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「……ふふ、ふふふふ。今度こそ、言い逃れできない証拠を突きつけてあげますわ。サラ、紙とペンを用意してちょうだい!」
朝、カーテンを開けるなり、私は勝利を確信して高らかに宣言しました。
「お嬢様、朝から不気味な笑い声はやめてください。今度は何をなさるおつもりですか。また自作の抱き枕を増やすわけではないですよね?」
「失礼ね、あれは生活必需品ですわよ! でも今日は違いますの。……『偽造ラブレター作戦』ですわ!」
「……偽造、ですか」
「ええ! あの可憐な(?)クララ様からアリステア様へ宛てた、情熱的なラブレターを私が捏造するのです。それをアリステア様の元へ届け、二人の間に『密愛』があるかのように仕立て上げますの。そうすれば、私は……! 私は……!」
私は机に身を乗り出し、拳を握りました。
「私は、『二人の仲は分かっていますわ! さあ、私という邪魔者は消え失せますから、お二人で幸せになりなさい!』と、涙ながらに(嘘だけど)身を引くことができるのですわ!」
「……なるほど。でも、筆跡でバレませんか?」
「そこは抜かりありませんわ。クララ様本人の筆跡を真似れば……と思ったのですが、あの方の字、壊滅的に丸文字でヒロインらしさが足りないんですのよ。だから、私が考える『可憐で儚い少女』になりきって、少し震えたような文字で代筆しますわ!」
私は早速、クララ様を公爵邸にお呼びしました。
「……もぐもぐ。メティ様、このスコーン、クロテッドクリームがたっぷりで最高ですぅ……。それで、今日は何を書けばいいんですかぁ?」
「ああっ、もう! クララ様、口の周りにカスがついていますわよ! あなたはただ、そこに座って『うふふ』と笑っていればいいのですわ。文面は私が、あなたの内なる情熱を代弁して差し上げますから!」
私はペンを執り、羊皮紙に向かいました。
脳内には、王道ラブストーリーの切ないヒロインを召喚します。
『愛しきアリステア様。あなたを遠くから見つめるだけで、私の心は千々に乱れます。公爵令嬢という婚約者がいながら、あなたを慕う不敬な私をお許しください……。今夜、庭園の東屋でお待ちしております』
「……お嬢様、なんだか文章に熱が入りすぎて、途中から自分の欲望が漏れていませんか?」
「気のせいよ! さあ、これをこのままアリステア様の執務机に忍ばせるのですわ!」
私は変装(したつもりの派手なマント姿)をして王宮に忍び込み、なんとかアリステア様の執務室へ。
誰もいない隙を見計らって、机の真ん中にその手紙を置きました。
「……ふふ。これで今夜、アリステア様は東屋へ向かうはず。そこで私が、鉢合わせた二人を断罪……いえ、祝福してあげるのですわ!」
その日の夜。
私は期待に胸を膨らませて、庭園の東屋の物陰に潜んでいました。
隣には、私が用意した最高級のハムサンドを食べているクララ様もいます。
「メティ様ぁ……蚊に刺されましたぁ……」
「我慢なさい! もうすぐアリステア様が来て、あなたに恋の告白を……っ、来たわ!」
月明かりの下、アリステア様が一人で東屋に現れました。
手には、私がおいたあの手紙を持っています。
「……ここに、いるんだね?」
アリステア様の声が響きました。
いつもより低く、そしてどこか……艶っぽい響き。
私は「さあ、クララ様! 行っておいでなさい!」と彼女の背中を突き出しました。
「あ、あのぅ、殿下ぁ……。クララですぅ……」
クララ様がよろよろと東屋へ歩み出ます。
さあ! アリステア様、彼女を抱き寄せて! そして私に婚約破棄を!
しかし、アリステア様はクララ様を一瞥しただけで、その視線をすぐに周囲の暗闇へと向けました。
「……メティ。そこに隠れているんだろう? 出ておいで」
「な、ななな、なぜ私がここにいると分かったのですの!?」
私は慌てて植え込みから飛び出しました。
マントで顔を隠していたはずなのに、どうして!
「……なぜ、かな。君の気配は、私にとっては太陽のように眩しいからね。隠れていてもすぐに分かるよ」
アリステア様は手紙をひらひらとさせながら、私に歩み寄ってきました。
「それより、この手紙。君が書いたものだね?」
「い、いいえ! それはクララ様の情熱的な愛の告白ですわ! ほら、見てください、その儚げな筆跡! 私のような強欲な女には書けない、清らかな文字でしょう!?」
「……メティ。君は忘れているのかい? 私は君の筆跡を、毎日欠かさず眺めているんだよ。君が幼い頃にくれた拙い手紙から、最近の『殿下のお顔が尊い』というメモに至るまで、全てね」
「……(あ、メモ捨て忘れてた)」
「この『あ』の曲がり方。そして、熱が入るあまりに紙が少し波打っているこの質感。……これは間違いなく、君の愛がこもった文字だ。クララ様に宛てたふりをして、私への溢れる想いを綴ったんだね?」
「違いますの! 断じて違いますの!」
「……『あなたの黄金の髪は、夜の帳さえも照らす奇跡の光』……。ふふ、こんなに熱烈な言葉を、君から直接もらえるなんて。……ああ、今日はこの手紙を胸に抱いて眠ることにするよ」
アリステア様は手紙を大切そうに懐にしまい、私を優しく、逃がさないように抱きしめました。
「……メティ。君のこういう『恥ずかしがり方』も、私は大好きだよ。次は、クララ様の名前なんて使わず、君自身の名前で送っておくれ。……待っているからね」
「あ……あぅ……」
至近距離で浴びる、王子の特濃スマイル。
そして、自分の書いたポエムを本人の前で朗読されるという、究極の公開処刑。
私の精神状態は、尊さと羞恥心で限界を迎えました。
「殿下……。あの、私の愛はそんなものじゃなくて、もっと、こう、地を這うような執着で……」
「分かっているよ。私も同じだからね」
アリステア様は私の耳元で囁くと、満足げに微笑んで去っていきました。
後に残されたのは、真っ赤になって立ち尽くす私と、ハムサンドを食べ終えたクララ様だけ。
「メティ様ぁ。殿下、全然私の方を見てくれませんでしたねぇ。……次のサンドイッチ、いただけます?」
「……もう、全部食べていいわよ、クララ様……」
結局、捏造したはずのラブレターは、「メティからの熱烈な愛のメッセージ」として、王子の宝物コレクションに加えられてしまったのです。
「……サラ。どうして……どうして私の筆跡をあんなに熟知しているのよ、あの王子様は……!」
「愛が重いからですよ。……まあ、お嬢様の自業自得ですけど」
サラの言葉を背に受けながら、私は月を見上げて誓いました。
次は……次こそは、絶対に彼が「気持ち悪い」と言って逃げ出すような、別の方法を考えてみせますわ!
……でも、手紙を懐にしまった時の彼の手つきが、最高にかっこよかったのは……否定できませんわ。
朝、カーテンを開けるなり、私は勝利を確信して高らかに宣言しました。
「お嬢様、朝から不気味な笑い声はやめてください。今度は何をなさるおつもりですか。また自作の抱き枕を増やすわけではないですよね?」
「失礼ね、あれは生活必需品ですわよ! でも今日は違いますの。……『偽造ラブレター作戦』ですわ!」
「……偽造、ですか」
「ええ! あの可憐な(?)クララ様からアリステア様へ宛てた、情熱的なラブレターを私が捏造するのです。それをアリステア様の元へ届け、二人の間に『密愛』があるかのように仕立て上げますの。そうすれば、私は……! 私は……!」
私は机に身を乗り出し、拳を握りました。
「私は、『二人の仲は分かっていますわ! さあ、私という邪魔者は消え失せますから、お二人で幸せになりなさい!』と、涙ながらに(嘘だけど)身を引くことができるのですわ!」
「……なるほど。でも、筆跡でバレませんか?」
「そこは抜かりありませんわ。クララ様本人の筆跡を真似れば……と思ったのですが、あの方の字、壊滅的に丸文字でヒロインらしさが足りないんですのよ。だから、私が考える『可憐で儚い少女』になりきって、少し震えたような文字で代筆しますわ!」
私は早速、クララ様を公爵邸にお呼びしました。
「……もぐもぐ。メティ様、このスコーン、クロテッドクリームがたっぷりで最高ですぅ……。それで、今日は何を書けばいいんですかぁ?」
「ああっ、もう! クララ様、口の周りにカスがついていますわよ! あなたはただ、そこに座って『うふふ』と笑っていればいいのですわ。文面は私が、あなたの内なる情熱を代弁して差し上げますから!」
私はペンを執り、羊皮紙に向かいました。
脳内には、王道ラブストーリーの切ないヒロインを召喚します。
『愛しきアリステア様。あなたを遠くから見つめるだけで、私の心は千々に乱れます。公爵令嬢という婚約者がいながら、あなたを慕う不敬な私をお許しください……。今夜、庭園の東屋でお待ちしております』
「……お嬢様、なんだか文章に熱が入りすぎて、途中から自分の欲望が漏れていませんか?」
「気のせいよ! さあ、これをこのままアリステア様の執務机に忍ばせるのですわ!」
私は変装(したつもりの派手なマント姿)をして王宮に忍び込み、なんとかアリステア様の執務室へ。
誰もいない隙を見計らって、机の真ん中にその手紙を置きました。
「……ふふ。これで今夜、アリステア様は東屋へ向かうはず。そこで私が、鉢合わせた二人を断罪……いえ、祝福してあげるのですわ!」
その日の夜。
私は期待に胸を膨らませて、庭園の東屋の物陰に潜んでいました。
隣には、私が用意した最高級のハムサンドを食べているクララ様もいます。
「メティ様ぁ……蚊に刺されましたぁ……」
「我慢なさい! もうすぐアリステア様が来て、あなたに恋の告白を……っ、来たわ!」
月明かりの下、アリステア様が一人で東屋に現れました。
手には、私がおいたあの手紙を持っています。
「……ここに、いるんだね?」
アリステア様の声が響きました。
いつもより低く、そしてどこか……艶っぽい響き。
私は「さあ、クララ様! 行っておいでなさい!」と彼女の背中を突き出しました。
「あ、あのぅ、殿下ぁ……。クララですぅ……」
クララ様がよろよろと東屋へ歩み出ます。
さあ! アリステア様、彼女を抱き寄せて! そして私に婚約破棄を!
しかし、アリステア様はクララ様を一瞥しただけで、その視線をすぐに周囲の暗闇へと向けました。
「……メティ。そこに隠れているんだろう? 出ておいで」
「な、ななな、なぜ私がここにいると分かったのですの!?」
私は慌てて植え込みから飛び出しました。
マントで顔を隠していたはずなのに、どうして!
「……なぜ、かな。君の気配は、私にとっては太陽のように眩しいからね。隠れていてもすぐに分かるよ」
アリステア様は手紙をひらひらとさせながら、私に歩み寄ってきました。
「それより、この手紙。君が書いたものだね?」
「い、いいえ! それはクララ様の情熱的な愛の告白ですわ! ほら、見てください、その儚げな筆跡! 私のような強欲な女には書けない、清らかな文字でしょう!?」
「……メティ。君は忘れているのかい? 私は君の筆跡を、毎日欠かさず眺めているんだよ。君が幼い頃にくれた拙い手紙から、最近の『殿下のお顔が尊い』というメモに至るまで、全てね」
「……(あ、メモ捨て忘れてた)」
「この『あ』の曲がり方。そして、熱が入るあまりに紙が少し波打っているこの質感。……これは間違いなく、君の愛がこもった文字だ。クララ様に宛てたふりをして、私への溢れる想いを綴ったんだね?」
「違いますの! 断じて違いますの!」
「……『あなたの黄金の髪は、夜の帳さえも照らす奇跡の光』……。ふふ、こんなに熱烈な言葉を、君から直接もらえるなんて。……ああ、今日はこの手紙を胸に抱いて眠ることにするよ」
アリステア様は手紙を大切そうに懐にしまい、私を優しく、逃がさないように抱きしめました。
「……メティ。君のこういう『恥ずかしがり方』も、私は大好きだよ。次は、クララ様の名前なんて使わず、君自身の名前で送っておくれ。……待っているからね」
「あ……あぅ……」
至近距離で浴びる、王子の特濃スマイル。
そして、自分の書いたポエムを本人の前で朗読されるという、究極の公開処刑。
私の精神状態は、尊さと羞恥心で限界を迎えました。
「殿下……。あの、私の愛はそんなものじゃなくて、もっと、こう、地を這うような執着で……」
「分かっているよ。私も同じだからね」
アリステア様は私の耳元で囁くと、満足げに微笑んで去っていきました。
後に残されたのは、真っ赤になって立ち尽くす私と、ハムサンドを食べ終えたクララ様だけ。
「メティ様ぁ。殿下、全然私の方を見てくれませんでしたねぇ。……次のサンドイッチ、いただけます?」
「……もう、全部食べていいわよ、クララ様……」
結局、捏造したはずのラブレターは、「メティからの熱烈な愛のメッセージ」として、王子の宝物コレクションに加えられてしまったのです。
「……サラ。どうして……どうして私の筆跡をあんなに熟知しているのよ、あの王子様は……!」
「愛が重いからですよ。……まあ、お嬢様の自業自得ですけど」
サラの言葉を背に受けながら、私は月を見上げて誓いました。
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……でも、手紙を懐にしまった時の彼の手つきが、最高にかっこよかったのは……否定できませんわ。
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