「君は悪役令嬢だ!」と言われましたが、興味ありません。

パリパリかぷちーの

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パーティーの中心で、アーリヤが知的な会話の花を咲かせている。

その光景を、壇上のルキウスは、もはや無視し続けることができなかった。

(なぜだ……。なぜ、あんなにも平然としていられる……!?)

自分に捨てられた女は、悲しみにくれるかあるいは自分を憎むべきだ。

それなのに、彼女はそのどちらでもない。

まるで、自分の存在など最初から彼女の世界に存在しなかったかのように堂々とそして輝いている。

その事実が、ルキウスのプライドをひどくかき乱した。

確かめなければならない。

彼女のあの態度は、虚勢ではないのか。自分の目でそれを確かめなければ、気が済まなかった。

「リリアナ、少しだけ席を外すよ」

「えっ、ルキウス様? どこへ……」

不安げに問いかけるリリアナの手を、そっと振りほどきルキウスは壇上から降りた。

彼が、アーリヤのいる輪に向かって歩き出すと、ボールルームの喧騒が再び潮が引くように静まっていく。

モーセが海を割るように貴族たちが道を開ける。

誰もが、これから何が起こるのかを固唾をのんで見守っていた。

アーリヤの隣に控えるアッシュが、いち早く王子の接近に気づき、その身をわずかにアーリヤを守るように前に出した。

その瞳には、王子への敬意と主君を守るという揺るぎない決意が宿っている。

やがて、ルキウスはアーリヤの目の前で足を止めた。

彼は、努めて余裕のある態度を装った。かつての婚約者に対する寛大な君主であるかのように。

「アーリヤ。久しぶりだな」

その、馴れ馴れしい呼びかけに周囲の貴族たちが息をのむ。

しかし、アーリヤの反応はルキウスのその場にいた全ての人の想像を遥かに超えていた。

アーリヤは、目の前の王子を、まるで初めて見る骨董品でも鑑定するかのように数秒間無表情で見つめた。

そして、不思議そうに小さく首を傾げた。

「……申し訳ございません」

凛とした、鈴の音のような声が静まり返ったホールに響く。

「どちら様で、いらっしゃいましたか?」

「…………は?」

ルキウスは、自分が何を言われたのか、一瞬理解できなかった。

アーリヤは、困ったように隣のアッシュを振り返った。

「副団長。わたくしこの方のことを存じ上げません。私の記憶データベースに該当するデータが見当たらないのですが。あなたはご存知?」

その無邪気な問いかけにアッシュは表情一つ変えずに答えた。

「はっ。こちらにおわすはアークライト王国第一王子のルキウス殿下です。アーリヤ様」

「まあ、王子殿下でいらっしゃいましたか。これは、大変失礼を」

アーリヤは、そこで初めて完璧なカーテシーをとってみせた。

だが、その一連のやり取りが、どれほどルキウスに屈辱を与えたか。

この国の王子、そして長年婚約者であった自分の顔を忘れたと。

それも、大衆の面前で悪びれもせずに言い放ったのだ。

ルキウスの顔が、怒りと屈辱でみるみるうちに赤く染まっていく。

周囲の貴族たちは、もはや、驚きを隠そうともしない。あちこちで「まあ!」という小さな悲鳴や必死に笑いをこらえる気配がした。

「……っ、貴様……! 私を、愚弄する気か!」

ルキウスが、震える声で怒鳴る。

しかし、アーリヤはやはり表情を変えない。

「いいえ。ただ、事実を申し上げたまでです」

彼女は、ルキウスを見上げ、淡々としかし残酷なまでに明確な言葉を続けた。

「わたくしの記憶領域は、常に効率的に最適化されております。現在、未来の活動に無関係と判断されたデータファイルは、定期的に自動で削除される設定になっておりますので」

「……なに……?」

「どうやら、あなた様との過去の関連データファイルは、その『不要』という判断を下され完全に消去されてしまったようですわ。だって、もう必要ありませんもの」

それは、ただの塩対応などではなかった。

ルキウスとの過去の全てを、「不要なデータ」として、ゴミ箱に捨てたという絶対的な拒絶の宣言だった。

彼の存在は、怒りや憎しみの対象ですらなく、ただアーリヤの人生において「無価値」なのだと。

その、あまりにもアーリヤらしい合理的で冷徹な一撃に、ルキウスは完全に言葉を失った。

「では、失礼いたしますわ、王子殿下」

アーリヤはもう一度完璧な礼をすると、凍りついているルキウスを置き去りにしてくるりと背を向けた。

アッシュが寸分の隙もなくその隣に付き従う。

王子に一瞥もくれることなく、優雅に去っていく二人の後ろ姿をボールルームの誰もがただ呆然と見送るだけだった。
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