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「まあ、ギルバート様! 見てください、今月の『ホワイト貿易』の決算書を! 隣国のゼノン陛下がお昼寝グッズを大量発注してくださったおかげで、純利益が先月の三倍に達しましたわ!」
私は、公爵邸のテラスで、焼き立てのスコーンにたっぷりのクロテッドクリームを乗せながら報告書を広げた。
新婚旅行から戻って以来、私たちの「ホワイト経営」は一つのブランドとなり、今や世界中の商人が「幸せな労働者が作った高品質な商品」を求めて列をなしている。
「素晴らしいですね、ユーム。……ですが、利益が増えすぎると、今度は税対策と再投資の配分が課題になります。……どうでしょう、余剰利益で全領民に『美容・健康維持のための特別賞与』を出しては?」
「名案ですわ、ギルバート様! 領民の皆様がさらに美しくなれば、領地の景観価値も上がりますもの。……まさに、美の複利効果ですわね!」
私たちがそんな優雅な「ホワイト談義」に花を咲かせていた頃。
王都の場末にある、埃っぽい酒場に、ボロボロの布を纏った二人の男女が潜り込んでいた。
「……ララ、聞け。私は閃いたのだ。……私たちがなぜ、こんな目に遭っているのか。それは、ユームが『ホワイト』という名の魔術で、民衆を洗脳しているからだ!」
アキレス王子……もとい、砂漠から這う失意のまま戻ってきた「元」王子は、充血した目で震える手元を見つめた。
隣のララ様は、もはやお肌の乾燥が限界を突破し、喋るたびに顔の皮膚がパキパキと音を立てそうなほど荒れ果てている。
「……殿下……。洗脳だなんて、そんなことより……私、温かいスープが……毒見なんてしなくていいから、具の入ったスープが飲みたいですわ……」
「馬鹿を言うな! 今こそ、我々が『悲劇のヒロインと、奪われた正当な継承者』として、民衆の同情を集めるのだ! 名付けて『ブラックこそが人間の真実、ホワイトは偽善作戦』だ!」
アキレスは、酒場の片隅に落ちていた汚れた紙に、歪んだ文字でスローガンを書きなぐった。
彼の計画はこうだ。
自分たちがどれほど過酷な目に遭ったかを涙ながらに演説し、ユームを「贅沢三昧の偽善者」として告発。
「苦労を知る王族」という偽りのブランディングで、民衆の支持を奪還しようというのである。
「いいか、ララ。君はその荒れた肌を逆手に取るんだ。『ユームに虐げられ、美容液一つ与えられなかった悲劇の令嬢』として振る舞え! これこそ、究極のアンチ・ホワイト戦略だ!」
「……えっ、これ、演技じゃなくて……ガチのガサガサなんですけど……。でも、それで美味しいものが食べられるなら……私、泣きますわ!」
二人は最後の気力を振り絞り、王都の中央広場へと向かった。
そこでは、ちょうど私が主催する「第一回・全土ホワイト労働者感謝祭」が開催されようとしていた。
広場に集まった何千人もの民衆は、皆、健康的でツヤツヤした顔をしている。
そこへ、ボロ布を被ったアキレスとララが乱入した。
「聞けええええ! 民衆よ! 騙されるな! そこにいるユーム・エデルガルドこそ、私を砂漠へ追放し、この可哀想な令嬢から美貌を奪った冷酷な女だ!」
アキレスの絶叫に、広場が一瞬静まり返った。
私は壇上で、手に持っていた「オーガニック・スムージー」を飲み干し、静かに彼らを見下ろした。
「あら、アキレス殿下……と、ララ様? 砂漠でのキャリアチェンジは、あまり上手くいかなかったようですわね」
「黙れ! 皆、見ろ! このララの肌を! これがホワイトの真実だ! 彼女はユームに虐げられ、睡眠すら奪われたのだ!」
アキレスがララの腕を掲げると、民衆から「おお……」と声が上がった。
だが、それは同情ではなく、明らかな「恐怖」と「嫌悪」だった。
「……ひっ、なんて汚い肌なの……。ちゃんと洗顔していないのかしら?」
「あんなにガサガサになるまで自分を管理できないなんて、自己管理能力がゼロだわ。……あんな人が、私たちのリーダーだったなんて信じられない!」
民衆の反応は、アキレスの予想を180度裏切るものだった。
今の国民は、私の教育によって「健康と美しさは、誠実な労働と休息の証」であるという価値観を骨の髄まで叩き込まれている。
ボロボロの姿は、もはや「同情」の対象ではなく、「無能」の象徴でしかなかったのだ。
「……あの、アキレス殿下。市場調査(マーケティング)が不足していましたわね」
私は壇上からゆっくりと降り、彼らの前に立った。
「今の我が国で、その姿は『悲劇』ではなく『怠慢』とみなされますの。……ララ様、そこまでお肌を放置するなんて、プロのヒロインとして恥ずかしくありませんの?」
「……恥ずかしい……。そうよ……私、恥ずかしいわ! こんなガサガサな顔を晒すなんて、死んだほうがマシですわあああ!」
ララ様はついに精神が崩壊し、顔を覆って泣き崩れた。
アキレスは、自分を蔑む民衆の「健康的で輝く瞳」に射すくめられ、膝から崩れ落ちた。
「……なぜだ……。なぜ、誰も私の『苦労話』を聞いてくれない……。苦労は尊いものじゃないのか……!?」
「殿下。……『不必要な苦労』は、単なる非効率ですわ。……さあ、衛兵。この方々をすぐに『強制デトックス・センター』へ。……そこで、まずは一ヶ月間、無言で泥パックを受けていただいてちょうだい。……それが、私から贈る最後の福利厚生ですわ」
私の命令により、アキレスとララは、引きずられるようにして連行されていった。
広場には、再び平和な音楽と、民衆の明るい笑い声が戻った。
「ユーム。……容赦ありませんね。……ですが、それが彼らへの一番の救いかもしれません」
ギルバート様が私の肩に手を置き、優しく微笑んだ。
「ええ。……美しさを忘れた者に、王族を語る資格はありませんもの。……さて、ギルバート様。感謝祭のメインイベント、『全自動・肩揉み魔導具』の体験会を始めましょうか!」
「ええ。……もちろん、私の肩は、あなたが揉んでくれるのを待っていますがね?」
「まあ、先生……! それは残業代、高くつきますわよ?」
私たちは笑い合いながら、輝く太陽の下で、さらなるホワイトな未来へと歩き出した。
アキレスたちの「ブラックな反乱」は、こうして一瞬の泡のように消え去ったのである。
私は、公爵邸のテラスで、焼き立てのスコーンにたっぷりのクロテッドクリームを乗せながら報告書を広げた。
新婚旅行から戻って以来、私たちの「ホワイト経営」は一つのブランドとなり、今や世界中の商人が「幸せな労働者が作った高品質な商品」を求めて列をなしている。
「素晴らしいですね、ユーム。……ですが、利益が増えすぎると、今度は税対策と再投資の配分が課題になります。……どうでしょう、余剰利益で全領民に『美容・健康維持のための特別賞与』を出しては?」
「名案ですわ、ギルバート様! 領民の皆様がさらに美しくなれば、領地の景観価値も上がりますもの。……まさに、美の複利効果ですわね!」
私たちがそんな優雅な「ホワイト談義」に花を咲かせていた頃。
王都の場末にある、埃っぽい酒場に、ボロボロの布を纏った二人の男女が潜り込んでいた。
「……ララ、聞け。私は閃いたのだ。……私たちがなぜ、こんな目に遭っているのか。それは、ユームが『ホワイト』という名の魔術で、民衆を洗脳しているからだ!」
アキレス王子……もとい、砂漠から這う失意のまま戻ってきた「元」王子は、充血した目で震える手元を見つめた。
隣のララ様は、もはやお肌の乾燥が限界を突破し、喋るたびに顔の皮膚がパキパキと音を立てそうなほど荒れ果てている。
「……殿下……。洗脳だなんて、そんなことより……私、温かいスープが……毒見なんてしなくていいから、具の入ったスープが飲みたいですわ……」
「馬鹿を言うな! 今こそ、我々が『悲劇のヒロインと、奪われた正当な継承者』として、民衆の同情を集めるのだ! 名付けて『ブラックこそが人間の真実、ホワイトは偽善作戦』だ!」
アキレスは、酒場の片隅に落ちていた汚れた紙に、歪んだ文字でスローガンを書きなぐった。
彼の計画はこうだ。
自分たちがどれほど過酷な目に遭ったかを涙ながらに演説し、ユームを「贅沢三昧の偽善者」として告発。
「苦労を知る王族」という偽りのブランディングで、民衆の支持を奪還しようというのである。
「いいか、ララ。君はその荒れた肌を逆手に取るんだ。『ユームに虐げられ、美容液一つ与えられなかった悲劇の令嬢』として振る舞え! これこそ、究極のアンチ・ホワイト戦略だ!」
「……えっ、これ、演技じゃなくて……ガチのガサガサなんですけど……。でも、それで美味しいものが食べられるなら……私、泣きますわ!」
二人は最後の気力を振り絞り、王都の中央広場へと向かった。
そこでは、ちょうど私が主催する「第一回・全土ホワイト労働者感謝祭」が開催されようとしていた。
広場に集まった何千人もの民衆は、皆、健康的でツヤツヤした顔をしている。
そこへ、ボロ布を被ったアキレスとララが乱入した。
「聞けええええ! 民衆よ! 騙されるな! そこにいるユーム・エデルガルドこそ、私を砂漠へ追放し、この可哀想な令嬢から美貌を奪った冷酷な女だ!」
アキレスの絶叫に、広場が一瞬静まり返った。
私は壇上で、手に持っていた「オーガニック・スムージー」を飲み干し、静かに彼らを見下ろした。
「あら、アキレス殿下……と、ララ様? 砂漠でのキャリアチェンジは、あまり上手くいかなかったようですわね」
「黙れ! 皆、見ろ! このララの肌を! これがホワイトの真実だ! 彼女はユームに虐げられ、睡眠すら奪われたのだ!」
アキレスがララの腕を掲げると、民衆から「おお……」と声が上がった。
だが、それは同情ではなく、明らかな「恐怖」と「嫌悪」だった。
「……ひっ、なんて汚い肌なの……。ちゃんと洗顔していないのかしら?」
「あんなにガサガサになるまで自分を管理できないなんて、自己管理能力がゼロだわ。……あんな人が、私たちのリーダーだったなんて信じられない!」
民衆の反応は、アキレスの予想を180度裏切るものだった。
今の国民は、私の教育によって「健康と美しさは、誠実な労働と休息の証」であるという価値観を骨の髄まで叩き込まれている。
ボロボロの姿は、もはや「同情」の対象ではなく、「無能」の象徴でしかなかったのだ。
「……あの、アキレス殿下。市場調査(マーケティング)が不足していましたわね」
私は壇上からゆっくりと降り、彼らの前に立った。
「今の我が国で、その姿は『悲劇』ではなく『怠慢』とみなされますの。……ララ様、そこまでお肌を放置するなんて、プロのヒロインとして恥ずかしくありませんの?」
「……恥ずかしい……。そうよ……私、恥ずかしいわ! こんなガサガサな顔を晒すなんて、死んだほうがマシですわあああ!」
ララ様はついに精神が崩壊し、顔を覆って泣き崩れた。
アキレスは、自分を蔑む民衆の「健康的で輝く瞳」に射すくめられ、膝から崩れ落ちた。
「……なぜだ……。なぜ、誰も私の『苦労話』を聞いてくれない……。苦労は尊いものじゃないのか……!?」
「殿下。……『不必要な苦労』は、単なる非効率ですわ。……さあ、衛兵。この方々をすぐに『強制デトックス・センター』へ。……そこで、まずは一ヶ月間、無言で泥パックを受けていただいてちょうだい。……それが、私から贈る最後の福利厚生ですわ」
私の命令により、アキレスとララは、引きずられるようにして連行されていった。
広場には、再び平和な音楽と、民衆の明るい笑い声が戻った。
「ユーム。……容赦ありませんね。……ですが、それが彼らへの一番の救いかもしれません」
ギルバート様が私の肩に手を置き、優しく微笑んだ。
「ええ。……美しさを忘れた者に、王族を語る資格はありませんもの。……さて、ギルバート様。感謝祭のメインイベント、『全自動・肩揉み魔導具』の体験会を始めましょうか!」
「ええ。……もちろん、私の肩は、あなたが揉んでくれるのを待っていますがね?」
「まあ、先生……! それは残業代、高くつきますわよ?」
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