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48:誰為
しおりを挟む大神の本拠地の廊下を歩いている黒影は大きな音と衝撃に驚愕し急いで音の源へと走った。足を止めると、黒家の前の前に直径約3メートルほどの穴が現れる。廊下が崩れ去りガス管から白いガスが噴出している。下を覗き込むと打撃音とうっすらと声が聞こえてきていた。耳をすませば晴山優吾とギンロ=シルヴァスの声が聞こえてくる。
「この下にいるのか…」
黒影が下へ降りようとしたが、何者かが上から襲撃してくる。黒影は殺気に反応しその不意打ちを避ける。何者かと目を向けるとボロボロのエファがそこにいた。エファは首を回したりストレッチをして黒影をにらみつける。
「エファ=レント=グレイだね?」
エファは首を傾げ、自分の名前を知っている初対面のはずの黒影の正体を探ろうと観察する。ゾウ魔族特有の魔力の匂いを感じ取る嗅覚と人物自体の匂いをかぎ分ける。エファはその匂いに覚えがあるが、視覚情報のせいでその情報が余計なものになる。
「どこかで嗅いだことのある匂いだ。だが、詰まって出てこない。誰だ?貴様。」
黒影は一瞬焦るが、誰だという言葉を聞いて内心胸を撫でおろしながら右腕を構える。
「思い出せないのなら結構。僕は早急に決着をつける。いいね?」
「こい。力の賢者の怪力でねじ伏せる。」
狭い廊下で先手を打ったのは黒影の方だった。右腕を構えて紫の石の枝を伸ばしエファへ突き刺そうと伸ばすが、エファはその攻撃を受け入れようと胸を張り迎え撃つ。黒影の石の枝がエファの胸に当たるとそのまま折れる。黒影はその様子を見てすぐにバックステップで距離を取ろうとしたが、エファがその長い鼻を黒影の腰へ巻いて黒影の逃走を許さなかった。エファはそのまま拳を固め魔力を溜めてすぐに黒影へ撃ち込んだ。
「力の力による力の為の力……」
エファの魔法が黒影の全身を震わせる。黒影はエファの拘束から解放されると膝をつく。衝撃と音のせいで黒影の五感は数秒失われる。動けない黒影にエファは追撃の魔法を撃ちこむ。
「岩石破壊拳。」
黒影ははっきりしない頭でエファの次の行動を予想してぼやけた視界でエファの動きを見て、震える右腕で魔法を発動させる。
「紫陽花」
かざした右腕に紫の輝きを放つ宝石のような紫陽花が咲くと、エファの魔法を受け止めて衝撃を感じ取った黒影はそのままカウンターの魔法を撃つ。
「紫の茨」
エファの拳が触れている右手の紫陽花が拳と衝撃に反応してその姿を茨へと変えてエファへ伸びる。拳を打ち出したエファはその拳を放そうとするが、紫の茨はなおもエファへ伸び全身を突き刺す。エファはその痛さにたまらず崩れた廊下の反対側まで逃げる。黒影は五感が戻り、震えながらも持ち直しエファを見る。
「どうやらうまく決まったみたいだね。」
「くっ……その右手、ただの義手じゃないな。」
エファが魔法弾で黒影を撃ち黒影のローブを布切れに変える。仮面だけが残った黒影の体をみてエファは目を見開く。肩から指先が全て紫色の魔石になっている黒影は先ほど使った紫の茨の残骸を手で折りそこらへんに捨てる。
「そうさ。これはただの義手じゃない。君ら、銀色の使徒に襲撃されたときに失い、落ちた古代遺跡で手に入れた僕だけの腕。」
エファは匂いと魔力の感じで思い出す。黒影の正体に。
「き、貴様まさか……」
黒影はエファを睨み仮面を外して見せた。
────────────
アリ魔族たちの猛攻に防戦一臂だった魔法術対策機関は応援によってその形成を見事に逆転している。星々と夢希、焔の三人はその身のこなしと兄妹特有の連携で湧き出てくるアリ魔族のほとんどを殲滅していた。
「蠍の一突き!!」
赫い一閃がアリ魔族たちの大群をボウリングのピンのように吹き飛ばし、それを夢希が打ち抜く。地上に残るアリ魔族たちは焔が一人で処理をする。一通り処理が終わると、星々が最後の仕上げをする。
「さて、仕上げだ。」
夢希と焔は星々にくっつきそれを確認すると星々は巨大な魔法陣を展開する。
「星に願いを、月に祈りを、太陽に信仰を……星流式魔法術太陽爆球!!!」
強大な太陽のような球体を手に持ち、星々はアリ魔族たちにめがけてその太陽球を落とす。大きな音と共にその場から星々たちを中心に直径25メートルの焼け野原ができる。森林も燃え、地面は黒抉れていた。数分風の音と共に三人は周囲を警戒し、アリ魔族が出てこないのを確認すると安堵しながら肩の力を抜いた。
「ふぅ…おーわり……じゃないな……優吾君の応援に行こうか。」
「お兄様と凪ちゃんは入口で待機です。」
「え?おにぃは分かるけど、なんでボクまで……」
「お兄様は怪我、凪ちゃんはもう魔力つきそうですよね?」
歩きながら二人は少々不満そうな視線を夢希へ向けるが、夢希はそんなのお構いなしに進む
「いいですね?待機ですよ?」
「「は~い」」
二人が不満そうに声を出すと夢希は二人の様子を気にしながら入口へ向かった。
第一班と逆方向、二班の戦場では、陸丸が術式を書き終わり札を貼り終わり、元の位置へ戻ってくる。体力がない陸丸は肩で息をしながら汗を拭う。その様子にアリ魔族を全部絡めとった班長 天々望 四夜華はにやにやしながら近づいてくる。
「あれあれ~?こんだけの距離走って体力なくなってる魔術師がいるってマジ~!?それって、訓練サボってるんじゃないんですか~?」
「う、うる、うるせッ……!ったく……ふぅ……よし、詠唱するんで俺の近くにいる人は俺に近寄ってね~」
陸丸はかがんで地面に手をかざし、高速詠唱を始める。
天へ見えるは、星屑。──────
見渡す海には黒鉄の城。──────
ここに満たされるは、我が命。──────
陽の日を受ける者、陰を知らず。──────
歌は響き、──────
最初に貼りつけた魔術式札が光始める。
運命と共に崩れるそれを、──────
大地に白銀の山、──────
そこに満たされるは、誰が命。──────
月の冷たさを受ける者、陽を知らず。──────
唄は届き、──────
次に張った札が光る。
我は──────
昼に星、夜に太陽──────
蒼天と深海に満たされたのは──────
されど、陰と陽は混ざり、──────
詩は刻まれ、──────
三枚目
屑崩と呼ぶ──────
その幻想の現象を奇跡と称する。───────────
運命──────
陰陽の理となる。──────
読は心染みわたる。
四枚目
「屑崩の札、奇跡の札、運命の札、陰陽の札、読の札、五重の札五色の札、混ざり合い、絡み合い、殺し合い、生かし合い、その形を我が元へ具現し、顕現し、発現し、出現し、現れ、現われよ。」
──────台地式 多重高速 混術詠唱
──────五重厄災
陸丸が走った位置を上から見ると正確無比な五角形を描き、詠唱と同時に五角形の対角線は繋がり見事な五芒星を描く。屑崩の札で周囲の物質をもろくし、奇跡の札で確実に周辺を巻き込み、運命の札で100%の確実の確率を上げる、陰陽の札で対象の全ての動きを止め、仕上げの 読の札の札で止まった対象を全て壊す。五重に魔術を発動させると、まさに厄災の如くその場のすべてが死に至る。目の前にいたアリ魔族と森林は跡形もなく消え去った。高速詠唱と走った疲労で陸丸はその場に膝をつき眩暈のする視界で大きく息を吐いた。
「せ、成功……」
「よくやった。陸丸。お姉さんがチッスしちゃう。」
「や、やめろ、気持ち悪い。」
「おや~?照れなくてもいいのに~」
「やめろ、触るな、触れるな、近づくな!」
初風がけんけんで近寄ってきて、二班の皆で陸丸を介抱した。
そして、入口にいる彩虹寺と三班はすでに戦闘を終えていた。戦闘の概要はほぼ、一心が暴れて彩虹寺と朱晴の二人は手出しできず終わりといったところだった。
「はんちょーズルいっス!!」
「は!儂より早く動かなかったお前らの落ち度だ。」
「でも、まぁ助かりました。」
彩虹寺が一心にお礼を言っていると後ろから海辺の声がした。
「それは、晴山さんがこの穴から戻ってきてからだね。」
集まった魔法術対策機関の面々が大神の本拠地の入口へ目を向ける。
「さて、動けるメンバーはこの中、入りましょう。二班は僕だけですね。」
「一班は、夢希ちゃんと私だな。」
「三班はどっちも行ける。」
動けるメンバーはそのまま本拠地の中へと入っていった。
────────────
本拠地地下。打撃音だけがそこに響き、笑い声と怒号が聞こえる。
「さぁ、どうした、晴山優吾、僕を倒すんだろ?」
「いや?俺はお前を確保しに来たんだよ……」
「そうかい、僕は君から石を奪って大神を殺し、そして裏切り者を殺して僕がこの世界を魔族だけのものにする。」
「そんなこと……させるかよ……!」
打撃音と笑い声と怒号が再度地下に響き渡っていた。
48:了
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