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数日後、私は父と共にヴァレンティン公爵家の屋敷を訪れていた。新しい婚約者、アンテル様との正式な顔合わせのためだ。
通された応接室は、調度品の一つ一つが気品と歴史を物語っていた。やがて、扉が開き、公爵夫妻と、一人の青年が入室する。
銀に近いプラチナブロンドの髪。そして、見る者を射抜くような、凍てつく湖面の色を宿した瞳。整いすぎた顔立ちは、まるで精巧な彫刻のようだった。
彼が、アンテル・ド・ヴァレンティン。
その存在感に、一瞬、息を呑む。噂に聞いていた以上の冷ややかさを、彼は全身から放っていた。
「レノア・フォン・ラングハイムです。この度は、よろしくお願いいたします」
カーテシーと共に、できる限り穏やかな声で挨拶をする。
アンテル様は、私を一瞥しただけで、小さく頷いた。声を発することすらない。その態度に、公爵夫妻がやんわりと彼を促す。
「アンテル。ご挨拶なさい」
「……アンテル・ド・ヴァレンティンだ」
低く、温度のない声。それが、彼が私にかけた最初の言葉だった。
「これはあくまで、家のための契約だ。互いに、余計な期待はしないでもらいたい」
初対面の婚約者にかける言葉としては、あまりにも率直で、冷酷だった。公爵夫妻が慌てたように取り繕う。
「こ、こら、アンテル!レノア嬢に失礼だろう!」
「事実を述べたまでです、父上」
彼は悪びれる様子もなく言い放つ。その揺るぎない態度に、私は逆に冷静さを取り戻した。そう、彼は最初から線を引いてくれている。ならば、こちらもその方がやりやすい。
「アンテル様のおっしゃる通りですわ。この度の縁談は、ヴァレンティン家とラングハイム家の結びつきをより強固にするためのもの。私も、その務めを果たす所存です」
にっこりと、完璧な微笑みを浮かべて言い切る。私の返事に、今度はアンテル様がわずかに目を見開いた。そして、公爵夫妻は困惑したような、それでいてどこか感心したような表情を浮かべていた。
「互いに、役割を全うしましょう。アンテル様」
そう言って彼を見つめると、彼は初めて、まっすぐに私の瞳を見返した。その氷の瞳の奥に、ほんの一瞬、探るような光がよぎったのを、私は見逃さなかった。
この人との関係は、温かいものにはならないだろう。
けれど、契約相手としてならば、あるいは良好な関係を築けるかもしれない。
そんな予感を胸に、私は背筋を伸ばした。偽りの婚約関係が、今、静かに幕を開けた。
通された応接室は、調度品の一つ一つが気品と歴史を物語っていた。やがて、扉が開き、公爵夫妻と、一人の青年が入室する。
銀に近いプラチナブロンドの髪。そして、見る者を射抜くような、凍てつく湖面の色を宿した瞳。整いすぎた顔立ちは、まるで精巧な彫刻のようだった。
彼が、アンテル・ド・ヴァレンティン。
その存在感に、一瞬、息を呑む。噂に聞いていた以上の冷ややかさを、彼は全身から放っていた。
「レノア・フォン・ラングハイムです。この度は、よろしくお願いいたします」
カーテシーと共に、できる限り穏やかな声で挨拶をする。
アンテル様は、私を一瞥しただけで、小さく頷いた。声を発することすらない。その態度に、公爵夫妻がやんわりと彼を促す。
「アンテル。ご挨拶なさい」
「……アンテル・ド・ヴァレンティンだ」
低く、温度のない声。それが、彼が私にかけた最初の言葉だった。
「これはあくまで、家のための契約だ。互いに、余計な期待はしないでもらいたい」
初対面の婚約者にかける言葉としては、あまりにも率直で、冷酷だった。公爵夫妻が慌てたように取り繕う。
「こ、こら、アンテル!レノア嬢に失礼だろう!」
「事実を述べたまでです、父上」
彼は悪びれる様子もなく言い放つ。その揺るぎない態度に、私は逆に冷静さを取り戻した。そう、彼は最初から線を引いてくれている。ならば、こちらもその方がやりやすい。
「アンテル様のおっしゃる通りですわ。この度の縁談は、ヴァレンティン家とラングハイム家の結びつきをより強固にするためのもの。私も、その務めを果たす所存です」
にっこりと、完璧な微笑みを浮かべて言い切る。私の返事に、今度はアンテル様がわずかに目を見開いた。そして、公爵夫妻は困惑したような、それでいてどこか感心したような表情を浮かべていた。
「互いに、役割を全うしましょう。アンテル様」
そう言って彼を見つめると、彼は初めて、まっすぐに私の瞳を見返した。その氷の瞳の奥に、ほんの一瞬、探るような光がよぎったのを、私は見逃さなかった。
この人との関係は、温かいものにはならないだろう。
けれど、契約相手としてならば、あるいは良好な関係を築けるかもしれない。
そんな予感を胸に、私は背筋を伸ばした。偽りの婚約関係が、今、静かに幕を開けた。
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