悪役令嬢、妃教育を「神・福利厚生」だと勘違いする。

パリパリかぷちーの

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ギルバート公爵の馬車は、もはや移動する高級スイートルームだった。
座席は最高級の魔獣の毛皮で覆われ、床には衝撃を吸収する魔導具が仕込まれている。
さらに、窓からは常にマイナスイオンを含んだ爽やかな風が流れ込む仕様だ。

「先生、この馬車、揺れが全くありませんわね。これも教育の一環ですか?」

「いいえ。移動中のストレスは肌に悪影響を及ぼしますから。これは最低限の福利厚生ですよ」

「まあ! 流石ですわ、先生。辞めた後もこんなに手厚くケアしていただけるなんて」

私は感心しながら、差し出されたオーガニックのハーブティーを啜った。
正直、婚約破棄されて「追放」されると言われた時は、もっとボロ布のような格好で馬に揺られるのかと思っていた。
現実は、前よりも豪華な環境で、お菓子を食べているだけである。

数時間の快適な旅を終え、馬車はギルバート先生の領地、ヴァレンタイン公爵領へと入った。
門を潜った瞬間、私は目を疑った。

「な、なんですの……この活気は!?」

窓の外には、ピカピカに磨かれた石畳の道を、笑顔で歩く領民たちがいた。
驚くべきことに、農作業をしているはずの男性たちの肌は艶やかで、市場で働く女性たちの服には汚れ一つない。

「ユーム、驚くことはありません。我が領地では『全領民の残業禁止』と『週休三日制』を導入しています。心の余裕は、生活の質の向上に直結しますからね」

「しゅうきゅう、みっか……。なんですの、その神のような制度!」

「美しく健康な領民こそが、領地の最大の資産。それが私の経営哲学です」

ギルバート先生が眼鏡をクイと上げると、ちょうど街の広場の時計塔が午後三時を告げた。
すると、農作業をしていた人々が、一斉にクワを置いてベンチに座り始めたではないか。

「先生、彼らは一体何を?」

「おや、三時ですよ。全領地一斉の『アフタヌーンティー・ブレイク』です。これを取り入れない領主は無能の極み、というのが私の持論でして」

「素晴らしいですわ! なんてホワイトな領地……! 私、ここに骨を埋めたいです!」

「ええ、ぜひそうしてください。墓地も最高の日当たりの良い場所を確保しておきますよ」

「まあ、アフターサービスまで完璧!」

私が手を叩いて喜んでいると、馬車は巨大な白亜の城へと到着した。
出迎えてくれた使用人たちは皆、まるでモデルのように姿勢が良く、輝くような笑顔を浮かべている。

「ようこそ、ユーム様。お待ちしておりました。私はメイド長のマーガレットです」

「マーガレットさん、よろしくお願いしますわ! 皆さん、本当にお綺麗ね」

「当然です。閣下から『ユーム様が不快に思わぬよう、全スタッフは勤務時間の二割をエステとトレーニングに充てるように』と厳命されておりますから」

「……勤務中にエステ? それがお仕事ですの?」

「はい。美しさを維持するための業務命令ですわ」

私は震えた。
王宮の妃教育もホワイトだと思っていたが、ここはさらにその上を行く「プラチナホワイト」な環境だ。
私が感動に浸っていると、ギルバート先生が私の腰にそっと手を添えた。

「さあ、ユーム。まずは長旅の疲れを癒やすために、専用のスパへ案内しましょう。その後は、私の秘書としての業務……という名の、一緒にお茶を飲む時間を設けてあります」

「はい! 一生懸命、お茶を飲みますわ!」

私が意気揚々と城へ入っていく一方で、王宮の状況はまさに「ブラック企業」の極みと化していた。

「ひ、卑怯だぞギルバート! こんな膨大な量の陳情書、一人で処理できるわけがないだろう!」

アキレス王子は、自分の身長よりも高く積み上がった書類の山を前にして、涙目で叫んでいた。
これまでユームが「ホワイトな教育」の合間に、超人的なスピードで処理していたツケが回ってきたのだ。

「殿下ぁ……お腹すきましたわ。もう六時間も休憩なしなんて、信じられません……」

隣ではララが、空腹と疲労で完全に幽霊のような顔になっている。
彼女が夢見ていた「王子の婚約者」というキラキラした生活は、そこには微塵もなかった。

「……ユーム……ユームを連れ戻せ! あいつなら、鼻歌交じりにこれを片付けていたはずだ!」

「無理です殿下! エデルガルド公爵家からは『娘は現在、療養中につき面会謝絶。再婚の準備に忙しい』との返答が届いております!」

「再婚だとぉ!?」

王子の絶叫が虚しく響く。
その頃、ユームは薔薇の花びらが浮かぶ極上のジャグジーで、幸せそうに鼻歌を歌っていた。
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