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天罰を与える
しおりを挟む翌日の昼頃だった。
(助けてください!)
怯えて震える様な声が頭に響いた。
同時に映像が脳裏に浮かぶ。
場所は大通りから横道に逸れた角、そこに小さな屋台がある。
その屋台の前に昨日の冒険者くずれと呼ばれた二人組の姿が視える。
もしかしたらこれはチトちゃんが見てる映像?
「マリスさま! チトちゃんの声と、屋台の前の光景が頭に浮かんだんだけど……」
「えぇわたしにも視えるわ。あの子が視ている光景よ」
やっぱりそうなんだ……。
「これって」
「説明は不要でしょ」
不要ってことはないけど、大方の予想はついた。
マリスさまはあの百円玉に魔法を掛けたと言っていた。
そして強く握って『助けて』と言いなさいと。
つまりあの百円玉を媒介にしてチトちゃんの声と目に映る光景を僕たちに視せる魔法。
僕のお金を使った理由は……自分のお金を使いたくなかったからとは思いたくない……。
とにかくチトちゃんの声は僕に届いた。
だったらすぐに助けに行かなくちゃ。
「場所はいつもの大通りの角ね。ここからなら歩いて五分の距離。だったら今のわたしでも可能。行くわよ」
マリスさまが僕の腕を掴んだ。
そして魔法の言葉らしきものを口にする。
「転移!」
瞬時に僕の視界がぼやけて目の前が真っ暗になった。
だけどそれも刹那のことで、すぐに視界は開けた。
そして見える景色は一変していた。
そこは大通りの角、目の前に串焼きの屋台があって、その前にチトちゃんが屋台を守る様に立っている。
一瞬でここまで移動したっぽい。
瞬間移動だろうか? 転移と言っていたけど、すごい……。
いや、今はそれよりチトちゃんのことが心配だ。
僕はチトちゃんの前に腰を折って屈んだ。
「どうしたの? 大丈夫?」
「だ、大丈夫です。けど……、でもどうしてここに?……どこから……」
チトちゃんは僕たちが突然目の前に現れたことに驚きを隠せない様子だ。
「魔法のコインを使ったでしょ? だから助けに来たのよ」
マリスさまが胸を張って得意げに言う。
そして驚いたのはチトちゃんだけじゃなかった。
「き、貴様らどこから現われやがった!」
チンピラの一人が声を荒げる。
「あら、転移の魔法もしらないの?」
「て、転移の魔法だと……マジか…………」
男たちが目を見張り心底驚いたような声を上げる。
とその後ろから、無精ひげを生やしたいかいも悪人といった顔の男が現れた。
「転移だと? んな訳ねえだろ」
小ばかにする様な声には侮蔑の響きが含まれているようだ。
男は薄気味悪い笑みを浮かべながら舌をペロリと出して続ける。
「おおかた隠蔽か目眩しのスキルだろうよ。盗賊あたりがよく使う手だ。こいつらの目は誤魔化せても俺の目は誤魔化せねぇぜ。そうだろ嬢ちゃん?」
「なるほど、さすがはゴルタの兄貴だぁ」
「あたりめぇだろ、転移といやぁ大賢者しか使えねえと言われる禁呪に相当する大魔法だぞ、こんな小便臭い小娘が使える訳がねぇだろ」
マリスさまのこめかみがぴくぴくと震えた。
「小便臭いガキって誰のことかしら……」
「転移の魔法だとかぬかすオメェのことだよ、お嬢ちゃん」
「クククッ、あなた怖いもの知らずね。天罰が降るわよ?」
黑い笑みを浮かべるマリスさま。
じつに邪悪だ。女神なんてとんでもないと思った。
それを他所に、二人組がゴロタと呼ばれた男に何か耳打ちしいている。
男たちの眼は何故か僕を睨んでいた。
「面白いことを言う嬢ちゃんには悪いが、俺様が用があるのはそっちの小僧だ」
えっ、僕? なんで? 僕なにも言ってないのに……。
「こいつらが随分と世話になったみてえいじゃねぇか、今度は俺様が相手してやるよ」
なにこの展開?
子分がやられたから兄貴分が出てきたとか、そんな感じ?
ていうか僕なにもしてないじゃん。
「えっと、身に覚えがないんですけど……」
「ふん、とぼける気か? こいつの腕が見えねぇのか?」
言われて見れば、二人組の一人は腕に包帯を巻いて首から吊るしていた。
「俺様の相手が嫌だって言うなら慰謝料を払って貰おうか?」
「そんなぁ……」
それは僕が腕を捻った男だった。
だけど軽く捻っただけでそんな酷い怪我をしたなんて思えないけど……。
でもよくよく考えてみたら僕は【筋力上昇】で力が凄く強くなっている。
もしかしたら骨が折れたかヒビが入ったかもしれない。
僕は小声でマリスさまに相談した。
「どうしよう?」
「ふん、怪我は本当のようだけど自業自得でしょ。キルナが気にすることじゃないわ。それより、あの男のことはわたしに任せなさい」
「え、マリスさま戦えるの?」
「そんな野蛮なことするわけないでしょ。でもあの男はわたしを愚弄した。だからそれ相応の天罰を与える必要があるの」
そういってマリスさまが僕の襟首を引っ張って自分が前に出た。
「なんだ嬢ちゃん? おめーが俺の相手をしてくれるのか? あいにく俺は小便臭い糞小娘には用はねえんだけどなぁ」
「うるさいッ、【変化】ッ!」
マリスさまが目を剥いて一喝した。
言下にモワモワッと白い煙が沸いて、男の身体を完全に包み隠した。
「その姿でわたしを愚弄したこと、猛省しなさい!」
言いながらマリスさまが素早く手を振ると、一陣の風が吹いてその煙は掻き消えた。
だけどそこに男の姿はなかった……。
「変化の魔法よ」
「ゲコッ」
その代わり、男がいた場所から奇妙な鳴き声が聴こえた。
よく見れば地面に一匹のカエルがいる。
「わたしが魔法でカエルに変えてあげたのよ」
「兄貴!」「ゴロタの兄貴!」
「ゲコッ、ゲコッ、ゲコッ、ゲコッ、ゲコッ」
カエルはマリスさまの足元で飛び跳ねてゲコゲコ鳴いている。
どうやら人語は離せないようだ。
「うるさいわねぇ、さっさと踏み潰されるといいわ」
バコッ!
カエルはマリスさまに蹴り飛ばされて人込みの中に消えた。
次にマリスさまは二人組に向き直った。
「あなたたちもカエルになりたいかしら?」
ブンブン! ブンブン!
二人が同時に、首を大きく左右に振った。
「だったら正直に話してもらいましょうか? どうしてこの店に嫌がらせをするの? 相場を遥かに超えるみかじめ料を要求するのはおかしな話よね? しかも払えなければタレのレシピを教えろ? いったい誰に頼まれたの?」
男たちはチラチラと野次馬の群れに目を向けている。
「どうやらあんたたちに指図している者がいるみたいね……まぁ大方の予想はついているのだけど、どうしても言いたくないと言うならカエルよ」
マリスさまはそう言うと片手を持ち上げ、手の平を男たちに向けた。
今にも魔法を使うわよ! といった感じだ。
男たちは途端に顔を青ざめさせた。
「わかった、言うから勘弁してくれ。俺たちはその女に頼まれたんだ。ほんとだ。嘘じゃないぜ」
男たちが指さしたのは食堂の女将さんだった。
女将さんは表情を一変させた。
「な、なんの話だい? あ、あたしゃ知らないよ」
女将さんは狼狽えている。
その慌てようをみるだけで、男たちの話が本当だと確信した。
だけど、そんな女将さんを庇ったのはチトちゃんだった。
「違います! おばちゃんはそんな人じゃありません。おばちゃんはいつもわたしに優しくしてくれました」
「違う。チトちゃんは騙さ、うぐっ」
「あんたは黙ってなさい」
僕はマリスさまに口を塞がれた。
「レシピは……レシピは前からおばちゃんに教えるって約束してたんです。だから、そんな人を雇ってわたしからレシピを聞き出す必要なんてないんです」
「嘘だ! 俺たちは本当にその女に、うぐっ」
男たちは自分で自分の口を塞いで、うごうご言っている。
どうやらマリスさまが魔法を掛けたようだ。
チトちゃんはさらに言葉を続けている。
「はい、おばちゃん。これがレシピが書いてある紙です。遅くなってごめんなさい……」
「ど、どういうことだい? チトちゃん……あんた……」
「いいんです、受け取って下さい」
女将さんの目に涙が溢れ、チトちゃんと抱きしめた。
「ごめんよ、ごめんよ、ごめんよ……」
チトちゃんの寂しそうな顔に一筋の涙が流れた。
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