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み、見えてるよ
しおりを挟む何もない真っ暗な場所だった。
無限に続くような空間をものすごい速さで移動している。
誰かが僕の腕を掴んでいた。
顔は見えないけれど、その手は小さく指はか細い。
遥か遠い先で白い光点が見えた。みるみる内に白い光に近づいていく。
気が付けば吸い込まれるように、その白い光に飛び込んだ。
ドンと尻もちをついた。
痛いお尻を擦りながら僕は辺りを見渡す。
ここはどこ……?
視界に映る世界はもと居た場所――僕の町――と全然違う。
僕が住んでいたところは田舎だけど、ここはさらにど田舎だ。いや田舎というより未開の土地というか原野だ。
家どころか畑や道路すらない。目に映るのは広大な草原と大きな森。
草原は地平線まで続いている。こんな光景は見たことがない。
僕の家の近くではこんな景色を見れる場所は無い。
北海道なら見れるのかな……、そんな雄大な景色だ。
そして目の前に一人の見知らぬ少女が立っていた。
金色の髪に碧い瞳の美しい少女。年齢は僕と同じか少し下くらいだろうか。身長は僕より僅かに小さく可愛らしい。
そんな彼女は仁王立ちで、地べたに座る僕を上から睨みつけている。
同年代の可愛い女の子に見詰められるなんてちょっと恥ずかしい。
僕はその羞恥に思わず視線を背ける。
「なに照れてるのよバカッ!」
怒られた……。
「あんたのせいよ。どうしてくれるの?」
怒られた上に容赦ない苛立ちを打つけられた。
もしかしてあの日かな……。
そもそも何を言われているのかわからない。
そんなことより、ここはどこだろう? 君はだれ? どうしてこんなところにいるの? 聴きたいことは山ほどあるけれど……。
そんな僕に彼女は言った。
「あんたのせいで異世界に来ちゃったじゃない」
異世界!?
彼女は面倒臭そうににこれまでの経緯を説明してくれた。
隕石だと思っていた落下物の正体は彼女だったらしい。
巨大な卵にみえたのは彼女が張った結界。その結界と僕が衝突したことで次元の壁に裂け目が生じて異世界への道が開いた。そして彼女はその裂け目に吸い込まれたらしい。
「僕は?」
「道づれにわたしが引っ張ったのよ」
「ひどいよ……」
「わたしに一人で異世界に行けっていうの? もともとはあんたのせいでしょ」
彼女が言うには僕があんなところで突っ立てっていたから衝突ったのだという。僕さえいなければ無事に地上に降り立ったのだと。
「地上に降り立ったって、君はいったい誰なの? 宇宙人?」
「わたしは女神よ。ちょっと色々あって地上に堕とされた……だけ」
堕とされた? 堕ちた女神さま? 堕天使みたいに?
「つまり……堕女神さま?」
「だ、誰がダメ神なのよッ! 失礼なこと言わないでッ!」
彼女は目を剥いて吼えた。金色に煌めく飛沫が飛んでくる。
そんな可愛い顔で唾を飛ばすのは止めてほしい。ただ事実を述べただけなんだし。
堕女神さまはどうやら気が短いみたいだ。
「でも、ダ……神さまなら元の世界に帰れないの……ですか?」
あまり神さまらしくないけど、本人が神さまだって名乗ってるし、一応神さまなら敬語を使うべきかなと言い直してみたけど。
僕の問いに堕女神さまは顔をくしゃっと歪めた。
せっかくの可愛い顔が台無しだ。
彼女は天界から地上に堕とされた際にマナを大幅に封印されたらしい。
マナがぜんぜんないわけじゃないけど、次元の壁を越える様な大きなアルカナは使えないのだとか。
ちなみにアルカナとは僕たちの言葉で魔法、マナとは魔力だと教えてくれた。
なぜ堕とされたのかを聴くと、彼女は答えにくそうに眼を逸らせた。
神格も品位も高そうには見えないから、きっとそのあたりが原因なのだろう。
可哀想なので追及はしないけれど。
「あんた、なんか失礼なこと考えてない?」
なんのことだろう?
「今とても不敬なことを考えたわよね?」
「おぉ? さすがは堕ちても女神さま、心が読めるんですね」
「堕ちてもは余計よッ! それに読んだんじゃなくて、あんたの顔に書いてあるのよ」
なるほど顔に出ていたのか、言わなきゃ少しは尊敬できたのに、残念な人だ……。
それはともかく、
「僕はどうなるの……ですか?」
「一蓮托生、わたしの力が戻らない限り、あんたも帰れないわね」
そんな……。
「それよりあんた、ちょっとじっとしなさい」
堕女神さまは僕の頭に手をかざした。
その手がほんのりと薄白く光る。
「!」
堕女神さまが驚いたように目を見開いた。
「なるほど、やっぱりあんたが原因で間違いなさそうね。でも驚いたわ……」
「えっと、なんのこと?」
「べつに、こっちの話よ」
教えてくれる気はなさそうだ。
じゃあ、もっと大事なことを聴いてみよう?
「元の世界に戻る方法はないの……ですか?」
「…………」
堕女神さまは腕組みしてなにか考えている。
何か方法がありますよね? 女神さまなんだし。
「ないわね!」
仮にも神を名乗る人から否定された……。
「……神さまなんですよね。なんとかしてくださいよ?」
「ぴゅ~♪ ぴゅぴゅ~♪ ぴゅ~♪」
堕女神さまはへたくそな口笛を吹きはじめた。
幼稚園児でももう少しマシな口笛を吹くと思う。
ほんとに残念な女神さまだ。
「じゃあ、これからどうするの……ですか?」
「とりあえず人里を探しましょ」
「どうやって?」
彼女は周りを見回し、「そうねぇ……」と呟いている。
そして徐に、軽くジャンプした。
本当に軽く、つま先の力だけでちょんっと跳ねた感じだ。
それなのに、そのまま重力に反して、すぅーーーと上空に浮かんでいく。
その高さは僕の頭を超えて、まだまだ上昇しそうだ。
それはとても不思議な光景で、驚きではあるけれど……。
「ちょッ! み、見えてるよ……」
「え、なに? 嘘ッ! キャァーーー!!」
彼女は一気に落ちてきた。
フレアのスカートを両手で押さえ僕を涙目で睨む。
「見たわよね?」
「み、見てない」
僕は咄嗟に嘘を吐いた。
白く輝く小さな布が鮮烈に脳裏に焼き付いてます。
「見えてるよって言ったじゃない!」
「目に写ってただけで見てないです」
「それは見ていたことにならないのかしら?」
「目に写ってただけだから、頭には記憶されてないというか……」
「へぇ……、じゃあその眼球をくり抜いてあげましょうか?」
ほんとうにやりそうな勢いだ。
僕はたまらず降参した。
「ご、ごめんなさい、嘘です、許して……」
「この、変態、すけべ、エッチ、覗き魔、色魔、エロ男爵、好色、陰獣……」
好き放題言われたあげく、どこで拾ったのか木の枝でバシバシ叩かれた。
「痛い! 痛いよ! やめて……」
「今見たことはすぐに忘れなさい。いいわね?」
「うん、わかった。すぐに忘れる。だから許して」
最後にビシッ!っと強く叩かれ、ようやく懲罰は終わったみたいだ。
「もう上空から探すのは止めるわ」
言って堕女神さまは僕をさんざん叩いた木の枝を頭上に放り投げた。
枝はくるくると回転し、ぽとりと地面に落ちた。
その枝の指し示す方向を指差し、
「こっちよ」
そう言って指差したほうに歩き出した。
僕は彼女を敬う気持ちが薄れていった……。
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