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裁きの間を支配する、重苦しい沈黙。誰もが玉座に座る国王の次の一言を、固唾をのんで待っていた。
やがて、国王は床に崩れ落ちたままのリナへと冷たい視線を向けた。
「リナ・ミルフィールド」
その声には、一切の情は含まれていなかった。
「お主は、王族を欺き、その権威を自らの私欲のために利用しようとした。加えて、高位貴族であるランチェスター公爵家の令嬢を悪質な計略で陥れその名誉を著しく傷つけた。その罪、許されるものではない」
国王は、一度言葉を切ると、厳かに判決を言い渡した。
「よって、ミルフィールド男爵家は、本日をもってその爵位を剥奪。平民へと降格させる。そして、首謀者であるリナ、お主自身は、北の果てにある聖女マリアンヌ修道院へ生涯幽閉とする。その地で、己が犯した罪を、生涯をかけて悔い改めるがよい」
「そん……な……いやぁぁぁっ!」
リナは、絶望の悲鳴を上げた。爵位剥奪、そして修道院への生涯幽閉。それは、彼女にとって、死刑よりも残酷な判決だった。美しく着飾り、社交界の中心で輝くことだけが生きがいだった彼女から、その全てを奪い去る宣告。
「お待ちください、陛下! どうか、どうかお慈悲を……!」
ミルフィールド男爵が必死に嘆願しようとするが、国王の冷たい一瞥で、その言葉は凍りついた。
「決定は覆らん。衛兵、この者たちを連れて行け」
国王の命令一下、屈強な衛兵たちが現れ、泣き叫び、暴れるリナの両腕を掴み、裁きの間から引きずり出していく。その姿は、かつての可憐な乙女の面影など、どこにも残してはいなかった。
次に、国王の、失望に満ちた視線が、我が息子であるエリアスへと注がれた。
「エリアス」
「……はい」
エリアスは、震える声で返事をした。
「お前の罪は、リナ・ミルフィールドのそれとは異なる。お前にあったのは、悪意ではなく、愚かさだ。だが、王族にとって、その愚かさは、悪意よりもなお、重い罪となる」
国王は、悲しげに、しかし厳格に告げた。
「王子という立場にありながら、真実を見抜く努力を怠り、個人の感情に流され、正義を踏み躙った。今のお前に、この国の未来を託すことはできん。よって、エリアス、お前の王位継承権を、第三位へと引き下げる」
「……!」
エリアスは、息をのんだ。事実上の、継承権剥奪に等しい。
「加えて、全ての公務を解き、西の辺境伯領の代官として赴任することを命じる。その地で、民の生活をその目で見て、為政者たるべき姿とは何か、一から学び直してくるがよい。いつ王都に戻れるか、それは、お前自身の精進次第だ」
それは、屈辱的な左遷命令だった。しかし、父が、情状酌量の余地を残してくれたことも、エリアスには痛いほどわかっていた。
「……父上。その、寛大なご処置、ありがたく……お受けいたします」
エリアスは、深く、深く、頭を下げた。彼にできることは、ただ、自分の罪を受け入れ、その償いを始めることだけだった。
最後に、国王は、フィアと、その家族へと向き直った。その表情は、先ほどまでの厳しさが嘘のように、穏やかで、申し訳なさそうなものに変わっていた。
「ランチェスター公爵、そして、フィア嬢。この度のこと、王家に代わり、心から詫びたい。本当に、すまなかった」
国王自らが、玉座から立ち上がり、頭を下げようとする。
「滅相もございません、陛下! どうか、お顔をお上げください!」
ランチェスター公爵が、慌ててそれを制した。
「フィア嬢」
国王は、まっすぐにフィアを見つめた。
「君の聡明さ、そして、困難に屈しないその気高い精神は、誠に見事であった。君が、その才能を、これ以上埋もれさせることは、我が国にとって大きな損失となるだろう」
国王は、にこやかに微笑んだ。
「よって、フィア・ランチェスター嬢に、『王宮付き筆頭魔法薬師』の地位を与えることを、ここに宣言する。君の研究を、王家が全面的に支援することを約束しよう。望むなら、城の一角に、最新の設備を備えた、君専用の研究所を建設することも許可する」
それは、破格の、そしてフィアにとって、この上ない名誉ある提案だった。
金銭でも、地位でもない。ただひたすらに、自分の好きな研究に没頭できる、最高の環境。
「……陛下。その、あまりにもったいなきお言葉……。謹んで、お受けいたします」
フィアは、驚きと込み上げる喜びを隠せないまま深く優雅なカーテシーをした。
罪を犯した者には、厳正なる罰を。功績のあった者には最大限の名誉を。
裁きの間に、ようやく正義と秩序が取り戻された。フィアの長かった受難の時は、終わりを告げた。そして、ここから彼女の本当の物語が輝かしく始まろうとしていた。
やがて、国王は床に崩れ落ちたままのリナへと冷たい視線を向けた。
「リナ・ミルフィールド」
その声には、一切の情は含まれていなかった。
「お主は、王族を欺き、その権威を自らの私欲のために利用しようとした。加えて、高位貴族であるランチェスター公爵家の令嬢を悪質な計略で陥れその名誉を著しく傷つけた。その罪、許されるものではない」
国王は、一度言葉を切ると、厳かに判決を言い渡した。
「よって、ミルフィールド男爵家は、本日をもってその爵位を剥奪。平民へと降格させる。そして、首謀者であるリナ、お主自身は、北の果てにある聖女マリアンヌ修道院へ生涯幽閉とする。その地で、己が犯した罪を、生涯をかけて悔い改めるがよい」
「そん……な……いやぁぁぁっ!」
リナは、絶望の悲鳴を上げた。爵位剥奪、そして修道院への生涯幽閉。それは、彼女にとって、死刑よりも残酷な判決だった。美しく着飾り、社交界の中心で輝くことだけが生きがいだった彼女から、その全てを奪い去る宣告。
「お待ちください、陛下! どうか、どうかお慈悲を……!」
ミルフィールド男爵が必死に嘆願しようとするが、国王の冷たい一瞥で、その言葉は凍りついた。
「決定は覆らん。衛兵、この者たちを連れて行け」
国王の命令一下、屈強な衛兵たちが現れ、泣き叫び、暴れるリナの両腕を掴み、裁きの間から引きずり出していく。その姿は、かつての可憐な乙女の面影など、どこにも残してはいなかった。
次に、国王の、失望に満ちた視線が、我が息子であるエリアスへと注がれた。
「エリアス」
「……はい」
エリアスは、震える声で返事をした。
「お前の罪は、リナ・ミルフィールドのそれとは異なる。お前にあったのは、悪意ではなく、愚かさだ。だが、王族にとって、その愚かさは、悪意よりもなお、重い罪となる」
国王は、悲しげに、しかし厳格に告げた。
「王子という立場にありながら、真実を見抜く努力を怠り、個人の感情に流され、正義を踏み躙った。今のお前に、この国の未来を託すことはできん。よって、エリアス、お前の王位継承権を、第三位へと引き下げる」
「……!」
エリアスは、息をのんだ。事実上の、継承権剥奪に等しい。
「加えて、全ての公務を解き、西の辺境伯領の代官として赴任することを命じる。その地で、民の生活をその目で見て、為政者たるべき姿とは何か、一から学び直してくるがよい。いつ王都に戻れるか、それは、お前自身の精進次第だ」
それは、屈辱的な左遷命令だった。しかし、父が、情状酌量の余地を残してくれたことも、エリアスには痛いほどわかっていた。
「……父上。その、寛大なご処置、ありがたく……お受けいたします」
エリアスは、深く、深く、頭を下げた。彼にできることは、ただ、自分の罪を受け入れ、その償いを始めることだけだった。
最後に、国王は、フィアと、その家族へと向き直った。その表情は、先ほどまでの厳しさが嘘のように、穏やかで、申し訳なさそうなものに変わっていた。
「ランチェスター公爵、そして、フィア嬢。この度のこと、王家に代わり、心から詫びたい。本当に、すまなかった」
国王自らが、玉座から立ち上がり、頭を下げようとする。
「滅相もございません、陛下! どうか、お顔をお上げください!」
ランチェスター公爵が、慌ててそれを制した。
「フィア嬢」
国王は、まっすぐにフィアを見つめた。
「君の聡明さ、そして、困難に屈しないその気高い精神は、誠に見事であった。君が、その才能を、これ以上埋もれさせることは、我が国にとって大きな損失となるだろう」
国王は、にこやかに微笑んだ。
「よって、フィア・ランチェスター嬢に、『王宮付き筆頭魔法薬師』の地位を与えることを、ここに宣言する。君の研究を、王家が全面的に支援することを約束しよう。望むなら、城の一角に、最新の設備を備えた、君専用の研究所を建設することも許可する」
それは、破格の、そしてフィアにとって、この上ない名誉ある提案だった。
金銭でも、地位でもない。ただひたすらに、自分の好きな研究に没頭できる、最高の環境。
「……陛下。その、あまりにもったいなきお言葉……。謹んで、お受けいたします」
フィアは、驚きと込み上げる喜びを隠せないまま深く優雅なカーテシーをした。
罪を犯した者には、厳正なる罰を。功績のあった者には最大限の名誉を。
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