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王都から馬車で揺られること四時間。
私は街道沿いの宿場町にある、大衆食堂のテラス席(という名の道端に置かれた木の箱)に座っていた。
「おばちゃん! この謎肉の串焼き、もう一本追加で! タレ多めでね!」
「あいよ!」
香ばしい匂いと共に、脂の滴る串焼きが運ばれてくる。
私はそれを野獣のように齧り付いた。
「ん~っ! デリシャス!」
口の周りをタレで汚しながら、私は感動に打ち震えていた。
これだ。
これこそが私が求めていた「自由の味」だ。
王城のパーティーで出される、見た目は綺麗だが味のしないオードブルとはわけが違う。
塩分と脂質こそが正義。
カロリーは旨味の単位である。
「さて、腹ごしらえも済んだし、次は……」
地図を広げようとした、その時だった。
「……相席、いいか」
低い声と共に、私の向かいの席(木箱)に、誰かがドカッと腰を下ろした。
黒いフードを目深に被った、大柄な男だ。
私は串焼きを持ったまま、警戒モードに入った。
(誰? 盗賊? それとも王子の追っ手?)
私は口元のタレを拭い、営業スマイルを貼り付けた。
「あの、他にもお席は空いておりますが?」
「ここがいい」
「ソーシャルディスタンスってご存知ですか? 今の私は半径一メートル以内に近寄られると、防衛本能でフォークが飛んでいく仕様になっているのですが」
「フッ……相変わらず凶暴だな」
男がフードを少し上げた。
現れたのは、氷のような青い瞳と、整いすぎて逆に近寄りがたい美貌。
「あ」
私は声を上げた。
「王城で私の雑巾を拾ってくれた、物好きな方!」
「……サイラスだ。サイラス・グレイヴ」
「そうでした、サイラス様。辺境伯ともあろうお方が、なぜこのような薄汚い食堂に? もしや、あの雑巾の返却ですか? 送料着払いで送って頂ければよかったのに」
「違う」
サイラスは私の食べている串焼きをじっと見た後、給仕に同じものを注文した。
そして、再び私に向き直る。
「偶然だ。私も領地へ戻る途中なのだ」
「へえ、偶然ですか」
私は胡散臭そうに彼を見た。
(怪しい。タイミングが良すぎる。まさか、慰謝料を狙った強盗……?)
私は即座に、彼の装備品をスキャンした。
職業病である。
「……ふむ」
私は無意識に口に出していた。
「コートは最上級のブラックワイバーンの革。市場価格で金貨五百枚。裏地は北方の幻獣の毛皮でプラス二百枚。ブーツはミスリル銀の補強入りで三百枚。剣の柄には魔石……」
私はパチパチと脳内でそろばんを弾いた。
「ざっと見積もって、身につけているだけで金貨二千枚(約二億円)。質に入れたら即金で一千五百枚というところですね」
「……」
サイラスが目を丸くしている。
「何をしている?」
「値踏みです。これだけの資産価値を身に纏っている方が、私の小銭を狙うこそ泥(ケチ)な強盗ではないこと確認しました。安心しました」
「……初対面の人間を質屋の買取価格で見る女は、お前が初めてだ」
「光栄です。人柄より現金(キャッシュ)の方が信用できますから」
私は串焼きの最後の一片を飲み込み、お冷で流し込んだ。
サイラスは呆れるどころか、なぜか楽しそうに口元を緩めた。
「それで? お前はどこへ行く? アスター公爵家からは『勘当』されたと聞いたが」
情報が早い。
さすが辺境伯、耳が良いようだ。
私は警戒レベルを一段引き上げた。
行き先(南の島にある隠し財産)を知られるわけにはいかない。
「ええ、まあ。身一つで放り出されましてね。とりあえず、北の雪山にでも籠もって、熊と相撲でも取ろうかと」
私は真顔で嘘をついた。
南とは真逆の方角だ。
「北か」
「はい。寒風摩擦で精神を鍛え直すのです。これからは『雪山ピース』として生きていきます」
「……ほう。北へ行くのに、馬車には南国特有の『防虫香』の匂いが染み付いていたが?」
「ッ!」
私は思わず舌打ちをした。
「チッ……鼻のいい男は嫌われますよ」
「さらに、馬車の車輪の沈み具合から見て、積載量はかなりのものだ。身一つと言いながら、家財道具一式、あるいは長期滞在用の物資を積んでいるな?」
「……」
「極めつけは、お前がさっき見ていた地図だ。逆さまだったぞ」
完全にバレていた。
私は観念して、両手を上げた。
「参りました。名探偵ですね。……ええ、南へ行きますよ。父がくれたボロ別荘へ隠居しに」
「南か。奇遇だな」
サイラスが運ばれてきた串焼きを一口食べた。
そして、こともなげに言った。
「私の領地も南だ」
「はい?」
「正確には、南東の国境沿いだ。途中までは同じ道だな」
私は嫌な予感がした。
同じ道。
それはつまり、この目ざとい男としばらく道中を共にすることを意味する。
「……そうですか。では、お互い干渉せずに参りましょう。私は一人旅を満喫したいので」
「護衛はいらないのか? 最近、この街道は野盗が出る」
「結構です。私には『金』という最強の武器がありますから。いざとなったら傭兵を雇いますし、最悪、野盗を買収します」
「金で解決する気か」
「世の中の九割は金で解決できます。残りの一割は筋肉です」
私は力説した。
サイラスは肩を震わせて笑った。
「くく……面白い。本当にお前は、あの王子の婚約者だったのか? 噂では『淑やかで影の薄い令嬢』だと聞いていたが」
「それは『業務用モード』の私です。今は定時後ですので」
私は席を立った。
これ以上話していると、ボロが出そうだ。
「では、ご馳走様でした。お先に失礼します」
伝票を持とうとすると、サイラスがそれを制した。
「ここは私が持つ」
「え? いえ、割り勘で」
「相席の礼だ。それに、面白い話を聞かせてもらった代金だと思ってくれ」
サイラスはテーブルの上に金貨一枚を置いた。
串焼き二本には多すぎる額だ。お釣りでこの店が買えるかもしれない。
私はその金貨を凝視した。
(タダ飯……! しかも金貨……!)
私のプライドと守銭奴精神が激しくぶつかり合う。
勝負は一瞬でついた。
「ありがとうございます! ゴチになります! サイラス様、一生ついていきます!(この店を出るまで)」
私は現金を素早く懐に入れると(お釣りをもらう気満々だ)、深々とお辞儀をした。
「では、良き旅を!」
私は逃げるように店を飛び出した。
馬車に飛び乗り、御者に叫ぶ。
「出して! フルスピードで!」
馬車が急発進する。
窓から後ろを確認すると、サイラスはテラス席から動かず、優雅に串焼きを食べていた。
(ふう……なんだったの、あの人)
(イケメンだけど、目が笑ってないし、何より私の嘘を全部見抜くなんて……)
天敵だ。
ジェラルド王子のような「単純バカ」なら扱いやすいが、サイラスのような「洞察力の鋭い男」は、私の詐欺まがいの交渉術が通じない可能性がある。
「関わらないのが一番ね。二度と会うこともないでしょう」
私はそう結論づけ、入手したお釣りの計算を始めた。
しかし。
私はまだ知らなかった。
サイラスの領地というのが、私の目指す南の島の「対岸」にあり、彼がそこを拠点にしていることを。
そして、彼が既に部下に「あの馬車を密かに護衛しろ(見張れ)」と指示を出していることを。
食堂に残されたサイラスは、口元の脂を拭いながら呟いた。
「……『雪山ピース』か。やはり退屈させてくれなさそうだ」
彼の瞳は、獲物を追い詰める狩人のように輝いていた。
私は街道沿いの宿場町にある、大衆食堂のテラス席(という名の道端に置かれた木の箱)に座っていた。
「おばちゃん! この謎肉の串焼き、もう一本追加で! タレ多めでね!」
「あいよ!」
香ばしい匂いと共に、脂の滴る串焼きが運ばれてくる。
私はそれを野獣のように齧り付いた。
「ん~っ! デリシャス!」
口の周りをタレで汚しながら、私は感動に打ち震えていた。
これだ。
これこそが私が求めていた「自由の味」だ。
王城のパーティーで出される、見た目は綺麗だが味のしないオードブルとはわけが違う。
塩分と脂質こそが正義。
カロリーは旨味の単位である。
「さて、腹ごしらえも済んだし、次は……」
地図を広げようとした、その時だった。
「……相席、いいか」
低い声と共に、私の向かいの席(木箱)に、誰かがドカッと腰を下ろした。
黒いフードを目深に被った、大柄な男だ。
私は串焼きを持ったまま、警戒モードに入った。
(誰? 盗賊? それとも王子の追っ手?)
私は口元のタレを拭い、営業スマイルを貼り付けた。
「あの、他にもお席は空いておりますが?」
「ここがいい」
「ソーシャルディスタンスってご存知ですか? 今の私は半径一メートル以内に近寄られると、防衛本能でフォークが飛んでいく仕様になっているのですが」
「フッ……相変わらず凶暴だな」
男がフードを少し上げた。
現れたのは、氷のような青い瞳と、整いすぎて逆に近寄りがたい美貌。
「あ」
私は声を上げた。
「王城で私の雑巾を拾ってくれた、物好きな方!」
「……サイラスだ。サイラス・グレイヴ」
「そうでした、サイラス様。辺境伯ともあろうお方が、なぜこのような薄汚い食堂に? もしや、あの雑巾の返却ですか? 送料着払いで送って頂ければよかったのに」
「違う」
サイラスは私の食べている串焼きをじっと見た後、給仕に同じものを注文した。
そして、再び私に向き直る。
「偶然だ。私も領地へ戻る途中なのだ」
「へえ、偶然ですか」
私は胡散臭そうに彼を見た。
(怪しい。タイミングが良すぎる。まさか、慰謝料を狙った強盗……?)
私は即座に、彼の装備品をスキャンした。
職業病である。
「……ふむ」
私は無意識に口に出していた。
「コートは最上級のブラックワイバーンの革。市場価格で金貨五百枚。裏地は北方の幻獣の毛皮でプラス二百枚。ブーツはミスリル銀の補強入りで三百枚。剣の柄には魔石……」
私はパチパチと脳内でそろばんを弾いた。
「ざっと見積もって、身につけているだけで金貨二千枚(約二億円)。質に入れたら即金で一千五百枚というところですね」
「……」
サイラスが目を丸くしている。
「何をしている?」
「値踏みです。これだけの資産価値を身に纏っている方が、私の小銭を狙うこそ泥(ケチ)な強盗ではないこと確認しました。安心しました」
「……初対面の人間を質屋の買取価格で見る女は、お前が初めてだ」
「光栄です。人柄より現金(キャッシュ)の方が信用できますから」
私は串焼きの最後の一片を飲み込み、お冷で流し込んだ。
サイラスは呆れるどころか、なぜか楽しそうに口元を緩めた。
「それで? お前はどこへ行く? アスター公爵家からは『勘当』されたと聞いたが」
情報が早い。
さすが辺境伯、耳が良いようだ。
私は警戒レベルを一段引き上げた。
行き先(南の島にある隠し財産)を知られるわけにはいかない。
「ええ、まあ。身一つで放り出されましてね。とりあえず、北の雪山にでも籠もって、熊と相撲でも取ろうかと」
私は真顔で嘘をついた。
南とは真逆の方角だ。
「北か」
「はい。寒風摩擦で精神を鍛え直すのです。これからは『雪山ピース』として生きていきます」
「……ほう。北へ行くのに、馬車には南国特有の『防虫香』の匂いが染み付いていたが?」
「ッ!」
私は思わず舌打ちをした。
「チッ……鼻のいい男は嫌われますよ」
「さらに、馬車の車輪の沈み具合から見て、積載量はかなりのものだ。身一つと言いながら、家財道具一式、あるいは長期滞在用の物資を積んでいるな?」
「……」
「極めつけは、お前がさっき見ていた地図だ。逆さまだったぞ」
完全にバレていた。
私は観念して、両手を上げた。
「参りました。名探偵ですね。……ええ、南へ行きますよ。父がくれたボロ別荘へ隠居しに」
「南か。奇遇だな」
サイラスが運ばれてきた串焼きを一口食べた。
そして、こともなげに言った。
「私の領地も南だ」
「はい?」
「正確には、南東の国境沿いだ。途中までは同じ道だな」
私は嫌な予感がした。
同じ道。
それはつまり、この目ざとい男としばらく道中を共にすることを意味する。
「……そうですか。では、お互い干渉せずに参りましょう。私は一人旅を満喫したいので」
「護衛はいらないのか? 最近、この街道は野盗が出る」
「結構です。私には『金』という最強の武器がありますから。いざとなったら傭兵を雇いますし、最悪、野盗を買収します」
「金で解決する気か」
「世の中の九割は金で解決できます。残りの一割は筋肉です」
私は力説した。
サイラスは肩を震わせて笑った。
「くく……面白い。本当にお前は、あの王子の婚約者だったのか? 噂では『淑やかで影の薄い令嬢』だと聞いていたが」
「それは『業務用モード』の私です。今は定時後ですので」
私は席を立った。
これ以上話していると、ボロが出そうだ。
「では、ご馳走様でした。お先に失礼します」
伝票を持とうとすると、サイラスがそれを制した。
「ここは私が持つ」
「え? いえ、割り勘で」
「相席の礼だ。それに、面白い話を聞かせてもらった代金だと思ってくれ」
サイラスはテーブルの上に金貨一枚を置いた。
串焼き二本には多すぎる額だ。お釣りでこの店が買えるかもしれない。
私はその金貨を凝視した。
(タダ飯……! しかも金貨……!)
私のプライドと守銭奴精神が激しくぶつかり合う。
勝負は一瞬でついた。
「ありがとうございます! ゴチになります! サイラス様、一生ついていきます!(この店を出るまで)」
私は現金を素早く懐に入れると(お釣りをもらう気満々だ)、深々とお辞儀をした。
「では、良き旅を!」
私は逃げるように店を飛び出した。
馬車に飛び乗り、御者に叫ぶ。
「出して! フルスピードで!」
馬車が急発進する。
窓から後ろを確認すると、サイラスはテラス席から動かず、優雅に串焼きを食べていた。
(ふう……なんだったの、あの人)
(イケメンだけど、目が笑ってないし、何より私の嘘を全部見抜くなんて……)
天敵だ。
ジェラルド王子のような「単純バカ」なら扱いやすいが、サイラスのような「洞察力の鋭い男」は、私の詐欺まがいの交渉術が通じない可能性がある。
「関わらないのが一番ね。二度と会うこともないでしょう」
私はそう結論づけ、入手したお釣りの計算を始めた。
しかし。
私はまだ知らなかった。
サイラスの領地というのが、私の目指す南の島の「対岸」にあり、彼がそこを拠点にしていることを。
そして、彼が既に部下に「あの馬車を密かに護衛しろ(見張れ)」と指示を出していることを。
食堂に残されたサイラスは、口元の脂を拭いながら呟いた。
「……『雪山ピース』か。やはり退屈させてくれなさそうだ」
彼の瞳は、獲物を追い詰める狩人のように輝いていた。
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