魔装戦士

河鹿 虫圭

文字の大きさ
92 / 98

2/43:抜けた

しおりを挟む
晴山優吾は石の中で目を覚ます。目の前には、各属性の大魔導師、雷の妖精、ギンロ=シルヴァス、フィジオが立っていた。

「なんか、この光景はちょっと面白いな。」

のんきなことを言い放つ優吾に無の大魔導師のロゼは頭を抱えている。

「主。そんなのんきなことを言っている場合ではありませんよ?」

「どういうこと?」

「どうもこうもありませんよ。主、あなたは今大変な状況に置かれているのです。理解してもらいたい。」

優吾が首をかしげるとあきれたアレイスターがロゼを押しのけて出てくる。そして、優吾へ近づくと右腕を吹き飛ばす。飛び散る鮮血に優吾は目を見開き、慌てて切り飛ばされた自分の腕を手に取ってアレイスターをにらみつける。

「なにすんだよ!」

「よく見ろ、すでに腕は再生している。」

飛び散った腕を拾ってくっつけようと右に伸ばすとそこにはきれいに整った腕が生えている。しかし、優吾は得意げににやついて口を開く。

「いや、これはこの空間が特殊でこうなっているだけだろ?」

「何を言っているのだ。この空間は文字通り石の中……その体は貴様の精神とか意識とかそういうものではないぞ?龍の時にそれはわかっているだろう?」

優吾は身体が固まる。そして、握っている自分の腕を見て顔がだんだんとこわばって青ざめていく。やっと状況を理解した優吾に石の中の者たちは頭を抱える。

「え、これって、もしかして……」

「はい、魔族化です。もちろん、そこにいる銀狼の王が原因です。しかしながら、契約魔術でここまで魔族化が進んだ事象はこれが初めてです。何か心当たりはありませんか?」

「そういわれてもな……記憶が抜けている部分があるからなぁ……」

その言葉にアレイスターは何かを思い出したように自分の魔導書を取り出して、あるページを開く。

「貴様の記憶の一部、我が持っているぞ。」

そのページをちぎって優吾へ投げつける。それを受け取って隅々まで目を通す。

契約者

晴山 春香

上記の者は契約魔術の契約者である。この者の魔力と引き換えに下記の者の記憶をこの頁に封印する。

晴山 優吾

五歳の時のこの魔導書を開いたときの記憶を封印する。

「なんだよこれ……」

「それを頭につけろ。それで記憶が戻る。」

優吾は持っている紙を恐る恐る額に当てた。

───────────────────

晴山 優吾 。考古学者の父と元魔法術対策機関所属の母を持つ子供である。知能、性別、顔は父譲り、魔力回路、魔力量、身体能力は母譲りととてもバランスがいい感じの配分で生まれてきた。父に似て本を読むのが小さいころからの趣味で幼稚園でも絵本ではなく、父の本棚から持ち出した学書を持って行って一日中読んでいるような子だ。

「優吾ぉ…?勝手に書斎に入ったダメって言ったでしょ?」

「えぇ~でももう、部屋にある本はほとんど読み終わったし……」

「はぁ……後で買い物に行くからそこで何か好きな本一冊買ってあげる。」

春香はそう言って書斎から出るように促す。そんな時、優吾の目に一冊の本が目に入ってしまった。黒い無地の背表紙の本。優吾はその吸い込まれるような黒に目を奪われていた。

そして、それは突然起きる。

いつも通りに家事をしていたらまた書斎から優吾の足音が聞こえてきてまたかと思い注意しに書斎へ入ると眼前の光景に春香は目を見開いた。

広げられた魔導書からアレイスターが出ており、その傍には全身から血が噴き出して倒れている優吾が転がっていた。春香はすぐにアレイスターへ手を構える。アレイスターはそれに困惑しながら口を開く。

「何か勘違いしているから口を開くが、我がここにいるのは、そこに転がっているガキがそこの魔導書を開いたからだ。そして、我はここに出て害を与えようとは全く思っていない。むしろ、もっと本の中にいたかった……それよりも、だ。そこのガキ、早くしないと死ぬぞ。」

「勝手に口を開いて何をくっちゃべるかと思えば……ほざけ。殺す。」

「はぁ……この魔力の感じ、貴様家系に魔族がいるな……いや、そんなことはどうでもいい……貴様の息子。死ぬぞ?どうする。」

春香は、目に涙を溜めながら優吾を持ち上げ止血ができないか調べるが、内側から突き破られているためすでに失血死寸前の状態である。春香は優吾を抱き寄せたままアレイスターへ視線を向ける。

「どうすればいい…?」

「選択肢は二つある。一つ目。お前の魔力を糧にこの子を救う。その場合、お前はこの場ですぐに死ぬ。二つ目。俺とお前の間に契約を持つ。この場合代償はお前が自由に決める。それによってはこの場の誰もが命を落とさない可能性もある。さぁ、どうする?」

春香は、優吾を抱えたままアレイスターへ口を開いた。

2/43:抜けた
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...