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「サインなさい。今すぐです」
王城の会議室。
長大なテーブルを挟んで、私とフレデリック殿下は対峙していました。
私の目の前には、分厚い書類の束が置かれています。
タイトルは――**『婚姻における相互不可侵条約および業務分担に関する覚書(通称:奴隷契約書)』**。
「アミカ、これは?」
「私たちが結婚するための『条件』ですわ」
私は腕組みをして、冷徹に言い放ちました。
「いいですか、フレデリック。私は観念して結婚してあげますが、タダで王妃になるつもりはありません。貴方の都合のいい飾り人形になる気もありませんわ」
「もちろんさ。君は飾りじゃない。僕の心臓だ」
「心臓なら勝手に鼓動していてください。……とにかく! この契約書の内容を呑めないなら、私は今すぐ窓から飛び降りて、隣国へ亡命します」
「窓はシドが鉄格子をはめたから無理だよ」
「チッ、仕事が早いですわね……」
私は気を取り直して、書類をバンッ! と叩きました。
「内容は過酷ですわよ? 貴方にとって不利な条件ばかりです。泣いて謝っても許しません」
さあ、恐れおののきなさい。
私が夜なべして考えた(また夜なべしました)、悪魔の契約内容を!
「第一条! 『公務の分担について』!」
私は条文を読み上げました。
「王と王妃の公務比率は、これまでの慣例である『7対3』を撤廃し、『5対5』……いいえ、『貴方が7、私が3』とします!」
これは暴挙です。
王妃は本来、外交や社交がメインで、実務は王がやるもの。それを明文化してサボろうという魂胆です。
「どうです、嫌でしょう? 過労死したくなければ拒否なさい!」
しかし、殿下は即答しました。
「採用だ」
「は?」
「甘いよ、アミカ。君の負担を3割にする? 冗談じゃない。君は国の宝だ。君の負担は『ゼロ』でもいいくらいだ」
「ゼロだと私の存在意義がなくなります!」
「じゃあ、君は僕の執務室で、お菓子を食べながら僕を監視していてくれ。君に見られていると思えば、僕は通常の三倍の速度で書類を処理できる」
「監視カメラ扱いですか!?」
「君の視線があれば、僕は無限に働ける。7割どころか、10割僕がやってもいい」
「……いえ、それは私が暇すぎるので却下です。7対3で固定します」
なぜ私が譲歩しているのでしょう。
「第二条! 『休日の確保について』!」
私は次のページをめくりました。
「私は週休二日……いえ、三日を要求します! さらに、昼寝の時間は公務として認めさせます!」
王族に定休日などありません。これは国民への背信行為とも言えるワガママです。
「分かった。週休四日にしよう」
「増やすな!」
「睡眠は大事だ。君が寝不足で肌荒れを起こせば、国家の損失だ。昼寝用の枕は、最高級の羽毛を取り寄せよう。僕の膝でもいいかい?」
「膝枕は硬そうなので却下です。……貴方、本当に怒りませんの? 私は『サボる』と宣言しているのですわよ?」
「君がサボる姿を見るのが、僕の癒やしだからね」
ダメだ、会話になりません。
私は焦りました。
もっと、もっと彼が嫌がるような、理不尽な要求を突きつけなければ!
「だ、第三条! 『私生活における干渉について』!」
私は声を荒げました。
「私のプライベートには一切口出ししないこと! 私がどんな高価なドレスを買おうが、変な趣味(藁人形作りなど)に没頭しようが、文句を言わないこと!」
「当然だ。君の趣味は僕の趣味だ」
「さらに! 私の機嫌が悪い時は、無条件で貴方がサンドバッグになること!」
「物理的にかい? 精神的にかい? どっちも大歓迎だ」
「くっ……! なんて鉄壁の防御(ドM)!」
私は最後の切り札を出しました。
「第四条! 『罰則規定』!」
「罰則?」
殿下の目が怪しく光りました。
「もし、貴方がこの契約を破ったり、私を不快にさせたりした場合……」
私はニヤリと笑いました。
「私は貴方を、『一週間、完全に無視』しますわ」
「――ッ!?」
殿下の顔色が、一瞬で土気色に変わりました。
「む、無視……? 罵倒もなし? 冷ややかな視線もなし?」
「ええ。空気のように扱います。名前も呼びませんし、存在を認識しません」
これぞ究極の罰。
彼のような「かまってちゃん」には、物理的な痛みより、精神的な放置(ネグレクト)が一番効くはずです。
ガタガタガタ……。
殿下が震え始めました。
「そ、それだけは……それだけは勘弁してくれ……! 死んでしまう! 君に無視されたら、僕は干からびたミミズになって死んでしまう!」
「おほほ! やっと嫌がりましたわね!」
私は勝利を確信しました。
「嫌なら、死ぬ気で私の機嫌を取りなさい! 一生、私の下僕として尽くすのです!」
「分かった! 誓うよ! 契約する! 今すぐサインさせてくれ!」
殿下は震える手で羽ペンを奪い取り、契約書の末尾に猛烈な勢いでサインしました。
**『フレデリック・ド・ロイヤル(アミカブルの犬)』**
「(犬)まで書かなくてよろしい!」
「これで契約成立だね!? 無視しないでくれるね!?」
「ええ、契約を守る限りは罵倒してあげますわ」
「ああ、よかった……! ありがとう、アミカ!」
殿下は安堵のあまり、テーブルに突っ伏して泣き出しました。
「……はあ」
私は契約書を回収し、ポンと叩きました。
これで、私の「王妃としての特権」は確約されました。
公務は減り、休みは増え、夫は私の言いなり。
客観的に見れば、これ以上ない「悪女の勝利」です。
しかし、なぜでしょう。
ちっとも勝った気がしません。
むしろ、とてつもなく重い「愛」という足枷を、自らはめてしまったような気がします。
コンコン。
ドアが開き、リリーナさんが顔を出しました。
「お姉様ー! 失礼します! ウェディングドレスの仮縫いが終わりましたよー!」
「ああ、リリーナさん。……見てください、この哀れな下僕の姿を」
私は泣いている殿下を指差しました。
「あらら、殿下。嬉し泣きですか?」
「リリーナ嬢……怖かったよ……アミカに無視される未来を想像したら、地獄が見えたよ……」
「殿下、それは『愛』ですね! 重すぎて胃もたれしそうな愛です!」
リリーナさんはニカッと笑い、私に向き直りました。
「お姉様、すごいです! 即位前から国王陛下を完全に尻に敷くなんて! この国の最高権力者は、実質お姉様ですね!」
「違います。私はただのワガママな妻です」
「それが『最高権力者』の別名ですよ!」
リリーナさんは、私の手から契約書を覗き込みました。
「へえ……『休日には必ずリリーナとお茶会をすること』……あれっ? こんな条文ありましたっけ?」
「えっ? 書いてませんわよ」
見ると、契約書の隅に、殿下の字で追記されていました。
『追伸:アミカの精神安定のために、リリーナ嬢を王妃直属の補佐官(兼・話し相手)に任命する』
「フレデリック……貴方、いつの間に」
殿下は顔を上げ、ニヤリと笑いました。
「僕だって、ただ言いなりになっているわけじゃないさ。君には『ガス抜き』が必要だ。男爵令嬢、君がいてくれないと、アミカは真面目すぎてパンクしてしまうからね」
「殿下……! ナイス判断です! 一生ついていきます!」
「二人して結託しないでくださる!?」
やられました。
この男、ただのドMではありません。
私の性格を完全に把握し、私が一番働きやすく、そして逃げ出さないような環境を整えやがりました。
「……チッ。策士ですわね」
「君に鍛えられたからね」
殿下は立ち上がり、私に手を差し伸べました。
「さあ行こう、アミカ。結婚式の準備だ。国民が待っているよ」
「……ええ、行きますわよ」
私はその手を取りました。
「覚悟しておきなさい。式場までの道のり、一歩でも歩調を間違えたら、ヒールで足を踏みますからね」
「望むところだ。つま先から愛を感じさせてくれ」
「気持ち悪いですわ!」
私たちは扉を開け、光溢れる廊下へと歩き出しました。
背後でリリーナさんが「最強のカップル爆誕ですね! この光景、絵画にして後世に残さなきゃ!」と叫んでいるのを聞きながら。
こうして、国一番の「悪役令嬢(自称)」と「ドM国王(公認)」による、新たな契約に基づいた共同生活が幕を開けたのです。
王城の会議室。
長大なテーブルを挟んで、私とフレデリック殿下は対峙していました。
私の目の前には、分厚い書類の束が置かれています。
タイトルは――**『婚姻における相互不可侵条約および業務分担に関する覚書(通称:奴隷契約書)』**。
「アミカ、これは?」
「私たちが結婚するための『条件』ですわ」
私は腕組みをして、冷徹に言い放ちました。
「いいですか、フレデリック。私は観念して結婚してあげますが、タダで王妃になるつもりはありません。貴方の都合のいい飾り人形になる気もありませんわ」
「もちろんさ。君は飾りじゃない。僕の心臓だ」
「心臓なら勝手に鼓動していてください。……とにかく! この契約書の内容を呑めないなら、私は今すぐ窓から飛び降りて、隣国へ亡命します」
「窓はシドが鉄格子をはめたから無理だよ」
「チッ、仕事が早いですわね……」
私は気を取り直して、書類をバンッ! と叩きました。
「内容は過酷ですわよ? 貴方にとって不利な条件ばかりです。泣いて謝っても許しません」
さあ、恐れおののきなさい。
私が夜なべして考えた(また夜なべしました)、悪魔の契約内容を!
「第一条! 『公務の分担について』!」
私は条文を読み上げました。
「王と王妃の公務比率は、これまでの慣例である『7対3』を撤廃し、『5対5』……いいえ、『貴方が7、私が3』とします!」
これは暴挙です。
王妃は本来、外交や社交がメインで、実務は王がやるもの。それを明文化してサボろうという魂胆です。
「どうです、嫌でしょう? 過労死したくなければ拒否なさい!」
しかし、殿下は即答しました。
「採用だ」
「は?」
「甘いよ、アミカ。君の負担を3割にする? 冗談じゃない。君は国の宝だ。君の負担は『ゼロ』でもいいくらいだ」
「ゼロだと私の存在意義がなくなります!」
「じゃあ、君は僕の執務室で、お菓子を食べながら僕を監視していてくれ。君に見られていると思えば、僕は通常の三倍の速度で書類を処理できる」
「監視カメラ扱いですか!?」
「君の視線があれば、僕は無限に働ける。7割どころか、10割僕がやってもいい」
「……いえ、それは私が暇すぎるので却下です。7対3で固定します」
なぜ私が譲歩しているのでしょう。
「第二条! 『休日の確保について』!」
私は次のページをめくりました。
「私は週休二日……いえ、三日を要求します! さらに、昼寝の時間は公務として認めさせます!」
王族に定休日などありません。これは国民への背信行為とも言えるワガママです。
「分かった。週休四日にしよう」
「増やすな!」
「睡眠は大事だ。君が寝不足で肌荒れを起こせば、国家の損失だ。昼寝用の枕は、最高級の羽毛を取り寄せよう。僕の膝でもいいかい?」
「膝枕は硬そうなので却下です。……貴方、本当に怒りませんの? 私は『サボる』と宣言しているのですわよ?」
「君がサボる姿を見るのが、僕の癒やしだからね」
ダメだ、会話になりません。
私は焦りました。
もっと、もっと彼が嫌がるような、理不尽な要求を突きつけなければ!
「だ、第三条! 『私生活における干渉について』!」
私は声を荒げました。
「私のプライベートには一切口出ししないこと! 私がどんな高価なドレスを買おうが、変な趣味(藁人形作りなど)に没頭しようが、文句を言わないこと!」
「当然だ。君の趣味は僕の趣味だ」
「さらに! 私の機嫌が悪い時は、無条件で貴方がサンドバッグになること!」
「物理的にかい? 精神的にかい? どっちも大歓迎だ」
「くっ……! なんて鉄壁の防御(ドM)!」
私は最後の切り札を出しました。
「第四条! 『罰則規定』!」
「罰則?」
殿下の目が怪しく光りました。
「もし、貴方がこの契約を破ったり、私を不快にさせたりした場合……」
私はニヤリと笑いました。
「私は貴方を、『一週間、完全に無視』しますわ」
「――ッ!?」
殿下の顔色が、一瞬で土気色に変わりました。
「む、無視……? 罵倒もなし? 冷ややかな視線もなし?」
「ええ。空気のように扱います。名前も呼びませんし、存在を認識しません」
これぞ究極の罰。
彼のような「かまってちゃん」には、物理的な痛みより、精神的な放置(ネグレクト)が一番効くはずです。
ガタガタガタ……。
殿下が震え始めました。
「そ、それだけは……それだけは勘弁してくれ……! 死んでしまう! 君に無視されたら、僕は干からびたミミズになって死んでしまう!」
「おほほ! やっと嫌がりましたわね!」
私は勝利を確信しました。
「嫌なら、死ぬ気で私の機嫌を取りなさい! 一生、私の下僕として尽くすのです!」
「分かった! 誓うよ! 契約する! 今すぐサインさせてくれ!」
殿下は震える手で羽ペンを奪い取り、契約書の末尾に猛烈な勢いでサインしました。
**『フレデリック・ド・ロイヤル(アミカブルの犬)』**
「(犬)まで書かなくてよろしい!」
「これで契約成立だね!? 無視しないでくれるね!?」
「ええ、契約を守る限りは罵倒してあげますわ」
「ああ、よかった……! ありがとう、アミカ!」
殿下は安堵のあまり、テーブルに突っ伏して泣き出しました。
「……はあ」
私は契約書を回収し、ポンと叩きました。
これで、私の「王妃としての特権」は確約されました。
公務は減り、休みは増え、夫は私の言いなり。
客観的に見れば、これ以上ない「悪女の勝利」です。
しかし、なぜでしょう。
ちっとも勝った気がしません。
むしろ、とてつもなく重い「愛」という足枷を、自らはめてしまったような気がします。
コンコン。
ドアが開き、リリーナさんが顔を出しました。
「お姉様ー! 失礼します! ウェディングドレスの仮縫いが終わりましたよー!」
「ああ、リリーナさん。……見てください、この哀れな下僕の姿を」
私は泣いている殿下を指差しました。
「あらら、殿下。嬉し泣きですか?」
「リリーナ嬢……怖かったよ……アミカに無視される未来を想像したら、地獄が見えたよ……」
「殿下、それは『愛』ですね! 重すぎて胃もたれしそうな愛です!」
リリーナさんはニカッと笑い、私に向き直りました。
「お姉様、すごいです! 即位前から国王陛下を完全に尻に敷くなんて! この国の最高権力者は、実質お姉様ですね!」
「違います。私はただのワガママな妻です」
「それが『最高権力者』の別名ですよ!」
リリーナさんは、私の手から契約書を覗き込みました。
「へえ……『休日には必ずリリーナとお茶会をすること』……あれっ? こんな条文ありましたっけ?」
「えっ? 書いてませんわよ」
見ると、契約書の隅に、殿下の字で追記されていました。
『追伸:アミカの精神安定のために、リリーナ嬢を王妃直属の補佐官(兼・話し相手)に任命する』
「フレデリック……貴方、いつの間に」
殿下は顔を上げ、ニヤリと笑いました。
「僕だって、ただ言いなりになっているわけじゃないさ。君には『ガス抜き』が必要だ。男爵令嬢、君がいてくれないと、アミカは真面目すぎてパンクしてしまうからね」
「殿下……! ナイス判断です! 一生ついていきます!」
「二人して結託しないでくださる!?」
やられました。
この男、ただのドMではありません。
私の性格を完全に把握し、私が一番働きやすく、そして逃げ出さないような環境を整えやがりました。
「……チッ。策士ですわね」
「君に鍛えられたからね」
殿下は立ち上がり、私に手を差し伸べました。
「さあ行こう、アミカ。結婚式の準備だ。国民が待っているよ」
「……ええ、行きますわよ」
私はその手を取りました。
「覚悟しておきなさい。式場までの道のり、一歩でも歩調を間違えたら、ヒールで足を踏みますからね」
「望むところだ。つま先から愛を感じさせてくれ」
「気持ち悪いですわ!」
私たちは扉を開け、光溢れる廊下へと歩き出しました。
背後でリリーナさんが「最強のカップル爆誕ですね! この光景、絵画にして後世に残さなきゃ!」と叫んでいるのを聞きながら。
こうして、国一番の「悪役令嬢(自称)」と「ドM国王(公認)」による、新たな契約に基づいた共同生活が幕を開けたのです。
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