勇者一行が魔王の財宝に目が眩んだ結果

雨模 様

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ドワーフ

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 商業区の中心部、雑多な商店が軒を連ねている表通りの、洒落た佇まいの装飾品店アクセサリーショップにやって来た。
 横に長い店内には陳列棚が左右に並べてられ、その中に数々の装飾品アクセサリーが飾られている。
 首飾りペンダント首輪チョーカー指輪リング腕輪バングル耳飾りピアス髪飾りカチューシャ……。
 どれもこれもキラキラ光る宝石が飾られていてとても綺麗で可愛らしい。

 つい目移りしそうになるけど、とりあえず今わたしが欲しいものはペンダントだ。 
 お金には全然困ってないけど、売れるもを作りたい。
 お店を開いてもお客が一人も来ないとか寂しいしね。
 だったら原価を安くしなくちゃいけない。
 だけど魔導具である以上、ミスリル製であることは必須だ。
 それなのに、ミスリル製のネックレスが見当たらない。

「あの、ミスリル製のネックレスって置いてないの?」

 わたしは店の人に尋ねた。
 だけど扱っていないと言われた。
 ミスリルは希少金属レアメタルで加工も難しいらしい。なによりすごく高価なので普通のアクセサリーショップでは扱ってないそうだ。
 
 困った、どうしよう……、だったら作るしかないのかな。
 もちろん自分では作れないので作れる人を探す。
 わたしは大通りを歩く人たちに尋ねながら細工屋を探して回った。

 散々歩き回ってみてもミスリルの加工が出来るドワーフの細工師は見つけられなかった。
 だから、のみハンマーを買ったドワーフの鍛冶屋に訪れた。
 相変わらずビール樽の様なオヤジがいた。
 わたしは丸メガネをついと持ち上げて、そのドワーフに声をかけた。

「あの、ミスリル製のチャームを作って欲しいんだけど、そんな細工師知らない?」

 ドワーフのオヤジはギロッと胡乱な目を向けて、面倒臭そうに溜息を吐いた。
 相変わらず愛想もくそもないオヤジだ。
 だけど予想に反して思いがけない言葉を口にした。

「知らんことはない」
「えッ、ほんとに? 教えて!」

 わたしは期待を込めて聞いた。

「俺だ」
「は?」
「だから、俺は鍛冶師であり細工師でもある。で、どんな物を作って欲しいんだ?」

 ビール樽で髭もじゃオヤジのくせに細工まで出来るなんて、人は見かけによらないとはまさにこのことだろう。
 だけどドワーフの細工師が見つかったことにホッとする。

「作って欲しいのはペンダントにぶら下げるチャーム。ミスリル製で形は…………えっと」

 そこまで言ってデザインを全く考えていないことに気づく。
 だからありふれた形を口にする。

十字架クロス、うんクロスにする。大きさは……指先くらいかな」
「なんだそのお座成りは、製造依頼なら設計図くらい描いてこんか」
「ええ、そんなこと言わないでよ。わたし絵が下手だし。とりあえず試作品なの、細かい模様とか装飾はいらないし、首に吊るす紐もいらない。だからお願い!」

 わたしは手を合わせて頭を下げた。

「チッ、……まぁ作ってやらんこともないが、ミスリルは高いぞ。そんなものを作ってどうする?」
「えっと、前に言ったでしょ。わたし魔導具師なの。だからそれを使って魔導具というか、魔法の装飾品を作ろうと思ってるの」
「魔導具師? あぁそんなことを言っておったな。だったら魔石を組み込まんといかんだろ。まさか装着者の魔力を使う気か?」
「えっと、まだそこまで考えてなくて……」
「考えてないじゃと! そこは一番大事なところだぞ。お前は本当に魔導具師なのか? まさか似非じゃないだろうな?」
 
 似非って酷くない!? そりゃぁ、まだ新人のヒヨッコだけど、これでも立派な魔導具師を目指してるのに……。

「そもそもお前は魔石の重要性がわかっているのか?」
「そ、それって……絶対に必要なものなの?」
「馬鹿かお前はッ! 魔石なしでどうやって魔法を発動するんじゃ? 魔力あっての魔導具だろうが」
「う、それは、そ、そうだね…………あ、でも【魔力吸引】で大気から魔力を得ればいいんじゃない?」
「その【魔力吸引】の魔法はどうやって発動する?」
「あッ…………」
「そもそも大気に含まれる魔力はごく僅かじゃ。時間を掛ければ溜めることも出来るだろうが、そもそも【魔力吸引】は補助的な役目しか果たさん」

 うぅ、言い返す言葉が見つからない。

「まぁ、一応聞いてやるが、お前はどんな魔導具を作ろうとしとるんだ?」
「えっとね、魔導具っていうより魔装飾品?」
「だからどんな魔法を付与するつもりなんだと聴いている」
「それは【運気上昇】。付けている人の運気をアップさせるラッキーアイテム」
「フン、ありがちじゃな……。だがそのチャームを魔石なしで作ったらどうなると思う?」
「……あッ、もしかして魔力の元がないから効果が表れない?」
「まぁ刻むルーン次第だろうが、効果が表れないか、もしくは装着者の魔力を使うことになるだろうな」
「そ、それって……」
「そうだ、魔力の少ない人間ならじきに【魔力枯渇】になるだろうな。頭痛、眩暈、動悸、下手をすれば死ぬかもしれん」
「ええッ! それじゃラッキーアイテムどころか、まさに不幸の首飾りじゃん!」

 わたしはガックシと力を落とし項垂れた。
 まさか不幸の首飾りを作ろうとしていたとは……自分の愚かさにちょっと悲しくなった。

「まぁ乗りかかった船じゃ、魔石は俺が埋め込んでやるわ。場所は十字の真ん中でいいか?」
「え、ほんと? そうしてくれるとすごく助かる」
「それとペンダントにするなら吊紐つりひもを通す円環わっかが必要だろう、どうするつもりだ?」
「あ、そこまで考えてなかったよ」
「チッ! っとにどこまで世話やかすんじゃ……わかったそれも俺が適当に付けて置く」
「ありがとう、おじさん顔に似合わず親切だね」
「顔は関係ないだろがボケッ!」
「あははっ」

 そして三日後、注文していたミスリル製の十字架クロスが完成した。
 ミスリルの角柱が縦と横に交差した人差し指の爪くらいの小さな十字架で、頂点に吊紐を通す円環があって十字架の真ん中に赤い魔石が埋め込まれている。そして角が僅かに削られ綺麗に面取りもされている。だからちょっと柔らかみというか温かみを感じる出来になっている。
 さすがは細工師と名乗るだけあるなと、ちょっと見直した。
 
 わたしは髪をポニーテールに結わえ前掛けエプロンをして気合を入れた。
 作業台に小さな万力バイスを固定して、そこにミスリルの十字架を裏返してセットする。
 そして両手に先の細いのみハンマーを持つ。
 わたしはその両手に魔力を込めた。
 のみハンマーが青白いオーラに包まれる。

 わたしは十字架の裏、縦の柱部分にルーン文字を刻んでいく。
 ゆっくり慎重に、均一に歪みなく、一字一句間違わない様に。
 その作業に丸一日かかった。
 その魔法の効果は【運気向上】。

 さらに十時間以上かけて十字の左右の部分にもルーンを刻む。
 その魔法効果は【魔力吸引】。その対象は大気。
 魔力はこの世界のすべてのモノに宿っている。
 もちろん多寡たかはあるけれど。
 小さな魔石は含有する魔力も小さい。なのでそれを僅かでも補うための魔法だ。
 最後に竜革の吊紐を円環に通してそれは完成した。

 ……いや完成だけど、本当に運気があがっているのか試してみたい。
 それを実証するにはどうすればいいだろう……。
 そうだ、宿屋だ。あそこには賭場があった。
 運気を試すにはこれほど好都合な場所はないはずだ。

 わたしはペンダントを首に下げて宿屋――賭場に向かった。
 そこでコインフリップを一〇〇回くらい試したい。それで七割くらい勝てればそれなりの効果があったと思える。
 …………。
 結果、途中で相手が負けだ負けだと逃げ出した。
 戦績は二十四勝六敗という結果になった。
 勝率は八割。思った以上の効果だ。
 商品一号目完成でいいんじゃないだろうか。

 わたしは意気揚々と自分の店に帰り、そのペンダントをガラスケースの二段目に飾った。
 そしてネームプレートに『幸運の首飾りラッキーネックレス』と記した。


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