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時が、止まっていた。
星空の下、アリスティードの熱のこもった瞳が真っ直ぐにマーブルを射抜いている。
彼の大きな手に包まれた、自分の手が熱い。
『俺と、結婚してほしい』
その言葉が、夢のようにマーブルの頭の中を何度も何度も反響する。
嬉しくて、幸せで胸がいっぱいで言葉が出てこない。
ただ、熱い涙だけが後から後から頬を伝って流れ落ちていく。
その涙を、アリスティードは誤解したらしい。
彼の、いつもは自信に満ちた眉が不安そうに、わずかに寄せられた。
「……すまない。急すぎたか。君を困らせるつもりはなかったんだが……」
その、見たこともない彼の弱気な表情。
それを見た瞬間、マーブルの中で何かがふっと軽くなった。
胸いっぱいの感動が、彼女らしいいつものからかいの言葉へと変わる。
「……ふふっ」
思わず、笑みがこぼれていた。
「え……?」
「だって……。まさか、あの鉄仮面で氷血公爵と、国中に恐れられているアリスティード様が。……そんなに不安そうな情けないお顔をなさるなんて」
マーブルは涙で濡れた顔のまま、くすくすと笑った。
アリスティードは、一瞬きょとんとした顔をしたが、やがて自分がからかわれているのだと気づき少しだけむっとしたように口をへの字に曲げた。
「……笑うな」
「ごめんなさい。……でも、そんなあなたを初めて見ましたから」
マーブルはそっと涙を指で拭うと、改めてアリスティードの目を見つめ返した。
そして、わざと少しだけ偉そうな態度でふんぞり返ってみせる。
「……仕方ありませんわね」
「……何がだ」
「あなたの、プロポーズのことですわよ。……まあ、あなたのような、面白くて堅物で少しだけ可愛い殿方と一緒になるというのも」
マーブルは、そこで一度言葉を切った。
そして、最高の笑みを浮かべて続ける。
「これからの人生、退屈しなくて済みそうですし?」
「…………」
「特別に、あなたのおそばに、ずっといてさしあげますわ。……感謝なさいな」
それは、世界で一番、素直じゃない承諾の言葉。
悪役令嬢と呼ばれた、マーブルらしいひねくれた愛の答え。
アリスティードは、最初呆気に取られていたが、やがてその言葉の意味をゆっくりと理解した。
そして。
彼の、あの鉄仮面が。
ふわりと、花が綻ぶように優しく溶けていった。
それは、以前、丘の上で見たはにかんだようなささやかな笑みではない。
心の底からの、喜びと安堵と、そして深い愛情に満ちた本物の笑顔だった。
「……ああ。……感謝する、マーブル」
その破壊力抜群の笑顔に、今度はマーブルの心臓が大きく大きく跳ね上がった。
(……ず、ずるいわ、そんな顔……!)
アリスティードは、そんなマーブルの心中を知ってか知らずか、そっと彼女の頬に手を伸ばした。
そして、その顔を優しく自分の方へと引き寄せる。
二人の距離が、縮まっていく。
マーブルは、吸い込まれるように彼のサファイアの瞳を見つめていた。
そして、自然にそっとまぶたを閉じた。
唇に、柔らかくて少しだけひんやりとした感触。
それは、とてもとても優しい口づけだった。
最初は、触れるだけの雛鳥のようなキス。
それが、少しずつお互いの想いを確かめ合うように深くなっていく。
これまでの、不安も悲しみも孤独も。
その全てが、このキスで溶けて消えていくようだった。
長い、長い、口づけ。
唇が、離れた時。
二人は、お互いの額をこつんと合わせたまま見つめ合った。
「……愛している、マーブル」
「……わたくしも、ですわ。アリスティード」
もう、素直じゃない言葉は出てこなかった。
ただありのままの想いが自然に溢れ出す。
「……でも」
マーブルは、彼の胸に顔をうずめながらいたずらっぽく付け加えた。
「城下町の食べ歩きは、これからもやめませんからね?」
その言葉に、アリスティードは愛おしそうに声を立てて笑った。
「無論だ。……俺の妻になる君を、これからも俺が守る」
その言葉は、どんな宝石よりもきらびやかな永遠の誓いとなって星空に溶けていった。
星空の下、アリスティードの熱のこもった瞳が真っ直ぐにマーブルを射抜いている。
彼の大きな手に包まれた、自分の手が熱い。
『俺と、結婚してほしい』
その言葉が、夢のようにマーブルの頭の中を何度も何度も反響する。
嬉しくて、幸せで胸がいっぱいで言葉が出てこない。
ただ、熱い涙だけが後から後から頬を伝って流れ落ちていく。
その涙を、アリスティードは誤解したらしい。
彼の、いつもは自信に満ちた眉が不安そうに、わずかに寄せられた。
「……すまない。急すぎたか。君を困らせるつもりはなかったんだが……」
その、見たこともない彼の弱気な表情。
それを見た瞬間、マーブルの中で何かがふっと軽くなった。
胸いっぱいの感動が、彼女らしいいつものからかいの言葉へと変わる。
「……ふふっ」
思わず、笑みがこぼれていた。
「え……?」
「だって……。まさか、あの鉄仮面で氷血公爵と、国中に恐れられているアリスティード様が。……そんなに不安そうな情けないお顔をなさるなんて」
マーブルは涙で濡れた顔のまま、くすくすと笑った。
アリスティードは、一瞬きょとんとした顔をしたが、やがて自分がからかわれているのだと気づき少しだけむっとしたように口をへの字に曲げた。
「……笑うな」
「ごめんなさい。……でも、そんなあなたを初めて見ましたから」
マーブルはそっと涙を指で拭うと、改めてアリスティードの目を見つめ返した。
そして、わざと少しだけ偉そうな態度でふんぞり返ってみせる。
「……仕方ありませんわね」
「……何がだ」
「あなたの、プロポーズのことですわよ。……まあ、あなたのような、面白くて堅物で少しだけ可愛い殿方と一緒になるというのも」
マーブルは、そこで一度言葉を切った。
そして、最高の笑みを浮かべて続ける。
「これからの人生、退屈しなくて済みそうですし?」
「…………」
「特別に、あなたのおそばに、ずっといてさしあげますわ。……感謝なさいな」
それは、世界で一番、素直じゃない承諾の言葉。
悪役令嬢と呼ばれた、マーブルらしいひねくれた愛の答え。
アリスティードは、最初呆気に取られていたが、やがてその言葉の意味をゆっくりと理解した。
そして。
彼の、あの鉄仮面が。
ふわりと、花が綻ぶように優しく溶けていった。
それは、以前、丘の上で見たはにかんだようなささやかな笑みではない。
心の底からの、喜びと安堵と、そして深い愛情に満ちた本物の笑顔だった。
「……ああ。……感謝する、マーブル」
その破壊力抜群の笑顔に、今度はマーブルの心臓が大きく大きく跳ね上がった。
(……ず、ずるいわ、そんな顔……!)
アリスティードは、そんなマーブルの心中を知ってか知らずか、そっと彼女の頬に手を伸ばした。
そして、その顔を優しく自分の方へと引き寄せる。
二人の距離が、縮まっていく。
マーブルは、吸い込まれるように彼のサファイアの瞳を見つめていた。
そして、自然にそっとまぶたを閉じた。
唇に、柔らかくて少しだけひんやりとした感触。
それは、とてもとても優しい口づけだった。
最初は、触れるだけの雛鳥のようなキス。
それが、少しずつお互いの想いを確かめ合うように深くなっていく。
これまでの、不安も悲しみも孤独も。
その全てが、このキスで溶けて消えていくようだった。
長い、長い、口づけ。
唇が、離れた時。
二人は、お互いの額をこつんと合わせたまま見つめ合った。
「……愛している、マーブル」
「……わたくしも、ですわ。アリスティード」
もう、素直じゃない言葉は出てこなかった。
ただありのままの想いが自然に溢れ出す。
「……でも」
マーブルは、彼の胸に顔をうずめながらいたずらっぽく付け加えた。
「城下町の食べ歩きは、これからもやめませんからね?」
その言葉に、アリスティードは愛おしそうに声を立てて笑った。
「無論だ。……俺の妻になる君を、これからも俺が守る」
その言葉は、どんな宝石よりもきらびやかな永遠の誓いとなって星空に溶けていった。
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