№4

河鹿 虫圭

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EMG3:白龍との出会い

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五年前、MDCAを自主退役して数ヶ月のときだった。その日も虚無と罪悪感の中を日雇いのバイトの忙しさで誤魔化して、次はどのバイトをしようかと買った軽トラで道を走っている時だった。窓を開けて走っていたこともあり近くの伯朧神社から悲鳴が聞こえた気がして寄ってみることにした。境内に向かう為、山道の中最低限整備された階段を上がっていく途中だった。再び悲鳴が聞こえたような気がした。いや次ははっきりとこの耳でとらえた。

俺は耳で悲鳴を聞いた瞬間に体が動いて襲われていた人の性別も状態も確認することせずにその人の前に立ちふさがり盾になった。

そこから記憶は無かった、だが、次に起きた時には俺の体はボロボロで全身が骨折しているのが分かった。

MDCAの時もこうやってなりふり構わず突っ込んで何度も死にかけたな…

あの無茶は特殊繊維で編まれた隊服のおかげだったんだと理解した。そして倒れてから初めて怪人の様子と被害者の様子を確認できた。大きな爪で細身のイタチのような怪人。その怪人が女性に地下より爪を構えている。俺はその足を掴み怪人がこれ以上女性に近づかない様に止めようとしたが、怪人は俺の腹部を思い切り蹴とばし俺は体がサッカーボールのように転がる。怪人は俺がやっと死んだと思い再度女性に歩み寄ろうとしていた。俺は手元にあった石を手に取り、思い切り怪人へとぶつけた。怪人は俺を睨むと標的を俺へと変えて俺へと近寄ってくる。標的が俺に移ったことで俺は女性へと叫んだ。

「逃げろ!走れ!」

女性は首を横に振って腰を抜かしたままその場で怯えていた。

いや、逃げろよ。

今の君じゃ、俺を助けられないだろう?

女性は俺と目を合わせたままで俺は視界が高くなる。首を掴まれて目の前に爪を突き出される。

「死ね…俺の邪魔をした人間。」

怪人が爪を振りかぶった瞬間、神社の階段から殺気とは違う異様な空気を纏った白装束を纏った中世的な顔立ちの人が降りてきた。女性はその人を見ると目を見開き口元を手で覆っていた。

「うるさいぞ。妖モノ。」

男性と女性の声が混ざった白装束の人物は怪人に言い放つとゆっくりと近づいてきて怪人の腕を掴み俺を解放させる。怪人は腕を掴まれると痛みに耐えられずに俺を離した。怪人は腕をさすりながら白装束の人物を睨む。

「次から次に何だ…何なのだ!貴様は何なのだ!」

「ワシか?ワシは……」

白装束の人物は女性を見つめて大きくため息を吐き言う。

「ワシは、白龍神。この山を収める古の神である……そち、見るに下級の妖怪と見受けられるが何か混ざってるな……何が混ざってる。答えよ。」

「なんの話だ…!?何を言っている?神?」

戸惑う怪人に白龍神は顔を近づけて畏怖を放つ。

「答えよ。」

怪人は震え滝のように汗を流し逃げ出した。白龍神は怪人の後を追って飛んだ。俺はその様子を見送ると女性へ近づき怪我がないか確認する。

「大丈夫ですか!?」

「こちらのセリフです。あなたは大丈夫なんですか?」

「まぁ、あばらは何本か逝ってるかもですね………あなたに何もなければ大丈夫です。では、俺はあいつらを追います。」

あの二匹を追いかけて民間に被害が出ないか確認しなければ…

そう思い走り出そうとしたが、女性に手を掴まれて止められる。

「ダメです。傷の手当てをしていってください。」

時間がない。このくらいの傷は後でどうにでもなる。なので俺は申し訳ないが、腕を振り払う。

「すみません。俺は…元MDCAなんです。やめたからと言ってこのまま手当てを受けてノロノロと後を追ってしまって町に、人に被害が出てしまったら俺は祓を切って死ぬでしょう……町や人の命に比べたら俺の骨の二、三本なんて塵も同然です。」

女性は何も言えずにそのまま俯いた。俺はそんな女性をどうすることもできずに走って二匹が向かった場所へ急いだ。数時間走り、白龍神と怪人を探す。そして、白龍神が言っていた「妖」という言葉が頭に引っ掛かる。

怪人や怪獣が妖……つまり妖怪だと言った。しかもなにやら怪人の妖力を読み取っていたと見受ける。しかも何か混ざってるとも言っていた。

「同じ存在なのか……いや、詳しくは二人を見つけてだ。」

山を駆け降りていると白龍神の特徴的な白装束が目に入った。足を止めて方向転換をする。状況は白龍神が怪人を追い詰めているという構図だった。

「答えよ。そち、何が混ざってる。妖を食ったのか?それとも、妖術やまじないの類か?」

質問する白龍神に対して怪人は震えながら白龍神へ斬撃を飛ばしたり咆哮の衝撃波を飛ばしていた。だが、白龍神はそれを全て防ぎ怪人と目線を合わせるため屈んだ。

「俺は何もわからねぇ……俺はただの人間だったんだ……それがいつの間にかこんな力を使えるようになっていて……それで……」

何もわからないと言いつつ怪人は支離滅裂な言葉を並べていた。そんな怪人の言葉に白龍神は首を傾げた。

「人間だった?いや、そちはもう、妖になっておる。そして、その中に何か変なものが混ざっておる。」

白龍神は怪人の額を指でつつくと怪人は光に包まれてその姿がイタチに戻った。イタチは白龍神や俺に気づくと森の奥へと逃げていった。

「何が起こった……?」

思わず口に出すと白龍神は俺に気づき近づいてくる。

「貴様、人間のくせにしぶといな。そこまでボロボロで生きている人間は初めて見たぞ。」

「こちとら元軍隊なんだよ。こんだけで死んでたら人を守れない。」

「ふふ…そうか、民のために死ねないか。」

白龍神は俺の手に触れると先ほどのように何か力を使い俺の傷を治した。傷はみるみる回復し、痛みも完全に消えた。

「傷が、消えた……治したのか?」

「神じゃからな。それくらい余裕じゃ。」

白龍神はそう言って微笑みながら、神社の方向へ歩いて行く。

「ちょっと待ってくれ。」

「何じゃ?」

「さっき妖がどうのとか混ざってるとかなんとか言ってたけどあれは……」

「……そうか、人間は妖が見分けられない者や見えない者がいたな。」

そういって白龍神は妖の説明を淡々と話した。

「……まぁこんなもんじゃな。あとの細かい話とかは各地方によって違うだろう。わしが知っている話はこれ以上はない。」

「それで、混ざってるってのは……」

「それは知らん。ただ、何か混ざってるのは確かじゃ。それよりもワシは久々の外でちょっと疲れた。もう戻るぞ。」

「そう……か…」

白龍神は疲れた様子で歩いていた。神社に行けば何かわかるかな。などと思って俺は白龍神へついて行くことにした。

「何じゃ、ついてくるのか…?まぁいい好きにせい。」

無言のまま歩こうとした時、白龍神が突然こちらを振り返り目を見開いた。

「な、なにか……」

「お前ではない!というか上を見ろ!」

白龍神が視線を向ける先に俺も視線を合わせる。そこには、黒い靄を纏った人型が宙に浮いていた。それはどう見ても怪人や怪獣の類だった。

「なんだ……この異様な空気……」

「何をしておる!こちらこい!」

俺は言われるがまま白龍神へ近づく。黒い靄が降りてくると、先ほど白龍神が怪人をイタチに変えたところに手を触れて大きく溜息を吐いた。こちらへ視線を向ける。

「これはどういうことだ?誰がやった?」

白龍神は俺を後ろへ引っ張り前に出る。

「ワシじゃ。ワシがやった。」

黒い靄は白龍神へ視線を向けると、先ほどの白龍神のように畏怖を放った。

「余計なことをしてくれたな……ヘビ風情が……」

「何者か知らんが、ワシは龍じゃ。先ほどの妖紛いの者はちゃんと天に還した。何か問題か?」

「問題?大ありだ。一匹減っただけでも大問題だ。君、どこの所属だ?」

「所属?なんじゃそれは?……いや、待てしゃべるな。わかった。貴様も妖と何か紛い物が混ざっているな?」

黒い靄はその靄を払うと姿を現した。黒いタキシードに身を包んだ男性。だが、頭は人者ではなく彼岸花の頭を持っていた。

「君、何者だ。我々の同士ではないくせに我々と同じような気配がする。」

「いや、知らん。お前さんのような花の妖は見たことない。」

目の前でぶつかる神と怪人の畏怖と殺気。俺はそんなぶつかり合いに体が震えはじめているのがわかった。彼岸花男は俺を見つけるとさらに殺気立つ。

「人間がいたのか……君、人間と仲良くするなんてダメだよ。」

「知らんな。ワシは神じゃ。神が何者と話そうが、何者と戯れようがワシの勝手じゃ。」

彼岸花男は大きく溜息を吐き、頭を抱えた。

「……そうだ。君、我々のことを知らないみたいだから教えといてあげる。我々は怨者うらみびと。人間の恨みが生み、この地上の悲鳴を聞いた救世主である。」

「怨み…か……。かわいそうにな……それとこの地は別に悲鳴を上げておらん。なぜならワシの力が弱まってないからじゃ。」

「鈍感な奴だ。この地が悲鳴を上げていることに気づいていないとは……それよりも、そこの人間、さっきから我々のことを診てきて目障りだ。」

彼岸花男は俺に向かって黒い靄の刃を飛ばしてきた。俺はその刃を避けると刃は気に突き刺さり木を一瞬で枯らした。

「白龍神、こいつやばいぞ!」

「ふん、そのくらい、どうということはない。」

白龍神はゆっくりと歩み寄り彼岸花男へ手を伸ばす。その手は黄金に輝くが彼岸花男へ近づくにつれてその光は消えていった。その手を彼岸花男は掴もうと手を伸ばした。白龍神はそのまま彼岸花男と手を握りそのまま投げ飛ばした。

「なめるな。小童風情が。貴様の目の前にいるのは、神だと言ったはずだ。」

背中から落ちた彼岸花男は大きく溜息をつき、そのまま背中から値を生やしてそこらの地面と一体化した。一体化した彼岸花男は起き上がると地面からツタを出して全体へ攻撃を仕掛け始める。

「こやつ、ワシの力を吸収したのか……?」

白龍神は手を見つめて力が落ちていることを確認していた。

「大丈夫か?」

「気にするな。お前さんはこの場から逃げよ。」

微笑む白龍神。この笑顔を戦場でする奴は大体死ぬ。経験者の俺が言うのだから間違いない。だから俺は白龍神の横に並んだ。

「何を考えておる……」

「この土地はあんたのものなんだろ?なら、守らないと元MDCAとして恥ずかしい。」

「お前さんの手には負えない。逃げろ!」

「あんたの囮くらいにはなるさ。」

俺は言い逃げするように彼岸花男に向かって走る。ツタは俺を狙って勢いよく振り下ろされるが、目でとらえられる攻撃なら避けられる。俺はステップを踏み彼岸花男の攻撃をかわしながら翻弄する。

「人間風情が……!」

「人間をなめてかかっておると痛い目にあうぞ?」

翻弄されていた彼岸花男は白龍神の接近に気づかずに頭に拳をもらった。そのまま白龍神は拳を何発も叩き入れる。彼岸花男はその攻撃をもろに受けてボロボロになる。

「どうじゃ?観念したか?」

「殺してやる。人間も、君も!」

彼岸花男は腕を地面に突っ込みツタの数をさらに増やす。

「まずい。攻撃の速さと多さが……」

「安心せい!お前さんは何があってもワシが守る!」

白龍神は攻撃をしながら叫ぶ。俺は彼岸花男の攻撃を紙一重で躱しながら白龍神のための隙を作る。だが、その作戦はもう彼岸花男に通用しなくなっていた。

「まずは、人間からだ!!」

彼岸花男は俺に集中攻撃を始めた。俺は攻撃をかわすことができずにツタに叩きつけられてしまう。

「お前さん!」

様子を見ていた白龍神は急いで俺の元に駆け寄るが彼岸花男はそれも許さず白龍神の行く手を阻んだ。

「くっ!どうする!?今ので内臓にダメージが入った。骨も何本か逝った……動けない…」

そのまま地面にうつ伏せになっていると彼岸花男はツタに無数の棘を生やし、さらに先端も鋭利にし俺の身体に狙いを定めた。

「くそ……ここまでなのか……」

「ワシが守ると言っただろう?」

白龍神の方へ目を向けると、両手に黄金の光を溜めている。そして、その光を彼岸花男のツタにぶつけた。ツタは効力を失い力なく地面に倒れた。彼岸花男は舌打ちをして白龍神へ狙いを変える。

「ワシは神じゃ。民を守るのが仕事じゃ。」

「さっきからうるさいよ君ら!そろそろ死ね!」

彼岸花男は地面から腕を引き抜くとツタを一か所に集めて黒い靄を集め始める。

「まずいな。逃げるぞ。お前さん。」

「無理だ。動けねぇ……」

白龍神は俺を抱えるとその場から逃げようと踵を返したが、その胸を彼岸花男のツタが貫いた。

「逃がさない。絶対殺す!」

白龍神は俺を投げ捨ててそのまま攻撃を受けようとした。

だから、俺にそんな顔すんなって……

俺は、体を無理やり起こして白龍神からツタを引き抜こうとした。

そこで俺の視界はブラックアウトした。

EMG3;白龍との出会い。

EMG4:アヤカシマガイ
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