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「……足りませんわ。圧倒的に、ビジュアル的な説得力が足りませんのよ!」
朝一番、私は鏡の前で自分の顔を指差して叫びました。
「お嬢様、朝から自分の顔に文句を言わないでください。十分すぎるほど整っているでしょうに」
サラが溜め息をつきながら、私の髪を整えようとします。
しかし、私はその手を力強く振り払いました。
「顔立ちのことではありませんわ! 属性ですの、属性! 今の私はただの『王子を愛しすぎる公爵令嬢』。これでは、アリステア様に婚約破棄を突きつける大義名分が立ちませんわ」
「はあ……。で、今回は何を付け足すおつもりで?」
「決まっていますわ。悪役令嬢としての三種の神器……『縦ロール』『扇子』、そして『高笑い』ですわ!」
私は鼻息も荒く、机の上に置いた特注の扇子をバサリと広げました。
これです。
これこそが、傲慢で不遜な女の象徴。
そして、このサラサラのストレートヘアを、威圧感のあるドリルのような縦ロールに改造するのです!
「サラ、今すぐ私の髪を巻いてちょうだい! それも、歩くたびに『ボヨンボヨン』と弾むような、重厚なやつを!」
「……正気ですか? 今の流行はナチュラルなウェーブですよ。そんな古い時代の彫刻みたいな頭にしたら、笑いものになります」
「それがいいのよ! アリステア様に『なんだその珍妙な頭は』と引かれるのが目的なんですから!」
数時間後。
鏡の中には、私の顔の両サイドに巨大なチョココロネをぶら下げたような、凄まじいボリュームの女が完成していました。
「オーッホッホッホ! 見てちょうだい、サラ! この圧倒的な威圧感! どこからどう見ても、性格の悪そうな女に見えるでしょう!?」
「……ええ、性格が悪いというより、頭が悪いように見えます。あと、単純に重そうですね」
「重さなんて愛の重さに比べれば羽毛のようなものよ! さあ、この姿で学園のサロンへ乗り込みますわよ!」
私は扇子で口元を隠し、ボヨンボヨンとチョココロネを揺らしながら、意気揚々と馬車に乗り込みました。
学園のサロンには、今日も今日とて神々しいオーラを放つアリステア様がいらっしゃいました。
彼は優雅に読書をされていましたが、私の足音……いえ、縦ロールが風を切る音に気づき、顔を上げました。
「ご機嫌よう、アリステア殿下! オーッホッホッホ!」
私は扇子をバッと広げ、練習通りの高笑いをぶつけました。
どうかしら。
この時代遅れの髪型。
この不自然な笑い声。
王子、今すぐ私に「不気味だから近寄るな」と言ってちょうだい!
ところが、アリステア様は私を見るなり、そのサファイアのような瞳を驚きに見開きました。
(きたわ……! ついにドン引きしたのね!)
しかし、次の瞬間。
彼から漏れたのは、拒絶ではなく、感嘆の溜め息でした。
「……素晴らしい。メティ、それは新しい試みかい?」
「は……はひ?」
「その髪型……。まるで古代の聖なる神殿の柱を彷彿とさせる、荘厳な美しさだ。それにその笑い声……。どこか懐かしく、そして力強い。君の自信に満ち溢れた姿を見て、私は今、猛烈に感動しているよ」
アリステア様は本を閉じ、私の元へ歩み寄ると、私の縦ロールの一つにそっと触れました。
「この弾力……。君がこれほどまでに自分を律し、髪の一本一本にまで情熱を注いでいるとは。メティ、君はどこまで私を驚かせてくれるんだ」
「ち、違いますの! これは荘厳さとかじゃなくて、単なる嫌がらせ……というか、私を古臭い女だと思ってほしくて……!」
「古臭い? とんでもない。一周回って最新の芸術だよ。……そうだ、今度の夜会には私も君に合わせて、金の刺繍を多めに入れたクラシカルな正装で出席しよう。君という芸術の隣に立つには、私もそれなりの覚悟が必要だからね」
アリステア様は私の手を取り、うっとりと私の顔を見つめました。
至近距離で浴びる、王子の熱烈な眼差し。
その瞳に映る私は、確かにチョココロネをぶら下げた変な女なのですが、彼の手にかかると「最先端のミューズ」に仕立て上げられてしまうのです。
「あああ、もう……! アリステア様が全肯定の神すぎて、私の作戦が全部砂のお城のように崩れていく……!」
私はあまりの尊さに、扇子で顔を隠して悶絶しました。
本当は「フン、私に似合う男なんてこの世にいませんわ!」と高飛車に出るつもりだったのに、王子の包容力の前に語彙力が死滅していきます。
「メティ、そんなに扇子で顔を隠さないでおくれ。君のその誇り高い笑顔をもっと見せてほしい」
「……あぅ……殿下……愛してます……(小声)」
「お嬢様、結局告白してどうするんですか。高笑いはどこへ行ったんですか」
背後でサラが氷のような声でツッコミを入れますが、私の心臓はすでにオーバーヒート状態。
縦ロールが恥ずかしさでブルブルと震えます。
「見て、メティ。君の髪が喜びに震えているね。愛らしいな」
「……これは怒りの震えですわ! ……嘘です、ただの動悸ですわ!」
結局、その日の学園では「メティ様が始めた縦ロールが、次世代のトレンドになるらしい」という噂が広まり、翌日から一部の令嬢たちがこぞって髪を巻き始めるという珍現象が起きました。
「……どうして。どうしてこうなるのよ……!」
私は自室で、サラに縦ロールを解いてもらいながら涙を流しました。
「お嬢様、諦めてください。殿下にとっては、あなたが泥を塗った顔で現れても『独創的なメイクだ』と褒めるに決まっています」
「……まだよ。まだ三種の神器の使い方が甘かっただけよ。次は……次はもっと精神的にくる嫌がらせを……!」
しかし、鏡の中の私の髪は、激しく巻きすぎたせいで、解いた後も不自然にうねうねと波打っていました。
私の婚約破棄への道も、この髪のように迷走を極めていくのでした。
朝一番、私は鏡の前で自分の顔を指差して叫びました。
「お嬢様、朝から自分の顔に文句を言わないでください。十分すぎるほど整っているでしょうに」
サラが溜め息をつきながら、私の髪を整えようとします。
しかし、私はその手を力強く振り払いました。
「顔立ちのことではありませんわ! 属性ですの、属性! 今の私はただの『王子を愛しすぎる公爵令嬢』。これでは、アリステア様に婚約破棄を突きつける大義名分が立ちませんわ」
「はあ……。で、今回は何を付け足すおつもりで?」
「決まっていますわ。悪役令嬢としての三種の神器……『縦ロール』『扇子』、そして『高笑い』ですわ!」
私は鼻息も荒く、机の上に置いた特注の扇子をバサリと広げました。
これです。
これこそが、傲慢で不遜な女の象徴。
そして、このサラサラのストレートヘアを、威圧感のあるドリルのような縦ロールに改造するのです!
「サラ、今すぐ私の髪を巻いてちょうだい! それも、歩くたびに『ボヨンボヨン』と弾むような、重厚なやつを!」
「……正気ですか? 今の流行はナチュラルなウェーブですよ。そんな古い時代の彫刻みたいな頭にしたら、笑いものになります」
「それがいいのよ! アリステア様に『なんだその珍妙な頭は』と引かれるのが目的なんですから!」
数時間後。
鏡の中には、私の顔の両サイドに巨大なチョココロネをぶら下げたような、凄まじいボリュームの女が完成していました。
「オーッホッホッホ! 見てちょうだい、サラ! この圧倒的な威圧感! どこからどう見ても、性格の悪そうな女に見えるでしょう!?」
「……ええ、性格が悪いというより、頭が悪いように見えます。あと、単純に重そうですね」
「重さなんて愛の重さに比べれば羽毛のようなものよ! さあ、この姿で学園のサロンへ乗り込みますわよ!」
私は扇子で口元を隠し、ボヨンボヨンとチョココロネを揺らしながら、意気揚々と馬車に乗り込みました。
学園のサロンには、今日も今日とて神々しいオーラを放つアリステア様がいらっしゃいました。
彼は優雅に読書をされていましたが、私の足音……いえ、縦ロールが風を切る音に気づき、顔を上げました。
「ご機嫌よう、アリステア殿下! オーッホッホッホ!」
私は扇子をバッと広げ、練習通りの高笑いをぶつけました。
どうかしら。
この時代遅れの髪型。
この不自然な笑い声。
王子、今すぐ私に「不気味だから近寄るな」と言ってちょうだい!
ところが、アリステア様は私を見るなり、そのサファイアのような瞳を驚きに見開きました。
(きたわ……! ついにドン引きしたのね!)
しかし、次の瞬間。
彼から漏れたのは、拒絶ではなく、感嘆の溜め息でした。
「……素晴らしい。メティ、それは新しい試みかい?」
「は……はひ?」
「その髪型……。まるで古代の聖なる神殿の柱を彷彿とさせる、荘厳な美しさだ。それにその笑い声……。どこか懐かしく、そして力強い。君の自信に満ち溢れた姿を見て、私は今、猛烈に感動しているよ」
アリステア様は本を閉じ、私の元へ歩み寄ると、私の縦ロールの一つにそっと触れました。
「この弾力……。君がこれほどまでに自分を律し、髪の一本一本にまで情熱を注いでいるとは。メティ、君はどこまで私を驚かせてくれるんだ」
「ち、違いますの! これは荘厳さとかじゃなくて、単なる嫌がらせ……というか、私を古臭い女だと思ってほしくて……!」
「古臭い? とんでもない。一周回って最新の芸術だよ。……そうだ、今度の夜会には私も君に合わせて、金の刺繍を多めに入れたクラシカルな正装で出席しよう。君という芸術の隣に立つには、私もそれなりの覚悟が必要だからね」
アリステア様は私の手を取り、うっとりと私の顔を見つめました。
至近距離で浴びる、王子の熱烈な眼差し。
その瞳に映る私は、確かにチョココロネをぶら下げた変な女なのですが、彼の手にかかると「最先端のミューズ」に仕立て上げられてしまうのです。
「あああ、もう……! アリステア様が全肯定の神すぎて、私の作戦が全部砂のお城のように崩れていく……!」
私はあまりの尊さに、扇子で顔を隠して悶絶しました。
本当は「フン、私に似合う男なんてこの世にいませんわ!」と高飛車に出るつもりだったのに、王子の包容力の前に語彙力が死滅していきます。
「メティ、そんなに扇子で顔を隠さないでおくれ。君のその誇り高い笑顔をもっと見せてほしい」
「……あぅ……殿下……愛してます……(小声)」
「お嬢様、結局告白してどうするんですか。高笑いはどこへ行ったんですか」
背後でサラが氷のような声でツッコミを入れますが、私の心臓はすでにオーバーヒート状態。
縦ロールが恥ずかしさでブルブルと震えます。
「見て、メティ。君の髪が喜びに震えているね。愛らしいな」
「……これは怒りの震えですわ! ……嘘です、ただの動悸ですわ!」
結局、その日の学園では「メティ様が始めた縦ロールが、次世代のトレンドになるらしい」という噂が広まり、翌日から一部の令嬢たちがこぞって髪を巻き始めるという珍現象が起きました。
「……どうして。どうしてこうなるのよ……!」
私は自室で、サラに縦ロールを解いてもらいながら涙を流しました。
「お嬢様、諦めてください。殿下にとっては、あなたが泥を塗った顔で現れても『独創的なメイクだ』と褒めるに決まっています」
「……まだよ。まだ三種の神器の使い方が甘かっただけよ。次は……次はもっと精神的にくる嫌がらせを……!」
しかし、鏡の中の私の髪は、激しく巻きすぎたせいで、解いた後も不自然にうねうねと波打っていました。
私の婚約破棄への道も、この髪のように迷走を極めていくのでした。
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