婚約破棄!おバカな王子と縁が切れました!

パリパリかぷちーの

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「……ですから、私はこの『寝心地優先・ゆったりシルクドレス』がいいと言っているのですわ!」


私は、目の前に並べられた色とりどりのドレスを指差し、鼻息荒く宣言した。
決戦の夜会まであとわずか。
公爵家には王都屈指の仕立屋が呼び出され、私の部屋はさながら高級ブティックのようになっていた。


「お嬢様、それはドレスではございません、ただの高級な寝巻きですわ!」


メアリが頭を抱えて叫ぶ。
その横では、なぜか当然のように特等席に座って茶をしばいているルルが、冷ややかな視線を送ってきた。


「ミカ様、甘いですわね。今回の目的を忘れたのかしら? あのアホ王子に『ああっ、俺はなんて最高の女を手放してしまったんだ!』と地団駄を踏ませ、その直後にクラウス様に奪われる……この落差が重要なんですのよ」


「……理屈は分かりますけれど、重いドレスは肩が凝るんですもの」


私が渋っていると、部屋の隅で腕を組んでいたクラウス様が、静かに一歩前へ出た。
彼は並べられたドレスを一瞥すると、一点の迷いもなく、奥に控えていた深紅のドレスを指差した。


「……これにしろ」


「えっ、赤!? 派手すぎませんこと?」


「……いや、赤ではない。燃えるような、だが気品のある『ガーネット』の色だ。お前の瞳と同じ色だろう」


クラウス様のストレートな言葉に、心臓が跳ねた。
仕立屋が「流石は副団長様、お目が高い!」と、そのドレスを広げて見せる。
胸元には繊細なレース、腰回りには贅沢なドレープがあしらわれ、確かにこれまでの私が着ていた「王妃教育用の地味なドレス」とは一線を画す美しさだった。


「……これを着て、私の隣に立て。……文句はあるか?」


「……あ、あなたがそこまで言うなら、着てあげないこともありませんわ」


私は頬を赤らめ、視線を逸らした。
くやしい。
この鉄仮面騎士、たまに無自覚に殺し文句を投げてくるから油断できない。


「ではお嬢様、試着いたしましょう!」


メアリと数人の侍女に引きずられるようにして、私は着替え用の衝立の奥へと消えた。
コルセットで締め上げられ、幾重にも重なる布に包まれる。
……重い。やっぱり重いですわ。けれど、鏡に映った自分の姿を見て、言葉を失った。


「……これが、私?」


そこには、いつもの干物な姿は微塵もなかった。
鮮やかな赤が肌の白さを引き立て、凛とした公爵令嬢としての品格が、ドレスの輝きに負けないほど溢れ出していた。


「……お待たせいたしましたわ」


私が衝立から出ると、部屋の中がしんと静まり返った。
ルルは手に持ったお菓子を落とし、メアリは感極まって涙を拭っている。


そして、クラウス様は。


彼は、座っていた椅子から立ち上がることも忘れ、ただ呆然と私を見つめていた。
いつも冷静沈着な彼の瞳が、大きく見開かれている。


「……クラウス様? どうかしら。やっぱり派手すぎたかしら?」


私が不安になって尋ねると、彼はようやく我に返ったように、一度大きく視線を逸らし、それから再び私を凝視した。


「……いや。……完璧だ」


クラウス様の声が、微かに震えていた。
彼はゆっくりと私に歩み寄り、私の手を取った。


「……正直、驚いた。……お前が、これほどまでに……」


「……これほどまでに、なんですの?」


「……いや、なんでもない。……当日、他の男どもに目を付けられないように、私が常に目を光らせておかなければならなくなっただけだ」


クラウス様はそう言うと、私の手の甲に、誓いを立てるような深いキスを落とした。
練習の時よりもずっと長く、熱い唇の感触。


「ひゃ、ひゃあぁ……!」


「あらあら、副団長様、もう本番のつもりかしら?」


ルルの茶化す声が聞こえるけれど、今の私にはクラウス様の瞳しか見えなかった。
その銀色の瞳には、義務感だけではない、もっと強くて熱い何かが宿っているような気がして。


「……ミカ。覚悟はいいな」


「……ええ。……やってやりますわ。……王子を後悔のどん底に叩き落として、ついでに私の自由も勝ち取ってみせますわ!」


「……ああ。お前の自由は、私が守る」


ドレスの重み。腰に添えられた手の温もり。
決戦前夜。
私の心は、干物どころか、かつてないほど激しく燃え上がっていた。
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