婚約破棄と追放ですか。悪役令嬢ですものね。

パリパリかぷちーの

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アルストロメリア王国中から祝福を受けた結婚式から数日後。
私とカイルは彼の故郷であるレオンハルト帝国へと旅立つ日を迎えた。

王都の城門には見送りのために多くの人々が集まってくれていた。
国王陛下と宰相閣下、そして涙ぐむ父と辺境からわざわざ駆けつけてくれた村の皆の顔もあった。

「アール様お元気で!」

「帝国に行っても俺たちのことを忘れないでくれよな!」

ハンナが目にいっぱいの涙を溜めて小さな薬草の包みを私に手渡してくれた。

「これは私が初めて一人で調合した安眠のハーブティーです。旅の疲れをこれで癒してください」

「ありがとうハンナ。立派な薬師になるのですよ」

私は彼女を強く抱きしめた。
名残は尽きない。けれどもう悲しい別れではなかった。

「さあ行こう」

カイルに促され私は帝国の紋章が輝く馬車へと乗り込んだ。
遠ざかる故郷の景色といつまでも手を振り続ける人々の姿を胸に焼き付けながら、私は新しい人生が待つ地へと希望と共に走り出した。

長い旅の果てにたどり着いたレオンハルト帝国の首都レオンブルクは、私の想像を遥かに超える場所だった。

天を突くような白亜の塔。規律正しく活気に満ちた街並み。そして道行く人々の顔に浮かぶ自国への誇り。アルストロメリアとは全く違う力強く洗練された空気がそこにはあった。

そして私たちを歓迎する人々の熱気も王国以上のものだった。

「皇太子殿下ご帰還、心よりお祝い申し上げます!」

「アール妃殿下! ようこそレオンハルトへ!」

民衆は自分たちの敬愛する皇太子が選んだ妃をひと目見ようと沿道を埋め尽くしていた。彼らは私がアルストロメリアを救った「聖女」であることを既に知っており、その視線は好奇心と共に温かい好意と期待に満ちていた。

壮麗な皇宮で私たちはカイルの父君である皇帝陛下の謁見を受けた。

玉座に座すのは皇帝ヴィルヘルム陛下。彼は「獅子帝」の異名にふさわしい圧倒的な威厳と覇気をまとっていた。

「お前がアール・フォン・クライネルトか」

値踏みするような鋭い視線が私に注がれる。

私はその視線から逃げることなくまっすぐに見つめ返した。そして帝国式の最も丁寧な礼で頭を下げた。

「アールと申します。この度は皇太子妃としてお招きいただき身に余る光栄に存じます。至らぬ身ではございますがカイル殿下のお力になれますよう、そしてこのレオンハルト帝国の繁栄のために我が身の全てを捧げる覚悟でございます」

私の言葉を聞くと皇帝陛下は満足げに深く頷いた。

「ふん。アルストロメメリアを救った聖女と聞いていたがその目に宿る光、噂以上だな。気に入った」

陛下は立ち上がるとカイルの肩を力強く叩いた。

「カイルよ、良い嫁を見つけたな。……アール妃よ、お前はもはやこの帝国の人間だ。お前の持つ知識と力を存分にこの国のために使うがよい」

それは紛れもない歓迎の言葉だった。

こうして私の皇太子妃としての新しい生活が始まった。

最初はあまりの規模の大きさと文化の違いに戸惑うこともあった。しかしカイルが常に私の隣で支え導いてくれたおかげで私はすぐに新しい環境に順応することができた。

そして私はただ飾られているだけの妃になるつもりは毛頭なかった。

私はすぐに帝国の医療制度と薬学について学ぶことを陛下に願い出た。そして宮廷に所属する最高の薬師や錬金術師たちと毎日のように議論を交わした。

私の持つ実践的な薬草学の知識。
帝国の持つ理論的で高度な錬金術の技術。

その二つが融合した時、奇跡的な化学反応が起こった。
これまで治療が困難だった病に対する新薬が次々と開発されていったのだ。

「妃殿下の知識は我々の常識を遥かに超えておられる……!」

「なんと素晴らしい方を我々は皇室にお迎えしたのだ!」

宮廷薬師たちは私に心からの敬意を払ってくれた。

そして私の功績はすぐに帝国の民の知るところとなり、彼らは私を「美しいだけの妃」ではなく「国を豊かにする賢妃」「民を慈しむ聖女」として心から尊敬し愛してくれるようになった。

ある日の午後、山のような公務を片付けた私が執務室で一息ついているとカイルが優しい笑みを浮かべて入ってきた。

「疲れたかアール」

「いいえ。とても充実していますわ。ここが私の新しい居場所なのですね」

私は窓の外に広がる壮麗な帝都の景色を見つめながら心からの想いを口にした。

カイルはそんな私の後ろからそっと肩を抱きしめてくれた。

「ああ。お前はもう俺だけのものじゃない。このレオンハルト帝国にとってもかけがえのない宝なのだから」

彼の言葉が私の胸を温かく満たす。

追放された悪役令嬢だった私が、今、愛する人と共に一つの大きな国を導いていく。

新しい夢と誇り高い使命感を胸に、私の人生の第二章は今、始まったばかりだった。
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