堕女神と異世界ゆるり旅

雨模 様

文字の大きさ
15 / 37

ベッドで寝てただけでしょ

しおりを挟む

 小さな魔石は天秤はかりに分銅を幾つか乗せて重さを計っている。
 分銅の重さがわからないので魔石の重さもわからなかったが、換金してもらった金額は銅貨八枚と鉄貨四枚。(八千四百円)
 そこからマリスさまは銅貨二枚を支払ってギルド宿舎を借りた。
 あれ? 一部屋だけ? と僕はマリスさまに確認する。

「一緒の部屋に泊まるのは不味いんじゃない?」
「ずっと一緒に野宿してきたのよ。今更何言ってるの?」

 言われてみれば確かにその通りなので納得する。
 そしてマリスさまはさっきからハァハァと肩で息をしている。
 部屋に入るなり僕はベッドに押し倒された。
 そのままの勢いでマリスさまは僕の上に四つん這いで覆いかぶさってきた。
 妖艶な笑みを浮かべ赤い唇をペロリと舐めている。
 そして僕に襲い掛かる。

 パクリ!
 あぅ~~~。
 ちゅるる~~~。
 ていうか……

「ま、マリスさま! ちょ、ちょっと落ち着いて! む、胸が当たってるよ!」
「ッ!……エッチ!」

 バシッ! っと頭を叩かれた。
 どうして僕が怒られるの……?
 理不尽だなぁと思っていると、

 ケプッ!
 マリスさまの小さな口から噯気あいきこぼれた。
 ちょっと苦しそうに軽くお腹を擦っている。
 マナってお腹に溜まるのだろうか。なにかが違う気がする。

 そしてマリスさまは再び手にマナを込めた。
 僕にまたがったまま小さな声で「生成!」と呟いている。
 握られたこぶしが開かれると手の平に小さな魔石が一つ出来ていた。
 またもマリスさまは肩でハァハァ言っている。
 そして再び僕の首筋に噛みついてくる。

 またですかぁ~~~。
 ………………。
 そんなことを何十回繰り返しただろうか。
 マリスさまもハァハァ言っているけど、僕も立てないほどふらふらだった。

 息切れ、めまい、ふらつき、頭痛、胸の痛み、動悸どうき、疲労感など。
 マナの枯渇は経験ないから知らないけど、これは完全に重度の貧血だよ……。
 そして出来上がった魔石も数十個。
 大きさが微妙に違うけど、後々に出来たものほど僅かに大きい気がした。

「あ、そこ気が付いた? よく見てるじゃない」

 僕の考えが当たっていたのか、なんとなく褒められたみたいだ。

「わたしもここ数日あんたのナマを吸ってて思ったんだけど、微妙に吸える量が増えてる気がするのよね」
「それって……」
「そう、わたしのマナの総量が微妙に増えていってるの。まぁ微々たるものだけど、それでもこのまま増え続けたらいつかは元に戻るかも?」
「じゃぁ、マナが元に戻ったら僕たちは元の世界に帰れる?」
「ええ、その可能性はあるわ。ただ、増える量は本当に微量だから、数百年はかかると思うけどね」

 ガクッ! っと僕は肩を落とした。
 僕の期待を返してよ……。
 そんな僕にマリスさまは、

「じゃぁもっともっと作るわよ」

 恐ろしいことを言っている。

「もう無理だよ。これ以上吸われると僕死んじゃうよ」
「そんな簡単に死なないわよ。ちょっと視せてみなさい!」

 視せてってなにを?
 僕がそんな風に思っているとマリスさまが僕の頭に手をかざした。

「チラ見!」
「チラ見ってなに!? ちょっとエッチな響きなんだけど!」
うるさいわねぇ、言葉なんてなんでも良いって言ってるでしょ! 無言で念じるだけでもいいんだから。それより、マナはまだまだ満タンに近いわよ、まぁ血量がちょっと少ないかしら。視る?」
「視たい。視せて」

【魔 力】 85800/85900
【血 量】 2.2㍑ / 4.2㍑

「情報少なっ!」
「マナが残り少ないから必要な情報しか視なかったのよ」

 なんかセコイ……。
 ていうか……、

「なにこの血の量? 半分だよ? 普通死ぬんじゃないの?」

 たしか人間は三分の一の失血で命に危険があるって学校で習った気がする。

「血が減りすぎだよ。2㍑も減ってるよ? 普通の献血って200mlだよ。こんなに一度に吸われたら死んじゃうって。そりゃめまいも頭痛もするよ!」

 一気にまくしたてたらさらに頭がクラッと来た。

「やっぱり無理、これ以上血が減っちゃうとマジで僕死んじゃうよ」
「大丈夫、あんたには回復力上昇と耐久力上昇の魔法陣を刻んだでしょ。だから血の回復も早いし、ちょっとやそっとじゃ死にはしないわ」
「そうなの?……いやでも、それにしたって一度に減りすぎだよ」
「文句が多いわねぇ……じゃぁ仕方ないから今からはマナだけにする?」
「えっ、どういうこと?」
「だから今日はこれ以上血を吸わないって言ってるの」
「そんなことができるの? ていうかそれでいいの?」
「もちろん。言い換えるならマナは魔法の為の栄養素、だけど血は嗜好品なのよ。だから血は吸わなくても魔法に影響しないわ」

 僕は愕然とした。

「じゃあ、僕はマリスさまの趣味嗜好の為に死にそうになってるの?」
「大げさねぇ。きゃははは」と笑われた。

 そしてさらに魔石が百個になるまでマナを吸われ続けた。

【魔 力】 85770/85900
【血 量】 3.2㍑/4.2㍑

「ほら見なさい、もう血量がこんなに回復しているわ。マナの回復はさらに早いのかしら、ほとんど減ってないわ」

 たしかに貧血と思える症状がほとんど治りかけている。
 なんだか人間離れしているようで自分がちょっと怖い。
 そして僕たちは魔石百個を持ってクエストを受けに行った。

「えっ? 一度にこんなに? あなたたちさっき冒険者登録したのよね? こんなに沢山の魔石を持っていたの?」

 受付のお姉さんが驚いている。

「えっと、えっとぉ……」

 僕が答えに詰まっていると、ガツッとお尻を蹴られた。
 耳を引っ張られ「ちゃんと説明しなさい」と耳打ちされる。

「えっとぉ……たまたまいっぱい持ってたんです……」
「それじゃ説明になってないでしょ!」

 またもお尻を蹴られた。
 そしてマリスさまが僕の前に出た。

「ずっと旅をしていたのよ。魔物を倒すこともあれば魔石鉱山に立ち寄ったこともあるわ。それくらい持っていてもおかしくはないでしょ?」

 マリスさまの剣幕に受付のお姉さんが少し怯む。

「それにしたってこんな大量の魔石を、あなたたちみたいな子供がたった二人で?」
「そうよ! なにか問題があるの?」
「いえ、とくに問題は無いですけど……ちょっと驚いてしまって」
「だったらさっさとクエスト完了と換金の手続きをして頂戴ッ!」
「かしこまりました……」

 お姉さんが魔石を一個一個天秤はかりに乗せて重量を計っている。
 僕たちはその作業を黙って見守った。
 魔石が百個もあったので他のギルド職員も手伝いにやって来た。
 一時間以上待たされて計量された魔石は全部で百㌘を超えていた。
 換金されたお金は金貨十二枚と銅貨八枚と鉄貨三枚。

 この街では一家四人で一ヶ月に掛かる費用は金貨二枚ほど。
 僕たちは二人だし食事代も魔法を使えばほとんど掛からない。
 金貨十二枚もあれば一年以上遊んで暮らせるかもしれない。
 換金されたお金はすべてマリスさまがポケットに入れた。

「僕の取り分は?」
「お金の管理は全部わたしがする。あんたじゃ頼りないわ」
「あれ、僕のマナで作った魔石だよね?」
「実際に作ったのはわたし。キルナはベッドで寝てただけでしょ」

 うぅ、言い返す言葉がない。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

魔法使いの国で無能だった少年は、魔物使いとして世界を救う旅に出る

ムーン
ファンタジー
完結しました! 魔法使いの国に生まれた少年には、魔法を扱う才能がなかった。 無能と蔑まれ、両親にも愛されず、優秀な兄を頼りに何年も引きこもっていた。 そんなある日、国が魔物の襲撃を受け、少年の魔物を操る能力も目覚める。 能力に呼応し現れた狼は少年だけを助けた。狼は少年を息子のように愛し、少年も狼を母のように慕った。 滅びた故郷を去り、一人と一匹は様々な国を渡り歩く。 悪魔の家畜として扱われる人間、退廃的な生活を送る天使、人との共存を望む悪魔、地の底に封印された堕天使──残酷な呪いを知り、凄惨な日常を知り、少年は自らの能力を平和のために使うと決意する。 悪魔との契約や邪神との接触により少年は人間から離れていく。対価のように精神がすり減り、壊れかけた少年に狼は寄り添い続けた。次第に一人と一匹の絆は親子のようなものから夫婦のようなものに変化する。 狂いかけた少年の精神は狼によって繋ぎ止められる。 やがて少年は数多の天使を取り込んで上位存在へと変転し、出生も狼との出会いもこれまでの旅路も……全てを仕組んだ邪神と対決する。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

処理中です...