推しの王子に捨てられたい!〜婚約破棄を狙うが、今日も失敗〜

パリパリかぷちーの

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「サラ、ついに私は気づきましたわ。婚約破棄に最もふさわしいシチュエーション。それは、夜の裏庭への『呼び出し』ですわ!」


朝の光を浴びながら、私は公爵邸のテラスで高らかに宣言しました。


「お嬢様、またですか。夜の裏庭に呼び出すなんて、普通はロマンチックな告白か、そうでなければ決闘の合図ですよ」


サラが冷めた手つきで紅茶を注ぎながら言いました。


「そこがいいのよ! 私はあえて『ロマンチックな空気』を全否定するような、無理難題を突きつけるんですの。殿下に対して『今すぐこの場で、隣国の山頂にしか咲かない幻の氷花を摘んできてくださらないなら、婚約は解消ですわ!』と迫るのです!」


「……あの、それ、物理的に不可能なわがままですよね。王子をパシリに使うなんて、不敬罪で捕まっても文句言えませんよ?」


「いいえ、それこそが狙いよ! アリステア様が絶望し、『君のような無茶苦茶を言う女にはついていけない』と愛想を尽かす……。ああ、想像しただけで、私の悪役令嬢としての格が上がる音がしますわ!」


私は鼻息を荒くして、すぐさまアリステア様へ「今夜、裏庭でお待ちしております」という、簡潔かつ不遜な(つもりの)招待状を送りました。


そして夜。
月明かりが青白く照らす王宮の裏庭。
そこは、かつての恋人たちが愛を誓い合い、あるいは破局を迎えてきたという、因縁の場所です。


私はわざと、腕組みをして不機嫌そうな顔を作り、彼が来るのを待ちました。
さあ、アリステア様。私の傲慢な呼び出しに、眉をひそめて現れてちょうだい!


「……メティ。待たせてしまったかな?」


茂みを分けて現れたアリステア様は、なんと、普段の正装をさらに着崩したような、少し背徳感のある夜会服姿でした。
月光に照らされた金の髪が銀色に輝き、その瞳は夜の海のように深く澄んでいます。


「……っ(尊さによる一時的な心停止)」


「メティ? 急に呼び出すなんて、どうしたんだい。……その、怒ったような顔も、月夜には妖精のように美しくて見惚れてしまうけれど」


「お、おだまりなさい! アリステア殿下、私が今日あなたをここに呼び出したのは、重大な要求があるからですわ!」


私は震える指で彼を指差しました。
いけませんわ、彼の顔を見たら「好きです結婚してください」以外の言葉が喉元まで出かかってしまいます。
耐えるのです、メティ!


「要求? 何だい。君の願いなら、私はこの命を賭けても叶えるつもりだよ」


「フン、そんな甘い言葉は聞き飽きましたわ! いいですか、私は今、猛烈に……猛烈に、『青い炎を吐く幻のトカゲ』の姿が見たいんですの! 今から五分以内に、私の前に連れてきてくださらない? できなければ、あなたは婚約者失格ですわ!」


言ってやりました。
そんな生き物、この王宮の庭にいるはずがありません。
さあ、アリステア様! 「バカも休み休み言え!」と私を突き放して!


ところが、アリステア様は驚くこともなく、ふっと優しく微笑みました。


「……なるほど。青い炎を吐くトカゲ、か。メティ、君は本当に私のことをよく見てくれているんだね」


「……は?」


「私が幼い頃、古い文献でそのトカゲを見つけて、いつか本物を見てみたいと夢見ていたことを知っていたんだろう? それをあえて口に出すことで、私の童心を肯定してくれた……。ああ、なんて深い愛情なんだ」


「違いますの! 私はただ、無理難題を……!」


「分かっているよ。五分以内というのも、私が魔法の訓練を怠っていないか試してくれたんだね。……期待に応えよう。……『灯火(イグニス)』」


アリステア様が指を鳴らすと、彼の魔法によって作られた、美しい青い炎を纏った小さなトカゲの幻影が私の周りを飛び回りました。
それはまるで、本物の宝石が生きているかのような幻想的な光景でした。


「うわぁ……きれい……(うっかり本音)」


「喜んでくれて良かった。……メティ、私の努力を認めてくれるかな?」


アリステア様は私に歩み寄り、そのまま私の腰を抱き寄せました。
至近距離で浴びる、王子の熱烈な吐息。


「殿、殿下……お顔が近すぎますわ! これはお茶会ではなく、私によるあなたへの断罪の場ですのよ!?」


「断罪? ふふ、そうだね。私は君という存在に、一生の愛という終身刑を言い渡されているようなものだからね。……メティ、君がこんなに夜遅く、二人きりになれる場所へ呼び出してくれた意味。……私はこう解釈したよ」


アリステア様は私の耳元で、甘く、低い声で囁きました。


「……『もっと、私を乱暴に扱って』という誘いだろう?」


「ぎゃふん!!」


私はあまりの衝撃に、脳内が真っ白になりました。
無理難題が「誘い」に!?
傲慢な態度が「甘え」に!?
王子の脳内変換フィルターは、もはや国家機密レベルの高性能を誇っていますわ!


「ち、違いますの! 私は、わがままを言ってあなたに嫌われたくて……!」


「嫌われる? 無理だよ。君が毒を吐けば、それは私にとっての甘い蜂蜜になる。君が私を拒絶すれば、それは私をもっと燃え上がらせる焚き木になる。……メティ、君は逃げられないんだ。……さあ、今夜は、君の言う『わがまま』を全て、デートという形で叶えてあげよう」


アリステア様は私の手を取り、そのまま夜の庭園の奥へと連れて行きました。
そこには、彼が事前に用意していたと思われる、最高級のワインと食事が並んだテーブルが。


「……お嬢様。……もう、諦めたらどうですか」


茂みの陰で控えていたサラが、死んだ魚のような目でこちらを見ていました。


「……サラ……。私、いつのまにかデートに持ち込まれてしまいましたわ……」


「確信犯ですよ、あの王子。お嬢様の行動、全部お見通しなんです。……でも、見てください。あの嬉しそうな顔」


アリステア様は、私のために椅子を引きながら、これ以上ないほど幸せそうに微笑んでいました。
その笑顔は、私を嫌うどころか、私を一生の宝物として閉じ込めておきたいという、底なしの執着に満ちていて。


「……ああ、尊い。アリステア様が今日も幸せそうで、私の計画は大失敗だけど、世界は平和ですわ……!」


結局、私は婚約破棄どころか、月明かりの下で王子と愛を語り合うという、最高に贅沢で甘美な夜を過ごすことになったのでした。


「メティ。次はどんな『わがまま』を言ってくれるのかな? 楽しみにしているよ」


「……次は、次は絶対に、あなたが絶対にできないことを……! たとえば、私を嫌うこととか!」


「それは無理だと言っただろう?」


王子の完璧な返答に、私はまた一つ、敗北を認めるしかありませんでした。
私の婚約破棄への道は、月明かりの中でも全く見えてこないのでした。
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