堕女神と異世界ゆるり旅

雨模 様

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背中でも流そうか?

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 膝を大きく曲げて、めい一杯ジャンプした。
 僕の身体は周りの木々を軽く跳び越えていた。
 地上に降りた僕は、森の一方を指差して言う。

「あっちの方角に一本だけ凄く高い木があったよ」

 上空から見る森はどこまでも広がっていた。
 そんな広大な森の一角に高い木々の群生があった。
 その中に一本ずば抜けて高い巨木も見えた。
 そこを目指して僕たちは歩いた。

 足は軽かった。
 もっと早く魔法を掛けてくれたらよかったのに。
 そんな厚かましく贅沢なことを思ってしまう。
 時々ジャンプして位置を確認しながら森を歩いた。
 そして一時間ほど歩いただろうか。

 巨木が立ち並ぶ群生地に辿り着いた。
 幹の径が一㍍を超える木々がそこいらじゅうに生えている。
 僕たちはそんな群生地のさらに奥に進んだ。
 目指すは一際大きな巨木だ。
 それはすぐに見つかった。
 幹の径が一㍍どころか三㍍はありそうだ。

「さすがに風呂桶にするには太すぎるね」

 マリスさまは僕の言葉が聞こえなかったのか、ピクリとも反応しなかった。
 大地に見える木の根を踏まない様に、無言で巨木に歩み寄った。
 片手を持ち上げると、そっと幹に手を添える。
 そして優しい口調で、

「あなたはこの森を守る神木ね?」

 マリスさまが巨木に向かって話しかけた。
 とたんにあたりの草木が騒めいた。

『……ただの人間には見えぬようじゃが』

 巨木のあたりからそんな声が聞こえた。

「わたしはマリス。まぁ貴方に名乗ったところでわかりはしないでしょうけど……わたしはこれでも女神よ」
『……ほう、神を名乗るか。この地に生まれ数千年、わしも神は何人か知っておるが、マリスなぞという神は聴いたことがない』
「信じられない、と?」
『……信じて欲しくば、それなりの力を見せて欲しいものじゃ』
「いいわ……」

 マリスさまは手を左右に広げ身体全体で十字架クロスを作った。
 その身体が地上から僅かに浮いて淡い光りを放つ。
 腰まで届く金色の髪がふわりと大きく広がった。
 スカートの裾も風に吹かれたように大きく膨らみ白い太ももがあらわになる。
 だけど……その全身は気高く神々しいものだった。
 これまでマリスさまのことはあまり神さまらしくないなぁと軽視していたけど、今のマリスさまは本当に神々しく、その威光に敬服したくなる。

 森も風も大地も騒めいていた。
 一際大きな巨木も静かに打ち震えている。

『……女神マリスよ。少しでも貴方の言葉疑ったこと、許して頂きたい』
「わかって貰えればいいのよ。それよりお願いがあるの?」
『……この老いぼれに願いとは、はたして?』
「大きな木が欲しいの。そうね、径が一㍍以上欲しいわ。長さは二㍍もあればいいかしら。生木せいぼくを切るのは忍びないから、そんな都合の良い枯れ木でもあればいいのだけれど?」
『……ふむ、願いはわかりましたが、そんな都合の良い枯れ木はありませぬ。ですが老木なら丁度よいのがおりますが』
「老木ってまだ生きてるんでしょ?」
『……ちょっと待って下され』

 ほんの少し沈黙が流れた。

『……樹齢四百年程ですが、枯れようとしている老木が居ります。その者が自身を使ってくれと申しております』
「ほんとにいいの? まさか命令したんじゃないでしょうね?」
『……いやいや、そのようなことはしておりませぬ。老木自身の意志ですじゃ。女神さまのことをお話ししたら、是非使ってくれと申しています。どうせあと数年と持たぬ寿命、そのまま枯れて身を腐らせるくらいなら、女神さまのお役に立ちたいと申しております。どうか使ってやって下され』
「まぁそういうなら喜んで使わせてもらうけど……」

 マリスさまが難しそうな顔をしている。
 僕も聞いてて複雑な気分になった。
 木に意志があるとか、ちょっと信じられない気持ちだし。
 だけど、せっかくのお言葉、断るのは申し訳ないというか、勿体ない……。
 なので有難く切らせて頂くことにした。
 もちろん木は痛みとか感じないらしい。
 それを聞けただけでもホッとする。
 マリスさまはその老木のステータスを確認した。

 【品 種】 老ヒノキ
 【樹 齢】 423年
 【高 さ】 38㍍
 【直 径】 2㍍
 【毒 性】 無し  
 【特 徴】 建材として最高品質 加工が容易 強い芳香 加工後も長寿  

 老ヒノキに柏手かしわでを一つ打って感謝を述べる。
 マリスさまも神妙な顔をしていた……。
 そしていよいよ作業を開始する。
 とは言っても僕は「離れて見てなさい」と押しのけられてしまった……。

 マリスさまは巨木の幹に指先を向けた。
 そして「【水銃】ッ!」と口ずさむ。
 途端にマリスさまの指先から極細に圧縮された水流が噴射した。
 さながらウォータージェットである。
 その圧縮された極細の水流が、木の幹を切るというか細かく削っていく。
 水流はみるみる巨木に切り込みを刻んでいき、一分と掛からず巨木が傾き始めた。
 ギギギギギィィィーー大きく傾ていく巨木。
 それは僕の方に倒れてきた。
 えっ! うわぁぁぁーーー。僕はぎりぎりのところでその巨木を躱した。

「ちょっと、こっちに倒さないでよ!」
「チィッ!」
「今舌打ちしたよね? もしかしてわざと?」

 マリスさまはニィと黒い笑みを浮かべた。
 絶対にわざとだ……。

「まだ作業は終わってないんだから、邪魔!」

 僕の抗議を軽く無視して、マリスさまは作業を続けるようだ。
 マリスさまは切り倒した巨木を眺め、なにか思案している。
 切り出された丸太は、径、長さとも二㍍ほどだろうか。
 ここからどうやって巨木を浴槽に変えるのか興味がある。

「丸太の浴槽をイメージして【形成】!」

 マリスさまが呟くと丸太はみるみる形を変えていった。
 丸太の皮が剥がれ角が丸みを帯びて、面が大きく削れ浴槽の形に近づいていく。
 それはまるで魔法を見ているようだった――実際に魔法なんだけど……。
 そして角が滑らかで艶のある長方形の丸太の浴槽が完成した。
 大きさはちょっと大きめの縦に長いホーローのバスタブくらいだろうか。
 大きさは一人様用っぽいけど足を延ばしてゆっくり浸かれるくらいはある。
 そしてマリスさまは僕に言う。

「マナ頂戴」

 もちろん僕に拒否権はない。
 ちゅる~~~。
 あー近いよ! 肌が触れてるよ! 恥ずかしいよ…………。
 マナを吸い終わりホッとしていたら、マリスさまは言った。

「まだ終わってないから」
「え、そうなの? てっきり完成したと思ったんだけど」
「何言ってるの、これじゃ入浴が丸見えじゃない」

 なるほど、たしかにその通りだ。
 そしてマリスさまは残っている巨木に向き直った。

「ちょっと複雑だけど……【形成】」

 すると残った巨木は浴槽の時と同じように見る見る形を変えていった。
 というか、いろいろな形に切り出されていく。
 太い枝だった部分はすべて皮の剥がれた綺麗な丸太に変わり、幹の部分は角材だったり平材だったり、長ーい丸材だったりに変わっていく。
 そして、それらの木材が交互に複雑に組み合わさって小さな丸太小屋が完成した。

 マリスさまがハァハァと肩で息をしている。
 そしていつものマナ吸収。
 僕はまたも羞恥の赤面状態だ。

 だけど丸太小屋の入り口が狭くて浴槽が入らない。
 そんな疑問は亜空間倉庫で一発解消だった。
 浴槽をいったん亜空間倉庫に入れて、丸太小屋の中で再び取り出し設置、これですべて完成だ。

 その作業が終わったのは日が完全に落ちた後だった。
 そして早速入浴タイムである。
 お湯はマリスさまに魔法で出してもらう。
 それはもちろん水道水のような塩素は入っていない。
 それこそ完全な天然水だ。

 そしてヒノキの独特の香りが鼻をくすぐる。
 僕は丸太というか己自身を提供してくれた老ヒノキに感謝した。
 もちろん造ってくれたマリスさまにも同様に感謝する。
 なのでマナも快く提供した。
 もちろん恥ずかしさは我慢した。
 僕はマリスさまに先にお風呂をすすめた。

「先に入ってね」
「ええ、さすがに疲れたし、早くお湯に浸かりたいわ」

 僕は感謝の気持ちを表したかった。
 どうしたら感謝を伝えられるだろうか?
 そして思いついたことを口にする。

「なんなら背中でも流そうか?」

 ピタッとマリスさまが表情を止めた。
 みるみる目尻が吊り上がっていく。

「この変態ッ!」

 パッカーンと角材で頭を叩かれた。
 叩かれて気づいたけど、僕は凄いことを言ったようだ。
 だけど信じて欲しい。ほんとに他意はなかったんだよ。
 ていうか、この前は一緒に入ろうって言ってたよね?
 あれは何だったのさ……。

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