その婚約破棄、全力で歓迎します。

パリパリかぷちーの

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「どけよ! この役立たず!」

ニーナがアレクセイの脛を思い切り蹴り上げた。

「ぐあっ!」

アレクセイがよろめく隙に、ニーナは脇をすり抜けて窓枠に足をかけた。

「あばよ! せいぜい借金地獄で苦しみな!」

ガシャン!

彼女は窓ガラスを突き破り、夜の闇へと消えていった。

会場には、割れたガラスの音と、冷たい風だけが残された。

「……に、ニーナ……」

アレクセイは床に這いつくばったまま、呆然と窓を見つめていた。

「嘘だ……私の天使が……あんな言葉を……」

彼の目から、大粒の涙がこぼれ落ちる。

泥と涙でぐしゃぐしゃになったその顔は、もはや一国の王子としての尊厳など微塵もなかった。

「かわいそうに……」

「女に騙され、国を傾け、最後は捨てられるとは」

周囲の貴族たちがヒソヒソと囁く。

その視線に含まれているのは、軽蔑ですらない。

ただの『哀れみ』だ。

それが、アレクセイの歪んだプライドを逆撫でした。

「……ち、違う」

彼はゆらりと立ち上がった。

「私は悪くない……。私が騙されたんじゃない……」

ブツブツと呟きながら、彼は充血した目で会場を見渡した。

そして、その視線が私――ユミリアのところで止まった。

「そうだ……! すべて貴様のせいだ!」

アレクセイは私を指差し、絶叫した。

「ユミリア! これは全部、お前の陰謀だ!」

「……はい?」

私は眉をひそめた。

この期に及んで、まだ私のせいにするのか。

思考回路の柔軟性が羨ましいレベルだ。

「貴様、我が国の機密情報をこの国に売ったな!?」

「は?」

「そうでなければ説明がつかん! 我が国がここまで急速に没落し、逆にガレリア帝国が発展しているのは、貴様が国家最高機密を売り渡し、その対価としてこの地位を得たからだ!」

アレクセイは狂ったようにまくし立てた。

「そうだ、そうに違いない! ニーナが変貌したのも、貴様が裏で買収したからだろう! 私を陥れるために!」

会場がざわめく。

「機密漏洩?」

「スパイだったのか?」

一瞬だけ、疑念の目が私に向けられる。

アレクセイは勝ち誇ったように笑った。

「図星だろう! 国を売った売国奴め! 衛兵、この女を捕らえろ! これは国際的な犯罪だぞ!」

彼は私の「悪事」を暴いた気になっている。

これで形勢逆転、自分が正義の告発者になれると信じているのだ。

私は深いため息をついた。

そして、哀れな子供に言い聞かせるように、ゆっくりと言葉を紡いだ。

「……殿下。一つ、質問させていただいてもよろしいですか?」

「な、なんだ! 命乞いか?」

「貴国の『国家機密』とは、具体的に何を指しますか?」

「なっ……そ、それは……! 我が軍の配置とか! 王家の財宝の隠し場所とか! 高度な魔法技術とかだ!」

「なるほど」

私は鼻で笑った。

「軍の配置? 貴国の騎士団は先月、給料未払いで全員ストライキを起こし、現在は屯所もぬけの殻ですよね。配置図など白紙も同然です」

「ぐっ……」

「王家の財宝? 先ほど申し上げました通り、貴方がニーナさんのドレス代と称して既に売り払い、今は空っぽの金庫しかありません」

「うぐっ……」

「高度な魔法技術? 貴国の魔導研究所は、予算不足で十年前に閉鎖されています。現在の最新技術は『光るキノコの栽培』程度でしたっけ?」

「な、なぜそれを……!」

「私が予算管理をしていましたから」

私は一歩前に出た。

「つまり、殿下。結論を申し上げます」

会場中の視線が集まる中、私は冷酷な事実を宣告した。

「貴国には、他国に売れるような価値のある情報は、一つもございません」

ズバァン!

見えない刃がアレクセイを斬り裂いた気がした。

「う……売れる価値が……ない……?」

「はい。0ゴールドです。いいえ、情報の精査にかかる人件費を考えれば、受け取るだけで赤字です」

私は肩をすくめた。

「ゴミをお金を出して買う物好きはいません。私がガレリア帝国で評価されているのは、過去の遺産を切り売りしたからではなく、現在の実力で未来の利益を生み出しているからです」

「そ、そんな……」

アレクセイは膝から崩れ落ちた。

「私の国は……無価値……?」

「残念ながら。貴方がその手で価値をゼロにしたのです」

とどめの一撃だった。

彼は床に手をつき、言葉もなく震えている。

「ふん。見苦しい」

隣で聞いていたクラウス様が、冷たく吐き捨てた。

「自分の無能さを棚に上げ、濡れ衣を着せようとは。……ユミリア、もう十分だろう。これ以上は時間の無駄だ」

「ええ、そうですね。生産性ゼロの時間でした」

私たちは踵を返そうとした。

しかし、アレクセイはまだ終わっていなかった。

「ま……待て……」

彼は這いずりながら、私のドレスの裾を掴もうとした。

「まだだ……まだ私の『切り札』がある……」

「まだ何か?」

「これを見ろ……!」

彼が懐から取り出したのは、ボロボロになった一枚の紙切れだった。

それは、かつて私と彼が交わした『婚約誓約書』の原本だった。
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