堕女神と異世界ゆるり旅

雨模 様

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神さまっぽかった

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 ロハスラの街は大きな防壁に守られていた。
 入り口は大きな門があり、数人の兵士が門番として立っている。

 門に近寄ると身分証の提示を求められた。
 マリスさまが「持ってないわ」と告げると少し怪しまれて、何処から来たのか、なぜこの街に来たのか、などいろいろ質問された。
 殊勝な面持ちでマリスさまがそれに答えている。

「村を出て放浪の旅をしていただけ。森を抜けたらこの街が見えたの」

 え、なにその理由?

「この街に来たのはそういう理由だから、またすぐに旅に出るかもしれないし、とくに目的はないわ」

 僕たちのことは「姉弟きょうだい」だと説明していた。
 あれ、僕が弟なの……。それはちょっと悲しい。

 マリスさまの咄嗟の言い訳にちょっと関心したけど、それ以上に僕は驚いた。
 全く違和感なくマリスさまと門番の会話を聞いている。
 二人が口にしているのはもちろん日本語ではなく異世界語だ。
 それをまるで日本語を聴いているように普通に聞き流せている。
 これが魔法のリンゴの力? ほんとにすごいよ……。

 マリスさまが質問に答えていくうちに、怖かった門番の表情が次第に和らいでいった。
 それどころか、「小さいのに苦労したんだな」と心配顔だった。
 嘘をついてるようで心苦しいよ。

 とにかく怪しい者じゃないとわかってくれたみたいだ。
 そして名前やら年齢やらを羊皮紙に書かされ、仮の入門証を作ってくれた。
 僕も難なく異世界文字を書くことが出来た。

 余談だけど、マリスさまは年齢欄に十六歳と書いていた。
 いったいいくつ逆鯖しているのだろう。思わず苦笑が浮かぶ……。

 門番さんは鎧に身を包んで見た目は怖かったけど、なかなか親切な人だった。
 初めて街にきたのなら冒険者ギルドに行けばいいと教えてくれた。
 ギルドで冒険者として登録すれば冒険者証(身分証)がもらえ、仕事も斡旋してくれるらしい。
 さらに安い宿も併設されているとか。

 ここは平和で安全な街なのかもしれない。
 だから門番さんも心に余裕が生まれ優しくなれるのかも。
 そんなことを思いながら巨大な街門をくぐった。
 ちなみにマリスさまが一人で街に来たときは浮遊の魔法で壁を越えたらしい。
 
 そこはまさに異世界だった。
 アニメや小説に出てくる異世界そのものだ。
 石造りの建物に石畳の大きな通り。
 そこは馬車が行き交い電柱や電線なんてものはない。
 まさに中世ヨーロッパの様な街並み。

 そして決定的なのがコスプレの様な衣装を着た人々。
 多くの人々は欧州の民族衣装っぽい恰好をしている。
 腰に剣を差している人、槍を携えている人、騎士のように甲冑を着込んだ人もいる。

 そして決定的なのが……獣耳けもみみにふさふさ尻尾を生やした人。
 ぴくぴく動く耳とゆっくり揺れる尻尾がとても可愛らしい。
 思わず近寄り頭を撫でたくなる。
 もちろん相手は子猫じゃないんだから、そんなことはしないけど。

 そして耳の長い麗人はエルフだろうか。
 ビール樽のような人はドワーフかな。
 そんな道行く人々の会話が耳に飛び込んでくる。
 もちろんそんな会話も一字一句理解できる。

 そんな感動に震えていると、マリスさまは一人さっさと前を歩いている。
 人込みに消えそうになるマリスさまを僕は追いかけた。

「ちょっと待ってよ、置いていかないで!」

 僕も異世界の言葉を口にしていた。
 なぜか日本語を話すより自然と異世界語が口から出た。
 郷に入れば郷に従え、というものが無意識ででたのかもしれない。
 マリスさまは追い付いてきた僕に振り返る。

「あれが食べてみたい。とてもいい匂いがするわ」

 細い指が差す先は、大通りから横に入る岐路の入り口。
 その角に小さな荷馬車の様な屋台がある。

 暖簾のれんの下では小さな女の子が串に刺さった肉っぽい物を焼いている。
 一口大のそれは串に五個ほど刺さり、焼きアミの下では赤々と炭が燃えている。
 もとの世界風に言えば『串焼き』か『焼き鳥』といったところか。

 じゅわーと焼ける音に、もわもわと立ちぼる白い煙。
 そして甘辛く漂う香しい匂いがたまらない。
 僕も思わず鼻をクンカクンカしてしまった。

「すごく美味しそうだね。でもお金は?」
「もちろん持ってないわ」
「じゃぁ買えないよ」

 僕たちが小声でそんなやり取りをしていると、

「いらっしゃいませ~」

 屋台から元気な声が聞こえた。
 声を掛けてきたのは屋台の女の子、満面の笑顔だ。
 十歳くらいだろうか、しかも! なんと! 獣耳だった!

 思わず頭に手が伸びそうになる……。
 だけどそれはセクハラなのかな。
 いやロリコンになるのだろうか?
 ちょっと前マリスさまを怒らせたし……。
 だから僕はぐっと踏みとどまる。

 僕がその頭に見惚れていると、すねをガシッとられた。
 蹴ったのはもちろんマリスさまだ。
 見ればフンッと鼻を鳴らしている。
 なんなのいったい? 僕がなにしたの?
 マリスさまの行動はたまに意味がわからない……。

「えっと……ごめん、お客じゃないんだ……」

 女の子の笑顔が急に不安顔になった。

「じゃぁ、あの、どんな御用でしょうか……」

 もしかしたら不審者と思われたのかもしれない。
 すごい不安そうに聞いて来る。

「えっと、御用は無いよ……美味しそうな匂いだったから、釣られて来ちゃっただけ。でも今お金が無くて、だからその……買えないんだ。ごめんね」

 僕はしどろもどろになりながら必死で状況を伝えた。
 そしたら女の子の顔から不安の色がパぁッと消えた。
 ふたたび笑みを浮かべ「よかったぁ」と呟いている。
 そして今焼いていた串を二本持ち上げ、僕たちに差し出してきた。

「よかったらどうぞ」

 目の前に煙が立ち上る美味しそうな串が……。

「え、えっと、ごめん、お金ないんだ、けど……」
「お金はいいです。もし美味しかったら今度買いに来てください」

 ちょこんと小首を傾けそんな言葉を投げかけられた。
 耳がぴくぴくと動いて、すごく可愛い。
 僕が手をこまねいていると、マリスさまが蹴ってくる。
 これはたぶん、さっさと受け取れってことだろう。

「えっと、ありがとう。必ず今度は買いにくるね」
「はい、お待ちしてます」

 そして僕たちはその串焼きを味わった。
 とてもジューシーで口の中に肉汁があふれ、その肉もとろける様に柔らかい。
 そしてタレも絶品だった。
 まろやかで深みのある味わい、甘じょっぱくて濃厚で舌にピリッと辛みがあり、すっごいご飯が食べたくなった。
 この串があったら何杯でもご飯が食べれそうだ。

「美味しかったね」

 僕の言葉にマリスさまも大きく頷いた。

「もっと食べたいわ」

 それには僕も完全に同意する。
 そこでマリスさまがポンと手を叩いた。

「お金を出せばいいのよ。金貨を百枚くらい出せばいいかしら」
「ちょ、ちょっとまって、それって魔法でお金をだすってこと?」
「そうよ、他にどうやって出すというの?」

 マリスさまは憮然ぶぜんとする。

「それって偽造だよね? 贋金にせがねは不味いよ。犯罪だよ」
「む! 贋金とは失礼ね。わたしが造ればそれは本物よ!」
「いや、そういう事じゃなくて、その行為が重罪なんだよ」
「むむむ……」

 マリスさまは渋々貨幣偽造という重大犯罪に手を染めることを止めてくれた。
 僕はそっと胸を撫で降ろす。

「ではどうするの? わたしはあれがどうしても食べたいわ」
「じゃあ串焼きを魔法で出せば?」
「……その手があったわね」

 と、そこでマリスさまが真剣な顔をした。

「でもそれはダメ。あんた、あのと約束したじゃない」

 そうだった。
 僕たちはまた買いにくると約束した。

「約束を反故ほごにするなんて神の名がすたるわ」

 マリスさまがちょっと神さまっぽかった。

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