婚約破棄!おバカな王子と縁が切れました!

パリパリかぷちーの

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王城でのあの大騒動から数時間後。
深夜にもかかわらず、ガーネット公爵家の応接室には、ピリピリとした緊張感が漂っていた。


正面に座るのは、我が家の主であり、私の最愛の父。
その鋭い眼光は、隣に座るクラウス様を射抜くように凝視している。


(……お父様、目が怖いですわ。これじゃあ、不敬罪を通り越して暗殺者の目ですわよ)


私は、父が用意させた高級な茶菓子をポリポリと食べながら、その様子を伺っていた。
一応、当事者なのだけれど、今の私にできることは現状を見守ること(と、お菓子を完食すること)だけである。


「……クラウス・フォン・アイゼン卿。話は聞いた。王城のど真ん中で、我が娘に公開プロポーズをしたそうだな」


「……左様です。公爵閣下」


クラウス様は、背筋を真っ直ぐに伸ばし、微塵も揺るがない声で答えた。
鎧を脱いだ礼装姿の彼は、騎士というよりは一人の誠実な男としての気圧を放っている。


「おかげで、我が家の早馬はパンク寸前だ。『一体どういうつもりだ』『娘を騎士に売るのか』と、他の貴族連中からの問い合わせが止まらん」


「ご迷惑をおかけしたことは承知しております。ですが、あの場でああする以外、ミカ様を殿下の手から完全に守る術はありませんでした」


父はフンと鼻を鳴らし、机をトントンと指先で叩いた。


「守る、か。……ミカ、お前はどうなんだ。この男に無理やり言わされたのではないか?」


父の視線が私に向く。
私は口の中にあったクッキーを急いで飲み込み、居住まいを正した。


「……お父様。私は、クラウス様の傍にいたいと思っていますわ。……彼は、私の『秘密』を知った上で、それでもいいと言ってくださった唯一の方ですもの」


「秘密? ……ああ、あのだらしない生活のことか」


父が呆れたように溜息を吐く。
クラウス様は、そこでさらりと爆弾を投下した。


「……閣下。私は既に、彼女の部屋の掃除を三度、洗濯の指示を二度行い、さらには夜食の管理までしております。……彼女を娶るということは、これらを一生続ける覚悟があるということです」


「……ほう」


父の眉がピクリと跳ねた。
えっ、何その「私はプロの介護士です」みたいなアピール。


「クラウス卿。お前は王国最強の騎士と謳われる男だ。……その剣を、娘の食べこぼしを拾うために使うというのか?」


「剣は国を、手は彼女を。……役割が違うだけです」


「……面白いことを言う」


父が、不意にニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
彼は立ち上がり、壁に飾られた模造剣を一本取り出すと、それをクラウス様に放り投げた。


「よし。お前の覚悟、試させてもらう。……今から庭へ出ろ。私と一太刀交え、お前のその『守る』という言葉に嘘がないか、確かめてやる」


「お父様!? 夜中に何を仰っているの!? 近所迷惑ですわ!」


「黙って見ていろ、ミカ。これは男同士の対話だ」


父は私の制止を無視し、意気揚々と庭へ向かった。
クラウス様もまた、静かに立ち上がり、私に一度だけ頷いて父の後に続いた。


夜の庭園。
月明かりの下で、二人の男が対峙する。
父は現役を退いたとはいえ、元は近衛騎士団を率いた猛者。
クラウス様は現役最強の騎士。


(……これ、庭の芝生がボロボロになるパターンですわ。明日の庭師さんの泣き顔が目に浮かぶ……)


私は、パジャマの上に羽織を引っ掛けただけの格好で、ベランダから二人の様子を眺めていた。


「……行くぞ!」


父の掛け声と共に、鋭い金属音が夜の静寂を切り裂いた。
打ち合う剣。火花が散り、風が巻く。
二人の動きは速すぎて、私の目では追いきれない。


数分間の激しい攻防の後。
父の剣が、クラウス様の喉元で止まった。
同時に、クラウス様の剣もまた、父の脇腹を正確に捉えていた。


「……く、くくく。……見事だ」


父が先に剣を引き、豪快に笑い出した。


「……お前の剣からは、迷いを感じん。……そして何より、私を殺さず、かつ確実に制する『優しさ』があった。……娘を任せるに足る男だ」


「……身に余る光栄です」


クラウス様は静かに一礼した。
父は彼の肩をガシッと掴み、満足そうに頷く。


「いいだろう。ミカとの仲、正式に認めよう。……ただし、クラウス。一つだけ約束しろ」


「……何でしょうか」


「……あいつの『干物生活』に付き合いすぎて、お前までだらしなくなるなよ。……たまには、私と一緒に狩りにでも行って、男の野生を取り戻すんだ」


「……善処いたします」


クラウス様が苦笑いしながら答える。
こうして、私の「再婚相手」は、公爵家の公認を得ることとなった。


私はベランダから身を乗り出し、下に向かって叫んだ。


「お父様! クラウス様! 終わったなら早く戻ってきて! 寒いですし、お腹が空きましたわ!」


「……全く、あいつは。……おい、クラウス。今すぐ何か食わせてやれ。機嫌が悪くなると面倒だぞ」


「……分かっております。……マフィンがまだ残っていたはずです」


二人が仲良く屋敷に戻ってくるのを見て、私はホッと胸を撫で下ろした。
婚約破棄から始まった波乱の日々。
けれど、私の「静かなるニート計画」は、最強の守護者を得て、より強固なものになろうとしていた。
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