私からの婚約破棄は、王子様を狂わせるようです。

パリパリかぷちーの

文字の大きさ
30 / 30

30

しおりを挟む
大聖堂の扉が開かれた瞬間、私は自分自身が巨大な光の渦になったような錯覚を覚えました。


天井の高いドームから降り注ぐ正午の陽光が、私の纏う純白のドレスに反射し、数千の光の粒となって堂内に飛び散ります。


バージンロードの先に立つアリステア様は、眩しさに耐えるように目を細め、けれど一瞬たりとも私から視線を逸らそうとはしません。


(ああ……見て。私の美しさが、ついに神域にまで達してしまったわ)


私は、父の腕に添えた指先に力を込め、一歩ずつ、彼のもとへと進みました。


参列者たちの溜息が、静かなさざ波のように私の背中を追いかけてきます。


それは悲鳴にも似た、圧倒的な光への畏怖。


「……エリヤーヌ。君は、本当に……」


祭壇の前で私を迎えたアリステア様の声は、震えていました。


その瞳には、私の放つ光が、涙の膜となってキラキラと砕け散っています。


「殿下。泣かないで。貴方のその涙を、私はこれからの長い人生をかけて、すべて光の粒に変えて差し上げますわ」


私は、彼の震える手を取りました。


司祭の言葉が遠くで響く中、私たちは互いを見つめ合いました。


「かつて、私は貴方に『婚約破棄』を提案いたしました。それは、貴方を私の影から救い出すための、最高の慈悲でしたわ」


「……ああ。だがあの時、私は自分の魂が死ぬ音を聞いた」


「ええ、わかっております。貴方は私のいない自由よりも、私の隣にいる不自由を選ばれた。……なんて救いようのない、愛すべき方」


私は完璧な微笑みを浮かべました。


光の粒が、二人の重なり合う指の間で、パチパチと祝福の火花を散らしています。


「アリステア様。貴方の幸せは、私という太陽に焼かれ続けること。……ならば、私はその望みを生涯、叶え続けて差し上げます」


「……それが私の、唯一の救いだ」


アリステア様が私を引き寄せ、耳元で熱く、どこか哀切な声で囁きました。


「私の良さがわからない貴方へ、私が贈る最後の慈悲ですわ」


私は彼の胸に顔を寄せ、世界で一番甘く、傲慢な言葉を口にしました。


「アリステア様。私と、結婚しましょう。……そして一生、私の光の中で溺れていなさいな」


「……喜んで。お前のいない天国より、お前のいる地獄を私は選ぶ」


誓いのキスが交わされた瞬間、大聖堂の窓から差し込む光が爆ぜ、世界は真っ白な輝きに包まれました。


無数の光の粒が、私たちの周囲で激しく、そして美しく踊り狂います。


それは、哀切な過去をすべて飲み込み、透明な未来へと繋がっていく祝福の調べ。


私は確信していました。


これから始まる私たちの物語は、どんな小説よりもドラマチックで、そして……。


世界で一番、私の「素敵さ」に溢れたものになるのだと。


光の粒が、私たちの歩む道をどこまでも白く照らし出し、二人の影は、一つの大きな光へと溶けていきました。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

愛のゆくえ【完結】

春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした ですが、告白した私にあなたは言いました 「妹にしか思えない」 私は幼馴染みと婚約しました それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか? ☆12時30分より1時間更新 (6月1日0時30分 完結) こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね? ……違う? とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。 他社でも公開

すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…

アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。 婚約者には役目がある。 例え、私との時間が取れなくても、 例え、一人で夜会に行く事になっても、 例え、貴方が彼女を愛していても、 私は貴方を愛してる。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 女性視点、男性視点があります。  ❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。

【完結】今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

不実なあなたに感謝を

黒木メイ
恋愛
王太子妃であるベアトリーチェと踊るのは最初のダンスのみ。落ち人のアンナとは望まれるまま何度も踊るのに。王太子であるマルコが誰に好意を寄せているかははたから見れば一目瞭然だ。けれど、マルコが心から愛しているのはベアトリーチェだけだった。そのことに気づいていながらも受け入れられないベアトリーチェ。そんな時、マルコとアンナがとうとう一線を越えたことを知る。――――不実なあなたを恨んだ回数は数知れず。けれど、今では感謝すらしている。愚かなあなたのおかげで『幸せ』を取り戻すことができたのだから。 ※異世界転移をしている登場人物がいますが主人公ではないためタグを外しています。 ※曖昧設定。 ※一旦完結。 ※性描写は匂わせ程度。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載予定。

ガネット・フォルンは愛されたい

アズやっこ
恋愛
私はガネット・フォルンと申します。 子供も産めない役立たずの私は愛しておりました元旦那様の嫁を他の方へお譲りし、友との約束の為、辺境へ侍女としてやって参りました。 元旦那様と離縁し、傷物になった私が一人で生きていく為には侍女になるしかありませんでした。 それでも時々思うのです。私も愛されたかったと。私だけを愛してくれる男性が現れる事を夢に見るのです。 私も誰かに一途に愛されたかった。 ❈ 旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。の作品のガネットの話です。 ❈ ガネットにも幸せを…と、作者の自己満足作品です。

別に要りませんけど?

ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」 そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。 「……別に要りませんけど?」 ※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。 ※なろうでも掲載中

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

処理中です...