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パリパリかぷちーの

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 翌朝。
 私は、部屋を埋め尽くす「箱」の山に包囲されていた。

「……マリー。これは何? 実家が夜逃げの準備でも始めたの?」

 ベッドの上で半身を起こし、私は呆然と呟いた。
 足の踏み場もないほどに、色とりどりの包み紙でラッピングされた箱が積まれている。

「いいえ、お嬢様。これらは全て、今朝一番にクロイツ公爵家から届けられた『贈り物』でございます」

「……あのアレクセイ様から?」

 私はこめかみを押さえた。
 昨日の「贈り物攻撃」宣言は、冗談ではなかったらしい。
 それにしても限度というものがある。

「返品して。こんなに大量の宝石やドレス、もらっても管理に困るわ」

 どうせ、貴族の贈り物といえば、センスの合わない派手なネックレスや、着ていく場所のないドレスに決まっている。
 ジェラルド殿下もそうだった。「僕の愛の重さだ」とか言って、私の顔ほどもある巨大なルビー(偽物疑惑あり)を送ってきたことがある。

「それが……お嬢様。中身を確認したのですが、宝石は一つもございません」

「え?」

「とりあえず、一番手前の箱を開けてみてください」

 マリーに促され、私は渋々、銀色のリボンがかけられた箱を開封した。

 中に入っていたのは、真珠のネックレス――ではなく。
 純白の、ふっかふかの物体だった。

「……枕?」

「はい。ただの枕ではございません。北方の幻獣『雲羊(クラウドシープ)』の毛を100%使用した、最高級安眠枕『天使の膝枕』です」

「て、天使の膝枕……!?」

 私はゴクリと喉を鳴らした。
 それは、安眠愛好家(私)の間では伝説とされる、入手困難な逸品だ。
 一度頭を乗せれば、三秒で極上の眠りに落ちると言われている。

「うそ……これ、市場価格で家が一軒建つレベルよ?」

「こちらの箱は、東方諸国から取り寄せた『幻の青茶』の茶葉一年分です。そしてあちらの箱は、着心地を追求した『最高級シルクの部屋着』、その隣は『疲れ目に効くホットアイマスク(魔石式)』となっております」

 私は震える手で次々と箱を開けた。
 アロマオイル、肌触りの良いブランケット、絶品のお取り寄せスイーツ……。
 そこにあるのは、煌びやかな装飾品ではなく、私の「怠惰で快適な生活」を完璧にサポートする実用品ばかりだった。

「……なんてこと」

 私は枕を抱きしめ、その感触に陶酔した。
 頬ずりしたくなるほど気持ちいい。

「私の好みを……完全に把握している……!」

「恐ろしいですね。お嬢様の生態が完全にバレています」

「悔しい……! 悔しいけれど、嬉しい! この枕、最高よマリー!」

 私はプライドと物欲の狭間で葛藤した。
 こんな高価なものを貰ってはいけない。
 でも、この枕を手放すなんて、今の私にはできない。

「お嬢様、メッセージカードが入っていました」

 マリーが渡してくれたカードには、アレクセイ様の流麗な筆跡で一言だけ書かれていた。

『より良い労働は、より良い休息から生まれる。遠慮なく使え』

「……福利厚生の一環だと言い張るつもりね」

 私は枕に顔を埋めながら、深いため息をついた。
 完全に、外堀ならぬ「内堀」を埋めに来ている。
 私の弱点を的確に突きすぎだ。

 ***

 その日の出勤時。
 私は執務室に入るなり、アレクセイ様に詰め寄った。

「閣下! どういうおつもりですか!」

「おはよう、シャロ。顔色が良さそうだね。昨夜はよく眠れたかな?」

 アレクセイ様は涼しい顔で書類をめくっていた。
 その口元には、悪戯が成功した子供のような笑みが浮かんでいる。

「おかげさまで爆睡しました! ……じゃなくて! あんな高価なもの、受け取れません!」

「なぜだ? 君が宝石や花束に興味がないことは調査済みだ。だから、君が最も欲しがる『実利』を用意したのだが」

「それが問題なんです! あんな……あんな素敵な枕を贈られたら、私が断れないと分かっていてやりましたね!?」

「ああ、もちろん」

 即答だった。
 悪びれる様子も微塵もない。

「言っただろう? 君は私の『右腕』だ。君のパフォーマンスを最大化させるために、環境を整えるのは上司の務めだ」

「ぐぬぬ……」

 正論(?)で返されると弱い。
 確かに、あの枕のおかげで今朝の目覚めは最高だったし、今も頭が冴え渡っている。

「それに、これは『餌付け』だよ」

「……はい?」

 アレクセイ様はペンを置き、立ち上がって私の目の前まで歩いてきた。
 至近距離で見下ろされると、その美貌の破壊力に目が眩みそうになる。

「君という、警戒心が強くて自由奔放な猫を懐かせるには、甘い言葉よりも美味しい餌が効果的だと思ってね」

「だ、誰が猫ですか!」

「『ここに来れば快適な寝床と美味しい茶がある』。そう刷り込んでしまえば、君はもう私の側から離れられなくなる」

 彼は私の髪を一房すくい、指先で遊んだ。

「違うか?」

「…………否定できません」

 私は敗北を認めた。
 悔しいが、今の宰相府の居心地の良さは異常だ。
 実家に帰るよりも、ここに来る方が楽しみになっている自分がいる。

「賢い子だ。さあ、今日も存分に働いて、存分に休んでくれ。おやつのタルトも用意してある」

「……タルト? どこのですか?」

「王都で一番人気の『シュクレ』の季節限定タルトだ」

「働きます!!」

 私は即座に自分の席につき、書類の山に向かった。
 現金なやつだと思われてもいい。
 美味しいものと快適な環境には抗えないのだ。

 背後でアレクセイ様が「チョロいな」と呟いた気がしたが、タルトの魅力の前には些細なことだった。

 こうして私は、まんまと「氷の宰相」の手のひらで転がされ、着実に餌付けされていくのだった。

 だが、そんな平和な日々も束の間。
 私たちが執務室でキャッキャウフフ(一方的な餌付け)をしている間に、外の世界では新たな火種が燻り始めていた。

 そう、あの「ミナ様」が、再び私の前に現れようとしていたのだ。
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