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閉じ込められた部屋の中に、沈黙が積もっていきます。
けれど、それは以前のような冷ややかな沈黙ではなく、何かが発火する寸前のような、ひどく熱を帯びた静寂でした。
窓から差し込む陽光が、アリステア様の銀髪をなぞり、そこから零れ落ちる光の粒が私の膝の上で踊っています。
「……アリステア様。そんなに近くで私を見つめて、お疲れになりませんか?」
私はティーカップを置き、彼に問いかけました。
彼は昨夜から、ほとんど瞬きさえ忘れたような熱量で、私のすべてを網膜に焼き付けようとしています。
「疲れるはずがない。……ようやく、こうして君を正面から見ることができるようになったのだから」
アリステア様の声は、どこか恍惚とした響きを帯びていました。
「眩しい……? 私、そんなに発光していたかしら?」
私は真剣に悩み、自分の手のひらを見つめました。
確かに私の肌は、真珠の粉をまぶしたかのように白く、透明感に溢れています。
(でも、物理的に光源になっているわけではないはずだわ。……ああ、そうか。わかったわ!)
私は、自分の卓越した洞察力で、一つの結論に達しました。
「アリステア様。貴方が眩しいと感じるのは、貴方の心が『浄化』されている証拠ですわ。私の放つ高潔な精神が、貴方の内なる迷いを焼き払っている最中なのです」
「浄化……。いや、そんな高尚なものではない。もっと、こう……」
アリステア様が手を伸ばし、私の頬を指先でなぞりました。
その指先から伝わる熱に、私の胸がほんの少しだけ、おかしなリズムを刻みます。
(まあ……。心臓が少し跳ねたわ。これはきっと、彼の『依存の熱』が私に伝染してしまったのね)
私は哀切な溜息をつきました。
光の粒が、私のまつ毛を揺らし、視界を白く染め上げます。
「殿下。貴方の愛は、私という概念を神聖視しすぎているのですわ。……いいですか、私はただの、最高に素敵で完璧な一人の女性に過ぎません」
「それがまさに神聖だと言っているんだ。……君は、どうして自分の美しさが他人に与える『暴力』に、これほど無自覚なんだ」
「暴力だなんて、人聞きが悪いですわ。私は慈悲を振り撒いているだけですのに」
私は少しだけ唇を尖らせました。
鏡の中の私は、その不満げな表情さえも、計算された芸術品のように美しい。
(困った方。これほどまでに言葉を尽くしても、彼は私を『一人の女』としてではなく、『救済の光』としてしか見られないのね)
私は彼の手をそっと取り、自分の胸元に引き寄せました。
「殿下。ここにあるのは、貴方を導くための心臓です。眩しくて直視できないのなら、目を閉じて、この鼓動だけを感じていなさいな」
アリステア様は、弾かれたように目を見開きました。
やがて彼は、諦めたように、そして愛おしそうに目を閉じ、私の手に自分の額を押し当てました。
「……エリヤーヌ。君には、一生勝てる気がしない」
「あら、勝負をしていたのですか? 私はただ、貴方の幸せをプロデュースしているだけですわ」
光の粒が、重なり合う二人の手の上で、祝福するように激しく煌めいていました。
閉ざされた部屋の中で、私は自分の「光」が、彼をどこへ連れて行こうとしているのか、まだ正確には理解していませんでした。
ただ、彼が私の傍で安らかな呼吸を始めたことに、深い満足感を覚えていただけなのです。
けれど、それは以前のような冷ややかな沈黙ではなく、何かが発火する寸前のような、ひどく熱を帯びた静寂でした。
窓から差し込む陽光が、アリステア様の銀髪をなぞり、そこから零れ落ちる光の粒が私の膝の上で踊っています。
「……アリステア様。そんなに近くで私を見つめて、お疲れになりませんか?」
私はティーカップを置き、彼に問いかけました。
彼は昨夜から、ほとんど瞬きさえ忘れたような熱量で、私のすべてを網膜に焼き付けようとしています。
「疲れるはずがない。……ようやく、こうして君を正面から見ることができるようになったのだから」
アリステア様の声は、どこか恍惚とした響きを帯びていました。
「眩しい……? 私、そんなに発光していたかしら?」
私は真剣に悩み、自分の手のひらを見つめました。
確かに私の肌は、真珠の粉をまぶしたかのように白く、透明感に溢れています。
(でも、物理的に光源になっているわけではないはずだわ。……ああ、そうか。わかったわ!)
私は、自分の卓越した洞察力で、一つの結論に達しました。
「アリステア様。貴方が眩しいと感じるのは、貴方の心が『浄化』されている証拠ですわ。私の放つ高潔な精神が、貴方の内なる迷いを焼き払っている最中なのです」
「浄化……。いや、そんな高尚なものではない。もっと、こう……」
アリステア様が手を伸ばし、私の頬を指先でなぞりました。
その指先から伝わる熱に、私の胸がほんの少しだけ、おかしなリズムを刻みます。
(まあ……。心臓が少し跳ねたわ。これはきっと、彼の『依存の熱』が私に伝染してしまったのね)
私は哀切な溜息をつきました。
光の粒が、私のまつ毛を揺らし、視界を白く染め上げます。
「殿下。貴方の愛は、私という概念を神聖視しすぎているのですわ。……いいですか、私はただの、最高に素敵で完璧な一人の女性に過ぎません」
「それがまさに神聖だと言っているんだ。……君は、どうして自分の美しさが他人に与える『暴力』に、これほど無自覚なんだ」
「暴力だなんて、人聞きが悪いですわ。私は慈悲を振り撒いているだけですのに」
私は少しだけ唇を尖らせました。
鏡の中の私は、その不満げな表情さえも、計算された芸術品のように美しい。
(困った方。これほどまでに言葉を尽くしても、彼は私を『一人の女』としてではなく、『救済の光』としてしか見られないのね)
私は彼の手をそっと取り、自分の胸元に引き寄せました。
「殿下。ここにあるのは、貴方を導くための心臓です。眩しくて直視できないのなら、目を閉じて、この鼓動だけを感じていなさいな」
アリステア様は、弾かれたように目を見開きました。
やがて彼は、諦めたように、そして愛おしそうに目を閉じ、私の手に自分の額を押し当てました。
「……エリヤーヌ。君には、一生勝てる気がしない」
「あら、勝負をしていたのですか? 私はただ、貴方の幸せをプロデュースしているだけですわ」
光の粒が、重なり合う二人の手の上で、祝福するように激しく煌めいていました。
閉ざされた部屋の中で、私は自分の「光」が、彼をどこへ連れて行こうとしているのか、まだ正確には理解していませんでした。
ただ、彼が私の傍で安らかな呼吸を始めたことに、深い満足感を覚えていただけなのです。
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