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2/38:沈黙
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その日は異様な吹雪が町を襲っていた。私は空腹に耐えかねてとうとうゴミ屋敷から勇気を出して外へと出た。外に出た瞬間、四肢の末端から冷えが襲ってくるのを感じながら私は貯金箱から出したなけなしのお金を握りしめて街灯のともる住宅街を歩く。ただひたすらに自分の家の位置もわからなくなるまでまっすぐにただただ歩く。歩き始めて数時間。足の感覚が消え去ったところで突如、熱気が全身を包み込む。感覚が戻ってきたその時には私は火の海を歩いていた。一帯に響く爆発音に私はそれでも空腹をどうにかしてなくそうとまっすぐに歩く。そして、とうとう、住宅街を抜けて何もないところへ出る。火の海から銀世界へ変わると私は足を踏み外して銀世界を転がり落ちた。
どれだけ時間が経っただろうか。
私は死ねただろうか。
私は母のもとへと向かっているのだろうか。
だけど、意識がいつまでたってもなくならない。
眠たいはずなのに。
先ほどの熱気とは違い優しい熱で私は目を覚ます。
先ほどの爆発音とは違う優しい日の音で完全に意識が覚醒する。
「おう、起きたか嬢ちゃん。」
暗がりの中、声の方向へ目を向けるとそこには赤黒い髪の毛のひげ面の男が座っていた。私の何倍も長い手足を折りたたむようにして胡坐をかき、壁を背もたれにするようにゆったりと座っている。大の男嫌いの私はその男と目が合うと思わず睨み返してしまい、男は少し困ったような顔で口を開いた。
「悪いな。しかし、お前をあのまま放置して置けば死んでいた。死ぬつもりだったなら謝ろう。」
私は無言でそのまま入口に近いところで座りなおす。数分の沈黙の後、男の陰から小さな影が顔を見せる。男と似たような目つきに黒い短髪の私と同年くらいの女の子が出てきた。女の子は無言で私のことを見つめる。
「凪、あの子は今緊張している。遊べないぞ。」
「…りょ。」
凪と呼ばれた彼女はすぐに男の陰に戻り私に背を向けて何か手元で操作する。カチャカチャと手元で音が出るので私は少しそれが気になって男に近づき凪の手元をのぞく。ブロックを積み上げて消してスコアを競うゲームをやっているようだった。
「気になるか?」
男の声に私は驚いてしまい、再び距離を空ける。数時間が経ったが男はここを絶対に動こうとしない。見たところ食料も何か連絡を取る手段もないようだが、どうするつもりなのだろうか。その時、私のそばにドカリと誰かが入ってくる。非常に驚いた私は思わず男へ飛びついてしまう。しかし、男は慌てるでも警戒するでもなく安心したように口を開く。
「よう、やっと来たかい。琉聖坊や。」
無表情というより少し不機嫌そうな顔の私よりも年上だが、少年という言葉が似あう男が入ってくる。白い息を吐き、防寒具をある程度外して荷物をその辺に投げ捨てる。
「まだ、死んでませんでしたか。安心しました。」
男性に近づき私と凪を丁寧によけるとライトで男性の全身を明るく照らす。焚火の明るさだとわからなかったが、男性は足が一本なかった。背中も切り傷だらけで大量に血を流している。私はそれに気づき自分の手を見ると男性の血がべっとりとついていた。思わず声が出そうになるが、少年がその血をふき取り男性の治療を再開する。
「それで、この子たちは?」
「一人はオレの子供で、もう一人はさっき救助した。」
「はぁ……なんでもっと早く逃げなかったんですか……子供なんて見捨てていたこんな…」
少年は男性の傷に涙を落としつつ治療を再開する。しかし、血は止まらない。巻いても巻いても布は赤く染まり治療の意味をなさない。
「おいおい、男の子がないちゃあいけねぇよ?」
「でも…」
「まぁ、俺のことは一旦おいておけ。まずは要救助者二名の保護からだ。ほれ、いけ。」
男性は少年を突き飛ばすと少年は涙を拭き、防寒具を着て持ってきた新しい防寒具を私と凪へ着せて抱える。そして、洞窟を出た。
「そうだ。坊や。帰ったら班長に伝えておいてくれ!」
「何をです!」
「オレの墓には、「酒」を持ってこいってな!!」
大声で叫ぶと今までいた洞窟は雪の重さで簡単につぶれて白く染まった。それを見ていた琉聖は膝をついてそれでも私と凪を抱えて迫ってきた雪崩から守るように丸まってそのまま雪崩の流れに身を任せて雪と一緒に転がっていった。
───────────────────
「……ちゃん!夢希ちゃん!!」
夢から覚めた私は目を覚ます。照りつけるような日光に私は起き上がる。彼女はどうなったのかと言っても私がこの状態ということは彼女はすでに…それよりも
「なんで、お兄様たちがここに……」
「いや、一緒に任務に来てたでしょ。」
「いや、そういうわけではなく……あのあとどうやってここまで来たんですか。」
「限界突破を使ったでしょ?魔力があふれていた。」
「あ……」
息を漏らすと凪ちゃんが無言で抱きついてくる。鼻をすするとこが聞こえてくる。私は何も言えないまま凪ちゃんを撫でてそして、立ち上がる。あたりを見渡すと季節外れの雪はすっかりとなくなり、あの建造物もなくなっていた。
「そういえば…あの方は……」
「夢希ちゃんと戦ったであろうあの人のこと?」
お兄様が指さす方向には白い彼女を治療する彩虹寺さんが目に映る。
「私、殺してなかったんですね……」
「そうだね。多分どこかで理性が働いたのかもね……さて、それはそれとして…優吾くんたちのもとへ行こうか。」
「なぜ突然。」
「そうだな…今回の原因がそこにあるからかな?まぁ町も戻ったんだし、あとは医療班に任せて僕らは行こう。」
私たちはそのまま忌まわしき思い出の町を出て晴山優吾のもとへ向かった。町の人々は何があったのかもわからなかったのであろうのんきに笑顔で散歩をして歩いている。私は沈黙したまま凪ちゃんに肩を貸しながら歩いた。
2/38:沈黙
どれだけ時間が経っただろうか。
私は死ねただろうか。
私は母のもとへと向かっているのだろうか。
だけど、意識がいつまでたってもなくならない。
眠たいはずなのに。
先ほどの熱気とは違い優しい熱で私は目を覚ます。
先ほどの爆発音とは違う優しい日の音で完全に意識が覚醒する。
「おう、起きたか嬢ちゃん。」
暗がりの中、声の方向へ目を向けるとそこには赤黒い髪の毛のひげ面の男が座っていた。私の何倍も長い手足を折りたたむようにして胡坐をかき、壁を背もたれにするようにゆったりと座っている。大の男嫌いの私はその男と目が合うと思わず睨み返してしまい、男は少し困ったような顔で口を開いた。
「悪いな。しかし、お前をあのまま放置して置けば死んでいた。死ぬつもりだったなら謝ろう。」
私は無言でそのまま入口に近いところで座りなおす。数分の沈黙の後、男の陰から小さな影が顔を見せる。男と似たような目つきに黒い短髪の私と同年くらいの女の子が出てきた。女の子は無言で私のことを見つめる。
「凪、あの子は今緊張している。遊べないぞ。」
「…りょ。」
凪と呼ばれた彼女はすぐに男の陰に戻り私に背を向けて何か手元で操作する。カチャカチャと手元で音が出るので私は少しそれが気になって男に近づき凪の手元をのぞく。ブロックを積み上げて消してスコアを競うゲームをやっているようだった。
「気になるか?」
男の声に私は驚いてしまい、再び距離を空ける。数時間が経ったが男はここを絶対に動こうとしない。見たところ食料も何か連絡を取る手段もないようだが、どうするつもりなのだろうか。その時、私のそばにドカリと誰かが入ってくる。非常に驚いた私は思わず男へ飛びついてしまう。しかし、男は慌てるでも警戒するでもなく安心したように口を開く。
「よう、やっと来たかい。琉聖坊や。」
無表情というより少し不機嫌そうな顔の私よりも年上だが、少年という言葉が似あう男が入ってくる。白い息を吐き、防寒具をある程度外して荷物をその辺に投げ捨てる。
「まだ、死んでませんでしたか。安心しました。」
男性に近づき私と凪を丁寧によけるとライトで男性の全身を明るく照らす。焚火の明るさだとわからなかったが、男性は足が一本なかった。背中も切り傷だらけで大量に血を流している。私はそれに気づき自分の手を見ると男性の血がべっとりとついていた。思わず声が出そうになるが、少年がその血をふき取り男性の治療を再開する。
「それで、この子たちは?」
「一人はオレの子供で、もう一人はさっき救助した。」
「はぁ……なんでもっと早く逃げなかったんですか……子供なんて見捨てていたこんな…」
少年は男性の傷に涙を落としつつ治療を再開する。しかし、血は止まらない。巻いても巻いても布は赤く染まり治療の意味をなさない。
「おいおい、男の子がないちゃあいけねぇよ?」
「でも…」
「まぁ、俺のことは一旦おいておけ。まずは要救助者二名の保護からだ。ほれ、いけ。」
男性は少年を突き飛ばすと少年は涙を拭き、防寒具を着て持ってきた新しい防寒具を私と凪へ着せて抱える。そして、洞窟を出た。
「そうだ。坊や。帰ったら班長に伝えておいてくれ!」
「何をです!」
「オレの墓には、「酒」を持ってこいってな!!」
大声で叫ぶと今までいた洞窟は雪の重さで簡単につぶれて白く染まった。それを見ていた琉聖は膝をついてそれでも私と凪を抱えて迫ってきた雪崩から守るように丸まってそのまま雪崩の流れに身を任せて雪と一緒に転がっていった。
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「……ちゃん!夢希ちゃん!!」
夢から覚めた私は目を覚ます。照りつけるような日光に私は起き上がる。彼女はどうなったのかと言っても私がこの状態ということは彼女はすでに…それよりも
「なんで、お兄様たちがここに……」
「いや、一緒に任務に来てたでしょ。」
「いや、そういうわけではなく……あのあとどうやってここまで来たんですか。」
「限界突破を使ったでしょ?魔力があふれていた。」
「あ……」
息を漏らすと凪ちゃんが無言で抱きついてくる。鼻をすするとこが聞こえてくる。私は何も言えないまま凪ちゃんを撫でてそして、立ち上がる。あたりを見渡すと季節外れの雪はすっかりとなくなり、あの建造物もなくなっていた。
「そういえば…あの方は……」
「夢希ちゃんと戦ったであろうあの人のこと?」
お兄様が指さす方向には白い彼女を治療する彩虹寺さんが目に映る。
「私、殺してなかったんですね……」
「そうだね。多分どこかで理性が働いたのかもね……さて、それはそれとして…優吾くんたちのもとへ行こうか。」
「なぜ突然。」
「そうだな…今回の原因がそこにあるからかな?まぁ町も戻ったんだし、あとは医療班に任せて僕らは行こう。」
私たちはそのまま忌まわしき思い出の町を出て晴山優吾のもとへ向かった。町の人々は何があったのかもわからなかったのであろうのんきに笑顔で散歩をして歩いている。私は沈黙したまま凪ちゃんに肩を貸しながら歩いた。
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