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26:暴風
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銀色の使徒の幹部エファは目の前にいる古傷だらけの白髪頭の隻眼の老人をにらみつけ悔しそうに後ずさる。睨まれている当の本人は刀を構え、片翼の炎を燃やし、エファを笑顔で見つめる。
「どうした?本気が見たかったんだろ?」
「…ここまでとは……だが、そろそろ俺は帰らせてもらう。」
後ずさろうとしたエファへ一心は口角を吊り上げながら近づく。
「だから……逃がさねぇつってんだろうが……」
エファは苦虫を嚙み潰したような顔をすると地面を殴りつける。一心はその土煙に視界をふさがれてしまいエファを見失った。
「ちっ…逃がしたか……」
一心は刀をしまい、周りを見渡す。緑は橙に燃え山火事となっていた。
「やべ、やっちまった。」
消火しようと慣れない水魔法を使おうとしたその時、上空から水魔法と共に誰かが降りてくる。
「ハイドロスプラッシュ……」
降りてきた影は朱晴を抱えており、その顔は仮面をかぶっている不審者同線の者だった。一心はその仮面を見るとため息をつきながら近寄る。
「相変わらず、趣味の悪い仮面だな…」
「君も相変わらず、というか、姿も変わっていないね。さすが永遠の翼だね。」
仮面の男から朱晴を受け取ると、一心は朱晴にもため息を漏らす。
「また、無茶しやがって……誰が治療すると思ってんだ。」
踵を返し去ろうとする仮面の男に、一心は背中越しに感謝と本部への報告を伝える。
「感謝する。そして本部へ戻り次第、報告を頼む。」
「何と?」
一心は朱晴を見つめながら殺気立つ。
「晴山優吾が誘拐された。そのせいでうちの班員が瀕死同然の状態。そして、救援要請だ。」
「あぁ、分かったよ。すぐに救援をようせいしよう。一心は?」
「俺は、晴山優吾を探し、先に銀色の使徒を見つけて潰す。」
「はぁ…感情と使命と……色々とぐちゃぐちゃだね。とりあえず、君が怒っているのは十分に伝わったよ……それじゃ……」
仮面の男は手を振るとそのまま消えていった。
────────────
『ユウゴ、すまないな……こんなことになってしまって』
「別に気にしなくていいさ…俺だって公開しているんだ……」
ミルザムは一方的に優吾に伝え、優吾はその言葉に反応する。
『クロッキオ=シュバルツの子だが……そろそろ飛べるはずだ。なにせ、彼女は魔獣だからね……』
「そうか……それでも俺はあんたの所に行ってクロスケを見せる義務があるからな……」
そのままぶつ切りになったミルザムの記憶に、優吾はただただ遠くを見つめる。そして、カラス魔族の横顔を見る。森の木々の影に照らされたカラス魔族になったミルザムへ話しかける。
「なぁ、じいさん……どうしたら、あんたを人間に戻せる?俺は何をしたらいいんだ?」
カラス魔族はただ黙って前を見て歩く。優吾は、ボロボロの体へ力を入れて、カラス魔族の腕の中を抜け出す。カラス魔族はそんな優吾の様子を見てゆっくりと迫る。優吾は後ろを見ずにひたすら草木をかき分ける。そして、優吾はその瞳に”未来”を視る。
「これしか、方法はないのか……?」
優吾はそうつぶやきながらも先に視えた崖を目指す。肩で息をしながら、躓きながらも優吾は崖を目指す。淵へ着くと崖の高さに驚く。木々が弾力のありそうなクッションに見えるくらいの高さ。後ろを振り返ると、カラス魔族は足を止めることなく優吾へ真っすぐと向かってきている。優吾は崖の下とラス魔族を交互に見る。
『君は、彼を助けたいからこの方法を取ったのだろう?』
ミルザムに似た声が頭に響く。優吾はよろめきながらも立ち上がり、崖の下を見ずに空を見上げた。
「俺にできるのは……これだけだ。」
『未来は確定した.……。さぁ、詠え!』
優吾はそのまま体の力を抜き、崖から落下する。
──────静かなること、そよ風が如く。
落下する優吾の速度はだんだんと早くなる。落下した優吾を見たカラス魔族は優吾の落下地点を予測し、落下地点へ崖を走り降りる。
──────疾きこと、疾風が如く。
詠唱中の優吾の落下速度はだんだんと早くなり速度は最高地点へ到達する。そして、近づく地面との間にカラス魔族が待ち構える。
──────暴れること、暴風が如く。
その詠唱地点。優吾の体に風が巻き起こる。カラス魔族はその吹き荒れる暴風に阻まれる。
そして、優吾の詠は次の一呼吸で終わる。
──────切り裂くこと、裂風が如し。
優吾を守るように風は吹き荒れ、優吾を上へと押し上げる。
「風化魔装」
詠唱が終わると同時、優吾は空へと飛び立つ。背中に見える翼は本物ではなく、空気が渦巻き翼の形を形成している。炎の鎧と比べると薄めだが、水の鎧のコートの様なものに比べると鎧と言える姿。その頭には深翠の色の鷲が羽を広げている。
「魔装戦士……魔装完了《All Set》」
優吾はカラス魔族を見おろしそのままカラス魔族のところへと降り立つ。カラス魔族は首を傾げながら短く低く鳴き、一歩の跳躍で優吾との距離を詰める。
「右足の蹴り。」
優吾はそうつぶやきながらカラス魔族の右足の蹴りを躱す。カラス魔族は空を切った足を見つめ、そして優吾を見つめる。おかしいと疑念を持ったカラス魔族は高速移動を始める。優吾はその場に止まったまま目を凝らす。
「右の手から小石の投擲。そして、ひるんだところへ左足の蹴り。」
つぶやきながら優吾は目の前まで来ていた小石を最小限の動きで躱し、左足の蹴りをカウンターの右足の蹴りを当てる。ぶつかり合った双方に足は衝撃波を生み、周辺の草木を吹き飛ばし、地肌を露出させる。カラス魔族はようやく異変を読み取り、優吾から距離をとる。
「カァ……」
優吾は、ステップを踏むとストレッチをしてからカラス魔族の方を見る。
「どうした?こいよ……じいさん。」
挑発的に優吾は人差し指を立てる。カラス魔族は優吾の魔力を読み取り今まで見せたことのない前傾姿勢をとり足元にある小石を雑に手に取り今までのように顎を突き出し見下すように見るのではなく、観察するように顎を下げ優吾を見つめる。
今から本気を出すぞ。
そんなことを言いたげなカラス魔族の姿勢と殺気に優吾は震えるが、カラス魔族を睨み返す。
「来いよ。俺も本気でやるからよ……」
カラス魔族は初めて口角を上げ、足に力を入れ優吾の間合いへ一瞬で踏み込んだ。
26:了
「どうした?本気が見たかったんだろ?」
「…ここまでとは……だが、そろそろ俺は帰らせてもらう。」
後ずさろうとしたエファへ一心は口角を吊り上げながら近づく。
「だから……逃がさねぇつってんだろうが……」
エファは苦虫を嚙み潰したような顔をすると地面を殴りつける。一心はその土煙に視界をふさがれてしまいエファを見失った。
「ちっ…逃がしたか……」
一心は刀をしまい、周りを見渡す。緑は橙に燃え山火事となっていた。
「やべ、やっちまった。」
消火しようと慣れない水魔法を使おうとしたその時、上空から水魔法と共に誰かが降りてくる。
「ハイドロスプラッシュ……」
降りてきた影は朱晴を抱えており、その顔は仮面をかぶっている不審者同線の者だった。一心はその仮面を見るとため息をつきながら近寄る。
「相変わらず、趣味の悪い仮面だな…」
「君も相変わらず、というか、姿も変わっていないね。さすが永遠の翼だね。」
仮面の男から朱晴を受け取ると、一心は朱晴にもため息を漏らす。
「また、無茶しやがって……誰が治療すると思ってんだ。」
踵を返し去ろうとする仮面の男に、一心は背中越しに感謝と本部への報告を伝える。
「感謝する。そして本部へ戻り次第、報告を頼む。」
「何と?」
一心は朱晴を見つめながら殺気立つ。
「晴山優吾が誘拐された。そのせいでうちの班員が瀕死同然の状態。そして、救援要請だ。」
「あぁ、分かったよ。すぐに救援をようせいしよう。一心は?」
「俺は、晴山優吾を探し、先に銀色の使徒を見つけて潰す。」
「はぁ…感情と使命と……色々とぐちゃぐちゃだね。とりあえず、君が怒っているのは十分に伝わったよ……それじゃ……」
仮面の男は手を振るとそのまま消えていった。
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『ユウゴ、すまないな……こんなことになってしまって』
「別に気にしなくていいさ…俺だって公開しているんだ……」
ミルザムは一方的に優吾に伝え、優吾はその言葉に反応する。
『クロッキオ=シュバルツの子だが……そろそろ飛べるはずだ。なにせ、彼女は魔獣だからね……』
「そうか……それでも俺はあんたの所に行ってクロスケを見せる義務があるからな……」
そのままぶつ切りになったミルザムの記憶に、優吾はただただ遠くを見つめる。そして、カラス魔族の横顔を見る。森の木々の影に照らされたカラス魔族になったミルザムへ話しかける。
「なぁ、じいさん……どうしたら、あんたを人間に戻せる?俺は何をしたらいいんだ?」
カラス魔族はただ黙って前を見て歩く。優吾は、ボロボロの体へ力を入れて、カラス魔族の腕の中を抜け出す。カラス魔族はそんな優吾の様子を見てゆっくりと迫る。優吾は後ろを見ずにひたすら草木をかき分ける。そして、優吾はその瞳に”未来”を視る。
「これしか、方法はないのか……?」
優吾はそうつぶやきながらも先に視えた崖を目指す。肩で息をしながら、躓きながらも優吾は崖を目指す。淵へ着くと崖の高さに驚く。木々が弾力のありそうなクッションに見えるくらいの高さ。後ろを振り返ると、カラス魔族は足を止めることなく優吾へ真っすぐと向かってきている。優吾は崖の下とラス魔族を交互に見る。
『君は、彼を助けたいからこの方法を取ったのだろう?』
ミルザムに似た声が頭に響く。優吾はよろめきながらも立ち上がり、崖の下を見ずに空を見上げた。
「俺にできるのは……これだけだ。」
『未来は確定した.……。さぁ、詠え!』
優吾はそのまま体の力を抜き、崖から落下する。
──────静かなること、そよ風が如く。
落下する優吾の速度はだんだんと早くなる。落下した優吾を見たカラス魔族は優吾の落下地点を予測し、落下地点へ崖を走り降りる。
──────疾きこと、疾風が如く。
詠唱中の優吾の落下速度はだんだんと早くなり速度は最高地点へ到達する。そして、近づく地面との間にカラス魔族が待ち構える。
──────暴れること、暴風が如く。
その詠唱地点。優吾の体に風が巻き起こる。カラス魔族はその吹き荒れる暴風に阻まれる。
そして、優吾の詠は次の一呼吸で終わる。
──────切り裂くこと、裂風が如し。
優吾を守るように風は吹き荒れ、優吾を上へと押し上げる。
「風化魔装」
詠唱が終わると同時、優吾は空へと飛び立つ。背中に見える翼は本物ではなく、空気が渦巻き翼の形を形成している。炎の鎧と比べると薄めだが、水の鎧のコートの様なものに比べると鎧と言える姿。その頭には深翠の色の鷲が羽を広げている。
「魔装戦士……魔装完了《All Set》」
優吾はカラス魔族を見おろしそのままカラス魔族のところへと降り立つ。カラス魔族は首を傾げながら短く低く鳴き、一歩の跳躍で優吾との距離を詰める。
「右足の蹴り。」
優吾はそうつぶやきながらカラス魔族の右足の蹴りを躱す。カラス魔族は空を切った足を見つめ、そして優吾を見つめる。おかしいと疑念を持ったカラス魔族は高速移動を始める。優吾はその場に止まったまま目を凝らす。
「右の手から小石の投擲。そして、ひるんだところへ左足の蹴り。」
つぶやきながら優吾は目の前まで来ていた小石を最小限の動きで躱し、左足の蹴りをカウンターの右足の蹴りを当てる。ぶつかり合った双方に足は衝撃波を生み、周辺の草木を吹き飛ばし、地肌を露出させる。カラス魔族はようやく異変を読み取り、優吾から距離をとる。
「カァ……」
優吾は、ステップを踏むとストレッチをしてからカラス魔族の方を見る。
「どうした?こいよ……じいさん。」
挑発的に優吾は人差し指を立てる。カラス魔族は優吾の魔力を読み取り今まで見せたことのない前傾姿勢をとり足元にある小石を雑に手に取り今までのように顎を突き出し見下すように見るのではなく、観察するように顎を下げ優吾を見つめる。
今から本気を出すぞ。
そんなことを言いたげなカラス魔族の姿勢と殺気に優吾は震えるが、カラス魔族を睨み返す。
「来いよ。俺も本気でやるからよ……」
カラス魔族は初めて口角を上げ、足に力を入れ優吾の間合いへ一瞬で踏み込んだ。
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