悪役令嬢、妃教育を「神・福利厚生」だと勘違いする。

パリパリかぷちーの

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王宮に平和が戻り、清々しい朝日が差し込む大広間。
アキレス殿下とララ様が砂漠へと旅立ってからというもの、王宮の空気清浄度は劇的に改善されていた。
現在、私はギルバート先生の隣で、山積みになった「とある重要書類」と向き合っている。

「先生、見てください! この進捗管理表(ガントチャート)! 我々の結婚式まで、残り三十日。全ての工程が予定通り、いえ、予定を前倒しで進んでいますわ!」

私は、自作の魔導スプレッドシートを指差し、誇らしげに胸を張った。
世間一般では「花嫁修業」と言われる期間だが、私にとっては「国家規模の慶事運営プロジェクト」である。

「ええ、流石はユームだ。ドレスの選定、招待客のリストアップ、さらには当日の『お肌のゴールデンタイム』を確保するためのタイムスケジュール。……完璧すぎて、私の出る幕がないほどだ」

ギルバート先生は、私の肩に顎を乗せ、愛おしそうに書類を眺めている。
……相変わらず距離が近い。だが、これも「パートナーとの密な情報共有」という名のホワイトな業務だと思えば、動悸も心地よい刺激である。

「当然ですわ! 一生に一度のイベントで『残業(押し押しの進行)』などあってはなりません。全スタッフが定時で帰り、かつ感動的な式を挙げる。これこそが真のホワイト・ウェディングですわ!」

「ふふ、君らしい。……ところで、ユーム。招待客のリストに、一つ気になる点があるのだが。……なぜ、王都中の『平民の代表者』がこんなに多く含まれているんだい?」

先生がリストの一番下、本来なら「その他」で処理されるべき欄を指差した。
私はにっこりと微笑み、先生の手に自分の手を重ねた。

「先生、これは『ホワイトな企業文化』を全土に知らしめるための、戦略的なパブリシティ活動ですわ! 公爵家と王宮がこれほどホワイトに運営されている姿を民に見せることで、ブラックな労働を強いる悪徳商人たちに無言の圧力をかけるのです!」

「なるほど。結婚式を、国家全体の働き方改革のデモンストレーションにするというわけか。……君を妻にする私は、世界で一番の幸せ者か、あるいは一番の策士を敵に回さなかった幸運児か、どちらかな」

「まあ、先生。敵だなんて! 私は先生の専属・終身雇用社員ですわよ?」

私が茶目っ気たっぷりにウインクすると、先生は観念したように私の額に軽い口づけを落とした。
その時、執務室の扉が遠慮がちに叩かれた。

「失礼します、ユーム様。……例の『引き継ぎ資料』の作成が終わりました」

入ってきたのは、かつてアキレス殿下に仕えていた、今はツヤツヤのお肌を取り戻した文官のハンスさんだ。
彼の手には、砂漠へ向かった殿下たちのための「サバイバル・マニュアル(ホワイト流)」が握られていた。

「ハンスさん、お疲れ様ですわ! 内容はちゃんと分かりやすく書けていますか?」

「はい! 『まずは寝床を整えて八時間寝ろ』、そして『砂漠でも朝の洗顔は欠かすな』。……殿下たちがこれを理解できるかは分かりませんが、ホワイトの精神は詰め込みました!」

「素晴らしいわ! 彼らもまた、過酷な環境(新天地)で一から『自己管理能力』を学ぶべきですものね。……先生、これも一つの社会貢献ではないでしょうか?」

「ええ、その通りです。……彼らが砂の城でも作りながら、いつか君の有能さに気づくことを祈っておきましょう」

ギルバート先生の目は、砂漠の砂よりも冷酷に、しかし私に対してだけは春の陽光のように優しく細められた。

「さて、ユーム。事務作業はこれくらいにして、次の『業務』に移りましょうか」

「次の業務? 何か忘れていた工程がありましたかしら?」

「ええ。……ウェディングケーキの『全種類・全フレーバーの試食』という、極めて甘くて過酷な実地調査ですよ」

「まあ! それは大変ですわ! お腹を空かせて、全力で挑まなければ!」

私は意気揚々と立ち上がった。
ホワイトな結婚式への道は、甘い香りと共に、着々と、かつ効率的に進んでいくのであった。
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