婚約破棄!おバカな王子と縁が切れました!

パリパリかぷちーの

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会場の音楽がふっと止まった。
シャンデリアの明かりが一段と強まったかのように感じられたのは、中央の壇上にウィルフレッド王子が立ったからだろう。


「皆、聞いてくれ! 今夜、俺はこの輝かしい夜会に相応しい、慈悲に満ちた発表をしようと思う!」


王子が朗々と声を張り上げる。
私はクラウス様の腕を掴んだまま、内心で「来たわね……」と身構えた。
隣のクラウス様の腕にグッと力がこもる。


「我が元婚約者、ミカ・フォン・ガーネット! 前へ!」


指名を受け、会場の視線が再び私に突き刺さる。
私は重いドレスを引きずりながら、クラウス様にエスコートされて王子の前まで進み出た。
王子は、私が「感謝と感動で泣き崩れる」のを確信しているような、最高にナルシストな笑みを浮かべている。


「ミカよ。お前が婚約破棄の後、どれほど俺を想い、涙に暮れていたかは聞き及んでいる。……そのやつれ果てた姿、そして今夜の必死の着飾り……俺の心に深く届いたぞ!」


(やつれてませんわ。おやつでお肌ツヤツヤですわ。着飾ったのはクラウス様のチョイスですわ!)


反論したい口を必死に結んでいると、王子はドラマチックに両手を広げた。


「許そう! お前の数々の非礼(という名の妄想)を、俺の広い心で全て流してやる! さあ、喜べ。俺は今ここで、お前との再婚約を宣言する! お前を再び、俺を輝かせるための妃として迎えてやろう!」


会場から「おおお!」という驚きと、どこか困惑の混じった声が上がる。
王子は完全に悦に入り、私に手を差し伸べた。
さあ、ひれ伏して俺の靴にキスをしろ、と言わんばかりの態度だ。


私は、ゆっくりと息を吐き出した。
そして、これまでの人生で培った中で最も冷ややかな、そして最も「清々した」笑顔を浮かべた。


「謹んで、お断りさせていただきますわ。殿下」


「………………え?」


王子の手が、空中で凍りついた。
会場も、水を打ったように静まり返る。


「……今、なんと言った? 聞き間違いか? 『嬉しすぎて言葉も出ません』と言ったのか?」


「いいえ。『金輪際、お断りいたします』と申し上げましたの。殿下、お忘れですか? 私を『王妃の座にふさわしくない心の醜い女』と仰ったのは、他ならぬ殿下ご自身ですわよ?」


「そ、それはお前を教育するための愛の鞭というか……!」


「私、その鞭があまりに痛すぎて、すっかり目が覚めてしまいましたの。おかげさまで、殿下のいない生活がいかに快適で、眠りに満ち、おやつが美味しいかを思い知りましたわ」


私は一歩、王子から遠ざかった。
代わりに、隣に立つクラウス様の腕を、より深く、親密に抱きしめる。


「私はもう、殿下を輝かせるための小道具に戻るつもりはございません。私は私のために、そして……私の『本性』をまるごと受け入れてくださる方の傍にいたいのです」


「本性だと!? そんなものがあるのか! おい、クラウス! 貴様からも何か言え! この女は正気か!」


王子が助けを求めるようにクラウス様を睨みつける。
クラウス様は、氷のような冷徹な瞳で王子を見返した。


「……殿下。ミカ様は極めて正気です。……そして、彼女を再びその退屈な檻に閉じ込めようというのであれば、近衛騎士団副団長としてではなく、一人の男として、私が異議を唱えます」


クラウス様が、私を守るように前に出る。
その背中があまりにも頼もしくて、私の心臓がまた勝手なリズムを刻み始めた。


「貴様……本気で俺からミカを奪おうというのか!?」


「奪う? ……心外ですね。殿下は、ご自分で彼女を捨てたではありませんか。……捨てられた宝を、私が拾い上げ、慈しんで何が悪いのですか」


クラウス様の言葉に、会場中の令嬢たちが「きゃああっ!」と小さな悲鳴を上げた。
ルルが影で「いいぞ! もっとやれ!」とガッツポーズをしているのが見えた。


王子は顔を真っ赤にし、プルプルと震えている。
完全な計算違い。
彼にとって、私は「いつまでも自分を追いかけてくる便利な女」でなければならなかったのだ。


「……ええい、認めん! そんな勝手な真似、許されると思っているのか!」


王子の叫びが空虚に響く中、クラウス様は私に向き直った。
その銀色の瞳には、先ほどまでの冷たさはなく、私だけに向ける特別な熱が宿っていた。


「……ミカ。ここからは、練習通りではないぞ」


「えっ……?」


クラウス様が、大広間の中心で、ゆっくりとその場に跪いた。
会場の空気が、一瞬で爆発した。
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