「君は悪役令嬢だ!」と言われましたが、興味ありません。

パリパリかぷちーの

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建国記念パーティーのクライマックスを告げる、壮麗な花火の打ち上げまであと数分。

王宮の庭園に面したメインテラスには、夜空を見上げようとほとんどの貴族たちが集まっていた。

その喧騒を遠くに聞きながら、アーリヤとアッシュは静寂に包まれた王宮東棟の廊下で息を潜めていた。

アーリヤの作戦における第一段階と第二段階は、すでに完璧に遂行されていた。

彼女はパーティーの喧騒に紛れて、巧みに古文書館の夜間衛兵に接触。「宰相閣下との歴史談義で、至急確認したい文献がございまして」と、誰もが疑いようのない口実を使い堂々と書庫へ入室。

そして、目的の文書と自らが作成した偽の文書とを誰にも気づかれずにすり替えてみせたのだ。

今、彼女とアッシュは、ただ獲物が罠にかかるのを待っているだけだった。

ヒュ~~~、ドンッ!

夜空に、最初の一輪が大輪の花を咲かせた。

貴族たちの、大きな歓声がここまで聞こえてくる。

それが、合図だった。

アッシュが潜む柱の影から、二つの人影が猫のように素早く古文書館の裏口へと近づいていくのが見えた。

デュボワ子爵と、共犯の給仕係だ。

周囲を警戒し、給仕係が懐から取り出した合鍵で手際よく錠を開ける。

ギィ、と小さな音を立てて扉が開き、二人は闇の中へと吸い込まれていった。

全ては、計画通り。

アッシュは、呼吸を極限まで浅くし気配を完全に消してその時を待つ。

一分、二分……。

花火の音が、次々と、夜空に轟く。その光が廊下の窓から差し込み明滅を繰り返す。

それは、まるでこれから始まる舞台のスポットライトのようだった。

体感では永遠にも思えるほどの時間が過ぎ、やがて裏口の扉が再び静かに開いた。

出てきたデュボワ子爵の手には、一本の羊皮紙が収められた革の筒が握られている。

その口元には、計画の成功を確信した醜い笑みが浮かんでいた。

(……かかった)

アッシュは、闇の中で静かに狩人の目を光らせる。

子爵と給仕係が、勝利の余韻に浸りながら廊下を小走りに進み始めた、その瞬間だった。

アッシュは、影から音もなく躍り出た。

「なっ……!?」

先に気づいたのは、給仕係だった。

彼が驚愕の声を上げるよりも早く、アッシュの掌底がその首筋に的確に叩き込まれる。

給仕係は、白目をむき声も出せずにその場に崩れ落ちた。

一瞬の出来事だった。

「き、貴様は……!?」

デュボワ子爵は、相棒が倒れたことに気づき驚愕と恐怖に顔を引きつらせた。

「私は、ガリア国の外交官だぞ! 無礼な真似をすれば、どうなるかわかっているのか!」

彼は、外交官特権という最強の盾を声高に主張する。

しかし、アッシュは何も答えない。ただ氷のように冷たい視線で子爵を射抜くだけだ。

子爵は恐怖に駆られ、懐から短剣を抜き放ちアッシュに襲いかかった。素人丸出しの滅茶苦茶な剣筋だ。

アッシュは、その刃をまるで子供の遊びに付き合うかのように、ひらり、ひらりと最小限の動きでかわしていく。

そして、子爵が大きく振りかぶって隙だらけになったその瞬間。

アッシュは踏み込み、子爵の手首を掴むと軽くひねり上げた。

「ぐあっ!」

子爵の手から短剣がカランと音を立てて床に落ちる。

アッシュは、そのまま抵抗できなくなった子爵の腕を背後に回し床に押さえつけた。

革の筒が、子爵の手から滑り落ちコロコロと床を転がっていく。

作戦は、完了した。

その、完璧なタイミングで。

「まあ、大変。このような場所で、いったい何の騒ぎですの?」

廊下の向こうから、まるで偶然通りかかったかのような涼やかな声が響いた。

アーリヤだった。

彼女の後ろには、二人の王宮警備兵が怪訝な顔で付き従っている。

アーリヤは、床に押さえつけられたデュボワ子爵と、転がっている革の筒を交互に見つめわざとらしく小さな悲鳴を上げた。

「あら、まあ。そちらの紳士は、何か大切な物を落とされたようですわね」

その言葉に、警備兵たちの視線が革の筒へと集まる。

デュボワ子爵は、言い逃れのできない証拠を前にして顔面を蒼白にさせていた。

「……お騒がせいたしました、アーリヤ様」

アッシュは、子爵を押さえつけたまま静かに言った。

「どうやら、こちらの御仁たちが夜更けに古文書館で探し物をしていたようでして」

その言葉に、全てを察した警備兵たちが慌てて駆け寄ってくる。

「な、なんだと! 貴様ら、何者だ!」

捕えられたデュボワ子爵は、「外交官だ!」と叫ぶこともできず、ただ震えているだけだった。

ドンッ!

ひときわ大きな、最後の花火が夜空を金色に染め上げた。

それは、アーリヤとアッシュの完璧な連携プレーによる鮮やかな勝利を祝福しているかのようだった。
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