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魔導書
しおりを挟むわたしはさらに『魔導着火棒』『魔導光棒』『魔導灯火』『魔時計』も作った。
『幸運の首飾り』はさらに五個作った。
それら全部を店のショーケースに飾ってある。
そろそろ店を準備中から営業中に替えてもいいかもしれない。
そんなことを思うとメガネがずれ落ち顔がにやけてくる。
だけどどうせなら誰も作ってない物か、せめてもっと珍しい物を作りたい。
だけど考えても考えてもそんな製品は思い浮かばない。
そりゃそうだ、そんなに簡単に思いつく物なら誰かが作ってるはずだ。
そしてふと思い出した。
メルキールが別れ際に託してくれた古い魔導書、そこに記された魔導具のことを。
今まで忙しすぎてすっかり忘れていた。
わたしはメルキールに貰った魔導書を開いた。
そこに描かれている魔導具は人を傷つけたり呪ったり、とにかく悪趣味なモノがほとんどだけど、一つだけ便利アイテムっぽい魔導具もあった。
それは『遠話の角錐』だ。
遠隔地の相手と会話を可能にする魔導具。
そんな魔道具があるという話は、わたしは聞いたことがない。
魔導書自体も稀覯本だし、造った者はいるかもしれないが、希少な物に違いないと思う。
最初は便利だなーくらいにしか思わなかったけれど、よくよく考えれば、今わたしが一番欲しい魔導具かもしれない。
その理由は、これがあれば彼らと話が出来るかもしれないからだ。
もう一度彼らと話がしたい。
もう一度彼らに会いたい。
そんな思いもあり、『遠話の角錐』を作る事にした。
魔導書に描かれているのは、真銀の細長い角柱六本で組まれた三角錐で、その内側部分に一角兎の角が立てられている図柄。
説明によれば一角兎の角がこの魔導具の核になるらしい。
一角兎には遥か遠方の仲間と交信する特殊能力があるというのは有名な話だ。
その特殊能力の源は頭に生えた細長く尖った角。
つまり角に備わる特殊能力――魔法を使うということだろうか……。
使い方はなにも難しくはない。
二人が対となる『遠話の角錐』を所持していればいい。だいじなのはその魔導具同士が対であること。
つまり会話を成立させる為には同じものを二つ作らないといけない。いやわたしは四人で話ししたいのだから四つか……。
でも最初から四つ作って、それが失敗作だったら目も当てられない。
とりあえず二つ作ることにしよう。
問題は本当にこれをわたしが作れるのかどうか。
そもそも『遠話の角錐』はこれまでわたしが作ってきた魔導具とは別物だということだ。
今まで作った魔導具はルーンや魔法陣を刻むことで発動する、いわば魔道具だ。それに引き換え『遠話の角錐』は一角兎の角という魔法の実核を必要とする。これこそ真の魔導具と言える。
『道』と『導』だけの違いだけど、その差は雲泥万里。
だけどこれを作ることが出来れば真の魔導具師だと自負できる。
ここはメルキールの言葉を信じるしかない……。
真銀の加工はわたしには不可能なので、またビール樽のオヤジに頼むことにしよう。
ルーン文字とシジルと魔法陣の刻彫はわたしの内攻的が魔力が向いている。
そして魔法の実核に命を戻す復活の作業は魔力の大きさがモノを言う……。
わたしは魔導書を見ながら考えた。
そして、どうせ作るなら自分でデザインも考えてみたいと思った。
魔導書に描かれている真銀の角柱で造られた三角錐もカッコいいけど、もう少し遊び心が欲しいと思った。
考える………………………………。
閃いたのは『本』。つまり本の形をした魔導具……魔導書と睨めっこしていたせいかもしれない。
本の材質はもちろん真銀。
真銀は魔力伝導に優れているので魔導具に向いているらしい。逆に言えばそれ以外の素材は魔導具に向いていない。
見た目は本だが中身は空洞、そこに核となる一角兎の角を入れる。
そして表紙の開閉が魔法のトリガー。
わたしは髪を後頭部で結わえてポニーテールにした。
絵を描くのに髪が邪魔になるからだ。
それに髪を結えば気が引き締まる。
さらにメガネをついと持ち上げれば完璧だ。
気を引き締めた上で再び作業机に向き直る。
そして頭に浮かんだ本のイメージを元に、羊皮紙に羽ペンを走らせる。
絵は得意じゃないから、他人が見たら落書きにしか見えないかもしれない。
出来るだけ丁寧にイメージ通りに描いていく。
前から見た図柄、やや後ろから見た図柄、斜めから見た図柄、さらに表紙が開いた時の図柄も各方向から描く。
そしてその必要な材料も書き加える。
一角兎の角が二本。
真銀のインゴットが一つ。
エン豆大の魔法石が二つ。
これで設計図っぽい物が完成した。
問題は一角兎の角だ。
それは一角兎を数百匹狩って一本出るかどうかって言われる希少素材だ。
でも、これが完成したら仲間と連絡が取れる。
店に飾れば魔導具店としての評価もあがる気がする。
高価すぎて売り物にはならないかもだけど……。
さて、この設計図を持って……ビール樽オヤジの店に行く。
オヤジは今日も愛想がないけどそれはもう慣れっこだ。
気にしないで設計図を見せて加工を依頼する。
「この設計図通りのモノを作って欲しいんだけど」
「フン」
オヤジは鼻を鳴らして、設計図を覗き込んだ。
「これはなんだ?」
「なんだと思う?」
「チッ!」
オヤジはこれ見よがしに舌打ちをした。
「知るかッ、クイズごっこがしたいなら他所に行けッ」
わたしの力作――設計図を顔に向けて投げ返された。
鼻の頭に当たってちょっと痛かった……。
「あわわッ、ご、ごめん! ちゃんと言うから、話を聞いて!」
わたしは平謝りで何度も頭を下げた。
それはもうポニーテールに結んだ髪がピョンピョン跳ねるほど。
だって他に製造依頼できる細工師がいないんだから……。
ビール樽オヤジが不愛想な事は分かってたけど、まさかここまでとは、ちょっとびっくり。
少し反省して改めて丁寧に説明する。
「ええとこれはこの図を見て貰えばわかるとおり本の形をしているけど、実際は遠隔通話を可能にする魔導具。一角兎の角に内包される遠隔通話の魔法を利用して、遠くの人と話が出来るはずなの」
「……たしかに一角兎は遠く離れた仲間と会話が出来ると聞くが……これは今までお前が作ってきたような単純な魔導具じゃないぞ」
「うん、分かってる。これは昔に見た古い魔導書を思い出して書いてみたんだ」
「魔導書だと? それを俺に見せろ!」
「ええと、昔に見せてもらっただけで、わたしは持ってないの……」
「チッ! 役に立たん小娘じゃ」
なにそれ、酷い言われよう……。
魔導書の事は言わない方がいいってメルキールが言ってたから誤魔化してみたけど、でも口は悪いけど素直なオヤジでよかった。
「しかしわからん。この形はなんじゃ、なぜ本の形になっとるんじゃ」
オヤジがわたしの設計図を見てブツブツ呟き首を捻っている。
んーと唸り、真剣に悩みだしている。
「そ、それは、お洒落と言うか、面白いかなって思って、わたしがイメージしてその形にしたのよ。可愛いでしょ」
「なんだとぉ、お前がイメージしただと? では、本来は違う形だったのか?」
「ええと、真銀製の三角錐で、その中に角が立ってた、そんな感じだったかな?」
オヤジは「この馬鹿が!」とわたしの設計図を投げ捨て、新しい羊皮紙と羽ペンを取り出してきた。
「この羊皮紙にその図を描いてみろ!」
「え? どうして?」
「いいから、出来るだけ詳細に描け!」
「わ、わかったよ」
わたしは思い出しながら角が中に入った三角錐を描いてみた。
それを見たオヤジが小さく頷いている。
「いいか、三角形は魔法の基本じゃ。その中では魔力が増幅する。そして三角錐はその強化型じゃ。そんなことは魔力を扱う上での常識じゃろう!」
「そうなの?」
「お前はほんとうに魔導具師か?」
「魔導具師というか、これから魔導具師になろうと思ってるんだけど」
オヤジは大きく舌打ちをした。
渋い顔でわたしを睨む。
わたしなにか悪い事したの?
「まぁいい。ちょっと手を出してみろ」
わたしは素直に手をだした。
オヤジがわたしの手を掴んで、魔力を込めてみろと言う。
わたしは言われた通り、魔力を込めてみた。
ただし、そっと。
「ふむ、なるほど魔力はそれなりにあるようじゃが、この程度では実核の復活の作業は厳しいぞ」
復活が難しいのは魔導書を見てなんとなく想像はついている。
それはともかく、この程度って言われてちょっとムカっとした。
「魔力はほんのちょびーーーっとしか込めてないから。わたしが本気だしたらおじさんなんか死んじゃうよ」
「ヒヨッコが偉そうに、本気でやれ!」
「じゃあ……」
と少し強く込めてやった。
オヤジが眉間に皺を寄せて、むぅぅぅと呻った。
「むぅ!、こ、これで精一杯か?」
「まさか、まだ一割くらいだよ」
「ぶはぁッ!」
オヤジは大きく手を振ってわたしの手を振りほどいた。
「い、今ので一割じゃと?」
「うん、本気だしたらおじさんなんか死んじゃうって言ったでしょ?」
「お、お前何者じゃ?」
何者って、今はただの魔導具店の店主なんだけどなぁ。
それじゃ納得してくれないっぽい?
だけど簡単に正体をばらせるはずもないし。
さてどうしようかな……。
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