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パチリとウィンクした
しおりを挟む「チトちゃん大丈夫かい?」
中年のおばさんが獣耳少女に駆け寄った。
目に涙を一杯貯めた少女は、そのおばさんに抱き付いた。
「もう大丈夫だからね」
おばさんは獣耳少女に優しくそう声を掛ける。
そしてそのおばさんは僕たちの方を向いた。
「あんたが助けてくれたのかい? ありがとうね」
そのおばさんは、大通りの角にある食堂の女将だと言った。
少女の屋台がある横路の入り口の店だ。
隣に店を構えているということもあり、少女と親しくしているらしい。
「ところで、あんた子供みたいだけど、すごいねぇ」
感心したように女将さんが僕を見て言った。
「ありがとうございました」
獣耳少女も涙ながらにお礼を言ってくれる。
何もしてないのに、なんだか照れ臭い。
僕は少し女将さんに話を聞いてみた。
さっきの男たちは元冒険者らしい。
冒険者として成功しなかった落ちこぼれ、『冒険者くずれ』と言われる街のチンピラだとか。
どうして串焼き屋の屋台にイチャモンを付けたのかは女将さんもわからないらしい。
「ねぇ、わたしは串焼きが食べたいんだけど」
状況も考えずにマリスさまが言う。
僕は屋台を指差して言ってやった。
「この状況が見えないの?」
屋台は車輪が外れ傾いている。
つまり焼きアミを乗せた炭焼き台も傾いて串を焼ける状態じゃない。
「あぁ……」
マリスさまにも状況は飲み込めたようだ。
「だけど、これくらいどうってことないでしょ」
「どうしてだよ、車輪が外れるとか大事だよ」
「たかが車輪の一つや二つ、直せば問題ないわけでしょ。わたしを誰だと思っているの?」
「えっ……もしかして魔法で直せるの?」
「当然でしょ。みてなさい」
マリスさまが車輪に手の平を向けて「【修復】」と呟いた。
すると車輪が新品の様になり、元あった場所に綺麗に収まった。
獣耳少女と女将さん、それに集まっていた人達があっけにとられている。
マリスさまはついでにと、破かれた出店許可証も元に戻して見せた。
「あぁ、ありがとうございます!」
獣耳少女は涙を流してお礼を言っている。
「いいから。さ、串焼きを焼いて頂戴」
「は、はい、今すぐ!」
獣耳少女は涙を拭いて早速串焼きを焼き始めてくれた。
満足げに頷くマリスさまは少女に質問した。
「ところでさっきの連中が来るのは今日が初めて?」
「いえ、三度目です」
「客としてじゃないわよね?」
「はい、ここで勝手に店を出すなって。でもちゃんと商人ギルドで場所代を払って許可は取ってあるんです」
「ええ、それはさっきも見たから分かったるわ。じゃぁ何が目的なのかしら」
「どうしてもここで店を出したかったら一日金貨一枚払えって……でも一日で金貨一枚なんて稼げないのに……。絶対ムリなんです」
「ふーん、みかじめ料目当てってわけでもなさそうね。他には何か言ってなかった?」
「お金が払えないならタレの作り方を教えろって……」
「タレのレシピを?」
「はい、でもこれはお父さんとお母さんが残してくれたものだから……」
少女は再び目に一杯の涙を溜めて言葉を詰まらせた。
食堂の女将さんが獣耳少女の肩を抱いて、僕たちに事情を説明してくれた。
獣耳少女の両親は少し前に亡くなったのだと。
そして今は一人で屋台で串を焼いて生計を立てているらしい。
こんな小さな女の子が一人で?
僕は驚いて獣耳少女の年齢を聞いてみた。
やっぱりというか見た目通りというか、まだ十歳だという。
そんな歳で一人で生きていくなんて僕には考えられない。
なんて強い女の子なんだろう……。
その両親から残された物が屋台と秘伝のタレなんだと女将さんは教えてくれた。
「だからあたいは言ってるのさ。屋台なんか止めてうちにおいでってね。チトちゃん一人ぐらいうちで面倒みてやれるさ。あんたからもうちに来るように言ってやってくれないかい?」
「おばちゃんの気持ちはすごく有難いです。でもお父さんが大事にしてた屋台を手放したくないんです」
「そうは言っても屋台までは引き取れないからねぇ」
なるほど、このおばさんは獣耳少女を引き取ろうと考えているけど、そうする場合は屋台は邪魔だというわけだ。
だけど、こんな少女が一人で生きていけるとは思えない。
さっきの嫌がらせなんかも、子供だからと舐められているんだと思うし、ここはやはり女将さんの言葉に甘えたほうがいいような気がする。
「まぁ、それはわたしたちが口を挟む問題じゃないわね、それより……」
マリスさまが付け足すように、ぼそりと呟いた。
「ああいうクズはしつこいのよね」
あぁ、やっぱりそうだよね。
ていうか、それフラグ立ててるよ……。
「そうだ、キルナあんた何か持ってない?」
突然そんなことを聞かれた。
「何かって何?」
「元の世界からこっちに持ってきたものよ。出来れば長い間持っていた物がいいわね」
そんなものないよ。と思いながらもポケットをまさぐってみる。
……でてきたのは小銭入れだ。
隕石を見に行く際、ジュースくらい買うかもしれないと一応ポケットに入れておいたのだ。
引きこもりだったせいか、中身の出し入れはもう二年以上してない。
「持ち物ってこんなものしかないよ」
マリスさまは小銭入れから一枚の百円玉を取り出した。
「ちょっと弱いけど、まぁこれでいいわ」と呟きながら百円玉を弄くっている。
マリスさまは獣耳少女の前に屈んで、その百円玉を小さな手に握らせた。
「これはあなたが知らない遠い国のコインよ。また奴らが何か言ってきたら、このコインを握りしめて助けてって言いなさい」
「えっと……」と首を傾げる獣耳少女。
「今わたしの力を見たでしょ? わたしは魔法が使えるの。このコインにもわたしが魔法を掛けてあるわ。だから必ずあなたの助けになる」
「はい、ありがとうございます」
「感謝するなら串を焼きなさい!」
マリスさまはパチリとウィンクした。
なんだよそれ! ただの食い意地?
せっかくカッコイイなと見直したのに……。
だけど獣耳少女は目をキラキラさせてマリスさまを見ている。
「あのお名前聴いてもいいですか?」
「ええ、わたしはマリスよ」
「マリスさま?」
「ええ、で、そっちのボヤッとしたのがキルナ」
ボヤッとは余計だよ!
「キルナさま?」
「キルナに『さま』は不要よ」
なんだよそれ! まぁ僕は『さま』なんてガラじゃないけどさ。
「じゃぁ……キルナさん?」
「まぁ好きなように呼べばいいわ」
「私はチトリです。みんなにはチトって呼ばれています」
そういえば隣の女将さんもチトちゃんと呼んでいた。
僕もチトちゃんと呼んでいいのかな?
チトちゃんと呼びながら獣耳頭を撫でる自分を妄想する。
あぁ~~癒されるだろうなぁ……。
と、ガシッとお尻を蹴られた。
「ほら串焼けたわよ」
僕たちは熱々の旨味しい串焼きを頂いた。
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