「君は悪役令嬢だ!」と言われましたが、興味ありません。

パリパリかぷちーの

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謁見の間に、王子ルキウスの魂からの謝罪が響き渡った。

「どうか……どうか、私を許してはもらえないだろうか……」

その、すがるような問いかけにその場にいた誰もが息をのんだ。

全ての視線が、アーリヤの一点に集中する。

彼女の双眸は、どこまでも静かだった。

ルキウスの、苦悶に満ちた表情を、まるで嵐の過ぎ去った後の凪いだ海のように、静かに見つめている。

やがて、彼女はゆっくりとその唇を開いた。

「ルキウス殿下。どうぞ、お顔をお上げください」

その声には、怒りも、憐れみも、喜びも、何の感情も含まれていなかった。

ルキウスは、その声に促されおそるおそる顔を上げた。

その瞳には、かすかな本当にかすかな希望の光が宿っていた。

もしかしたら、彼女は許してくれるのではないか。

そして、もう一度やり直せるのではないか、と。

「あなたが、過去の自らの判断の誤りを認め、それが王国にもたらした不利益について謝罪するというその事実」

アーリヤは、静かにしかし明確に言葉を区切った。

「その事実については確認し受理いたしました」

それは、「許す」という、温かい言葉ではなかった。

まるで、提出された報告書を、「受理」するかのような事務的な響きがあった。

だが、それでもルキウスにとっては十分すぎるほどの救いの言葉だった。

「……っ、アーリヤ……!」

彼は、思わず一歩前に踏み出そうとした。

「では、我々は……もう一度……」

その、期待に満ちた言葉をアーリヤは片手を静かに上げることで制した。

「お待ちください、殿下」

彼女の氷のように澄んだ瞳が、まっすぐにルキウスを射抜く。

「もし、その謝罪が、『和解』ひいては『婚約関係の復旧』を前提としたものであるならば、私の見解を明確にお伝えせねばなりません」

その場の空気が、再びぴんと張り詰めた。

「結論から、申し上げます」

アーリヤは、宣告した。

「あなたと私が、以前の関係に戻るという選択肢は、いかなる観点から分析しても非合理的であり、実行不可能な案件であると判断いたします」

「……な……」

ルキウスは、言葉を失った。

アーリヤは、そんな彼にまるで出来の悪い生徒に講義をするかのように、淡々とその理由を説明し始めた。

「第一に、我々二人の間には、思考プロセスの根本的な非互換性がすでに証明されております。あなたの意思決定は、感情的変数に著しく左右される傾向にある。対して、私の意思決定は論理的データに基づいています。この、根幹的な違いは修正不可能です」

「第二に、いかなる戦略的パートナーシップにおいても、その基盤となるべき『信頼』が、不可逆的に、損なわれております。失われた信頼を再構築するためには、膨大な時間と精神的リソースを非効率的に消費することになりますが、その成功確率は極めて低い」

「そして、第三に、これが最も重要な点ですが」

アーリヤは、一度言葉を切るとはっきりと告げた。

「私の、現在の、人生計画及びキャリアパスにおいて、『王太子妃』という役職は、もはや含まれておりません。過去の計画に回帰することは、私の能力の最適ではない活用法であり、個人的な成長における明確な後退を意味します」

その、あまりにも完璧で、冷徹で、そして、一片の情も挟む余地のない論理的な拒絶。

ルキウスは、もはや反論することはおろか、呼吸をすることさえ忘れていた。

憎しみによって、拒絶されたのではない。

怒りによって、拒絶されたのでもない。

ただ、彼の存在そのものが、彼女の人生にとって、「非合理的」で、「非効率的」で、「不要」なのだと。

そう、絶対的な事実として突きつけられたのだ。

「以上の理由により、ルキウス殿下」

アーリヤは、最後のとどめを刺した。

「あなたの謝罪は、過去の事象を締めくくる最終報告書として受理いたしますが、それ以上の関係性は一切ないとご認識ください。この案件は、これにて完全に終了です」

そう言うと、アーリヤは国王とそして抜け殻のようになったルキウスに向かって、完璧な淑女の礼を一つしてみせた。

その姿は、あまりにも潔くそして美しかった。

玉座の国王は、諦めたように深く息を吐いた。

アーリヤの隣に立つアッシュは、誰にも気づかれないように誇らしげに胸を張っていた。

王子との過去を、自らの言葉で完璧に葬り去った主君。

その姿を、彼は生涯忘れないだろうと強く思った。
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