魔装戦士

河鹿 虫圭

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21:烏

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異常な熱さと体のだるさで目を覚ます。石を没収されて数週間が経とうとしている。梅雨が明けてジメジメとした季節が終わったかと思った矢先、次は強烈な太陽の光が肌を焼く季節になった。夏休み初日、汗だくの額を拭いながら晴山 優吾は項垂れる。そしてエアコンのリモコンを手に取りボタンを押すが反応がない。

「壊れた……」

汗だくのままとりあえずリビングへ降りる。リビングのエアコンは無事か確認するためすぐにリモコンを取り出しボタンを押す。起動音と共にリビングのエアコンはすぐに起動する。
ホッと胸をなでおろすと優吾はそのまま朝食の準備を始める。エアコンの冷えた風がリビング内に行き届いてへやの気温が低くなると、優吾はリビングのドアを閉めようと廊下に顔を出すと同時に玄関のインターホンが鳴る。

「誰だ?」

学校で一人、宅配便はあまり利用しない。そんな優吾の家に来る人間はかなり限られている。ドアを開けると、白いワンピースに薄い生地の長袖の白色のカーディガンを身にまとった彩虹寺だった。麦わら帽子に日傘のせいで優吾は一瞬誰だと顔を覗き込みようやく彩虹寺だと認識できた。

「何しに来たんだ?」

優吾のその言葉に彩虹寺は顔を隠すように口を開く。

「いや、そのなんだ…今日予定はあるか?」

「予定?あぁ……部屋のエアコンが壊れたから今日は家電量販店とかに行こうかと考えてたところだが……」

彩虹寺はその話を聞くと少しモジモジとした後また口を開く。

「そ、そうか…それなら、わ、私の買い物にも付き合ってくれないか?」

優吾は少し考えた後に彩虹寺と目が合う。いつもなら堂々としており真っすぐこちらを見つめてくるが、今日はなんだか様子が違う。なぜだろうと考えたが彩虹寺も人間で今日はたまたま出かけたかったのだと答えを出し優吾は返事をする。

「別にいいぞ。それより、暑いだろ、今から朝飯にしようと思っていたからお前も食ってけよ。」

現在正午を回ろうとしている時間。彩虹寺は優吾の朝飯という言葉に驚き目を見開く。

「さっき、起きたのか?」

「そうだ。休みの日はいつも昼に起きて、ってのが多いな……」

「不健康だな。」

「いいから、入れ。」

彩虹寺は玄関をくぐり優吾とリビングへ向かった。

「というか、なんで俺の家に?」

「いや、その……」

歯切れの悪い返事に優吾は今日の彩虹寺はやはりどこかおかしいと思いつつ先ほど作っていた朝ごはん兼昼ごはんのそうめんを追加でゆでる。彩虹寺は先ほどからモジモジとして答えに渋っている。

「なんか様子がおかしいぞ?熱でもあるか?」

「いや、体調は問題ない…その……」

「その?」

彩虹寺はうつむきながら何かブツブツと言っている。

「なんて?」

「だから、今日はその、監視対象のときのプライバシー侵害の私なりのお詫びというか…」

「お詫び?何言ってんだ?あれはほとんど成り行きみたいなもんだろ。しかも、お詫びなら俺がする側だろ。」

「いや、私のプライドというか、ルールというか……とにかく私がただ君にお詫びをしたいだけなんだ。」

ゆで終わったそうめんを冷水につけてさらに氷の入ったガラスの器にいれ食卓へ持ってくる。その後は醤油とワサビを持ってきて自身の茶碗と彩虹寺の茶碗を持ってくる。食卓に並べて優吾も座りお互いにいただきますと行って箸に手をつけると優吾は声を上げて彩虹寺を止める。

「どうした?」

「ちょっと待ってろ。」

リビングを出て行って数分すると優吾は片手に桃色の布を一枚持ってくると彩虹寺へ渡す。

「なんだこれは…?」

「ワンピース汚れたらもったいないだろ。跳ねないように膝でも首元にでもと思って……」


「そ、そうか、ありがとう。」

彩虹寺は布を膝にかけると箸を手に持ちそうめんをすすり始める。

「冷たいな。」

「簡単にできるからな。夏はほぼこれで乗り切れる。」

「たまには味の濃いものも食べないと夏バテするぞ?」

「へいへい。」

そのまま他愛のない話を続けながら二人はそうめんを完食し優吾は食器をシンクに入れっぱなしにすると支度を始める。

「とりあえず、家電量販店行って……で、そのあとどうすんの?」

「何か、ほしいものとか、どこか行きたいところとか……」

「特にねぇな……」

そうかと彩虹寺が少しうつむきながら玄関で待つ。準備を終えた優吾は彩虹寺と対面する。
ジーンズに黒のTシャツの上に薄手の水色の半袖ジャケットを羽織っている。彩虹寺は少し驚きながら優吾と目を合わせる。優吾はそんな彩虹寺に衣服を見せながらポーズを取る。

「いやぁ、せっかく気合い入れて来てくれたからな。俺もおしゃれしてみた。」

「そ、そうか、に、似合っているぞ……」

だんだんと小さくなっていく彩虹寺の声を気にしないで優吾は靴箱からシューズを取り出し玄関を開けて外へ出る。

「そいじゃ、行こうぜ。」

「あ、あぁ…」

二人は猛暑の中近くの家電量販店へ向かう。汗を流す優吾を横目に彩虹寺は日傘を差しており、先ほどのそうめんのお礼をするため、日傘を差し出す。

「暑いだろう、日傘に入るか?」

「いや、狭い空間い二人は余計暑いだろ。」

「そうか……」

そんな調子で二人はそのまま家電量販店へ着いた。エアコンのコーナーへ行き、優吾はエアコンの価格や性能を確認する。

「うげ、やっぱ高っ…んー金は有限だからあんま使いたくないな……」

優吾自身バイトはしていない。が、亡き父と母の財産のおかげで恐らく優吾が死ぬまでは不自由なく生きているが、本人があまり物欲があまりないため財産は食費と光熱費に使っている。

「晴山。ここ、見てみろ。修理サービスもやってるみたいだぞ。」

「へぇ…ほぉ……このメーカ—確かに俺の部屋のエアコンのメーカーだったような……」

店員に話をして結局、部屋のエアコンのメーカーを確認して連絡ということで優吾のエアコンの件は終了する。そして、次は彩虹寺の件だが……

「どこに連れて行ってくれるよ?」

「本当に、どこか行きたいところはないのか?」

「う~ん…………」

優吾はしばらく考えたあと、コンビニが目に入った。

「とりあえず、あちぃから、コンビニ行ってアイス買おうぜ。」

彩虹寺はため息をつきながら優吾とコンビニへ入りアイスと飲み物を買った。

「う~ん……改めて考えると本当に何もないな……というか、監視の件は成り行きみたいなところあったから何も迷惑はかかってないんだよな……」

「君が迷惑してなても私の気が済まないんだ…!それなら今からテーマパークにでも行くか?」

「やめてくれ…俺とお前は友達だろうに…」

そのまま歩く二人。公園の前を通りかかると優吾が足を止める。彩虹寺も優吾に続き足を止め、公園内へ視線を向けた。公園内には小学生くらいの男子複数名が固まっている。
優吾はその足元に注目しおり、公園内へ入っていく。彩虹寺はその様子を遠くから見守っている。優吾は男子たちと何か話しており追い払うような仕草をすると男子たちはどこかふてくされたような様子で優吾から離れていった。彩虹寺はしゃがむ優吾の様子に公園内へ足を踏み入れる。優吾へ近づくとその腕には黒い塊が見える。よく目を凝らしてみると太陽で白や青色にツヤツヤに光る。カァという鳴き声でそれがカラスだと気づく。

「カラス……か?」

「そうみたいだな…怪我している。」

優吾はスマホを取り出すと何かを検索する。

「近くに動物病院があるみたいだな……すまねぇが一緒についてきてくれ。」

「分かった…行こう。」

急いで二人は動物病院へ急いだ。町内で唯一の動物病院に着き中を見るが人がいない。OPENの文字は見えるが人気がない。不安になるも二人は中へ入る。

「すみませーん!誰かいませんかー?!」

優吾は声を出すも返事がない。院内は照明で明るいはずだが、どこか暗い。彩虹寺が呼び出し用チャイムを見つけるとそのチャイムを押す。だが、これでも反応がない。優吾は仕方がないと思い先ほどよりも大きな声で呼びかける。

「だれかー!いませんかー!?」

声がやっと聞こえたのか奥の方から足音が聞こえてくる。暖簾をめくって来たのは白髪の目立つ顔立ちの整った背筋の真っすぐな老人だった。咳ばらいを一つすると爽やかな笑顔で迎える。

「やぁ、どうも。どうしたのかな?」

「よかった…さっきそこの公園でカラスが怪我してるの発見して血がすごかったんで連れてきました。」

カラスを見せると老人は少し驚いた様に目を見開き、優吾と彩虹寺を治療室へ案内する。優吾は老人の指示でカラスを診察台へ置き、老人はカラスに適切な処置をする。処置は数分もかからずに終わり、カラスは優吾の膝に乗ったり彩虹寺の膝に乗ったり遊んでいるようだった。

「まぁ、見ての通り傷は深かったが、命に別状はない。ただ、まだ飛ぶことができないから様子見だね。」

治療も終わり、一応受診カードを作ってもらい会計をする。優吾の苗字を見て老人は優吾へ父親の質問をする。

「晴山か…ダイスケは元気かな?」

優吾はその質問に驚きながらも父親が行方不明で長らく帰ってないこと、そして母を亡くし今は一人だと話す。事情を知った老人はしょんぼりとして悲しそうな表情になる。

「そうか…ダイスケはもう…」

「すみません。でもこんな年上の知り合いまでいるなんて聞いたこともなかったな……」

老人は優吾の父の話をする。

「父さんも動物を連れてきてたんですね。」

「あぁ、傷ついた動物を見つけては私のところに連れてきての繰り返しでね…ちなみに、君のつれてきたカラスは魔獣だね。」

「へ?」

カラスは優吾と目が合うとドヤと得意げに胸を突き出す。老人はそんな様子を見ながら、魔獣の説明に入る。

「クロッキオ=シュバルツ。カラスによく似た魔獣でそれは魔力消費を抑えて敵に見つからないように小さくなってるんだ。知能がカラスよりも高く、魔法や魔術を使ったという事例も出ているね。隣のお嬢さんなら魔力量を見る事もできるはずだから頼んでみると言い。普通のカラスには魔力はないからね。」

優吾は彩虹寺と視線がぶつかると彩虹寺はカラスの身体をじっと見つめる。

「確かに、魔力が小学生並みの魔力ですね…」

「見分けるポイントは目線と毛色、魔力量の三個だね……」

その後、三人は数時間雑談し、病院を後にする。

「それじゃ、ありがとう。ミルザムのじいさん。」

「こら、失礼だろう。」

「いやぁ、いいんだ。孫ができたようで楽しかった。また来週様子を見せにくるといい。」

二人は礼をして病院の外に出る。辺りはすっかり赤くなっており、日もだんだんと落ち始めていた。

「今日、ウチに泊まってけよ。」

「ありがとう。そうさせてもらうよ。」

カラスは「クロスケ」という名前でしばらく面倒を見る事になった。

21:了
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