オウィディウス:リュコス乂ティグリス

河鹿 虫圭

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【明】明星に照らされた幼き狼が一匹

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自由になりたい。

いつもそう考えて日々を暮らしている。ただ、自由になりたいって言ってもその意味はまだ僕の中で答えは出ていない。今のところは出なくてもいいのかもしれないとかも思っている。それはそうと、目の前の紙切れに将来のことを書かないことには始まらない。うなりながら僕が出した答えはやはり「自由になりたい」という文字を書くことしかできなかった。きっと職員室に呼ばれるのだろうとその紙を提出する。そして、放課後に案の定僕は担任に呼ばれて職員室へと召集を要求された。担任は眉間にしわを寄せて顔を難しくして紙上の文字と僕の顔を交互に見る。数分の沈黙の後に担任は口を開く。

「前から少し抜けているところがあるとは思っていましたが…ここまでとは思ってませんでした……説明を求めます。」

「説明。説明……いやぁ……説明ですよねぇ……ん~……」

長考をするフリをして僕は何か適当な答えを考える。大富豪?旅人?それともフリーター?ん~……どれもしっくりこない。担任はため息をついて僕に紙を返す。

「この話はまた後日に持ち越しましょう。私はこれから残った自分の仕事があるので明日の午後までにしっかりとした考えの元、自分の志望を書いてください。」

「わかりました。」

職員室から出ると、待ち構えていた同級生に肩を組まれた。

「おい~、明星あけほし~なんで呼び出されたんだよ。」

「いや~これなんだけど……」

同級生が僕の紙を見ると少しぎょっとして大笑いする。

「はははっ!そりゃダメだろう。抽象的過ぎるっつうか、目的としてはふわふわし過ぎだろ!」

「それじゃ、この場合なんて書いたらいいの?」

「ん~……そうだな…例えば、人のために何かしたいから土木工事の仕事をしたいとか、お前のいう自由になりたいから頭いい大学行って会社を立ち上げて自由な商売をするとか……色々あるだろ?」

「なるほど……」

大学か会社、一番は大学に行って経営を学んで……ん?なんだ?この感覚……頭に靄がかかっているような…目の前の人は誰だ?ん?記憶がおかしい…なんだこの感覚……

「お~い大丈夫か~?」

「あ、あぁ…大丈夫だよ。それじゃ僕は行くよ。ありがとね……えっと…」

「田中だよ。もう、ほんと忘れっぽいよな~明星あけほしは~」

「あぁ…そうだったね…田中くん…」

今の感覚は何だったのだろう…僕は頭の中の靄を振り払うように教室へ戻った。帰り支度をしていると校内放送が流れる。

『一組の明星あけほし一狼いちろうは保健室へ来てください。』

何だろう…何か呼び出されるようなことしたかな……しかも保健室って……当番も係も違うし、まぁ、行ってみればわかるか。階段を降りて僕は保健室へと入った。養護教諭と目が合い、軽く会釈すると養護教諭は微笑みながら椅子に座るように促す。

「さて、君をここに呼んだ理由は健康診断で少し問題が見つかってね…そこのベッドに寝てもらえるかい?」

「えっと、どこに問題が見つかったんでしょうか?」

「それは後で説明するから今は一旦、ここで待機していてくれ。準備に少し時間を有するからね待っていてくれ。」

そういって養護教諭は保健室をあとにして僕は、暇を持て余すようにベッドに寝っ転がり天井のシミとにらめっこする。だんだんと瞼が下がり気が付けば、僕は眠りに落ちていた。
あれから何時間が経ったのか僕はふと目が覚める。目覚めると体全体に痛みが走り慌てて起きると瓦礫と壊れたベッドの下敷きになっていたのがわかる。

「何が起こったんだ?」

痛む体を起こしながら立ち上がり、保健室だった場所から歩いて出るが鼻孔に鉄の匂いが充満し足元で水が音を立てる。しかし水にしてはどこか黒く、どろりとした液体だった。さらに右足になにか黒い塊も発見する。かがんでそれの正体を確かめようと手を伸ばしたがすぐにその手を止める。かがんだ瞬間に鉄の匂いがさらに強くなった。黒い液体もその黒い塊も近くで見て初めてそれが”血だまり”と”人間の頭蓋”だと確認できた。短く息を飲み、僕はその場にしりもちをついた。

「な、なんだよこれ。」

頭蓋と血だまりを目で追って先の方まで見ていくと屍と血だまりと瓦礫が広がっている。曲がった角から何か声がうっすらと聞こえてきた。水が滴るような音と肉が裂ける音。思わずその音の方へ僕は恐る恐る向かう。怖いもの見たさという奴だろうか。あまり音を立てないように瓦礫には触らず血だまりは足を擦るように歩く。曲がり角まで来ると壁に背を添わせてt体の面積を出さないように横目で角の先へ目を向ける。そこには血を飛ばしながら下品に人間にかぶりつく影が見える。陰は屍の可食部分がなくなるとだらりと立ち上がり骨を口から吐き出す。血まみれの口元を拭うとこちらを振り向く。僕は慌てて角に身を隠す。静かになった廊下に僕と影の呼吸の音が聞こえてくる。自分の呼吸音が大きく聞こえるほど、僕の中の恐怖心は膨れ上がる。呼吸音にかまけてる場合ではない。血の滴る音と肉を踏みつける足音がだんだんと近づいてくる。僕は逸る気持ちを抑えてゆっくりと後ずさる。ゆっくり、ゆっくり、なるべく音を立てないように……

トン。

背中に何かが当たる。暖かく、だがどこか湿っているような……息を吸いその障害物に触れる。暖かくどろりと粘性の高いなにかに触れる。恐る恐る触った右手を見るとその手は赤黒く染まっており、鼻息が首元に当たる。

やばい。

ヤバい。

ヤバイ。

これは、確実に、ヤバい。

下あごを震わせながら息を吐き、後ろを振り向くとこちらを見つめる黒い瞳と目が合う。
例えるのなら、そう、ジャガーのようなバケモノ。そんなジャガーのバケモノは血と自分の唾液が混ざった物を口元からたらし僕を獲物を見るような目で見ている。

「う、うわぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!!」

ジャガーのバケモノが動く前に僕はその場から走り出した。廊下を曲がり、瓦礫と血だまりと屍を越えて後ろを気にしながら走る。だが、バケモノの姿は見えない。そのまま中庭に通じるドアを開けて学校を抜け出そうと裏門を目指したが、背中に衝撃が走りそのまま宙へ浮いた。そのまま世界が回転すると、ガラスへ衝突し僕は構内へ戻される。

あぁ……僕はここで死ぬんだ……

目の前は一気に暗転する。

続く。
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