オウィディウス:リュコス乂ティグリス

河鹿 虫圭

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【明】明星に照らされた幼き狼が一匹

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自由とは何だったのか……

僕はふとそんなことを考えながら立ち上がる。意識は戻っているものの、ぼうっとする。何か浮いている感覚。水の中にいるかのように錯覚する。恐らく頭をぶつけて頭がおかしくなっているのだろう。

今にも眠りにつきそうなまどろみの中、視線がジャガーのバケモノを探すように辺りを見渡す。どこにもいない。そう思っているとジャガーのバケモノはゆっくりと中へと入ってきて僕の方へと歩みを進めてくる。

上を見上げると瓦礫から差し込む光が僕を包んでいた。まぶしくて光に手をかざす。指の間が赤く光り、僕に血が流れていることを知らせてくれる。なんかそんな歌があったようなと考えて光を手で遮り瓦礫はさらに崩れて青空が現れる。

綺麗な空。そんな青空に僕は見つける。

ミツケタ。

美しい翼を羽ばたかせるそれは”鳥”だった。

赤い胸に碧色の翼。この世の不自由など知らないようなどこ吹く風とどこまでも羽ばたく鳥。



あ、あれが……



あれこそが……



「……自由……だ……」


そうだ、あれがその姿こそが自由だ。どこまでも続いて行く空を飛び何にも縛られず、何にもとらわれない、あれが僕が求めた自由だ。だが、どれだけ手を伸ばそうとも、掴もうとも、僕の手には入らない。僕の元には来ない。なぜ?なぜ?なぜ?どうして?どうして?どうして?追いかけるが、僕の視界を何かが遮った。

────────────

歩き始めた幼子が蝶々を追いかけるその一狼に、ジャガーディウスは両手を広げて一狼を包み込み首元へ一気にかぶりつく。その牙は、一狼の頸動脈へ食い込み一狼の首元からは大量の血が流れる。激痛が走っているはずだが一狼はその手を明後日の方向に伸ばし、足を止めずに何かに向かって歩いている。やがて、急に手足をばたつかせてジャガーディウスにもたれかかるように脱力した。ジャガーディウスは一狼が死んだと誤認しそのまま食事を始めようと首元を食いちぎろうと首を動かす。そのまま一狼はビクンビクンと痙攣する。

────────────

自由だ。自由だ。自由ダ。ジ由ダ。ジユウダ。

目の前の名も知らぬ鳥を追いかけ、手を伸ばし、それでも手に入らない。

なぜ?

僕は今、地に立っているから?

空を飛べれば自由になれる?

目の前のバケモノと同じように、人を食べれば、ジユウにナレル?

違う。

ソレは真の自由では無い。

じゃあ、何が?

どれが?

どこが?

誰が?

自由とは?

僕の目指す自由とは?

目の前のバケモノは僕の喉を掻っ切り僕の血を飲みながら僕の肉を喰らっている。

邪魔だ。

これでは僕は自由になれない。

こんな身体じゃ、自由になれやしない。

自由になる。この束縛から逃れ、必ず……


ジユウニナル。

────────────

身体が跳ねるのを抑え、ジャガーディウスは一狼の血肉をゆっくりと味わう。なぜなら、この一狼の血肉は今まで食べてきた人間たちとは明らかに味が違うのだ。むしろ、人間よりもこいつを食べた方が栄養を得られるような気がする。

ゆっくりと咀嚼を続けると、先程から死んでいるはずの一狼の身体は跳ねるのを止めない。まだ、息の根があるのかとさらに首元へ牙を立てる。

その刹那。

死んだはずの一狼の四肢は思い切りジャガーディウスの身体を掴み、ホールドする。死んでいるはずなのに、その力は弱くなるどころか、だんだんと強く硬くなっていく。ソレは死後の脊髄反射とは全く違う……


確実に生きている反射。


そして、一狼が息を思い切り吸い、吐くと首元からは血が溢れ出し、ジャガーディウスの顔面にかかる鼻息を荒立てるジャガーディウスは咀嚼を止めない。だが、息を吹き返したであろう、一狼は唸り声を上げ、ジャガーディウスの頭を首元から必死に離そうとする。

自分の自由を壊すものはこいつだ。

一狼は本能でそう判断し、そして、身体を思い切り仰け反らせ、ジャガーディウスの肩へ噛み付く。





と言うよりは肩を噛みちぎった。

その猛烈な痛みにジャガーディウスは思わず、一狼を突き放す。投げられた一狼は身体が羽のように軽く、無理な体勢から見事な着地を見せる。
そして、抉れた右肩を見ると一狼へ殺気の籠った視線をぶつけようとしたが、目の前にはそれよりも包み込むような殺気を放つ一狼の姿があった。獣のような瞳に剥き出しの犬歯。その風貌は狼そのものだった。

肩肉を吐き捨てると一狼は口を拭い、獣のような前傾姿勢になる。両手は地面のコンクリートを爪に血を滲ませながら力を込めている。
大きな瓦礫が落下し、2人を煙が覆うと一狼はジャガーディウスのただ一点を目指し走り出す。

ただ一点。

左胸の奥。

心臓。

一瞬の加速にジャガーディウスは反応できず、一狼の爪はジャガーディウスの左胸へとくい込みやがて心臓へと届く。そして、そのまま背中から貫通し、一狼は赤くなった腕を思い切り抜き取る。その手に握られたのは赤く光る心臓。未だに脈打つことを止めない心臓はだんだんと脈が弱くなる。
のけぞりながら倒れたジャガーディウスは心臓に向かって手を伸ばし、立ち上がろうとする。だんだんと脈が弱くなる心臓に手を伸ばし、心臓が完全に停止すると同時に、ジャガーディウスは絶命した。

一狼はただの肉塊となった心臓をジャガーディウスにぶつけて肩で息を始める。水風船のように割れて散らばった心臓が赤い水溜まりを作る。

血溜まりには一狼の顔が映っていた。

続く。
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