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ベッドで寝てただけでしょ
しおりを挟む小さな魔石は天秤に分銅を幾つか乗せて重さを計っている。
分銅の重さがわからないので魔石の重さもわからなかったが、換金してもらった金額は銅貨八枚と鉄貨四枚。(八千四百円)
そこからマリスさまは銅貨二枚を支払ってギルド宿舎を一部屋借りた。
あれ? 一部屋だけ? と僕はマリスさまに確認する。
「一緒の部屋に泊まるのは不味いんじゃない?」
「ずっと一緒に野宿してきたのよ。今更何言ってるの?」
言われてみれば確かにその通りなので納得する。
そしてマリスさまはさっきからハァハァと肩で息をしている。
部屋に入るなり僕はベッドに押し倒された。
そのままの勢いでマリスさまは僕の上に四つん這いで覆いかぶさってきた。
妖艶な笑みを浮かべ赤い唇をペロリと舐めている。
そして僕に襲い掛かる。
パクリ!
あぅ~~~。
ちゅるる~~~。
ていうか……
「ま、マリスさま! ちょ、ちょっと落ち着いて! む、胸が当たってるよ!」
「ッ!……エッチ!」
バシッ! っと頭を叩かれた。
どうして僕が怒られるの……?
理不尽だなぁと思っていると、
ケプッ!
マリスさまの小さな口から噯気が零れた。
ちょっと苦しそうに軽くお腹を擦っている。
マナってお腹に溜まるのだろうか。なにかが違う気がする。
そしてマリスさまは再び手にマナを込めた。
僕に跨ったまま小さな声で「生成!」と呟いている。
握られた拳が開かれると手の平に小さな魔石が一つ出来ていた。
またもマリスさまは肩でハァハァ言っている。
そして再び僕の首筋に噛みついてくる。
またですかぁ~~~。
………………。
そんなことを何十回繰り返しただろうか。
マリスさまもハァハァ言っているけど、僕も立てないほどふらふらだった。
息切れ、めまい、ふらつき、頭痛、胸の痛み、動悸、疲労感など。
マナの枯渇は経験ないから知らないけど、これは完全に重度の貧血だよ……。
そして出来上がった魔石も数十個。
大きさが微妙に違うけど、後々に出来たものほど僅かに大きい気がした。
「あ、そこ気が付いた? よく見てるじゃない」
僕の考えが当たっていたのか、なんとなく褒められたみたいだ。
「わたしもここ数日あんたのナマを吸ってて思ったんだけど、微妙に吸える量が増えてる気がするのよね」
「それって……」
「そう、わたしのマナの総量が微妙に増えていってるの。まぁ微々たるものだけど、それでもこのまま増え続けたらいつかは元に戻るかも?」
「じゃぁ、マナが元に戻ったら僕たちは元の世界に帰れる?」
「ええ、その可能性はあるわ。ただ、増える量は本当に微量だから、数百年はかかると思うけどね」
ガクッ! っと僕は肩を落とした。
僕の期待を返してよ……。
そんな僕にマリスさまは、
「じゃぁもっともっと作るわよ」
恐ろしいことを言っている。
「もう無理だよ。これ以上吸われると僕死んじゃうよ」
「そんな簡単に死なないわよ。ちょっと視せてみなさい!」
視せてってなにを?
僕がそんな風に思っているとマリスさまが僕の頭に手をかざした。
「チラ見!」
「チラ見ってなに!? ちょっとエッチな響きなんだけど!」
「煩いわねぇ、言葉なんてなんでも良いって言ってるでしょ! 無言で念じるだけでもいいんだから。それより、マナはまだまだ満タンに近いわよ、まぁ血量がちょっと少ないかしら。視る?」
「視たい。視せて」
【魔 力】 85800/85900
【血 量】 2.2㍑ / 4.2㍑
「情報少なっ!」
「マナが残り少ないから必要な情報しか視なかったのよ」
なんかセコイ……。
ていうか……、
「なにこの血の量? 半分だよ? 普通死ぬんじゃないの?」
たしか人間は三分の一の失血で命に危険があるって学校で習った気がする。
「血が減りすぎだよ。2㍑も減ってるよ? 普通の献血って200mlだよ。こんなに一度に吸われたら死んじゃうって。そりゃめまいも頭痛もするよ!」
一気にまくしたてたらさらに頭がクラッと来た。
「やっぱり無理、これ以上血が減っちゃうとマジで僕死んじゃうよ」
「大丈夫、あんたには回復力上昇と耐久力上昇の魔法陣を刻んだでしょ。だから血の回復も早いし、ちょっとやそっとじゃ死にはしないわ」
「そうなの?……いやでも、それにしたって一度に減りすぎだよ」
「文句が多いわねぇ……じゃぁ仕方ないから今からはマナだけにする?」
「えっ、どういうこと?」
「だから今日はこれ以上血を吸わないって言ってるの」
「そんなことができるの? ていうかそれでいいの?」
「もちろん。言い換えるならマナは魔法の為の栄養素、だけど血は嗜好品なのよ。だから血は吸わなくても魔法に影響しないわ」
僕は愕然とした。
「じゃあ、僕はマリスさまの趣味嗜好の為に死にそうになってるの?」
「大げさねぇ。きゃははは」と笑われた。
そしてさらに魔石が百個になるまでマナを吸われ続けた。
【魔 力】 85770/85900
【血 量】 3.2㍑/4.2㍑
「ほら見なさい、もう血量がこんなに回復しているわ。マナの回復はさらに早いのかしら、ほとんど減ってないわ」
たしかに貧血と思える症状がほとんど治りかけている。
なんだか人間離れしているようで自分がちょっと怖い。
そして僕たちは魔石百個を持ってクエストを受けに行った。
「えっ? 一度にこんなに? あなたたちさっき冒険者登録したのよね? こんなに沢山の魔石を持っていたの?」
受付のお姉さんが驚いている。
「えっと、えっとぉ……」
僕が答えに詰まっていると、ガツッとお尻を蹴られた。
耳を引っ張られ「ちゃんと説明しなさい」と耳打ちされる。
「えっとぉ……たまたまいっぱい持ってたんです……」
「それじゃ説明になってないでしょ!」
またもお尻を蹴られた。
そしてマリスさまが僕の前に出た。
「ずっと旅をしていたのよ。魔物を倒すこともあれば魔石鉱山に立ち寄ったこともあるわ。それくらい持っていてもおかしくはないでしょ?」
マリスさまの剣幕に受付のお姉さんが少し怯む。
「それにしたってこんな大量の魔石を、あなたたちみたいな子供がたった二人で?」
「そうよ! なにか問題があるの?」
「いえ、とくに問題は無いですけど……ちょっと驚いてしまって」
「だったらさっさとクエスト完了と換金の手続きをして頂戴ッ!」
「かしこまりました……」
お姉さんが魔石を一個一個天秤に乗せて重量を計っている。
僕たちはその作業を黙って見守った。
魔石が百個もあったので他のギルド職員も手伝いにやって来た。
一時間以上待たされて計量された魔石は全部で百㌘を超えていた。
換金されたお金は金貨十二枚と銅貨八枚と鉄貨三枚。
この街では一家四人で一ヶ月に掛かる費用は金貨二枚ほど。
僕たちは二人だし食事代も魔法を使えばほとんど掛からない。
金貨十二枚もあれば一年以上遊んで暮らせるかもしれない。
換金されたお金はすべてマリスさまがポケットに入れた。
「僕の取り分は?」
「お金の管理は全部わたしがする。あんたじゃ頼りないわ」
「あれ、僕のマナで作った魔石だよね?」
「実際に作ったのはわたし。キルナはベッドで寝てただけでしょ」
うぅ、言い返す言葉がない。
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