堕女神と異世界ゆるり旅

雨模 様

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それって僕の血だよね

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 とりあえず草原を歩いた。
 人里を目指して方角もわからない緑の大地をただひたすら歩いた。
 しかし歩けど歩けど人はおろか道も畑もみえてこない。

「ほんとにこっちに人里なんてあるの……ですか?」

 僕は前を歩く堕女神だめがみさまにたずねた。
 堕女神さまはクルッと振り返って、手に持った木の枝を持ち上げる。

「あるんじゃない。この木が教えてくれたんだから」
「それって魔法、じゃなくてアルカナ? とかいうやつ……ですか?」
「魔法でいいわよ。でも、魔力マナが限られてるから無駄使いはしたくないの」

 堕女神さまは手に持った木の枝をくるくると回転させて言った。

「ただのおまじない? 枯れ枝になんの魔力も感じないからね」
「それじゃぁ、当てずっぽうっていうこと?」
「そうともいうわね」

 堕女神さまは器用に指先で小枝を回して遊んでいる。
 ちょっとは期待した僕の純真を返して……。

「それより、その取って付けたような敬語、やめなさい。慣れない言葉は耳障りだし、ハッキリいって敬意が感じられない」

 フンと鼻を鳴らす堕女神さま。
 これでも一応うやまって言ったのに、耳障りとか敬意が感じられないとか、ちょっとひどい。
 まぁ使わないでいいのなら、それは楽でいいんだけど。
 それはともかく神さまなら世界のことをすべて把握してるんじゃないの?
 その辺の疑問を聞いてみると、

 ここは異世界だから管轄外で何もわからないらしい。
 だけど本来のマナがあれば魔法の網を四方に広げて広範囲を一瞬で察知することで人里なんて簡単に見つけられたとのことだ。そして魔法で空を飛んで人里まで一っ飛び。

 そして次元の壁を越えて元の世界にも帰れるかもしれない。
 だけどマナが極端に少なく制限されているせいで、大きな魔力を必要とする魔法は使えなくて、ほぼ普通の人間と変わりないらしい。

 と堕女神さまは肩を落とし項垂れてしまった。
 しょんぼりした姿がとてもいじらしい。

 えっと、なんかごめん……。
 でもなんか可愛いな。
 よしよし、いい子いい子。
 僕は堕女神さまの頭を撫でてあげた。
 それなのに、バシッと手を叩かれた。

 堕女神さまは「不敬よ!」と怒っている。
 プイッと前を向いた堕女神さまの頬が少し朱かったのは何故だろう。
 ともあれ堕女神さまの足が速くなった。
 仕方なく僕も足を速める。
 しばらく無言で歩いていると、不意に堕女神さまが振り返った。

「ねぇお腹が空いたわ、なにか食べましょう」

 そういえば僕もお腹が空いた。
 だけど食べ物なんて僕は持ってない。
 そのことを告げると堕女神さまも、わたしもないわよと胸を張る。
 胸はそれほど大きくなさそうだ……。
 キッと睨まれたので慌てて目を逸らす。
 ごめんなさい、反省します。

 堕女神さまは困ったわねと呟いた。
 本来なら魔法で好きな食べ物を出すことも可能らしいが……。
 出来るかしら? と不安げだ。

「それほど大きな魔法じゃないし大丈夫かな……まぁ試してみるわ」

 僕はなんのことかわからないけど、とりあえず「頑張れ」と応援した。
 うんと大きく頷く堕女神さま。

「ん~~~~、タコ焼き【召喚】ッ!」

 凛とした強い意志を宿した声が響く。
 すると堕女神さまの目の前に、ポンッ!
 木舟きぶねにのったタコ焼八個が現れた。
 普通に屋台で売ってるタコ焼きとそっくりだ。
 ちゃんとソースとマヨが塗られ鰹節と青ノリも振りかけられている。
 赤いのは紅ショウガ? 大きめのタコも生地の切れ目から見え隠れしている。
 タコ焼きはほのかに湯気が立ち上り、熱々でとても美味しそうだ。
 ゴクリッ。

「やったわ、成功よ」

 喜ぶ堕女神さまの横で僕はあっけにとられた。

「それってどこから盗んだの?」

 なんとなく怖くなったので聞いてみた。

「人を泥棒みたいに言わないで! マナを具現化したのよ。おかげでマナがどっと持っていかれたけどね」

 言いながらタコ焼きを爪楊枝つまようじに差して美味しそうに頬張ほおばった。
 熱ッ! 熱ッ! 熱ッ! 熱ッ! と口の中でタコ焼きを転がしている。

「それって召喚とは言わないんじゃ?」
「ん? おろばなんれらんれもいいろお。おうはいめーりよ」

 食べながらなので何を言っているのかわからない。

「ちゃんと食べてから喋ってよ……」
「ン……」

 ハフハフむしゃむしゃハフハフむしゃむしゃ。
 ごくんっと飲み込んだ。

「えと、なんですって?」
「だから、マナを具現化したんなら召喚とは言わないんじゃないの?」 
「あー、言葉なんて何でもいいのよ。ようはイメージよ」

 言って二個目を口に放り込む。
 美味しそうに、一人ではふはふと食べている。
 きゅるぅ~。
 それを見ていた僕のお腹が、切なげに鳴いた。

「えっと、僕の分も出してよ」
「何言ってるの、マナに余裕がないんだから、自分の分は自分でだしなさい」
「無茶言わないでよ。僕魔法なんて使えないし」
「あ、そうだったわね、人間は不便よね……むしゃむしゃ」

 じぃーーーー。

「そんな欲しそうな目をされたって、もうマナが枯渇しそうなんだから出せないわよ」
「自分だけずるいよ」

 僕がねて見せると堕女神さまは後ろを向いてしまった。

「じゃ半分だけでも下さい……」
「いやよ、わたしのマナなんだから、一個だって上げないわよ」
「ひどいよ……」

 と、堕女神さまが「あっ!」と声を上げた。

「そういえばあんた、マナの量だけは半端なかったわよね」

 突然意味のわからないことを言われた。
 そんな僕の疑問はそっちのけで、

「じっとしてなさい」

 言下げんかに首筋にキスされた?
 いや、チクッとした痛みがあった。
 キスというより噛みつかれた?
 それはともかく、か、顔が近いよ!
 ていうか、む、胸が、胸が当たってるよぉぉぉ!!
 見た目じゃわからなかったけど、実際に胸を押し当てられると、意外と大きいことに気が付いてしまった。

 いや、何を考えてるんだ僕は!
 とにかくこれは不味いよ。
 理性がどっか行っちゃうよ。
 僕は慌てて彼女を突き飛ばした。

「ちょっと離れて!」
「あ~~~ん」

 としそうにする堕女神さま。
 彼女は口端に滴る赤い液体をぺろりとひと舐めした。
 そしてうっとりとした表情を浮かべる。
 それって僕の血だよね……。

 心を落ち着かせ、今の奇妙な行動の理由を聞いた。
 堕女神さまは僕のマナを吸うためだと言った。
 そして僕にタコ焼きを出してくれた。
 ん~青ノリに鰹節、仄かに湯気が立ち上って実に美味しそうだよ。
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