婚約破棄と追放ですか。悪役令嬢ですものね。

パリパリかぷちーの

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私がレオンハルト帝国の皇太子妃となってから三年の歳月が流れた。

春の柔らかな陽光が降り注ぐ皇宮の庭園。その一角には私だけの薬草園があった。私が故郷から移植した薬草たちが生き生きと花を咲かせている。

「母上、この白いお花はなんという名前ですの?」

私の足元で小さな銀髪の女の子がたどたどしい口調で尋ねてきた。私の髪の色を受け継いだ娘のリリアーナだ。

「これはカモミールよリリィ。人の心を優しく落ち着かせてくれる魔法のお花なの」

私がそう答えると、今度はカイルによく似た黒髪の男の子が真剣な顔で言った。

「ではこれをたくさん摘んで父上に差し上げよう! 父上は毎日お仕事で疲れているから!」

兄のアレクシスは幼いながらも父親を深く敬愛していた。

「まあアレクは優しいのね。きっと父上も喜んでくださるわ」

私が二人の子供たちと微笑み合っていると背後からよく知る愛しい声がした。

「何やら俺の話をしているようだな」

振り返ると公務を終えたカイルが柔らかな笑みを浮かべて立っていた。

「父上!」

「お帰りなさいませ!」

二人の子供たちが歓声を上げて彼に駆け寄りその足にまとわりつく。カイルはそんな子供たちを一人ずつひょいと軽々と抱き上げた。

その姿は一国の皇太子としての威厳に満ちた彼とは違う、ただの優しい父親の顔だった。

私たちは薬草園の隣に設えられたテーブルで午後のティータイムを楽しむことにした。

テーブルに並ぶのは私が子供たちと一緒に焼いたハーブクッキーと、今朝摘んだばかりのフレッシュハーブで淹れた香り高いお茶。

「そういえばお前が主導している王立薬学研究所の新しい論文を読んだぞ。素晴らしい成果だな。画期的な発見だ」

紅茶を一口飲んだカイルが感心したように言った。

「ええ。これも優秀な研究員たちが頑張ってくれているおかげですわ。それにアルストロメリア王国との共同研究も順調に進んでいますのよ」

私が故郷に残してきた『森の薬草店』は今や後継者であるハンナの手によって立派に運営され、両国の医療技術の交流を担う重要な拠点となっていた。

「ハンナさんも本当にたくましくなって。今では私よりもずっと優れた薬師かもしれませんわ」

「それも全て君が蒔いた種が見事に花開いた結果だろう」

カイルは私の手をとりその指に輝く指輪にそっと口づけを落とした。

「初めてあの森で出会った時、お前がこうして俺の隣で俺の国の民のために笑っている未来を想像できただろうか」

彼の言葉に私は静かに首を振った。

「いいえ。あの頃の私はただ自分の知識の世界に閉じこもり明日を生きるのに必死でしたから。でも……」

私は彼の大きな手を両手でそっと包み込んだ。

「でもあなたが私を見つけてくれた。私の手を引いて広い世界へと連れ出してくれた。あなたと出会えたからこそ今の私があるのです」

私たちの視線が穏やかに絡み合う。
そこに流れるのは言葉など必要としない深く揺るぎない愛情と信頼だった。

子供たちの楽しそうな笑い声が庭園に響き渡る。
アレクシスが追いかけリリアーナがきゃあきゃあと逃げ回っている。

その光景を眺めながら私はこれまでの道のりを静かに心の中で振り返っていた。

悪役令嬢として全てを失い、国を追われた、あの絶望の日。
思えばあの時から私の本当の人生は始まったのだ。

失ったものは確かに多かったけれど、私はそれ以上にかけがえのない宝物をこの手にした。

私は隣で優しく微笑む夫の顔と、陽光の中で輝く子供たちの姿を愛おしさを込めて見つめた。

私の居場所はここにある。
愛する人々と共に歩むこの温かな陽だまりの中に。

物語の結末は絶望ではなかった。
それは私が想像したこともなかったほどの最高に幸せな、新しい物語の始まりだったのだ。
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