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30:昔
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初めて彼を見た時はどこか陰のある人物だと思った。いや、私より少し歳が上だからそう感じただけかもしれない──────
昔の話をしよう。昔と言ってもたった1、2年前の昔だ──────
2017年某日17歳にしては背が高くガタイが良い少年(少女の私が少年というのものなんだが…)が窃盗で魔法術対策機関の本部に連行されてきた。魔法術対策機関に連行されたということは魔法や魔術を使用し、窃盗を行ったということだ。少年は取調室でかれこれ数時間も無言でうつむいている。誰がどんな対応をしようが、彼はうつむいたまましゃべらない。再度、琉聖さんが彼の目の前に座る。
「さて…いつまでもだんまりだと何も進まないよ?」
少年はそれでもうつむきだんまりを通す。日付が変わる時間帯になり、少年はやっと口を開いた。
「金がなかっただけだ。」
琉聖さんは微笑みながら少し安心した様子でうなずきメモを取る。
「そうだったんだね……良ければ、他にも色々聞かせてくれないか?」
少年は顔を上げて、初めて琉聖さんと目を合わせる。少し不安そうな顔をすると恐る恐る話し始める。名前、獅子王玲央17歳。中学を卒業後、高校に行くお金がないので日々をバイトでつないでいること。仕事に行かず昼間から飲んだくれで酒癖の悪い父と二人暮らしで家で暴力を受けていること。バイトで稼いだお金を勝手に使われること。暴力の延長で盗みをさせられていること。最初は警察にも相談したが相手にされなかったこと。その他いろいろと話してくれた。
「そうか、大変だったね…でも大丈夫!僕らのところに来たからにはもう君は苦しまなくていい。」
そこからの話は早かった。まずは窃盗の件、罪を償うため裁判を起こす。そこから、父親の問題、家庭環境を加味し特例中の特例で無罪。裁判官も警察も検察も、弁護士もこれには全面的に彼へ同情した。少年は法廷を出る際に深々と礼をして出ていった。そして、父親の件、これは私たちが介入して解決した。父親は重度のアルコール依存症、ギャンブル依存症で精神病院に入院。玲央は17歳というのもあり一人暮らしが決定し、高校卒業証明書をとるため私たちの本部で教育を受けることになる。
「さて、こんなもんかな?これで後は卒業証明書が取得できれば、僕らはお役御免だね。」
「ありがとう……ございます……」
「いいって、僕らの役目は町の人を守ることだからね。これもその一環さ。」
それから、私たちと共に授業を受けつつ彼自身もどこか明るくなっていった。
「ふん、これくらいもわからんのか?貴様はやはり低能だな?」
「君はまたそんないい方をして……いつか後悔するぞ?態度を改めろ。」
フンと鼻を鳴らし玲央はそっぽを向く。そんな様子を教師役の琉聖さんは微笑みながら見てくる。あんなに弱っていたとは思えないほど明るく正直、前の方がよかった。というものの、これが彼の本来の性格なのだろうな。そんなこんなで一年が過ぎ、玲央が18歳になった頃、その日玲央は真剣なまなざしで琉聖さんへ近づいて行った。何かを相談していたのを見かけ、次の日、その相談内容が明らかになった。
「今日から、玲央君は魔法術対策機関 初の「協力者」としてくれることになりました!」
「ふん。貴様らの手伝いをしてやろう……」
偉そうな態度は変わらず、ただ、そんな態度でも私たちは彼と共に任務ができるのがうれしかった。訓練から参加することになった玲央は最初こそ苦しそうにしていたが持ち前のセンスと才能ですぐに実力を上げていった。任務にも同行してくれて、魔法も魔術も私たちと同等に実力があった。男嫌いの夢希も彼の実力は認めており、触りはしないが彼のことは信頼していた。凪も水らしく玲央に興味を示し、時々一緒にゲームをしてたのを見る。琉聖さんも彼にはいろいろ魔法を教えており、かなり信頼していた。そんな玲央を私はもちろん信頼していた。二班の面々や三班の二名に聞いても彼のことは信頼していたと話に聞いた。皆が玲央をほめるのを私は嬉しく思っていた。
私は、嬉しかったんだよ。玲央。
そして、運命の日──────
その日の任務は連続殺人犯の魔族を追い詰めていた時のことだった。殺人犯はトカゲの魔族でそのしなやかな身体を生かして様々なところに入り込みターゲットを殺していた。目撃情報があった周辺にて当人を見つけ稼働中の工場へ追い詰めていった。
これが、間違いだった。
殺人犯を追い詰めた私たちは犯人を取り囲む。余裕そうな表情の犯人はナイフを取り出す。
「観念しろ。」
「ケッ!捕まえられるもんなら捕まえてみろ!」
背に視線を向けると、プロパンガスのホースを切る。高圧ガスのガスでように目くらましをしようとしたのか、次々にガスのホースを切るが、高圧ガスではないのでただただ独特の匂いがその辺に充満するだけだった。焦り始めた犯人はそのまま逃げようと後ずさる。
「待て!」
犯人はそのまま逃げようとドアをひねるが、施錠されているドアはもちろん開かない。焦る犯人に玲央は話しかける。
「おい、お前。これ以上罪を重ねるな。」
「何だてめぇ……」
玲央は私たちへ出ていくように合図する。正直、ここで私たちが部屋から出て行って外で待機しておけばよかったんだと今でも思い出す。
「なめるな。お前より私たちの方が先輩だ。出て行かんぞ。」
「阿呆。ガスが充満しているこの部屋で火花を立てるだけで死ぬんだぞ。夢希と凪を連れて出ていろ。」
「何をボソボソとくっちゃべってんだ!!」
犯人はナイフを振り回し始める。私たちはそのナイフを振るを止めようと迫ったが、犯人の手は止まらず、手は止まらずにそのナイフは思い切り、近くの機械へ当たってしまう。その瞬間、小さな火花が飛び散った。玲央はその火花を目に映すと瞬時に私と夢希、凪を集め、覆い被さる。そして、私たち三人に聞こえるように耳にささやき、立ち上がる。
「俺は、犯人を助けに行く。」
「玲央!」
その一言が彼の最後の言葉になった。彼が振り向くと同時に私たち三人に爆発が襲い掛かった。
「ハイドロガード!!」
私は手遅れだったが、二人をかばいながら魔法で爆発を軽減する。爆発は長くて数分続いた。爆発が終わると、その場にいた私たちは脱力する。燃え盛る半壊した工場にそこにいたであろう玲央と犯人の黒く焦げた跡があったのだ。死体はなかった……いや、死体ごと消し飛んだといった方が正確だろう。私は涙をこらえ、すぐに琉聖さんへ通信をつなげた。
玲央、私はね、嬉しかったんだよ。
盗みをしていた君が人のために手を差し伸べる姿に、そして、時には殺人犯の命も守ろうとする君のその姿が嬉しかったんだよ。
なのに…一体君に何があったんだ……
白き狼の鎧を纏った晴山優吾の顔は歪み吹き飛ぶ。こちらへ転がってきた晴山の顔は鎧が砕けて顔面が露出している状態になっている。
「晴山!!」
「こいつ痛てぇ……てか、一撃で鎧が砕けるのなんで初めてだ。」
「あまり無理はするな。」
晴山は立ち上がり手出しはナンセンスと言わんばかりに背を向ける。
「おい……」
「彩虹寺……お前、いろんな魔法使えるか?」
「どういうことだ?」
「基本属性は全部使えるかって聞いてんだ……この姿じゃ勝てねぇ。」
私は露出する目を見ながら、縦に首を振る。晴山は私の頷きを見ると、口角を上げて、足を踏ん張った。そして、跳躍する前に私に作戦を伝える。
「俺が合図をしたら、炎、水、風の順番に適当な魔法を撃て、俺はそれを吸収して姿を変える。んじゃ、頼んだぜ。」
「わかった……」
晴山は跳躍し、黒い鎧へ殴り掛かる。黒い鎧はその拳を受け止め投げ飛ばす。真上に飛んだ晴山は大声で合図をした。
「今だ!一発目、撃て!」
私は手を構え、晴山へ狙いを定める。
「一光:ファイヤーボール!」
晴山はそのまま私の魔法を正面に構える。
「吸収!!炎化魔装!!」
炎に包まれ晴山は拳を突き立てながら落下する。赤い鎧を纏った晴山は落下の速度を生かし黒い鎧へその拳をぶつける。
「このまま……炸裂しろ!!紅!!!」
拳は赤く光りそのまま受け止めている黒い鎧の腕で爆発する。爆発から出てきた晴山は煙の先を見る。黒い鎧は煙から出てくるが、ダメージを受けている様子はない。晴山は再び足に力を込めて一歩を踏み出すが、その一歩を踏み出そうとした瞬間、黒い鎧はすぐに晴山の間合いに入りこみ拳を繰り出す。その瞬間、晴山からまた合図が入る。
「二発目、撃ってこい!!」
「一光:アクアボール!」
晴山は迫るアクアボールを目にすると黒い鎧の拳を無視して自らアクアボールを受け止めに動く。黒い鎧の拳を躱しながら、晴山はまた姿を変える。
「水化魔装!!」
黒い鎧に背中を向けながら息を整えていると、黒い鎧はそれを隙と見たのか間合いを詰めまた拳を繰り出すが、晴山はその攻撃を武術のように避ける。そのまま、黒い鎧の手を掴み、思い切り引っ張ると肩で打撃を与える。ひるんだ黒い鎧へ晴山はゆっくりと近寄り、掌底の構えをする。
「これで……流!!!」
掌底が鳩尾へ入ると、晴山はその掌底を黒い鎧へ押し当て手のひらに溜った水の魔力を細く放出する。だが、黒い鎧はその掌底を受け止めており一番細く放出される前に晴山の手のひらを上へと向けて回避する。
「こいつ……」
止まった戦況に琉聖さん、夢希、凪が参戦する。
「優吾君!避けろ!」
琉聖さんの掛け声で、凪は黒い鎧の影を縛り、操る。晴山の手を離させて晴山はその場からどき、準備していた琉聖さんと夢希が一斉に魔法を放つ。
「蠍の一突き!!!!」
「氷造形:M21氷地……魔弾射出!!!」
投擲された槍は赤く輝き、放たれた弾丸は白い一本線を描く。黒い鎧はその遠距離攻撃を真とも受けその場には煙が上がる。黒鎧は煙を振り払い、前を向くと晴山が追撃を入れようと足へ力を込めて私へ合図を出した。
「ラスト三発目、来い!!!」
「一光:ウィンドボール!!」
「吸収……風化魔装!」
そのまま前へ走り、跳躍し飛び蹴りの姿勢になる。
「翠!!!!!」
目にも止まらぬ速さで晴山は黒い鎧へ突っ込む。黒い鎧はその蹴りを受け止める。
「これでも、ダメなのかよ……」
晴山を受け止める黒い鎧は全くの隙だらけだ。私は琉聖さんや夢希、凪へ視線を送り、魔法をうつ準備をする。
「三光:フレイム!!!」
「射手の矢……射手、流星打ち!!!」
「氷造形:M21氷地……魔弾射出!!!」
「影縛り:強縛」
凪の放った影は黒い鎧の影を固定し、そのまま私たちの撃った魔法は黒い鎧へ命中する。だが、黒い鎧はなおも晴山を受け止めている。黒い鎧はそのまま、晴山を思い切り投げた。
宙へ舞う晴山はその速度に抵抗できずにそのまま山の方へ飛んでいった。私たちは晴山の後を追おうとしたが、黒い鎧が私たちを思い切り蹴り飛ばし、そのまま跳躍する。飛ばした晴山へ追いつくと晴山を再度つかみ、別方向へと投げるのを私は土煙の中から見ていた。
30:了
昔の話をしよう。昔と言ってもたった1、2年前の昔だ──────
2017年某日17歳にしては背が高くガタイが良い少年(少女の私が少年というのものなんだが…)が窃盗で魔法術対策機関の本部に連行されてきた。魔法術対策機関に連行されたということは魔法や魔術を使用し、窃盗を行ったということだ。少年は取調室でかれこれ数時間も無言でうつむいている。誰がどんな対応をしようが、彼はうつむいたまましゃべらない。再度、琉聖さんが彼の目の前に座る。
「さて…いつまでもだんまりだと何も進まないよ?」
少年はそれでもうつむきだんまりを通す。日付が変わる時間帯になり、少年はやっと口を開いた。
「金がなかっただけだ。」
琉聖さんは微笑みながら少し安心した様子でうなずきメモを取る。
「そうだったんだね……良ければ、他にも色々聞かせてくれないか?」
少年は顔を上げて、初めて琉聖さんと目を合わせる。少し不安そうな顔をすると恐る恐る話し始める。名前、獅子王玲央17歳。中学を卒業後、高校に行くお金がないので日々をバイトでつないでいること。仕事に行かず昼間から飲んだくれで酒癖の悪い父と二人暮らしで家で暴力を受けていること。バイトで稼いだお金を勝手に使われること。暴力の延長で盗みをさせられていること。最初は警察にも相談したが相手にされなかったこと。その他いろいろと話してくれた。
「そうか、大変だったね…でも大丈夫!僕らのところに来たからにはもう君は苦しまなくていい。」
そこからの話は早かった。まずは窃盗の件、罪を償うため裁判を起こす。そこから、父親の問題、家庭環境を加味し特例中の特例で無罪。裁判官も警察も検察も、弁護士もこれには全面的に彼へ同情した。少年は法廷を出る際に深々と礼をして出ていった。そして、父親の件、これは私たちが介入して解決した。父親は重度のアルコール依存症、ギャンブル依存症で精神病院に入院。玲央は17歳というのもあり一人暮らしが決定し、高校卒業証明書をとるため私たちの本部で教育を受けることになる。
「さて、こんなもんかな?これで後は卒業証明書が取得できれば、僕らはお役御免だね。」
「ありがとう……ございます……」
「いいって、僕らの役目は町の人を守ることだからね。これもその一環さ。」
それから、私たちと共に授業を受けつつ彼自身もどこか明るくなっていった。
「ふん、これくらいもわからんのか?貴様はやはり低能だな?」
「君はまたそんないい方をして……いつか後悔するぞ?態度を改めろ。」
フンと鼻を鳴らし玲央はそっぽを向く。そんな様子を教師役の琉聖さんは微笑みながら見てくる。あんなに弱っていたとは思えないほど明るく正直、前の方がよかった。というものの、これが彼の本来の性格なのだろうな。そんなこんなで一年が過ぎ、玲央が18歳になった頃、その日玲央は真剣なまなざしで琉聖さんへ近づいて行った。何かを相談していたのを見かけ、次の日、その相談内容が明らかになった。
「今日から、玲央君は魔法術対策機関 初の「協力者」としてくれることになりました!」
「ふん。貴様らの手伝いをしてやろう……」
偉そうな態度は変わらず、ただ、そんな態度でも私たちは彼と共に任務ができるのがうれしかった。訓練から参加することになった玲央は最初こそ苦しそうにしていたが持ち前のセンスと才能ですぐに実力を上げていった。任務にも同行してくれて、魔法も魔術も私たちと同等に実力があった。男嫌いの夢希も彼の実力は認めており、触りはしないが彼のことは信頼していた。凪も水らしく玲央に興味を示し、時々一緒にゲームをしてたのを見る。琉聖さんも彼にはいろいろ魔法を教えており、かなり信頼していた。そんな玲央を私はもちろん信頼していた。二班の面々や三班の二名に聞いても彼のことは信頼していたと話に聞いた。皆が玲央をほめるのを私は嬉しく思っていた。
私は、嬉しかったんだよ。玲央。
そして、運命の日──────
その日の任務は連続殺人犯の魔族を追い詰めていた時のことだった。殺人犯はトカゲの魔族でそのしなやかな身体を生かして様々なところに入り込みターゲットを殺していた。目撃情報があった周辺にて当人を見つけ稼働中の工場へ追い詰めていった。
これが、間違いだった。
殺人犯を追い詰めた私たちは犯人を取り囲む。余裕そうな表情の犯人はナイフを取り出す。
「観念しろ。」
「ケッ!捕まえられるもんなら捕まえてみろ!」
背に視線を向けると、プロパンガスのホースを切る。高圧ガスのガスでように目くらましをしようとしたのか、次々にガスのホースを切るが、高圧ガスではないのでただただ独特の匂いがその辺に充満するだけだった。焦り始めた犯人はそのまま逃げようと後ずさる。
「待て!」
犯人はそのまま逃げようとドアをひねるが、施錠されているドアはもちろん開かない。焦る犯人に玲央は話しかける。
「おい、お前。これ以上罪を重ねるな。」
「何だてめぇ……」
玲央は私たちへ出ていくように合図する。正直、ここで私たちが部屋から出て行って外で待機しておけばよかったんだと今でも思い出す。
「なめるな。お前より私たちの方が先輩だ。出て行かんぞ。」
「阿呆。ガスが充満しているこの部屋で火花を立てるだけで死ぬんだぞ。夢希と凪を連れて出ていろ。」
「何をボソボソとくっちゃべってんだ!!」
犯人はナイフを振り回し始める。私たちはそのナイフを振るを止めようと迫ったが、犯人の手は止まらず、手は止まらずにそのナイフは思い切り、近くの機械へ当たってしまう。その瞬間、小さな火花が飛び散った。玲央はその火花を目に映すと瞬時に私と夢希、凪を集め、覆い被さる。そして、私たち三人に聞こえるように耳にささやき、立ち上がる。
「俺は、犯人を助けに行く。」
「玲央!」
その一言が彼の最後の言葉になった。彼が振り向くと同時に私たち三人に爆発が襲い掛かった。
「ハイドロガード!!」
私は手遅れだったが、二人をかばいながら魔法で爆発を軽減する。爆発は長くて数分続いた。爆発が終わると、その場にいた私たちは脱力する。燃え盛る半壊した工場にそこにいたであろう玲央と犯人の黒く焦げた跡があったのだ。死体はなかった……いや、死体ごと消し飛んだといった方が正確だろう。私は涙をこらえ、すぐに琉聖さんへ通信をつなげた。
玲央、私はね、嬉しかったんだよ。
盗みをしていた君が人のために手を差し伸べる姿に、そして、時には殺人犯の命も守ろうとする君のその姿が嬉しかったんだよ。
なのに…一体君に何があったんだ……
白き狼の鎧を纏った晴山優吾の顔は歪み吹き飛ぶ。こちらへ転がってきた晴山の顔は鎧が砕けて顔面が露出している状態になっている。
「晴山!!」
「こいつ痛てぇ……てか、一撃で鎧が砕けるのなんで初めてだ。」
「あまり無理はするな。」
晴山は立ち上がり手出しはナンセンスと言わんばかりに背を向ける。
「おい……」
「彩虹寺……お前、いろんな魔法使えるか?」
「どういうことだ?」
「基本属性は全部使えるかって聞いてんだ……この姿じゃ勝てねぇ。」
私は露出する目を見ながら、縦に首を振る。晴山は私の頷きを見ると、口角を上げて、足を踏ん張った。そして、跳躍する前に私に作戦を伝える。
「俺が合図をしたら、炎、水、風の順番に適当な魔法を撃て、俺はそれを吸収して姿を変える。んじゃ、頼んだぜ。」
「わかった……」
晴山は跳躍し、黒い鎧へ殴り掛かる。黒い鎧はその拳を受け止め投げ飛ばす。真上に飛んだ晴山は大声で合図をした。
「今だ!一発目、撃て!」
私は手を構え、晴山へ狙いを定める。
「一光:ファイヤーボール!」
晴山はそのまま私の魔法を正面に構える。
「吸収!!炎化魔装!!」
炎に包まれ晴山は拳を突き立てながら落下する。赤い鎧を纏った晴山は落下の速度を生かし黒い鎧へその拳をぶつける。
「このまま……炸裂しろ!!紅!!!」
拳は赤く光りそのまま受け止めている黒い鎧の腕で爆発する。爆発から出てきた晴山は煙の先を見る。黒い鎧は煙から出てくるが、ダメージを受けている様子はない。晴山は再び足に力を込めて一歩を踏み出すが、その一歩を踏み出そうとした瞬間、黒い鎧はすぐに晴山の間合いに入りこみ拳を繰り出す。その瞬間、晴山からまた合図が入る。
「二発目、撃ってこい!!」
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晴山は迫るアクアボールを目にすると黒い鎧の拳を無視して自らアクアボールを受け止めに動く。黒い鎧の拳を躱しながら、晴山はまた姿を変える。
「水化魔装!!」
黒い鎧に背中を向けながら息を整えていると、黒い鎧はそれを隙と見たのか間合いを詰めまた拳を繰り出すが、晴山はその攻撃を武術のように避ける。そのまま、黒い鎧の手を掴み、思い切り引っ張ると肩で打撃を与える。ひるんだ黒い鎧へ晴山はゆっくりと近寄り、掌底の構えをする。
「これで……流!!!」
掌底が鳩尾へ入ると、晴山はその掌底を黒い鎧へ押し当て手のひらに溜った水の魔力を細く放出する。だが、黒い鎧はその掌底を受け止めており一番細く放出される前に晴山の手のひらを上へと向けて回避する。
「こいつ……」
止まった戦況に琉聖さん、夢希、凪が参戦する。
「優吾君!避けろ!」
琉聖さんの掛け声で、凪は黒い鎧の影を縛り、操る。晴山の手を離させて晴山はその場からどき、準備していた琉聖さんと夢希が一斉に魔法を放つ。
「蠍の一突き!!!!」
「氷造形:M21氷地……魔弾射出!!!」
投擲された槍は赤く輝き、放たれた弾丸は白い一本線を描く。黒い鎧はその遠距離攻撃を真とも受けその場には煙が上がる。黒鎧は煙を振り払い、前を向くと晴山が追撃を入れようと足へ力を込めて私へ合図を出した。
「ラスト三発目、来い!!!」
「一光:ウィンドボール!!」
「吸収……風化魔装!」
そのまま前へ走り、跳躍し飛び蹴りの姿勢になる。
「翠!!!!!」
目にも止まらぬ速さで晴山は黒い鎧へ突っ込む。黒い鎧はその蹴りを受け止める。
「これでも、ダメなのかよ……」
晴山を受け止める黒い鎧は全くの隙だらけだ。私は琉聖さんや夢希、凪へ視線を送り、魔法をうつ準備をする。
「三光:フレイム!!!」
「射手の矢……射手、流星打ち!!!」
「氷造形:M21氷地……魔弾射出!!!」
「影縛り:強縛」
凪の放った影は黒い鎧の影を固定し、そのまま私たちの撃った魔法は黒い鎧へ命中する。だが、黒い鎧はなおも晴山を受け止めている。黒い鎧はそのまま、晴山を思い切り投げた。
宙へ舞う晴山はその速度に抵抗できずにそのまま山の方へ飛んでいった。私たちは晴山の後を追おうとしたが、黒い鎧が私たちを思い切り蹴り飛ばし、そのまま跳躍する。飛ばした晴山へ追いつくと晴山を再度つかみ、別方向へと投げるのを私は土煙の中から見ていた。
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