……」
「ベル子爵家も、連座で、爵位剥奪、全財産没収の上、平民とし。そのすべてを、王家と、彼女が騙した商人たちへの、賠償に充てるのが、筋かと」
「な……! い、いや! 実家だけは! お父様とお母様は、関係ない……!」
リリアが、初めて、血の気の引いた顔で、抗議した。
死刑よりも、家の『取り潰し』の方が、貴族にとっては、恐ろしい罰だった。
「ふむ」
国王は、ルーメの(あまりにも、合理的で、えげつない)提案に、深く、頷いた。
「……ルーメ嬢の言う通りだ。死をもって償わせるなど、生ぬるすぎる」
国王は、衛兵たちに、最終的な命令を下した。
「衛兵! リリア・ベルを捕らえよ!」
「はっ!」
会議室の扉が開き、屈強な衛兵たちが、なだれ込んできた。
「い、いや……! 離して!」
「リリア・ベル! 貴様の爵位は、本日付で剥奪! ベル子爵家は、全財産没収とする!」
「いやあああああ! お父様! お母様!」
「貴様は! その罪を償うため、一生、王家の北の鉱山で、強制労働に従事せよ!」
「こ、鉱山!? 泥まみれに……!? この、わたくしが!?」
「連れて行け!」
「いやああああああああーーーーー!!!」
リリア・ベルの、最後の、絶叫。
それは、もはや、誰の耳にも、届かなかった。
衛兵たちは、泣き叫び、暴れるリリアの両脇を、容赦なく抱え上げる。
そして、床に崩れ落ち、虚無の表情のまま、動かないアランの腕も掴み、二人を、会議室から、無慈悲に引きずり出していった。
「いやー! 離しなさいよ! この下賤の者があああっ!」
リリアの金切り声が、廊下に、遠ざかっていく。
バタン。
重厚な扉が閉められ、会議室に、ようやく、本当の静寂が、訪れた。
「……ふう」
ルーメは、その静寂の中で、ぽつりと、呟いた。
「やっと、静かになりましたわね」
リリア・ベルの本性から放たれた、最後の、決定的な一撃。
アラン・クライネルトは、床に崩れ落ちたまま、虚ろな瞳で虚空を見つめ、完全に沈黙した。
『真紅の会議室』は、地獄のような静寂に包まれた。
リリアの、荒い息遣いだけが、響いている。
彼女もまた、すべてを暴露し尽くし、怒りと恐怖で、肩を震わせていた。
重臣たちは、顔面蒼白で、声も出ない。
(王太子が、ここまで愚かだったとは)
(そして、あの可憐なリリア嬢が、ここまで悪辣だったとは)
(いや、それより、あのシュバルツ公爵令嬢(ルーメ)は、すべてお見通しだった……?)
全員の視線が、上座の国王に集まる。
国王は、玉座に深く沈み込んだまま、微動だにしなかった。
その顔は、怒りを通り越し、深い、深い疲労と、王としての苦悩に満ちていた。
やがて、国王は、ゆっくりと、その重い口を開いた。
その声は、乾いていて、何の感情も含まれていなかった。
「……リリア・ベル」
「ひっ……!」
リリアの肩が、ビクンと跳ねた。
彼女は、そこでようやく、自分が、取り返しのつかないことをしたと、本能で悟った。
国王の目が、もはや、自分を「か弱い少女」としてではなく、「裁くべき罪人」として見ていることに。
「へ、陛下……! ち、違いますの! 今のは……!」
リリアは、慌てて、再び「か弱いヒロイン」の仮面を被ろうとした。
「わ、わたくし、混乱して……! きっと、この女(ルーメ)に、何か、恐ろしい魔法でも、かけられたに違いありませんわ!」
「……」
その、あまりにも見苦しい、最後の悪あがき。
それに、静かに(しかし、はっきりと)ツッコミを入れたのは、やはり、ルーメだった。
「まあ、リリア様」
ルーメは、徹夜明けのあくびを、優雅に手で隠しながら、言った。
「わたくし、魔法使いではございませんのよ。わたくしが使えますのは、せいぜい、シュバルツ公爵家式の『予算管理術』くらいですわ」
「(……それが、もはや、魔法より恐ろしいわ)」
重臣たちの、心の声が、一つになった。
「わたくしに、罪をなすりつけようとなさるのは、もう、おやめになったら?」
ルーメは、心底、面倒くさそうに言った。
「貴女様のご趣味(賄賂)と、ご特技(捏造)のせいで、わたくし、睡眠時間を削られて、非常に迷惑しておりますの」
「ぐ……っ!」
リリアは、もはや、返す言葉もない。
国王は、その、これ以上ないほど醜悪なやり取りを、冷たく見下ろしていた。
そして、彼は、まず、床に崩れ落ちたままの、自分の息子に、視線を向けた。
「……アラン」
「……」
虚ろな瞳のアランが、父の声に、ゆっくりと顔を上げる。
その顔には、もはや、何の光もなかった。
「……父上」
「これ以上、聞くことはない」
国王の声は、非情だった。
「お前は、王太子の器ではない。いや、それ以前に、王族としての、最低限の『責務』と『誇り』を、理解していなかった」
「……」
「お前は、己の感情のままに、一人の女の、浅はかな『嘘』に踊らされ」
国王は、ルーメのほうを一瞥した。
「……王家にとって、最も必要であった『真実』を、自らの手で、公衆の面前で、切り捨てた」
「……あ」
アランは、ようやく、自分が、本当に、何をしてしまったのかを、理解し始めた。
国王は、厳かに、その裁定を、宣言した。
「アラン・フォン・クライネルト」
「……」
「お前を、本日付をもち、王太子より『廃嫡』する」
「……!」
アランの肩が、大きく震えた。
わかってはいた。わかってはいたが、いざ、父の口から、その決定的な言葉を突きつけられると、現実の重みが、アランの全身を打ちのめした。
「お前の言う『王子様ごっこ』に、これ以上、この国を、民を、付き合わせるわけにはいかん」
「……」
「王位継承権は、第二王子(アランの弟)に移譲する。お前は、北の修道院へ行け」
「……しゅう、どういん……」
「そうだ。そこで、己の愚かさとは何か。そして、お前が踏みにじった『責務』とは、何だったのかを」
国王は、そこで、言葉を切った。
「……一生かけて、学び直すがよい」
アランは、もはや、反論する気力も、泣き叫ぶ資格もなかった。
ただ、その場で、深く、深く、うなだれた。
「……はい」
それが、アランが、王子として発した、最後の言葉だった。
「さて」
国王は、次に、その冷徹な視線を、真っ白になって震える、リリア・ベルに向けた。
「リリア・ベル」
「ひっ! あ、あ、あ……!」
「王家の権威を私的に利用し、不正に蓄財を行った、賄賂の罪」
「……」
「王太子を唆し、国家の秩序を、著しく乱した罪」
「……」
「そして、シュバルツ公爵家に対し、虚偽の罪(横領)を捏造し、王家と司法を、愚弄した大罪」
国王は、静かに、宣告した。
「……万死に、値するな」
「い、いやあああああああ!!!」
その言葉を聞いた瞬間、リリアは、ついに、完全に理性を失った。
淑女の仮面も、美貌も、何もかもかなぐり捨て、床に四つん這いになり、国王の足元へ、這い寄ろうとした。
「死にたくない! 死にたくないですわ! 陛下! お慈悲を! お慈悲をぉ!」
見苦しい命乞いだった。
「衛兵! こやつを、地下牢へ!」
国王が、そう命じようとした、その時。
「……陛下」
またしても、あの、涼やかな声が、響いた。
ルーメだった。
「……なんだ、ルーメ嬢」
ルーメは、心底、眠そうに、目をこすりながら、言った。
「その方を、断頭台にお送りあそばすと、後片付けが、面倒ではございませんか?」
「(……そこか!? やはり、そこなのか!?)」
重臣たちの、心が、また一つになった。
「血の匂いは、後々まで、王宮の威厳に関わりますわ。それより」
ルーメは、カイトが提出した『賄賂の証拠』を、トン、と指差した。
「彼女が不正に蓄財した、あのお金。きっちり、全額、没収しませんと」
「……」
「ベル子爵家も、連座で、爵位剥奪、全財産没収の上、平民とし。そのすべてを、王家と、彼女が騙した商人たちへの、賠償に充てるのが、筋かと」
「な……! い、いや! 実家だけは! お父様とお母様は、関係ない……!」
リリアが、初めて、血の気の引いた顔で、抗議した。
死刑よりも、家の『取り潰し』の方が、貴族にとっては、恐ろしい罰だった。
「ふむ」
国王は、ルーメの(あまりにも、合理的で、えげつない)提案に、深く、頷いた。
「……ルーメ嬢の言う通りだ。死をもって償わせるなど、生ぬるすぎる」
国王は、衛兵たちに、最終的な命令を下した。
「衛兵! リリア・ベルを捕らえよ!」
「はっ!」
会議室の扉が開き、屈強な衛兵たちが、なだれ込んできた。
「い、いや……! 離して!」
「リリア・ベル! 貴様の爵位は、本日付で剥奪! ベル子爵家は、全財産没収とする!」
「いやあああああ! お父様! お母様!」
「貴様は! その罪を償うため、一生、王家の北の鉱山で、強制労働に従事せよ!」
「こ、鉱山!? 泥まみれに……!? この、わたくしが!?」
「連れて行け!」
「いやああああああああーーーーー!!!」
リリア・ベルの、最後の、絶叫。
それは、もはや、誰の耳にも、届かなかった。
衛兵たちは、泣き叫び、暴れるリリアの両脇を、容赦なく抱え上げる。
そして、床に崩れ落ち、虚無の表情のまま、動かないアランの腕も掴み、二人を、会議室から、無慈悲に引きずり出していった。
「いやー! 離しなさいよ! この下賤の者があああっ!」
リリアの金切り声が、廊下に、遠ざかっていく。
バタン。
重厚な扉が閉められ、会議室に、ようやく、本当の静寂が、訪れた。
「……ふう」
ルーメは、その静寂の中で、ぽつりと、呟いた。
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