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17:邂逅
しおりを挟むこの感覚はまずい……優吾は直感する。頭痛に冷や汗、そして、頭痛中の頭に流れ込んでくる映像……二班の面々が次々に倒れていく映像だ。
無事、家へ着いた優吾は荷物を取りに行った彩虹寺のことを自宅で待っている最中だ。
「こんな時に……」
戦闘へ参加すると発生するペナルティを思い出すが、そのペナルティなどどうでもよくなるくらいに頭痛がひどいのである。この頭痛がなければ、優吾はあの誓約書の内容など息をするように余裕で守れるのだ。優吾はその場でのたうち回りたい気持ちを抑え、どうするか考える。考えた末、出た結論は”助けに行く”だった。もちろん、他の機関の班員にもバレないようになるべく手早く済ませればいいと考える。よしこれだと手を叩き、すぐにドアノブへ手をかける。すると、タイミングよく彩虹寺が帰ってきた。優吾の様子に彩虹寺はすぐに察する。
「今、向かおうとしていたな?」
「な、何のことでしょう……?」
口笛を吹いて明後日の方向へ目線をそらす優吾の胸ぐらを思い切り掴み引き寄せた彩虹寺は優吾に思い切り殺気を放ち圧をかける。優吾はその様子にため息をつきながら、頭を抱える。
「頼む、俺が行かないとまずいんだ……」
その言葉に嘘を感じられない彩虹寺は少し難しい表情になる。優吾が言っていることは本当のことなのだろう。なにせ、自身も優吾にたすけてもらったのだから……彩虹寺は規律と情の狭間で揺れ動き、うつむく。そして、口を開く。
「今日の食事係は私が引き受ける。君は少し買い物を頼まれてくれないか?今日の食卓にサラダを並べたいのだが、食材が足りなくてな……きゅうりを買ってきてくれないか?」
彩虹寺は顔を上げながら優吾と目を合わせる。先ほどの殺気はなくなり穏やかな顔をしていた。
「でも、お前も一緒に来ないと誓約違反になるんじゃ……」
「私が君を信頼して依頼した。これで君が戦闘に巻き込まれるようなことがあれば、それは全面的に私の責任だ。」
微笑みながら、彩虹寺は優吾へ道を開ける。優吾は戸惑いながらも玄関の外へと出る。そして、思い出したかのように彩虹寺へ向き直り手を振る。
「んじゃ、行ってくる……」
「あぁ、帰り道に気をつけてな。」
ドアが静かに閉まると彩虹寺は壁へもたれかかりそのまま床へ腰をつけた。
「バカだな……」
彩虹寺はそのまま、天井を見上げてつぶやいた。
────────────
時を同じくして、葵は目の前で親友がバケモノになるのを見て衝撃と同時に涙があふれてきていた。
「葵?」
葵はただ、涙を流し、その場に崩れる。魚魔族こと白鳴はその様子に葵へ目線を合わせようと膝を曲げる。葵は白鳴のそんな対応に白鳴へ飛びつく。その行為に殺気は感じられず、白鳴はただただ茫然とする。そして、すすり泣く葵が振り絞って出した声を耳元にささやく。
「ごめんね……白鳴……」
その言葉に白鳴は戸惑う。
「なんで……?葵が謝るの……?」
「私、白鳴を治すって約束したのに……アイドルにしかなれなかった……お医者さんにもなるって……約束したのに……」
白鳴は子供のころにした約束を思い出し、その瞳に涙をためる。そして、その涙を振り払うように葵を突き放す。
「そんなこと、今更言われても……私たちはもう戻れないんだ!」
突き飛ばされた葵は白鳴と目が合う。殺気を纏った白鳴に葵は恐怖しながらも手を伸ばす。
「まだ、間に合う!まだ間に合うよ?白鳴!」
白鳴はそんな声を無視するように、そして葵を脅すように水球を発射する。命中しなかった水球は葵の後ろで水柱を立てながら爆散する。大きな音に慄きながらも葵はその場から動かずに手を伸ばす。
「し、白鳴!もうやめて!」
「無理だよ、葵。私はもう何もかも終わったんだよ…だから、私と一緒にどこまでも沈んでいこうよ…」
涙を流しながら白鳴はゆっくりと葵へ近づく。葵は震えながらもその場を動かず、白鳴を迎えようと腕を広げる。白鳴も手を震わせながら葵の目の前で水球を作る。そして白鳴は覚悟を決めて目を大きく開き、水球を射出する。
「うぉぉ!」
短い叫び声と共に影が葵にぶつかる。射出された水球は葵から外れ、爆散する。何者が葵を動かしたのか白鳴は葵が飛んだ方向へ目を移す。そこには少年が葵に覆いかぶさっていた。
「お前、死ぬ気か!?」
優吾は覆い被さりながら葵へ叱責する。葵は潤んだ瞳を優吾へ向ける。優吾は何も言わない葵の体勢を起こし盾になるように白鳴へ向かう。そして、優吾は背中越しに言う。
「俺は、お前がどうなったって正直どうでもいい。だが、お前を待つ人はいるだろ!その人達のためにもお前はこんなとこで死ぬのはダメだろ!?」
そして、優吾は白鳴へ向かい言い放つ。
「あなたもだ!自分がダメになったからって、他の奴を…それも親友を道連れにするのはちがうだろ!?」
白鳴は何も言えずにそのまま優吾を睨む。優吾はそのまま白鳴の方を指さす。
「俺は、あなたの記憶を見た…少なくとも、あなたが道連れとか、死ぬとかそんなことを言って良い訳がない!だから…俺は…」
優吾は胸の石を握り、魔装した。
「だから、俺はあんたらの手を互いに握らせるさせる……」
水のベールを引く優吾は構える。
「水化魔装…!」
「私は一度、あなたを瀕死にしている…だから今回は本気でやる……」
白鳴は周りに水球を発生させる。その数は今までの比にならないほどの量そして、魔力の質に優吾は今までにない感覚に陥る。常に魔力で押しつぶされそうになる感覚。魔力がない優吾にとってこの感覚はとても新鮮で苦しい感覚だった。
「これが、魔族の本気なのか?」
優吾は一瞬ひるんだが気合を入れ直し、構える。そして、頭には例の女性の声が聞こえてきた。
『Don't think Feel』
「あぁ…あと少しでその意味も分かりそうだ……」
優吾はひたすらに全身の感覚を研ぎ澄ませる。無数の水球に囲まれている優吾は視覚、聴覚、触覚、嗅覚や味覚に至るまでその感覚を限界まで引き上げる。白鳴が指を動かすと無数の水球は優吾へ一気に迫る。視覚で指の動き、聴覚で水球の移動する音、触覚で水球との距離を把握し、そして、優吾はそのすべてを”無意識”に行う。体は無数の水球をよけ、白鳴へ迫る。白鳴はその動きについて行けずに水球を作りながら優吾を妨害する。優吾は無言で距離を詰め、そして、白鳴の手を取り引き寄せる。お互いの体が触れ合う瞬間、白鳴は優吾との間に水球を作り出し、そのまま爆発させる。優吾はそのまま水球の爆発を受けたが、鎧には傷が一つもついていない。
「吸収……」
爆散した水球を中心にある石に吸収すると優吾は先ほどの体勢のまま再び白鳴の手を引きそのまま掌底をする。みぞおちへ決まる掌底に白鳴は魔族の姿から人間の姿へ変身解除され、その場にうずくまる。戦意と殺気が消えた白鳴の様子を見た優吾は魔装を解除する。優吾は葵の方へ向かい、その手を取り、白鳴の方へ駆け寄る。そして、互いに握らせる。
「これで、元通りになるかは、白鳴さん、あなた次第だ。」
葵と白鳴は握った手に力を入れる。そして、互いを見つめ合う。
「白鳴……」
「あ、葵……ごm……」
刹那、影が現れる。優吾、葵、二人はその禍々しさに生物的本能が警鐘を鳴らした。
四人目の影、銀髪の細身の男。ロングヘアを蠍の尻尾のようにまとめている。いや、逆だ、サソリの尻尾のような髪を持った男だ。男はニヤリと笑うと、注射器を白鳴へ突き刺す。白鳴は何が起こったか理解できずに目を見開いたまま葵と目を合わせる。優吾は青筋を立てた。
「お前、誰だ?」
サソリ男はニヤリと口角を上げながら、優吾と葵を突き飛ばす。その瞬間、白鳴は魚魔族へと姿を変えた。
「痛”い”苦”じい”あ”……あ”お”い”」
必死に手を伸ばす白鳴に葵は答えるように手を伸ばすが、白鳴の手は地面を叩く。
「白鳴!!」
「ちょっと、近づかないでくださいよ……」
駆け寄ろうとした葵にサソリ男は蹴りを入れる。葵は優吾にキャッチされ、そのまま一緒に吹き飛ぶ。白鳴はその様子に最後の力を振り絞り、結界の出口を開けた。
「白鳴ぁぁぁ!!」
葵は手を伸ばすが、白鳴の結界はすぐに閉じてしまった。路地裏へ飛ばされた優吾と葵は出てきた水たまりを見る。だが、そこに映ったのは月明りに揺らめく水面と葵と優吾の顔だった。
「白鳴!白鳴!」
葵は必死に水たまりを叩くが何も反応がない。優吾は葵の背中へ手を置く。葵は涙を流しながら水たまりに映る自分を見つめた。優吾は無言で葵を連れ、路地裏を出た。その直後、魔法術対策機関第二班の面々が到着した。
「知ってる顔がいるなぁ……」
「君は…護衛初日にもいたね。鎧の人…」
「また、何か余計なことしてんのか?」
優吾はただ無言で葵を二班に差し出すと、そのまま立ち去ろうとしたが、海辺に止められる。
「ちょっと、待って……君、今回も戦ったのかい?」
その言葉に四夜華はニヤニヤとしながら優吾へ近づく。
「あれっあれ~?確か優吾ちんは確か戦っちゃダメじゃなかったっけ~?」
優吾は無言で海辺の手を払い立ち去ろうとする。だが、次は陸丸に止められ、胸ぐらをつかまれる。
「おい!なんとか言ったらどうなんだ!」
陸丸と優吾の視線がぶつかる瞬間…陸丸は優吾の殺気に背筋に悪寒が走った。思わず手を離した陸丸は慌てて優吾へ視線を向けた。そこにはにこやかに微笑む優吾がいた。
「そんなわけないですよ。買い出しの途中、悲鳴が聞こえたので路地裏に行くと、その人がいたので……」
葵へ視線が集まると、葵は優吾の状況を察したのか首を縦にふる。四夜華を覗いた二班は納得すると優吾を解放した。では、と言って優吾はスーパーのある方向へ向かった。
「短期間で随分と噓をつくのがうまくなったね~」
四夜華は小声でつぶやくと状況確認するため、葵へ駆け寄った。
「てことで、葵ちん~何があったか教えてちょ!」
葵は優吾のことは伏せながら白鳴の結界内であったことを話した。
「そうだったんだね~おけい!んじゃ、皆、葵ちんの家行って休もうか。」
ここから、時間は一気にライブ当日まで飛ぶ
17:了
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